四万十通信 257
(四万十通信)257
流域の環境保全と森林管理
(大野晃<上田市>長野大学産業社会学科教授)
http://kawauso100.exblog.jp/d2005-10-27
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■近自然林施業の試み・・高知県須崎林業事務所の取り組み
四万十川流域の檮原町、東津野村、大野見村、窪川町、大正町、
十和村の6自治体と須崎市、中土佐町、葉山村の3自治体を、管理
対象にしている、高知県須崎林業事務所では自然環境の保全を重視
した、新しい森林管理の試みが行なわれており多方面から注目を集
めている。
ここでは、この須崎林業事務所が試みている、「近自然林施業」
について紹介し、流域の保全を考えるうえで、この近自然林施業の
もつ重要性を検討してみたい。
ここでいう近自然林施業というのは、広葉樹と針葉樹の共生を、
林業の基本とするものであり、スギ・ヒノキの経済樹と自然発生広
葉樹との混合により、現在の人工林を、自然林により近い林にする
ものである。
経済樹と自然発生樹を、同一林分内で混合させることによって、
森林の生物の多様性を保護し、水と土を保全し健全な生態系を維持
しつつ経済樹の育成を図ることが目的とされている。
この背景には、先述したように人工林が山間地の高齢化等で人手
不足となり、また、木材価格の低迷で間伐が進まず“沈黙の林”と
化している状況があり、それへの対応策として、考えられたもので
ある。
では、近自然林施業とはどのような施業をするものなのか、具体
的に、その施業方法をみることにしよう。
従来の育林施業モデルでは1ha当たり3000本の植樹をした後、
2年目に300本を補植する。これは、栽培後に、1年間で10%
の枯損が生ずることを仮定したものである。植林6年目までは下刈
りを実施し、ほぼ、20年で1割を除伐して、雑林を伐採する。
その後、ほぼ30年、40年目にそれぞれ2割程度を間伐し、60
年目に残った1200本を主伐する。
近自然林施業モデルでは、最初の植林段階で、苗木を吟味して、
3000本を植樹する。そして、植林した木の初期成長を促進する
ため、周囲に繁る雑草木の下刈りは従事どおり植林後6年間は実施
する。ほぼ20年目に5割の大型間伐(切り捨て間伐)をし、繁茂
する自然発生樹の伐採をやめ、自然植生との共生をめざす。50年
目には4割を間伐(収入間伐)し、80年目に、主伐して永代木を
残し、広葉樹と針葉樹がバランスよく配置された混交林や択伐方式
による複層林化を進め、保水力があり、鳥獣の「保護もできる持続
可能な森林経営を実現する」。 以上に述べたように、近自然林施
業は広葉樹と共生し、人手不足に対する省力化を図り長伐期の林業
をめざすものであり、何より持続可能な林業経営の実践に、大きな
特徴がある。
しかし、木材価格の長期低迷状況のなか、この近自然林施業を
具体的に実践していくためには、民有林所有者に対する公的支援が
不可欠である。
高知県須崎林業事務所では、その支援策として、近自然林施業を
推進する補助制度=近自然林施業支援事業と所得補償制度の創設を
提案している。
近自然林施業支援事業は、緑の募金の交付金を財源に、1996
年度須崎林業事務所が創設したものである。
これは「森林に期待されている木材生産等の経済機能と環境保全
等の公益的機能を十分に発揮することができる森林の造成と、林業
経営の健全化を通じ、地域林業の活性化を図る」ことを目的として
いる。
そして、対象となる事業は間伐事業と間伐材搬出事業で、市町村、
森林組合、林業者等が行なうこれらの事業に要する経費および不足
所得に対し予算の範囲内で助成金を交付するものである。
交付金の交付を申請しようとするものは「須崎地区森と緑の会」
の会長あてに「近自然林施業認定申請書」を提出し、これが認定さ
れれば事業を実施し、事業完了時、「近自然林施業実績報告書」を
会長に提出。会長は報告書にもとづき検査、精算のうえ、交付金を
支払う。
また、所得補償制度というのは、単に間伐を進めるだけでなく、
伐り捨て間伐をできるだけ収入間伐につなげ、地域の経済的波及効
果を高めようとするものである。
すなわち、ここでは山村で生活していくために必要な1日当たり
の賃金=標準賃金を1万5000円とし、間伐搬出して、賃金が、
1万円以下の場合は伐り捨てにするが、1万ー1万5000円の
範囲(最大5000円)であれば、その差額を補償し、収入間伐に
つなげていこうとするものである。
「採算ラインをわずかに割込むための林内に放置される間伐は、
ごく少額の助成金(試算額と最低保障賃金との差額)で、市場に出
る。間伐材が市場に出回ることで生ずる地域の活気、経済的波及効
果は大変大きい」のである。
環境保全を重視した収入間伐を中心としたこの所得補償制度は
“近自然林型デカップリング”とも呼びうるものである。
日本最後の清流を育んできた、四万十川流域の森林の危機的状況
を考えるとき、この「近自然林型デカップリング」の国・県におけ
る制度化の重要性と緊急性をここに喚起しておく。
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