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ベートーヴェンの音楽を語ります。「不屈の精神力で苦難を克服した超人、偉大なる芸術家」とかいう先入観は捨て、人間味溢れるベートーヴェンの音楽そのものを純粋に楽しみましょう。

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2005/04/10

ベートーヴェン音楽夜話 WoO.37

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【ベートーヴェン音楽夜話】 WoO.37   2005年4月10日(日)

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1.ベートーヴェンの一日
2.ピアノ協奏曲第五番 《皇帝》 作品73

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1.ベートーヴェンの一日

ベートーヴェンはいったいどんな一日を送っていたのでしょうか。
ここで書く内容は英文によるサイトで発見したものです。たぶん、1810年代、
四十代、精力的に作曲を行っていた頃のベートーヴェンでしょう。

ベートーヴェンは夜明けと共に起きました。春夏秋冬その習慣は変わらなかっ
たようです。起きるやいなや仕事机に向かいました。

ここは想像ですが、寝着を着たまま、おもむろに朝のコーヒーの準備をしたで
しょうね。コーヒー豆60粒を几帳面に数え、自らトルコ式コーヒーミルで豆を
挽き一杯のコーヒーを入れたベートーヴェンの行動は有名ですから。

コーヒーを飲み終えると、ただちに仕事机に向かい、昼まで仕事を続けます。
昼といってもだいたい2時か3時くらいまでですから、相当長時間です。仕事
づくめだったわけです。その後自宅で昼食をとります。

もっとも、机に向かい続けたとはいえ、必ず途中で二、三度は外へ出ていった
ようです。外の空気を吸うためでしょうか。ちょっとした外出の際にも、歩き
ながら作曲するのは欠かしません。時にはこの「ちょっと外へ…」が、一時間
に及ぶこともあったようです。もはや「ちょっと…」ではありませんね。暑かろ
うが寒かろうが、一年中このワンパターンな行動を続けたようです。

さて、午後。といっても3時だから午後というよりすぐに夕方になる時刻には、
お気に入りの散歩タイム。午前中も散歩のような行動をとるのですから、彼は
よほど歩くのが好き、というか、自然が好きだったに違いありません。散歩は
創作の源でもありました。

夕刻、ベートーヴェンはお気に入りのビールハウスでその日の新聞を読みます。
ビールハウスで満足に新聞を読めなければ、カフェへ行きます。世は英国議会
制度まっさなかの時代。政治に関心の高いベートーヴェンは英国の世相に注目
していたに違いありません。自宅でとっていた新聞はAllgemeine Zeitungで、
国内事情にも精通していました。新聞による情報収集は、主に友人との議論の
ためでした。

夜は家で過ごし熱心に読書を重ねます。古典から新刊本まで幅広いジャンルを
読んでいたようです。彼が、夜、作曲をしているのを見た人はほとんどいませ
ん。夜、ローソクの下で楽譜を書く作業は彼の目に大きな負担だったからです。
若い頃は、夜の時間を利用して作曲をしていたのでしょうが。

遅くとも10時までにはベッドへ入り、ベートーヴェンは一日を終えました。

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2.ピアノ協奏曲第五番 《皇帝》 作品73

【作曲】1809年
【初演】1811年11月28日、ライプチッヒ
    1812年2月15日、ウィーン(この時のピアノ独奏はチェルニー)
【出版】1811年2月、プライトコップフ&ヘルテル社
【献呈】ルドルフ大公

ベートーヴェンのピアノ協奏曲だけでなく、世の協奏曲の中でも傑作10本の指
に入りそうな堂々たるこの作品。ベートーヴェン傑作の森と呼ばれる中期に燦
然と輝くその風格。聞く人々の心をしっかりと捉えている魅力とはいったい何
でしょう。

【第一楽章】 アレグロ 変ホ長調

まず、管弦楽による始まりの合図とも言える冒頭の「ジャ〜〜〜ン」。それと
重なるように放たれるピアノの豪快なアルペジオ。まるでカデンツァのように、
ピアニストの力量をこれでもかこれでもかと示すようです。お約束の管弦楽の
前奏を最初に持ってくるよりも、真っ先にピアニストの見せ場(聞かせ場)を
持ってきたベートーヴェン。

彼はこの頃耳が悪化し自ら演奏することをためらわざるをえない状態でした。
現にこの曲の初演はそれまでの四作品とは違い、自らピアノを弾かなかった。
しかし、自ら弾きたいその意志を、楽譜の上に強く表したといえるのです。

カデンツァ風始まりを曲の最初に持ってきたのも異色ですが、それをピアニス
トの感性に任せることなく、すべてを楽譜に書き表した。ベートーヴェンは、
自分の感性以外を拒絶するかのような主張をしたようにも思えます。

さて、このド派手な冒頭。ピアニストと管弦楽のある意味大袈裟な対話ともい
えます。そこには、勝負のような緊張感さえ漂います。華麗、きらびやか、な
どの美辞麗句とは違う、ある種唖然とさせられる演出。聞き手は皆この魔力に
虜にさせられるはずです。

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そして、始まる有名な管弦楽のフレーズ。軽快なテーマも、ヴァイオリンパー
トが束になって奏でることで、力強さを感じます。木管楽器へのリレー、そし
て管楽器のハーモニー。テーマは様々な形に変化し、違った色合いへと転じて
くれます。この4分にも及ぶ管弦楽だけ聴いていると「これ、ピアノ協奏曲?」
と、疑問を感じることもしばしば。よく聞けば、ティンパニーが終始大活躍で
す。静かな弦による第二テーマの後、牧歌的なホルンの音色。音のささやきは
チェロやコントラバスで応えられ、第一テーマへと戻ります。

管弦楽が静かに道を譲れば、ピアノはおもむろに、「さて、そろそろ私の出番
かな?」と余裕綽々に指慣らしをしつつ上昇音階で入り込んでくる。じゅうた
んが行く手にくるくると回り、道ができるみたいですね。

表情豊かにテーマを思い切り語るピアニストは、ここからナルシストになりま
す。なんて自分は素敵な音を奏でているのだろう…、と。響きを充分生かし、
オケの音楽を誘導しているようにも感じます。管弦楽が奏でていた音楽をピア
ノ主導で再現。ベートーヴェンならではの変奏技術が駆使されています。間に
はさまる管弦楽による軍楽的フレーズを吹っ飛ばすような、ピアノの妙芸は圧
巻。確かに両手で弾いているのでしょうが、本当に一人で弾いているのかと疑
いたくなります。

ここまで出てきたメロディやフレーズを、管弦楽とピアノが巧みに役割を替え
て七変化。特に冒頭で出てきた静かなささやきのようなフレーズが、軍楽的な
力強い音楽の間で、効果的に使われています。要チェックですね。

冒頭を思わせるカデンツァの登場で、終結へと向かうかと思わせます。しかし、
彼は再び、ピアノと管弦楽でそれまで流れた音楽を更に七変化させ変奏を重ね
ます。ベートーヴェンの執念(?)のようなものを感じます。

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【第二楽章】アダージョ・ウン・ポコ・モッソ ロ長調

映画「不滅の恋」で、エルデーディ夫人に手をとられ、失笑の聴衆をにらみな
がら会場を出ていくシーンに使われていました。以後のシーンでも、この美し
い音楽は、ベートーヴェンの孤独と苦悩を優しく包むように、流れていきます。

ベートーヴェンがピアノ協奏曲第五番の演奏を大失敗した理由は、耳の聞こえ
ない彼が、自らピアノを弾きながら指揮をするという無謀な試みをしたことで
した。ピアノソロはよいけれど、その後の管弦楽が全く合わない。テンポは狂
う、楽器への指示は合わず、結局音楽が途中で止まってしまいます。聴衆はみ
な小馬鹿にした笑いを浴びせます。そして、会場にいたエルデーディ夫人が、
いても立ってもいられず、彼に手をさしのべるのです。

このシーンは、もちろん映画の演出であり、架空のストーリーです。ベートー
ヴェンはこの未亡人の邸宅でしばらく住ませてもらいますが、いったいどうい
う関係であったかは定かではありません。映画のような静かな恋愛関係だった
のか、それとも親しい友人として交友していたのか。いずれにしても男と女と
いう枠を超えたかけがえのない間柄であったことは事実のようです。

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時はナポレオン戦争がウィーンを襲った時期。ベートーヴェンを支援していた
貴族たちは皆疎開し、人々は音楽どころではありませんでした。この協奏曲が
書かれた時期は、1808年頃から1810年頃とされています。まさに、戦乱の真っ
最中に協奏曲第五番は書かれたのです。1809年頃のスケッチ帳には、「戦闘へ、
歓喜の歌」「攻撃」「勝利」という言葉が残されています。

一方、同じスケッチ帳に、エルデーディ夫人に対する訣別を告げる手紙の下書
きのようなものが書かれています。何らかの感情のもつれがあったようで、彼
は夫人の邸宅を飛び出しています。「私はあなたの召使いではない」と彼は告
げたかった。その思いをスケッチの片隅に記しました。

第一楽章が、その流麗できらびやかな雰囲気を持ちながら、一方で戦闘的なム
ードもある点は、この曲を書いていた時期のベートーヴェンの精神状態から充
分察することができるでしょう。しかし、一方で、第二楽章が、静かで落ち着
き、心の底にこぼれ落ちる暖かい涙のしずくのような音楽になっていることも、
見逃せません。エルデーディ夫人に対する思慕とはいいませんが、このように
優しげなベートーヴェンの心情を垣間見るられる深い楽章ですね。

シンプルな弦の調べ、夢の世界でさまようピアノの音色を、「美しい」という
言葉だけで表すのを、私はためらいます。言葉はいらない。そう、第二楽章は
まさにそんな心を語っているような気がします。

あっけないほど短く、ためらいがちに終わる第二楽章。最後の音が、B(シ)
を長くのばし、唐突にB♭(シ♭)に音が下がります。ピアノは、別のフレー
ズを静かに弾き始めようとします。ピアノに向かい、次はどう始めようか、
と即興(即興とは適切でなくファンタジーレンと呼ぶべきだと「ベートーヴェ
ンの手紙」編訳者小松雄一郎氏は強調しています。ファンタジーレンに適切な
訳語がないので、私は作曲ライヴ演奏と呼んでいます)を始めるベートーヴェ
ンが、鍵盤に指を置き弾きながら考えているかのように…。

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【第三楽章】 ロンド、アレグロ 変ホ長調

分散和音による踊るように軽快なピアノ独奏で始まります。ピアノに続き、
管弦楽も同じ音楽を軽妙に奏でるのですが、後ろでティンパニーがドカンドカ
ン鳴っていますので、優雅なワルツとは少し趣向の違う感じです。

早いピアノの指さばきは、ピアニストの力量の聞かせどころでしょう。しかし、
あまり完璧にサイボーグのようにひいては色気も何もあったものではありませ
ん。冒頭のワルツもしっとりと弾くのはかなり難しそうですね。特に、ワルツ
の助走のような、やや変則アクセントも要求されますので、ピアニストだけで
なく、管弦楽も体でこの音楽に乗る必要がありそうです。

優雅さから一変しスリリングな様相を呈する中間部は、ちょっと聞いていて緊
張しますが、すぐにピアノのワルツ、管弦楽がそれに続きます。その後もピア
ノのソロを充分に楽しみましょう。

ベートーヴェンは、踊りが好きだったのでしょうか。彼が自ら踊っているとい
う話は聞いたことがないから、まあ、人前で踊ったりはしなかったのでしょう
が、少なくとも舞踊曲を好んでいたと、私は想像しています。ヴァイオリン協
奏曲も優雅なワルツを第三楽章にもってきましたね。堂々たるムードの強い交
響曲第三番でも第四楽章には舞踊曲を使いました。ピアノ協奏曲第四番は、突
進するようなダイナミックな第三楽章でしたが、この第五番ではやはりワルツ
です。舞曲のリズムや色合いが彼の音楽には欠かせない要素だったのかもしれ
ません。

エンディングはピアノとティンパニーにデュオ(出ました!ティンパニーを主
役抜擢!)で静かに音楽を静め、ピアノの妙技の後、迫力あるたっぷりとした
管弦楽で、でも、あっさりと幕を閉じます。

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ピアノ協奏曲第五番には「皇帝」という副題がついています。もちろん、ベー
トーヴェンがつけたものではなく、出版人クラマーによる銘々です。作品の華
麗な印象にちなんだといいます。

しかし、作曲の過程には、彼が皇帝を意識して書いた形跡もなく、むしろオー
ストリアを占領していたフランス軍に対する敵対意識と、愛国精神とが交錯す
る中、彼は書いたと見なすことができます。副題はあくまで副題。音楽そのも
ののイメージから、聞き手それぞれが決めれば良いのではないでしょうか。

ちなみに、私は第二楽章の夢心地の後、ひとりぽっちで楽想を膨らませピアノ
を弾き、そして、意を決したかのようにワルツを奏でるピアニストに、当時の
ベートーヴェンの心を重ね、胸がジーンとさせられます。なぜ彼は曲をワルツ
で締めくくったのでしょう。

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【私の聞いたCD】

ユニバーサルクラシック
ベートーヴェン ピアノ協奏曲第四番&第五番
ヴィルヘルム・バックハウス(ピアノ)
ウィーン・フィルハーーモニー管弦楽団
ハンス・シュミット=インセルシュテット(指揮)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000060N71/musiker21-22

★私の所有CDは↓こちらの全集です(演奏者は上と同じ)
ベートーヴェン ピアノ協奏曲全集
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00005FLJ1/musiker21-22
※httpの後の:が消えている場合は、お手数ですが、:を加えて飛んでください。

※いろいろな盤を聞いていますけど、何度聞いても、やっぱりこれに戻って
 きます。ワンパターンといわれようが、良いものはいいのです。第三楽章の
 ピアノの技巧を感じさせないしっとり感がたまらなくいいです。

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【あとがき】

構想一ヶ月という長い時間をかけ、やっと書けた「ピアノ協奏曲第五番」の項
をお届けしました。既に「クラシック音楽夜話」では3月に取りあげています。
けれど、今回はその原稿の使い回しではなく、新たに書き起こしました。

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本誌発行人musikerは、実は昨年夏よりひっそりとblogをやっています。メル
マガのテーマを考えるための雑記帳のようなものですので、あえて告知はしま
せんでした。配信間隔が長いときなどの繋ぎ、あるいはお暇つぶしにご訪問く
ださい。ただし、テーマが本誌とダブルこともありますので、ご容赦を。ベー
トーヴェンもよく登場します(私が書くのですから、まあ当然ですか)。

★クラシック音楽夜話(blog版)
http://blog.melma.com/00047845/

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しばらくお休みしていたベートーヴェンの生涯にスポットを当てた項を再会さ
せます。次号は、二十歳頃のベートーヴェン。そして楽曲解説は「弦楽三重奏
曲」(作品9)でお届けする予定です。

では、WoO.38で、お目にかかりましょう。

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【ベートーヴェン音楽夜話】
発行・執筆:musiker http://www.musiker21.com
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