ベートーヴェン音楽夜話 WoO.42
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【ベートーヴェン音楽夜話】 WoO.42 2006年10月1日(日)
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CONTENTS WoO.42
1.名曲のはざまで〜3つのヴァイオリンとピアノのためのソナタ
2.ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第6番 ト長調 op.30-1
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1.名曲のはざまで〜3つのヴァイオリンとピアノのためのソナタ
ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタは、一般的に「春」(第5番 op.24)
と「クロイツェル」(第9番 op.47)の周知度がダントツで高く、他はほと
んど知られていない、と言っても大げさな表現ではないでしょう。ヴァイオリン
音楽ファンのみなさんはともかく、ごく一般のクラシックファンには、なじみが
薄いのではないでしょうか。
CD売り場を見ても、圧倒的にこの二曲のカップリングが占めています。ちょっ
と試しにアマゾンで、「ベートーヴェン」「ヴァイオリン」「ソナタ」で調べ
てみると…、検索結果140件。この中にはオムニバスも含まれていますから、
ヴァイオリン・ソナタのみのCDだけをピックアップするのは無理というもの
ですが、順に見ていくと、トップページ1〜10に出てくるのが次の通りです。
★ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ全集
演奏:ハイフェッツ(ヤッシャ)、ベイ(エマニュエル)
★ベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第5番&第9番
演奏:オイストラフ(ダヴィド)、オボーリン(レフ)
★ベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第5番・第9番
演奏:ギドン・クレーメル、アルゲリッチ(マルタ)
★ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第5番&第9番
演奏:パールマン(イツァーク)、アシュケナージ(ヴラディーミル)
★ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲&クロイツェル・ソナタ
演奏:ハイフェッツ(ヤッシャ)、ボストン交響楽団、ハイフェッツ(ヤッシャ
表示は売れ順です。その後、100までの間に、5番、9番を含むCDを数えた
ところ全集も含めて54種類あります(100以後は「品切れ」ばかりなので、
数えるのを止めました。興味のある方はトライしてみてください)。
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春風を思わせるさわやかなメロディが心に飛び込む第5番。ムター(アンネ=
ゾフィ)とオルキス(ピアニスト)がこの曲のリハを始める際、
「このヴァイオリン・ソナタで(ついに)ベートーヴェンは、初めてヴァイオ
リンのメロディで曲を始めたねぇ〜」
と二人揃ってにこやかに語りました。そうです。ヴァイオリンの美しいメロデ
ィ、ヴァイオリンらしいメロディの代名詞のようなこのソナタが、聴き手の心
を捕らえないはずはありません。
そして、第9番。これはどちらが主役という問題ではなく、ヴァイオリンとピ
アノが真っ向勝負しているような緊迫感あふれる音楽です。特に第一楽章の嵐
のような雰囲気に胸騒ぎさせられます。どういう心情でベートーヴェンがこの
曲を書いたかは明らかではありませんが、格闘ともいって良い激しい演奏が強
烈に印象に残ります。
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と、期待させておいて、申し訳ないのですが、私はこの二大傑作のいずれでも
なく、間に挟まったop.30について、これから3回連続で書きたいと思います。
op.30は3曲セットのソナタです(第6番、第7番、第8番)。
4つのソナタが書かれた1802年は、ご承知の通りハイリゲンシュタットの遺
書が書かれた年。ベートーヴェンにとって最大のピンチの時期でした。
ボンからウィーンへ出てきて、ハイドンを中心としていろんな音楽家からどん
欲に学び、一方、サロンデビューを果たした彼の手腕は広く知られるようにな
ります。ピアノの演奏ではもはや彼をしのぐものはいないほど不動の地位を得
て貴族たちのサロンからひっぱりだこ。作曲家としては自らがピアノを担当す
る作品を中心に出版されて売れ行き上々。売れっ子の作家はひっぱりだこで、
5〜6社が常にベートーヴェンの新作を待ち望み出版権を得て一儲けしようと
たくらんでいました。ベートーヴェン自身もこうした状況を誇らしげに友人に
手紙で語っています。
しかし、順調にスター街道まっしぐらであった彼を襲ったのはあまりに悲劇的
な体調異変でした。社交的ふるまいもしていた彼は、次第に人目をさけるよう
になり、特に、同業の音楽家たちとの交友を避けるようになります。理由はベー
トーヴェン死後に発見された「ハイリゲンシュタットの遺書」で明らかになっ
ています。一方では、交友を避けた理由は、彼の兄弟による仕業である。彼ら
がベートーヴェンから音楽家たちを隔絶させるようし向けた。そのことが原因
でベートーヴェンと弟たちとの確執が始まったという説もあるほどです。こう
して現代通説となっている「人嫌い」「頑固」「偏屈」というベートーヴェン
のあまり好ましくない性格が芽生え始めるのです。
op.30のヴァイオリン・ソナタはこうした微妙な時期、ある意味では彼の心の
中に嵐が巻き起きていた時期に生まれました。にもかかわらず、悲劇のかけら
も感じさせない音楽に、逆に驚かされるのです。特に、第6番は拍子抜けなほ
ど、ゆったりとして味わい深いソナタでした。
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2.ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第6番 ト長調 op.30-1
【作曲】1801〜1802年春
【初演】不明
【出版】1803年5月と6月、ウィーンの美術工芸社「ピアノ・フォルテのた
めの、ヴァイオリンを伴う3つのソナタ」
【献呈】ロシア皇帝アレクサンドル一世に
【楽器編成】ピアノ、ヴァイオリン
【演奏時間】約20分
※ベートーヴェン事典(東京書籍刊)251、255ページ参考
3つのピアノとヴァイオリンのためのソナタが、どのような経緯で生まれたか
についてはよくわかっていません。特定のヴァイオリニストを想定して書いた
のかもしれませんし、とあるイベントのために書いたか。あるいは出版社に請
われて新作を提供したのかもしれません。
終始静かな雰囲気漂うのが特徴です。ゆったりとした時間の中、恋人、あるい
は夫婦の語らいを想像させる音楽です。二人がとりとめもないことを話ながら
午後の紅茶を楽しむ、そんな光景が目に浮かぶようです。
6番で興味深いのは、第三楽章が第2稿であること。当初は、現在の第9番
「クロイツェル」の第三楽章が終章だったのです。試しに差し替えて聴いてみ
てください。実に違和感たっぷりに感じることでしょう。あの緊張感あふれ、
少し神経質な、いやだからこそ、「クロイツェル」に雰囲気がぴったりな音楽
が、このおだやかな6番の終章だったなんて考えられません。さすがのベートー
ヴェンも周囲の助言を受け入れて書き直したのが、現在の第三楽章なんんです
ね。変えてよかったと、本人も思っていたでしょう、きっと。
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【第1楽章】
静かな短い和音の後、ピアノ主導のリズムにヴァイオリンが寄り添い歩みます。
ピアノのフレーズは旋律ではなくむしろ伴奏にも聞こえるのですが、実はこれ
が第一楽章を占める音形といってよいでしょう。楽章いたるところで、ピアノ
もヴァイオリンもこのフレーズを奏でるのです。ピアノ主導で次のテーマが現
れヴァイオリンが美しく引き継ぎます。小刻みの音が適度に緊張感を与え、ま
た、微妙な音のそよ風も心地よいです。
中間部は主導フレーズがやや変化を見せます。少し哀愁帯びた雰囲気になり、
「あれちょっと様子が違うな」と感じさせるところも憎い演出。二人の会話は
少しすれ違い始めるか、と心配させつつ、再び当初の音楽へと立ち戻ります。
冒頭の音楽の変形で、今度は前にも増してピアノとヴァイオリンの音がいきい
きと聞こえてきます。
【第2楽章】
動きの少ないヴァイオリンのメロディを、さりげなく支えるのはピアノの伴奏。
次のメロディに進むと裏ではじめのメロディをピアノが奏でています。これぞ
デュオの醍醐味ですね。中間部の思慮深い短調の箇所が絶妙な響きを醸し出し
ていて、ここは聴きどころでしょう。ほぼ全体をヴァイオリンが主役を演じて
いるのがこの楽章の特徴。清らかなメロディを追うのもよし、私のように伴奏
部の音の変化をじっくりと味わうもよし。二人の会話を静かに見守ってみまし
ょう。楽章の締めくくり、ヴァイオリンのピチカートが印象に残ります。
【第3楽章】
いきいきとして思わず歌いたくなるメロディが嬉しいです。変奏曲風にまとめ
られていますので、フレーズの変化を楽しみたいです。まずピアノのきびきび
した動きに舌鼓を打ってください。次のヴァイオリンの音の動き。そして高音
と低音を巧みに使ったピアノ。ヴァイオリンのアクセントが効いています。短
いフレーズも勇ましい。短調の変奏ではちょっと不気味な雰囲気となり、この
後冒頭とはそうとう印象の違う音楽に変化していくので、ご用心。と思いきや
再び懐かしいフレーズが舞曲風に戻ってきて安心させてくれますね。ピアノの
低音の動きが面白いのに気を取られていると、少しあっけないフィナーレ。
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【私が聴いたCD】
BEE-1034
ヴァイオリン・ソナタ第5番 ヘ長調 op.24《スプリング》
ヴァイオリン・ソナタ第6番 イ長調 op.30-1
イツァーク・パールマン(ヴァイオリン)
ヴラディミール・アシュケナージ(ピアノ)
録音:1975年 ロンドン、キングズウェイ・ホール
※残念ながら同種のCDは、現在見つかりません。情報としてご覧ください。
★Amazon USAで試聴可のCD
クレーマー《ヴァイオリン)アルゲリッチ(ピアノ)
http://www.amazon.com/Beethoven-Violin-Sonatas-Kremer-Argerich/dp/B000001GOA
★今回とりあげたヴァイオリンソナタ関係のCD情報はこちらへ
http://www.musiker21.com/cdinfo.html
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【あとがき】
自動廃刊寸前(6ヶ月空白が続くと自動廃刊)の5ヶ月の空白でお届けした
WoO.42でした。大変お待たせしました。皆様いかがお過ごしでしょうか。
名曲のはざまの3つのヴァイオリンソナタを取り上げる、と心に決めたせいで
しょうか、意外に苦戦してしまい泥沼にはまりました。でも、この三曲はそれ
ぞれ特徴があり、たいへん興味深い作品です。味わいがいがあります。今号か
ら3回に渡って取り上げていきます。
長い梅雨、そして猛暑が終わるとあっという間に秋めいてきました。芸術の秋
にふさわしい、少し落ち着いた音楽を聴いて楽しむのも至福の時間。ヴァイオ
リン・ソナタはぴったりですね。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
次号は、op.30-2(第7番)をお届けします。少なくとも10月中には配信しま
すので、ご期待ください。では、WoO.43まで、お元気で。
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【ベートーヴェン音楽夜話】
発行・執筆:musiker
★ホームページ
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