「星の記憶」
--------- 【星の記憶】 ------------------------ 第 18 夜 ------
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激流をさかのぼる魚のように記憶の川をたどれば
祈りや願いのたしかな形象がきらめいている
私たちが生まれた広大なふるさと 最初のひとつ星につながる記憶
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〔 雪 〕
激しく降りしきる雪
どの街も
どの家も
どの山も
どの人も
何もかもが白一色
ほの暗い静けさ
果てしのない真っ白な平面を
永遠にさ迷う気がする
天にいる絶対と完全を支配する天使たちは
決して泣くことを許されない
だから
ごらん
空じゅうの綿雲をこなごなに砕いては
あらん限りの冷たい花びらに変え
ひたすら空から降らせている
どの破片にも
サンクトゥス(聖なるかな)
ベネディクトゥス(ほめたたえよ)と
祝福の言葉を刻印して
わたし達は
それさえ気付かず
髪や鞄についた氷のかけらを
ハンカチで落としたり
睫毛の先にとまった光を
ただの雪のしずくと思う
祝福は
限りなく
終わりなく
華やかに
涙の代わりに降り注ぐ
理不尽で
不合理で
それでも美しいこの白い世界に
2008/02/16
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― 星の旅 ―
「祝福」 〜 不条理な世界のなかで 〜
イタリア、フィレンツェのウフィツィ美術館に、一度観たら忘れられない
不思議な力を持つ一枚の絵があります。
『ヴィーナスの誕生』や『春』などの作品で知られる
イタリアルネサンスの画家ボッティチェリの絵『マニフィカトの聖母』。
“マニフィカト”とは、キリスト教の聖歌で、マリアが救い主であるイエス
を宿したことを知った、その喜びと幸いを神に感謝する頌歌(ほめうた)
を意味します。
夕暮れ近いのでしょうか?
澄みわたる空の下に深い森や塔や蛇行する川が見えます。
手前の石造りの窓辺に、すでに幼子として成長しようとしているイエスを膝
に抱く聖母マリア。
そしてふたりを取り囲む5人の天使たちの何と愛らしいこと。
神の栄光をほめたたえる身振り、まなざし。
天上の音楽がさざめくような華やかさにつつまれている天使たちのなかで、
マリアは右手にペンを持ち、“マニフィカト”の言葉の続きを、天使のささげ
持つ書物に今この瞬間書きとめようとしながら目を伏せ、ふと手を止め、
ひとり深い憂愁の静けさにつつまれています。
マリアの頭上には、金の小さな星がいっぱいに散りばめられた、彼女の象徴である
星の冠がきらきらと輝き、さらに高い空からは不思議な光がさしこんでいます。
マリアの膝に座るイエスは、幼子とは思えないほどの完全さと威厳をもってマリア
を見あげ、さらにその上の天からさす運命の光をみつめているようにも見えます。
イエスの右手は、マリアがペンを持つ手の上に添えられています。
そして、ためらっているマリアに、優しく続きを書くよう、うながしているよう
でもあり、いや、どうしても神へのほめうたを書かねばならぬと命じているよう
でもあります。
キリストは世界を救う救い主。マリアがイエスを宿したとき、その救い主の母と
なる栄光は恐れと同時に光り輝くような喜びであったことでしょう。
けれど、今やマリアは予感し、確信しているのです。
いずれは、子イエスは成長し、茨の冠を額にかぶせられ、手に釘を打たれて
十字架に掛けられる運命だと。
それを覚悟したマリアの手は、もはや神をほめたたえる言葉を、以前のように
無邪気には書けない。
天使たちがにぎやかにいそいそと付き従ってくれるなかで、ひとりだけ別の世界
にいて、神の完璧さと生身の人間の狭間で、ふるえ、ゆれうごいている
かのようです。
イエスのように、正しいものでさえ、理不尽な仕打ち、不合理な現実の果てに
「神よ、どうして私を見捨てたもうたのですか?」と
さいごに問わずにはいられなかったのですから。
それが「神の業(わざ)を示すため」であるとしたら、
宇宙が願う、「祈り」を果たすため犠牲であるとしたら?
だとするなら、同時に私たちいのちあるものが、単純で安易な人生の結果を
夢見ることは、そう簡単ではない気がするのです。
現に、何も罪を犯していない、シロクマやタテゴトアザラシ、たくさんの動植物
たちが、私たち人間が引き起こした温暖化の影響で、いまこの瞬間も絶滅に
追い込まれ、理不尽な死へとかりたてられています。
動物たちの無邪気さに比べたら、傲慢で不完全で足りないことだらけの人間の私
など、何が起こってもどんな目にあっても本当にひとことの文句さえ言えないよ
うな気さえしてきます。
例えば、宮沢賢治の童話『雁の童子』を読んで、天から落ちてきた雁の童子の
いのちの悲しさを、私たち自身の物語と思うとき。
アラスカの自然や動物たちの素晴らしい写真を撮り続けた、写真家の星野道夫
さんが、いつも心に描き畏怖し大切に思っていた熊、そのよりによって、ヒグマ
に襲われて急逝するなど、なぜこのようなことが世の中に起こるのだろう?
なぜ?
どうして?
とその受け入れがたい不条理さを思わないではいられない時があるのです。
そんな現実の前で、いのちがそれでも祝福され、光あるものだと信じるために、
儚いたまゆらの時間と空間のなかで、それでも、わたしたちは、日々行動し、
再生し、何かを見出し、どうしても生き抜いてゆかねばなりません。
理不尽で、不合理な世界。
それでも、何にも変えがたい美しい一瞬と出逢うために。
自然や宇宙の循環が日々願い祈っている、私たちひとりひとりに科せられた
「なすべきこと」を「為す」ために。
『マニフィカトの聖母』wikipedia
http://en.wikipedia.org/wiki/Madonna_of_the_Magnificat_%28Botticelli%29
『星野道夫公式サイト』
http://www.michio-hoshino.com/
最後までおよみくださり、ありがとうございました。
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発行者 HP
「星の記憶」
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