ベートーヴェン音楽夜話 WoO.45
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【ベートーヴェン音楽夜話】 WoO.45 2008年1月27日(日)
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CONTENTS WoO.45
弦楽四重奏で大晦日
〜ベートーヴェン中・後期弦楽四重奏曲演奏会を聴く〜
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★え?弦楽四重奏曲演奏会?
岩城宏之さんが亡くなった2006年大晦日、東京文化会館大ホールに足を運び
ました。いつものように「ベートーヴェン全交響曲演奏会」を聴くためでした。
その日、予約したチケットを引き取る際に、こう尋ねられました。
「小ホール、大ホールどちらのコンサートでしょうか?」
え?大ホールだけではないのか?と疑問に思ったので小ホールではどんなコン
サートがあるのだろうとチェックしてみました。
「ベートーヴェン後期弦楽四重奏曲演奏会」とあります。
「むむむ、なんと、弦楽四重奏か…」
ここのところ、配信数停滞気味の「ベートーヴェン音楽夜話」ではあるものの、
ふだんベートーヴェンを聴くのは、食事を取る、空気を吸う、等と同じ。それ
ほど日常生活に溶け込んでいる当たり前の行動。特に弦楽四重奏曲は欠かさず
聴いています。ベートーヴェンの弦楽四重奏こよなく愛する私のため、いやす
べてのベートーヴェン弦楽四重奏曲のファンのためのコンサートが企画された
ことを知り、嬉しくなった私は、
「来年は弦楽四重奏を聴こう」
そう心に決めました。
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★10番と11番は中期か?
ということで2007年大晦日は弦楽四重奏曲を聴いたのです。12月31日15:00
開演。東京文化会館小ホール。中・後期8曲というサブタイトル。中期はラ
ズモフスキー3曲抜きで10番「ハープ」・11番「セリオーソ」のみ。ラズモ
フスキー(op.50-1〜3)抜きで中期と呼ぶのはいかがなものかと私は思うの
で、「限りなく後期に近い中期」、あるいは「中期と後期の橋渡し」と解釈す
ることにしました(我ながら相変わらず偏屈だなと思うけど、往年の弦楽四重
奏ファンやマニアたちはどういう意見でしょうね)。後期は12番から16番、
そして大フーガ。いずれにしても弦楽四重奏曲計8曲を連続で聴くという貴重
な経験です。中期がどうのこうのと言っている場合ではありませんね(笑)。
★視覚的に華やかなステージ
演奏は、クァルテット・エクセルシオ、澤クァルテット、古典四重奏団の3組。
私が持っているCDやLPの四重奏団はほとんど男性奏者のみなので、「ベートー
ヴェンの弦楽四重奏曲」=男性奏者というイメージがありました。今回、澤クァ
ルテットは全員男性。エクセルシオと古典はチェロは男性ですが、第1と第2
ヴァイオリン、ヴィオラは女性奏者です。各楽団とも厳しくスリリングな演奏
で、緊張感たっぷりのステージでしたが、視覚的には赤、スカイブルー等のドレ
スでステージがなにげに華やかに見えました。いずれも活躍中の四重奏団でベー
トーヴェンの演奏にも定評があり、さすがという感じでした。
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★エクセルシオ、最初の音が鳴ったとたん…
実を言いますと、私は、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲を生演奏で聴くのは初
めてです。以前、仕事の関係で聴いたことがあるかもしれませんが全く記憶に
ありません。ということは聴いていないのと同じ。弦楽四重奏というジャンル
に興味をもったのはメールマガジンを始めた2001年以降ですし、東京にいれ
ば足繁く演奏会へ通ったでしょうが、今住んでいるこの土地ではチャンスはほ
とんどありません。聴きたくて聴きたくて仕方がなかったので、この日の感動
はひとしおでした。
クァルテット・エクセルシオのメンバーがステージに登場し、第一音を奏でる
瞬間体に電気が走りました。「ついに…、この日が来た…」と。あははは、お
おげさですね。第10番(ハープ)でピチカートが始まるとワクワク感は極ま
り、第11番(セリオーソ)冒頭の厳しいユニゾンでは思わず体に力が入りま
した。
特にハープの第1楽章が美しさと躍動感あふれる実に清楚な演奏。セリオーソ
では厳しい緊張感と、きめ細やかでデリケートな楽想を充分に聴かせてくれま
した。第2楽章の演奏が特別に光っていましたね。終了後、3回のカーテンコ
ールでブラボーの嵐でした。
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★澤クァルテット、独壇場の大フーガ
ここで15分間の休憩です。ロビーへ出てみると、飲み物を求める人、歓談す
る人、CDや書籍販売コーナーを覗く人等々、ふだん演奏会で見かけるなにげ
ない光景。しかし、「ここにいるのは全員ベートーヴェンの音楽、特に弦楽四
重奏曲が好きで好きでたまらない人たち々なんだなぁ…」と思うと、わけもな
く嬉しくなってきます。知らない同志でも、話がはずみそうな親近感がありま
す。
澤クァルテットは第12番、第13番、大フーガを担当。男性奏者のみで視覚的
にはモノトーンですが、音楽は情熱的で色彩豊かな演奏。奏者の細かい表情は
確認できませんが、四人の奏者が皆やや笑みを浮か演奏している雰囲気です。
皆さんこの作品が心底好きなんろうな、と思いながら聴いていました。堂々と
した第12番の演奏。15分間の休憩が入ります。そして、私が最も期待してい
る第13番と大フーガ。13番のコミカルな味がよく出ている演奏です。そして
大フーガ。聴衆皆が「いよ!待ってました!」と心の中で叫んだかのような期
待感と奏者たちの心意気が合致したスリル溢れる演奏でした。
ブラボー!こちらも3度のカーテンコール。
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★古典四重奏団の気迫に圧倒される
再び15分間の休憩。この演奏会は、隣の全交響曲演奏会と違い大休憩という
のがありません。知らなかった私は食糧を持参しなかったため、この頃になる
と演奏中お腹が鳴りはじめました。隣の方のお腹の音も聞こえまして、たぶん、
本番中あちこちで「グー」という音が静かに鳴っていたことでしょう。
ロビーでサンドイッチを買うという手もあるのですが、値段のわりには食べが
いのない量のようだったので止めました。そういえば、ワインやビールを飲む
人も結構おられましたね。酒好きな私ですが、この日は自重しました。せっか
くの四重奏曲の演奏会、一音も聞きのがすまいという信念を貫きました。私に
しては珍しい意志の堅さです(笑)。
古典四重奏団は第14番、第15番、第16番。出演前、椅子がセッティングされ
た舞台を見て「あれ?なにか違う…」と思いました。譜面台が消えています。
「まさか!暗譜か?」と信じられなかったけれど、本当に暗譜でした。古典四
重奏団はベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲、モーツァルトの「ハイドンセット」、
シューベルト主要7曲、バルトーク全曲、ドヴォルザーク主要5曲等を暗譜で
演奏するそうです。その情熱と気迫は、この日の3曲の演奏で充分伝わってき
て、本当に圧倒されました。
ささやくように始まる14番冒頭のフーガに聴衆は音楽に吸い込まれていきま
す。それまで聴いてきた音楽が更に昇華され、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲
の深淵へと導かれていきます。14番は7楽章全て途切れなしという独特の作
品。第1楽章、5楽章、7楽章が特に素晴らしかったです。いきなり三回のカ
ーテンコールとブラボーの連続。そして休憩。
続く15番。後期四重奏曲では12番の次に完成した作品です。この曲を書いて
いる最中ベートーヴェンは死をも意識するほど大病を患い中断します。なんと
か回復に向かい、彼は第3楽章の楽譜に「病癒えた者の神への聖なる感謝の歌
」と記述します。この楽章は弦楽四重奏曲だけでなく彼の全作品の中でも最高
の曲と私は信じています。古典四重奏団の第3楽章は、たっぷりとした本当に
ゆっくりなテンポでCD等でこれまで聴いた演奏より相当長く感じました。少
しだけここでウトウトしてしまいました。私としたことが…(笑)。とにかく
素晴らしい演奏でした。ブラボーと3度のカーテンコール。
短休憩をはさみいよいよラストの16番。12番(4楽章)、15番(5楽章)、
13番(6楽章)、14番(7楽章)と、4楽章形式の枠にとらわれず1楽章づ
つ増やしていったベートーヴェンは再び16番で4楽章形式に立ち戻ります。
交響曲第8番第3楽章をスケルツォではなくメヌエットにしたことと同様、16
番を4楽章にしたのは「ベートーヴェンの古典への回帰」と言われているよう
です。しかし、実は3楽章でこの作品を構成しようと考えていたらしいです。
「そうか、7の次は3か。ということは弦楽四重奏曲第17番は2、18番は1
楽章形式になったかもしれないなぁ…」と馬鹿なことを私は想像してしまいま
す(笑)。
と余談はともかく…、この作品で今宵の演奏会が終わってしまうんだ、と各楽
章の演奏が始まるたびに胸が震えました。「終わるな、終わらないでくれ〜」
と誰もが心の中で叫んでいたことでしょう。全楽章共最高の演奏。最後の音が
消えるやいなや、猛烈なブラボー、スタンディングオベーションです。カーテ
ンコールもそれまでの3度を超え4、5度、最終的な数は覚えていません。帰
ろうとする人も少なく、かなり時間が経過した後、客席の照明を明るくし、ス
テージを暗くすることでようやく拍手は鳴りやみました。
★演出一切なし、オーソドックスなコンサート
3楽団共、客席からブラボーと大きな拍手を浴びていましたけれど、隣の大ホー
ル交響曲演奏会に比べると随分控えめなものでした。でも、こういう雰囲気も
よいですね。
予想通り客層年齢は高めでしたが、若いカップルなども見受られました。初老
のご夫婦連れも多かったですね。私のように連れがいない一人客も相当いまし
た。小ホール座席数は確か400席くらいだったかと記憶しますが、80パーセ
ント弱くらいの客入りでしょうか。
トークなどの特別な演出もない、淡々と演奏が続く、純粋のコンサート形式で
した。主役は演奏者とベートーヴェンの弦楽四重奏曲のみという至ってシンプ
ルな催し物。ロビーにも1カ所のみCDと楽譜販売コーナーがあるだけ。あと
は文化会館のビュッフェ。派手な飾り物もないし、素っ気ないといえば素っ気
ないけど、まあ、これがコンサートですからね。お客さんたちは、いい演奏を
聴いて満足げに会場を後にしました。
★もっとこじんまりとした会場で聴きたい、とはわがまま?
ひとつだけ不満をいわせていただければ、文化会館小ホールの構造的な問題な
のか、それとも私の席のせいなのかわかりませんが、音響がいまいちだったこ
と。ときには、音量不足、パートバランスの悪さなどが気になりました。客席
がもっと音に包まれればもっと楽しめると思います。弦楽四重奏は200人くら
いのキャパのこじんまりとしたホールで、奏者と聴衆がもっと親密な距離で行
われるのが理想なのでしょうか。でも、そうなると興行的には難しくなります
しね。今回の全席指定8,000円という価格設定はきわめてリーズナブルでお得
感があるため、演奏会企画者としては、頭が痛いテーマかもしれません。
2006年大晦日は6曲だったのが、お客さんたちから「もっとやってほしい」
との要望を組み入れ、2007年は8曲にしたそうです。来年、もっと曲が増え
るか否かは、未定だそうですが…、ラズモフスキー3曲を入れて11曲で行わ
れるような予感がします。あくまで私の独断的予想ですが…。
交響曲と並び弦楽四重奏曲も大晦日の恒例となった感があります。ベートーヴ
ェンファンとしてはどちらを選ぶか悩みの種ではあります。できればピアノ三
重奏曲シリーズもどなたか企画してほしいですね。悩みの種が増えて嬉しい悲
鳴をあげるのも乙なものです。
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【あとがき】
8月には配信すると宣言したにもかかわらず、なんと今回は6ヶ月ぶりの配信
になってしまいました。皆様大変お待たせしました。
去年も宣言したはずですが、今年こそは配信ペースを上げたいと思っています。
いつも有言不実行で、なんとなくティル・オイレルシュピーゲルや狼少年みた
いで恥ずかしいので、有言実行、これあるのみです。
「全交響曲演奏会」は新聞や雑誌等で取り上げられる機会も多いのですが、
「弦楽四重奏曲演奏会」については情報不足の観があります。ということで、
今回本誌では楽曲説明ではなく、演奏会レポートのような感じでお送りしまし
た。このメールマガジン読者の皆さんの中にも当日会場におられた方がきっと
いることでしょう。よろしければ感想などをお寄せください。この喜びを共有
しようではありませんか。
次号は2月の配信を目標にします。今度こそは本当に。では、お元気で。
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【ベートーヴェン音楽夜話】
発行・執筆:musiker
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