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ベートーヴェンの音楽を語ります。「不屈の精神力で苦難を克服した超人、偉大なる芸術家」とかいう先入観は捨て、人間味溢れるベートーヴェンの音楽そのものを純粋に楽しみましょう。

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2004/02/07

ベートーヴェン音楽夜話 WoO.26

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【ベートーヴェン音楽夜話】 WoO.26   2004年2月7日(土)

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【はじめに】

前号で情報として告知した大晦日の「ベートーヴェン交響曲連続演奏会」に実
は行って来ました。

12月31日午後3時30分から年を明けた0時40分まで。休憩時間を入れ9時間10分、
実質演奏時間6時間弱。ということは三回のコンサートを一晩で体験したことに
なります。

告白しますと、私は自称ベートーヴェン狂にもかかわらず不届き者でして、行
く前はどこか途中で抜け出し、上野駅近辺のレストランで少し優雅な食事をと
る魂胆でした。まあ、二曲くらいパスしてもいいか、ってなところですか。

じゃあ、どの曲をパスするのか?という問いが実際にあると、正直言って答え
に窮します。一番、二番はまさか始まったばかりですから無理です。三番など、
とんでもない。四番はクライバー命なので聞かなくてもいいか、と考えがちで
す。けれどクライバー以外で、日本人指揮者の指揮による演奏も興味がある。
おまけに短いから一緒に次の五番を外すことにもなるのは嫌です。六番を聞き
逃すわけにいかないし、七番、八番をはずすと、最後の九番を聞く楽しみも半
減。……。……。

結局抜け出すなんて所詮無理なんです。そして、実際に始まったら抜け出すな
んて気全く起きず、演奏の一部始終を見て聞き、時の過ぎるのを忘れ熱中して
いました。

「クラシック音楽夜話」では1月2日配信号で既にこの演奏会についてのレポ
ートを掲載し、反響を呼びました。同じ文章を私のホームページ内Web版「ベ
ートーヴェン音楽夜話」に載せておきました。コンサートの様子はそちらをご
覧下さい。

musikerの音楽夜話
http://www.musiker21.com

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祝典劇「アテネの廃墟」のための音楽 作品113
Musik zu "Die Ruinen von Athen" Op.113

作曲:1811年
初演:1812年2月9日 ペストのドイツ劇場
出版:1823年 シュタイナー社 ウィーン(序曲のみ)
   1846年 アルタリア社 ウィーン(全曲)


ペストという地名を読み、「なんぞや?」と思う方もおられるかもしれません。
ハンガリーの首都ブダペストという名称をご存じでしょう。もともとこの地名
はこの町の真ん中に流れる河を隔て両方にあったブダとペストという地域が一
緒になり誕生したと聞きます。

そのペストに新しいドイツ劇場を建設するという計画をフランツ皇帝が進め、
その柿落し公演用の祝典音楽の作曲がベートーヴェンに依頼され完成した作品
というわけです。

1811年の夏ベートーヴェンは医者の勧めで湯治を兼ねた保養のために、温泉地
テープリッツを訪れます。この作曲の依頼はなんとその旅の直前というから、
あわただしい話です。なおかつ驚きなのは、彼は8月20日頃から作曲を始め、わ
ずか3週間の間に全曲を書き上げたことです。スコアが9月18日にペスト宛送ら
れたというのです。

ベートーヴェンが遅筆なことは有名で、作品が締切の直前まで仕上がらず、写
譜屋もてんやわんや、しかも悪筆で解読するのも容易ではない、オーケストラ
はろくに練習もできないことなど日常茶飯事。ですから「アテネの廃墟」が異
例の早さで仕上がったのは不思議で仕方がありません。

めでたく完成した作品は当初予定だったらしい10月のイベントが延期されたた
め、結局翌年2月になりました。

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★ストーリー

ゼウスの怒りにふれて二千年間眠り続けたミネルヴァ(知恵と技芸の神)がア
テネに帰ると、そこはトルコの支配によって荒れ果てた地となっていた。そこ
に神の使いのメルクールがやって来て、ミネルヴァと共に、新しく完成するペ
ストの芸術の殿堂に赴き、その芸術の守護者である皇帝の胸像に月桂冠を捧げ
るというお話。

荒廃しているアテネが最終的な舞台ではなく、別の地ペストへ赴いて月桂冠を
捧げるというのは、理解に苦しむ物語です。しかし、ベートーヴェンはこの仕
事(物語)に特別な思い入れがあったようです。当時、ギリシャはトルコの侵
略を受けていて「ギリシャを守れ!」とう風潮が世間にあり、ベートーヴェン
も賛同していました。かつて蒙古の侵略に必死に抵抗したペストという地の劇
場に肩入れすることにより、ギリシャに対する連帯の意を表したかった。それ
が彼の本意だったというのです(『ベートーヴェンの手紙(上)』小松雄一
郎編訳・岩波文庫より)。しかしながらコツェブという作家の台本は、こうい
うベートーヴェンの意に必ずしも添ったものではなく、どうも不満だったよう
です。もっともベートーヴェンが台本で「気に入った」と発言する記述にお目
にかかることは少ないから、この作品も例外ではないのは、無理もないような
気がします。

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★作品の構成

作品は次の8曲で構成されています。

 序曲
 (1)合唱
 (2)二重唱(ギリシャの男とギリシャの女)
 (3)回教僧侶の合唱
 (4)トルコ行進曲
 (5)舞台裏の音楽
 (6)行進曲と合唱〜僧侶の長のレチタティーヴォ いつまでも変わらぬ強い喜び
   をもって
 (7)合唱〜アリアと合唱 我々は心を開いて
 (8)合唱 我らが王、万歳

たぶん現在演奏されるのは(1)の序曲だけで、他の作品を聞くチャンスはほとん
どないでしょう。インターネットで検索しても、この作品全曲が収録されたCD
を見つけるのは一苦労です。日本はもちろん米国amazonのリストにもありませ
ん。

(1)の合唱では、ゼウスの娘よ、目覚めよという合唱。祝典曲らしい堂々とした
前奏に続く合唱は力強くてカッコイイ!フルートのメロディがしみじみといい
し、無伴奏合唱と管弦楽のかけ合いも聞きどころです。

(2)の二重唱曲は、奴隷の男女の嘆き。働けど働けど生活は苦しいまま食べてい
くのもままならないみじめな人生はいつまで続くのだろうか。我らの祖国はど
うなってしまったのか、という嘆きを、とうとうと歌います。悲愴感あふれる
哀しいメロディが心を打ちます。序曲冒頭と全く同じメロディが弦楽器で奏で
られています。

(3)は男声合唱。摩訶不思議な歌でして、ベートーヴェンの歌の中でも異色の存
在でしょう。聞けばたちどころに、心奪われる、というよりも奇妙なムードに
圧倒させられるのです。これ、さわりだけでも聞いて頂きたいけど、なすすべも
ないのが残念です。

(4)は有名なトルコ行進曲、といってもモーツァルトのピアノ・ソナタとは全く
別物です、念のため。作品76の「6つの変奏曲」のテーマとしてよく知られて
います。管弦楽化されピッコロがメロディを担当します。トルコ風にパーカッ
ションがドンシャンドンシャン鳴り、聞いているだけでウキウキしてきます。

さて、この作品のハイライトが次の(5)と(6)です。物語も、ミネルヴァたちが
ペストに到着し、神殿へと向かう場面。まず、舞台裏で木管合奏のみで、導入
音楽が始まります。この音楽は聞いたとたんに心奪われるでしょう。メロディ
もいいし、管楽器の持ち味を活かしたその音色の見事なこと。特にメインメロ
ディに続く第二メロディへのつなぎ目が巧みなのです。こんなリレーのメロデ
ィは他には聞いたことがありません。舞台裏の音楽は次第にクレッシェンドし、
表舞台の管弦楽へと渡されます。管楽器が素晴らしい。そして、静かな合唱が
加わります。

 祭壇をかざれ!(男声)
 祭壇を飾りました(女声)
 燻香を撤け!(男声)
 撤きました(女声)
 バラを採れ(男声)
 採りました(女声)
 来るべき人を待て(男声)
 皆待っています(女声)
 用意をせよ(男声)
 用意ができました(女声)

ミネルヴァたちを迎える人々の様子が目に浮かぶようです。合唱はメロディの
大きな動きもなく、淡々と詩を朗読するよう。男声の歌に女声が応えるように
進み、美しい和音が流れ続けます。一方管弦楽は静かにこの曲のメインメロデ
ィを奏でています。合唱が主役で管弦楽は脇役、いや、主役の管弦楽に脇役の
合唱と、両者のバランスが絶妙。一曲で二倍楽しめます。合唱が終わると、大
フォルテでメインメロディが再び始まります。金管楽器のまさに独壇場。ステ
ージ上の場面では主人公が登場するクライマックスなのでしょう。しばらく威
勢のいい音楽が続いた後音楽は次第に静かになり終結へ…。

その後僧侶の長による厳かなレチタティーヴォ。

(7)の合唱は本当に美しい。ベートーヴェンの合唱曲のまさに醍醐味です。この
合唱曲は複雑な構成もなく主体がホモフォニーですので決して難しくはありま
せん。合唱に続き僧侶の朗々としたアリアです。バリトンの堂々とした声の裏
でホルンのアンサンブルが控えめに澄み切ったハーモニーを奏でます。

女神ミネルヴァたちを喜んで迎え入れ、ハンガリーの人々は敬虔な心で神に忠
誠を誓い続けた結果、その思いはゼウスに通じたのでしょうか、突如

 彼は現れた!

と合唱が喜びの歌を歌います。この後は僧侶と共に歓喜の歌。

(8)はフィナーレにふさわしく、いわばどんちゃん騒ぎ、いや、前曲に続く歓喜
の歌です。それにしてはわずか3分半で、意外にあっさりと終わってしまうの
が少々物足りないけれど、その分その前の音楽が魅力たっぷり充実感あふれて
いるから満足感は保証できるでしょう。

元々はペストという地のための祝典音楽ですから「めでたしめでたし」がペス
トで終わるのは当然ですが、じゃあ、アテネはどうなっちゃうの?という突っ
込みを入れるという野暮なことは止めましょう。たぶん、ペストの地に新たな
祭壇ができて、そこでハンガリーの人々が必死に祈ることにより、いつの日か、
ギリシャにも幸運が訪れるであろう、という筋書きなのでしょう。現実におけ
るベートーヴェンの思いこみもそこにあったようです。彼は武力ではなく、芸
術こそが平和をもたらす力を持っていると、真面目に一生涯信じていたのです
から。

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先に述べた通り、「アテネの廃墟」の全曲収録版CDを入手するのは難しく、
「序曲」が「ベートーヴェン序曲集」と称するCDに収録されているものを
聞くくらいしかチャンスはありません。「トルコ行進曲」と「合唱と行進曲」
はオムニバスCDに入っているものもあります。もし運良く全曲版を見つけた
ら即座に買っておくことをオススメします。貴重品ですよ。しかし、こういう
良い作品を聞けるチャンスが閉ざされているのは本当に残念なことです。音源
はあるんですから、なんとかしてください、ポリグラムさん。

★私の聞いたCD
ベートーヴェン大全集より
BE−1085
祝祭劇「アテネの廃墟」への音楽 作品113
アーリー・オジェー(ソプラノ)
クラウス・ヒルテ(バリトン)
フランツ・クラス(バス)
RIAS室内合唱団
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ベルンハルト・クレー(指揮)

★序曲のみ試聴出来るサイト
いずれも海外サイト。The Ruin of Athenの記述部分をクリックしてください。

http://www.kammerphilharmonie.com/English/Page477.html

http://www.amazon.com/exec/obidos/ASIN/B000000S8V/bridgebooks/104-5188416-4963953

http://www.amazon.com/exec/obidos/tg/detail/-/B000001GAB/104-5188416-4963953?v=glance

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【あとがき】

「ベートーヴェン音楽夜話」は自然消滅か?という危惧を感じておられた皆様
大変お待たせしました。来月には発刊一周年となるというのに、まだ26号とは
困ったものです。でも、幸い公私ともにやや落ち着いてきましたので、徐々に
週刊のサイクルへと戻れると思います。

「アテネの廃墟」は12月から何度も聞き、雪の降る深夜徒歩で帰る時にも、
最高音量で聞きました。「合唱と行進曲」の威力はすさまじく、冷たい雪も、
なんのその全く寒さを感じなかったのが本当に不思議です。せめてこの曲だけ
でもいいから、簡単に入手できる術があるといいのですが。図書館の貸し出し
CDなどで皆さんもぜひ探してみてください。

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ウィルスが流行っています。ここ一週間の間、私にウィルスメールが送信され
ています。ウィルスはマシン内のアドレスを無差別に抽出し勝手にウィルスメ
ールを送るようですのでご注意下さい。ウィルスソフトを使用しチェックされ
ることをお勧めします。また、私のアドレスが配信元で皆様宛にウィルスメー
ルが送られている可能性もあります。こちらはmacですので、ウィルスは効き
ません。私からウィルスメールを送ることは100%ありません。ただ、公開ア
ドレスですので第三者がアドレスを勝手に使用する、あるいはウィルスに冒さ
れているマシンが私のアドレスでメール送信する場合もあります。いずれにし
ても、怪しいメールは即座に削除してください。でも、くれぐれもメルマガは
削除しないでくださいね(笑)。

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次号は作品6「四手のピアノソナタ」、そして「交響曲第二番」を取りあげる
予定です。今度は一週間後に配信できるでしょう。

最後までお読み下さいましてありがとうございました。
では、みなさん、お元気で!

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【ベートーヴェン音楽夜話】
発行・執筆:musiker http://www.musiker21.com
★ご意見・感想等はこちら↓
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