2009/12/24
週刊ビジスタニュース●クリスマス・ひでぶっ!!●
●クリスマス・ひでぶっ!!● (2009/12/24) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ビジネスの新しいスタンダード! ■■週刊ビジスタニュース■■ ●クリスマス・ひでぶっ!!● http://www.sbcr.jp/bisista/ 2009.12.24 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 毎週水曜日発行(5週目はお休みします)。 [Index] ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 1.山形浩生「山形月報!」 2.近藤正高「現代史のなかの2009年物故者たち」[特別寄稿] 3.編集部の現場から ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 今号は、年内最後の号です。本年もありがとうございました。 さて、今回、山形浩生さんの連載では、イチオシの一冊が挙げられて おります。年末年始のお供にどうぞ~。 続いて、今年亡くなった方々と現代史をからめて、ライターの近藤正高 さんにご執筆いただきました。2009年を振り返るきっかけにもなれば、 幸いです。 そして、芹沢一也さんと荻上チキさんのインタビューをアップいたし ました。「シノドス」の試みについて詳しくうかがっております。 インタビュアーは前田久さんです。 http://www.sbbit.jp/article/13736/ あと、今年はネットにアップするインタビューをかなり頑張って企画 した一年でもありました。その一部を貼っておきますね。来年も色々 とできるといいのですが。 【林雄司氏・シンスケ横山氏インタビュー】 http://www.sbbit.jp/article/10847/ ニコニコ動画の人気ゲーム実況者たちに聞く http://www.sbbit.jp/article/11594/ 【ドミニク・チェン氏インタビュー】 http://www.sbbit.jp/article/11932/ 【都築響一氏インタビュー】 http://www.sbbit.jp/article/12401/ 【飯田和敏氏インタビュー】 http://www.sbbit.jp/article/13041/ では、皆さま、来年の新年アンケート号で! 良いお年を!! 前号(小田嶋隆さんの連載、平山亜佐子さんの特別寄稿を掲載)はこちら。 http://www.sbcr.jp/bisista/mail/art.asp?newsid=3396 ■━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ■□ 1.山形浩生「山形月報!」 ■□ ■━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ 年末から正月にかけて読む本を買いためておこうかと思っている 読者諸賢よ。もしぼくのこの連載を本当に本選びの参考にしているので あれば、いま買って読むべき本はまず何をおいても服部正也 『ルワンダ中央銀行総裁日記』(中公新書)だ。ずいぶん昔の本なの だけれど、長いこと絶版だったのが、この十一月にめでたく増補されて 復刊した。 著者は日銀マンだが、IMFの技術援助の一環として、一九六〇年代半ば にルワンダの中央銀行総裁として派遣される。そこはかつての宗主国 ベルギーが、怪しげなコンサルを通じて自国企業の利益のためだけに各種 政策運営をしており、中央銀行ですらまともな帳簿もない状況。 著者は帳簿の整理から初め、各種の妨害工作にも負けずに、国の発展に 資する金融経済政策を次々にうちだし、見事に国を立て直す。その様子が 実に生き生きと(時に義憤をあらわにしつつ)描き出される。 本稿の読者なら、ぼくが開発援助がらみの仕事をしていることはご存じ かもしれない。その過程で各地の途上国にいって、中央銀行といっしょに 仕事をすることも多いのだ。多くのところでは、先進国や中進国から アドバイザーなるものが常駐している。その多くは、常識を超えた 使えない無能だ。本国にいられると迷惑だから、僻地にとばされたのが 露骨にわかる。ここまで有能な人間が派遣されたというのは、ぼくから 見れば奇跡的なことだ。そして開発援助にこれほどのことができるとは! もちろん、当事者の言として多少割り引いて読むべき部分もあるんだろう が、それにしてもすごい。 さらに本書は、中央銀行の役割ということについても、多くの人の考え方 を改めさせてくれる。中央銀行の役割というのは、ほとんどの人は理解 していないし、またそれを理解したつもりの人の多くは、政策金利が どうしたとか流動性供給が、何とかオペが云々といったテクニカルな話で 些末な専門用語をもてあそび悦に入っている。 でも、この中央銀行総裁のやっていることを見ると、中央銀行とは本来 そういうものじゃないことがわかる。いや、そういう部分もあるんだが、 それだけではだめなのだ。かれは、実際の経済のプレーヤー――銀行や 短資会社ではない、事業者も含めたプレーヤー――と直接きちんと話を する。かれらのニーズを見極め、そこにある歪みを見て、それを中央銀行 として正すにはどうすればいいかを考える。中小企業の苦境に対して 資金援助を提供し、無意味な規制撤廃を行い、大統領とも話をして、 大統領の政策目標を実現するための手法を着実に編み出す。 それにひきかえ……日本の中央銀行は、社会や政治や経済のニーズをきく ことが独立性の侵害だとわめきたて、自分が長期的な確固たるフォワード ルッキングな視点を持つと主張しつつ、世間の目にびくびくして朝令暮改 をくりかえす。市場との「対話」なるものが一方的な要領を得ない弁明の ことだと思っている。いまの日銀を見ていると、この服部正也のような 人物がかつていたとはにわかに信じられないほど。 実は過去一年の金融危機で、世界の多くの中央銀行はちゃんとこれをやって いる。中小企業向けの追加融資や融資保証を中央銀行が実施し、必要な ところにお金を出し、実際の経済にとって役立つことを、政府ときちんと 協議して実施している。先週いたインドネシアでも、いまいるマレーシア でもそうだ。それにひきかえ……。 本書は、ルワンダの明るい未来を確信する服部のことばで終わる。が、 その後ルワンダは、ご存じの通り恐るべき大虐殺の舞台となった。今回の 増補版では、それについての服部の苦渋に満ちた小論も収録している。 新書だけれど、最近の無内容な量産新書とはわけがちがう、深く重い、 繰り返し読むべき本だ。この手の復刊本は、出たはいいけれど増刷される ことなくすぐにまた消えることも多いので、いまのうちに絶対買って おこう。 今回は、この一冊だけ紹介できればぼくは満足なのだ。あとはおまけで、 池澤夏樹の世界文学全集はトマス・ピンチョン『ヴァインランド』 (河出書房新社)が出た模様。実はマレーシアからまだ帰っていないので、 実物は見ていないけれど、長いしだらだらしているしわけわからんし、 ゴジラも忍者も出てくるし、でもそういうひねくれぶりを楽しみたい人は どうぞ、実物をちょっと立ち読みしたい人は、ぼくが訳したのがあるので こちらもどうぞ。 http://cruel.org/talkingheads/vineland.html ところで『ブルータス』でぼくと並んで出ている池澤春菜って、池澤夏樹 の娘だったのか! 知らなかった。ニコニコ動画で加藤夏希相手に プロレスを熱く語っている変なネーちゃんだとしか思ってなかった。 あとはやはり小説、マット・ラフ『バッド・モンキーズ』(文藝春秋)が 出ている。軽いけれどおもしろいよ。アメリカのカレッジノベル系の作家 で、つまり初期のカート・ヴォネガットみたいな、少しシニカルで饒舌で 軽妙で、でもちょっと社会派的な視点も入った感じ。ヴォネガットほど すごくはないけれど、決して悪くはない。 てなところ。では、みなさま、よいお年を、ぼくはまだまだ今年が終わり そうにありません。東京は凍っているようですが、クアラルンプールは たいへんお暑うございます。 ●山形浩生(やまがた・ひろお) 大手シンクタンク研究員、評論家、翻訳家。 著書に『新教養主義宣言』『要するに』(ともに河出文庫)、 『新教養としてのコンピュータ入門』(アスキー新書)など。 訳書に、ビョルン・ロンボルグ『地球と一緒に頭も冷やせ!』(弊社)、 ポール・ポースト『戦争の経済学』(バジリコ)、イアン・エアーズ 『その数学が戦略を決める』(文藝春秋)ほか多数。 最新刊『訳者解説』(バジリコ)が絶賛発売中! オフィシャルサイト(日本語) http://cruel.org/jindex.html ■━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ■□ 2.近藤正高「現代史のなかの2009年物故者たち」[特別寄稿] ■□ ■━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ おそらく多くの人が思っていることでしょうが、今年は例年になく各界を 代表する人物たちの訃報があいつぎました。 今回、昨年に続きこの一年間の物故者を回顧するにあたって、文化人類学者 の川喜田二郎(7/8。以下、日付は故人の命日を示します)の考案した 「KJ法」などを使ったりしていざ整理にとりかかったものの、あまりにも とりあげるべき人物が多い上に、各人同士との接点がいくつもあったり して、かえって収拾がつかなくなってしまいました。 しかしこの収拾のつかなさこそ、人と人とが、事象と事象とが複雑に 絡み合った現代という時代の反映なのかもしれません。そこで、ここは あえて収拾のつかないまま、今年亡くなった人たちから接点を見出し つつ、2009年とはどんな年だったのか、さらには彼ら彼女らの生きた時代 を振り返ってみたいと思います。 今年は、日本とアメリカでの政権交代や昨年来の世界同時不況など、 時代の変わり目を感じさせるようなできごとがあり、また、昭和や冷戦の 終焉から20年を迎えるなどさまざまな節目の年でもありました。今年7月 にはアメリカの宇宙船・アポロ11号による人類初の月面着陸から40年を 迎えています。 ちょうどアポロ11号が月に向かっているさなかの1969年7月18日、地上 では米上院議員のエドワード・ケネディ(8/25)が自動車事故を起こし、 同乗の女性が水死したにもかかわらず現場を立ち去ったため起訴されて いました(のち州法廷で禁固2カ月の有罪判決)。そもそも人類を月に 送るという計画は、エドワードの兄であるジョン・F・ケネディが大統領 在任中に提唱したものです。そう考えると、この事件はいかにも間が 悪すぎました。 アポロの月旅行は、アメリカの小説家、ジョン・アップダイク(1/27)の 『帰ってきたウサギ』にも中心的メタファーとして登場します。同作を 含む「ウサギ」4部作と呼ばれるシリーズの後半では、主人公のハリーが 妻の父からトヨタの代理店を引き継ぎ成功を収め、80年代半ばには息子に 家業を譲って隠居します。もちろん、ここには70年代以降の日本車の “侵略”という歴史的事実が背景にあるわけですが。 自動車は20世紀における大量消費社会のシンボルでした。イギリスの 小説家、J.G.バラード(4/19)はアップダイクよりもっと過激に、自動車 事故でしか性的興奮を得られなくなった人々を描いた『クラッシュ』など の作品を発表しています。日本のノンフィクション作家の上坂冬子(4/14) も、戦後まもない時期のトヨタ自動車での勤務体験を記録した 『職場の群像』でデビューしています。 コピーライターで「日本デザインセンター」の創立メンバーでもある 梶祐輔(10/4)は、トヨタの広告を40年近く手がけた、日本における 自動車広告の第一人者でした。たとえば「白いクラウン」(68年)は、 それまで黒塗りの高級車というイメージのあったクラウンをより幅広い ユーザー層に広げるというコンセプトを一言でいいあらわしたコピー として、いまだに語り継がれています。 自動車業界はまた政界にも人材を送り込みました。米自動車ビッグスリー の一角、フォード社に管理システムを初めて導入し経営を再建した ロバート・マクナマラ(7/6)は、社長昇進直後の61年、その手腕を 買われてケネディ政権の国防長官に任命されます(ちなみに同政権は、 経済ブレーンに経済学者のポール・サミュエルソン[12/13]を招いて います)。 ただ、次のジョンソン政権まで続いたその在任中、マクナマラは徹底した 軍事予算の管理のもとベトナムへの軍事介入を推し進めました。やがて 彼の精緻な計算は、ベトナム人民のゲリラ戦法の前に狂い始めます。つい には、戦争の泥沼化の責任をとる形で辞任へ追い込まれたのでした。 ウォルター・クロンカイト(7/17)が、全米ネットワークの一つ、 CBSテレビの『イブニング・ニュース』のキャスターとなったのはケネディ 政権2年目の62年のこと。同年、日本でもキャスターニュース第1号 となる『ニュースコープ』がTBSテレビで始まり、クロンカイトと同じく 通信社出身の田英夫(11/13)がキャスターに抜擢されました。けれども、 ベトナム戦争の報道をめぐって両者は対照的な道をたどることになります。 67年に、当時の北ベトナムを取材し、これをドキュメンタリー番組 『ハノイ――田英夫の証言』として放映した田は、アメリカがこの戦争に 勝利するのは困難だという見通しを示しました。これをときの自民党政府 が偏向報道だと非難、結果的に田はキャスターを降板しています。 対してクロンカイトは翌68年、国の戦況報告への疑問からベトナムに 飛びました。それまで中立主義を貫いてきた彼ですが、帰国後の報告では 「いまやとるべき道は和平交渉しかない」と主張しました。これを 受けて、ときの米大統領・ジョンソンは北ベトナムへの爆撃の停止、 さらには次期大統領選への不出馬を決めたともいわれています。 その後、テレビでの戦争報道は日常化し、91年の湾岸戦争では、空爆の 中継映像がテレビゲームのようだと形容されたりもしました。このとき、 日本ではニュース番組に頻繁に出演した軍事評論家の江畑謙介(10/10) が一躍ときの人となりました。 テレビもまた、自動車とともに20世紀を象徴する存在です。日本でテレビ 本放送が開始された53年当時、水の江滝子(11/16)らが出演した バラエティ番組の元祖ともいえる『ジェスチャー』が人気を集めました。 水の江は戦前、松竹歌劇団の男役として脚光を浴びましたが、戦後は テレビ出演のほか日活のプロデューサーとして活躍しました。彼女が56年 に製作した映画『太陽の季節』には、のちに結婚する長門裕之と南田洋子 (10/21)が主演しています。 『ジェスチャー』は女性陣と男性陣が対抗するという形式で、それぞれ のキャプテンを水の江と落語家の柳家金語楼が務めました。この金語楼 の息子、山下武(6/13)は60年代にNET(現テレビ朝日)のディレクター として『大正テレビ寄席』を手がけ、演芸ブームを巻き起こしました。 しかしブームに乗じて類似番組がどんどんつくられるうちに人材が払底 すると、落語家が狩り出されるようになります。三遊亭圓楽 (5代目。10/29)ら当時の若手落語家が出演した『笑点』もそのような 背景から生まれました。 テレビ放送開始以来の人気番組といえば、日本テレビのプロレス中継も あげねばなりません。しかしそれもついに今年2月、地上波から消えて しまいました。力道山の日本プロレス、ジャイアント馬場の全日本 プロレスの流れをくむ「プロレスリング・ノア」の地上波での中継 打ち切りからまもなくして、ノアの社長でプロレスラーの三沢光晴 (6/13)が急死しています。 在京民放テレビ局のうち後発局であるフジテレビは、鹿内信隆・春雄 父子による一族経営によって急成長をとげました。同局が「軽チャー路線」 を打ち出した84年、春雄は、元NHKアナウンサーでフジに移籍していた キャスターの頼近美津子(5/17)を妻に迎えます。しかし結婚からわずか 4年で春雄が急死。その後女優やコンサート・プランナーとして活躍した 頼近もまた53歳という若さで亡くなりました。 テレビによって人気が高まったスポーツにはプロレス以外にプロ野球が あります。山内一弘(2/2。旧名は和弘)は50年代から60年代にかけて 大毎オリオンズ(現・千葉ロッテ)などで活躍した大打者、土井正三 (9/25)は1965~73年の読売ジャイアンツのV9に、主に2番打者として 貢献した選手です。 この二人には奇妙な共通点があります。それは、プロ野球の監督として 大選手の才能を見抜けなかったという“悪評”がつきまとうことです。 山内は社会人野球からロッテに入ったばかりだった落合博満の独特の バッティングフォームを見て、これではプロで通用しないと言い放った といいます。土井は、オリックス入団2年目のイチローを一軍になかなか 定着させませんでした。イチローが一軍に定着し、シーズン安打210本 という日本記録を打ち立てるのは翌年、仰木彬監督に変わってからです。 とはいえ、落合本人は、山内の高度な理論が当時の自分には理解 できなかったとのちに語っています。イチローにしても、くだんの悪評 について土井の死後、「そうじゃないのにね」と否定しました。 なお、土井が監督を務めたオリックスは2004年に大阪近鉄バファローズと 合併、オリックス・バファローズとして京セラドーム大阪を本拠地と しました。もともと大阪ドームとしてオープンした同球場は、関西の 大手私鉄・近鉄の会長で球団オーナーだった上山善紀(8/25)によって 建設が推進されました。 上山はまた、三重県の志摩半島に大規模リゾート・志摩スペイン村の 建設を進めました。けれども、大都市から離れていることもあって経営 は苦戦が続いています。これに対して、元千葉県知事・川上紀一(8/14) が実現を公約に掲げた東京ディズニーランド(TDL)は、大都市型テーマ パークとして大成功を収めました。ただし、当の川上は、1975年の 知事選出馬前に不正献金を受けていたことが在任中の81年になって発覚、 83年のTDLのオープンを待たぬまま辞任しています。 TDLには87年、「キャプテンEO」というマイケル・ジャクソン(6/25) 主演のアトラクションが登場しています。マイケル自身、大のディズニー 好きで、その大邸宅をネヴァーランドと名づけたほどでした。 マイケルが83年にリリースした「スリラー」は、そのプロモーション ビデオ(PV)とともに世界的なヒットになりました。日本でも翌年には アメリカのMTVと提携してPVを流す番組も始まったものの、国内 アーティストにはPVはまださほど必要とされていませんでした。これに ついては、歌番組やCMでのイメージソングがその代わりを担っていたから との見方もあります。そう考えると、忌野清志郎(5/2)の歌番組での、 噛んでいたガムをカメラに向かって飛ばしたり、自分の曲の放送を “自粛”したラジオ局を非難する曲を突然歌い出したりといった パフォーマンスは、格好のプロモーションだったといえるかもしれません。 プロモーションといえば、2016年の五輪招致のため東京都がつくった10分間 のPVは、製作費に5億円もかかっていたことが判明し物議をかもしました。 今回の五輪招致では、敗戦直後、競泳で立て続けに世界記録を出した 古橋廣之進(8/2)にも、元JOC会長、国際水泳連盟副会長にして名誉都民 という立場から協力が期待されていました。けれども、古橋は10月の IOC総会での最終投票を待たずにローマで客死、五輪招致も失敗に終わった ことは周知のとおりです。 往年のアスリートでは、56年のコルティナダンペッツォ冬季五輪の アルペン3種目で優勝したオーストリアのスキー選手で、のちに俳優に 転身したトニー・ザイラー(8/24)も亡くなりました。ザイラーは日本 にもたびたび訪れ、59年には松竹映画『銀嶺の王者』に主演しています。 60年の来日時には東レの広告に登場、このとき「ことしの流行はザイラー の黒」というコピーを書いたのが、土屋耕一(3/27)でした。 もともと資生堂宣伝部のコピーライター第1号として出発した土屋は、 フリーになってからも資生堂の広告を手がけました。80年の「ピーチパイ」 というコピーからは、竹内まりやの歌うイメージソング「不思議な ピーチパイ」が生まれています。 この「不思議なピーチパイ」の作曲を手がけたのは加藤和彦(10/17) でした(作詞は当時夫人だった安井かずみ)。加藤と広告のかかわりは 深く、70年には“脱商品広告”のさきがけといわれる富士ゼロックスの テレビCM「モーレツからビューティフルへ」に出演、若者たちの フィーリングに訴えかけました。 この一年は、先述の梶祐輔や土屋耕一のほか、日本のグラフィック デザインのパイオニアと称される早川良雄(3/28)、それに続く世代に あたる木村恒久(08年12/27)、福田繁雄(1/11)、粟津潔(4/28)と、 広告業界周辺の人物の訃報が目立ちました。このうち粟津は、70年の 大阪万博でアミューズメントゾーンの基本構想計画にも参加しています が、これは今年閉園したエキスポランドの原型となるものでした。 コピーライターでは、土屋の影響下から出発した眞木準(6/22)も 亡くなっています。眞木は、93年に羽田孜や小沢一郎らが自民党を離脱 し新党を旗揚げしたさい、「新生党」という党名を考案するなど幅広い 仕事を手がけました。 津久井克行(10/2)を中心とする男性デュオグループclassの 「夏の日の1993」がヒットした93年夏、ときの宮澤喜一内閣への不信任 案可決を受けて総選挙が実施されます。同内閣で外相だった武藤嘉文 (11/4)は、大平正芳首相の急死直後に大勝を収めた80年の総選挙を 引き合いに出して、「宮澤さんもお亡くなりになれば……」と口を 滑らせてしまいますが、羽田や小沢のほかにも離党者があいついだ ため自民党は大敗、日本新党の細川護熙を首相とする非自民連立政権 が発足しました。 連立政権成立の立役者である小沢一郎は翌94年にはポスト細川政権も にらんだ上で、自民党の有力政治家だった渡辺美智雄らを切り崩しに かかります。渡辺をうながすべく、その側近だった柿澤弘治(1/27)たち が先行するかたちで自民党を離党、自由党(後年小沢のつくった同名の党 とは別物)を結成しました。けっきょく渡辺の取り込みには失敗、細川に 代わって羽田が政権を引き継ぎ、柿澤は同内閣で外相に就任します。 ただしその在任期間は約2カ月と短いものでしたが。 大蔵省出身の柿澤は、77年の参院選で新自由クラブ(新自ク)から出馬 し初当選を果たしました。新自クはその前年、ロッキード事件によって あかるみになった金権体質への批判から自民党を離党した河野洋平ら 若手政治家たちによって結成された保守新党です。その総元締め的存在 だったのが河野のいとこにあたる田川誠一(8/7)でした。 70年代には、名古屋市長となった本山政雄(5/11)など全国の大都市に 革新首長が誕生し、国政でも「保革伯仲」の時代を迎えていました。 さらに、評論家の室伏哲郎(10/26)が「構造汚職」と呼んだ、自民党政権 と官界・財界の癒着構造に起因する汚職事件があいつぎ国民の不満が高まり ます。新自由クラブと、先述の田英夫が代表となった社会民主連合 (社民連)は、こうした背景からそれぞれ保革を代表する都市型の新党 として登場し、期待を集めました。 けれども、新自クは勢力を伸ばせず86年に解散。河野などほとんどの メンバーは自民党に復帰したものの、田川だけはかたくなに金権政治の 打破を訴え一人で進歩党をつくりました。社民連では早くから田ら 「旧社会党派」と菅直人ら「市民派」とが対立し、細川政権発足時には 当時の代表である江田五月が入閣しましたが、田は連立政権を批判して 脱退、けっきょく94年に解党します。 政界関係ではこのほか、2006年、当時の民主党執行部の総退陣にまで 発展したいわゆる「偽メール問題」の火付け役である元衆院議員の 永田寿康(1/3)が自殺、また麻生内閣の財務相として出席したG7の 財務相・中央銀行総裁会議の終了後の“もうろう会見”で物議を かもした中川昭一(10/3)が、総選挙での落選後まもなくして急死 するなど衝撃的なできごとがあいつぎました。 麻生自民党から鳩山民主党への政権交代は、彼らの祖父にあたる吉田茂 から鳩山一郎への政権交代(54年)と何かと重ね合わせられました。 そういえば、83年の映画『小説吉田学校』で吉田を演じたのは森繁久彌 (11/10)でした。その森繁に「国民のおじいちゃんのような方」だから との理由で、鳩山一郎の孫から国民栄誉賞が贈られるというのは何か 因縁めいているような……。なお、『小説吉田学校』で美術監督を 務めたのは、黒澤明監督作品にも多数かかわった村木与四郎(10/26) でした。 クロサワアキラといえば、ムード歌謡の「ロス・プリモス」のそれぞれ 初代と2代目リーダーである黒沢明(4/9)と森聖二(10/18)が立て続け に亡くなっています。歌謡界での物故者はこのほか、作詞家の松井由利夫 (2/19。代表作に氷川きよし「箱根八里の半次郎」など)、石本美由起 (5/27。美空ひばり「悲しい酒」など)、音羽たかし (8/6。ザ・ピーナッツ「情熱の花」など)、丘灯至夫(11/24。 舟木一夫「高校三年生」など)、作曲家の三木たかし(5/11。石川さゆり 「津軽海峡・冬景色」など)がいます。 歌謡曲がらみでは、『山口百恵は菩薩である』『大歌謡論』などたくさん の歌謡曲論を著した評論家の平岡正明(7/9)もぜひあげておきたい。 その2カ月前には、平岡やルポライターの竹中労とともに70年代に 「3バカゲバリスタ」と称して活動を行なった革命思想家の 太田龍(5/19)も亡くなっています。彼らにとって、アジアに対する 日本の戦争責任の追及は重要なテーマでした。 アジア各国でもかつての指導者たちの訃報があいつぎました。韓国前大統領 の盧武鉉(5/23)が自殺した3カ月後には、彼の前任者であり、民主化 運動のリーダーだった金大中(8/18)が死去。さらに73年の金大中拉致 事件を主導したとされる元KCIA部長の李厚洛(イ・フラク。10/31)も 亡くなり、同事件の真相究明はますます困難になりました。 金大中は80年、民主化運動で国内に混乱を招いたとの理由で逮捕、一時は 死刑宣告も受けますがのちに刑執行が停止され、しばらくアメリカで 事実上の亡命生活を送っています。このとき、金はやはり亡命中だった フィリピンの野党議員、ベニグノ・アキノと親交を持ちました。ベニグノ は83年、3年ぶりに帰国するも到着した空港で暗殺されてしまいます。 86年のフィリピン2月革命でマルコス政権が倒れると、ベニグノの未亡人 のコラソン・アキノ(8/1)が大統領に就任しました。 鳩山首相は今年、「東アジア共同体」創設を提唱しました。いっそ、その マスコットに、いまやアジア各国で人気を集めている臼井儀人(9/11)の 『クレヨンしんちゃん』を起用してみてはいかがでしょうか。 冷戦終結から今年で20年を迎えました。アメリカの国際政治学者、 サミュエル・ハンティントン(08年12/24)は96年に刊行した 『文明の衝突』のなかで、冷戦後の国際社会はいくつかの文明圏に分裂 し、それらの対立・衝突によって世界秩序がつくられていくという見方 を示しています。同書は鈴木主税(10/25)によって邦訳され、日本でも 話題になりました。 2001年のタリバンが首謀したとされる9・11テロ、それに先立つ アフガニスタンのバーミヤン渓谷の巨大仏像の破壊は、ハンティントン の予見が的中した事例ともいえます。なお、大仏の破壊にさいして、 日本画家の平山郁夫(12/2)は、ユネスコ親善大使として抗議活動を 行ないました。 予見といえば、ドイツの振付家、ピナ・バウシュ(6/30)の演出により 89年11月に初演された舞台『パレルモ、パレルモ』では、幕が開くと ともに400個もの煉瓦を積み上げた壁が一瞬にして崩れ落ち、観衆に衝撃 を与えました。ベルリンの壁の崩壊はそれから約1週間後のことです。 振付家では、バウシュの先行世代にあたるアメリカの マース・カニングハム(7/26)も今年亡くなっています。 本稿でとりあげた自動車にしてもテレビや広告にしても、大きな転換期を 迎えています。出版の世界もまた例外ではありません。評論家の中島梓 (5/26。栗本薫の名で作家としても活躍)は26年前に著した 『ベストセラーの構造』で、赤字を補うために出版点数を増やすという やりかたはいずれ破綻し、出版社も本も著者も容赦ない淘汰にさらされる のではないかと懸念しましたが、その予見はほぼ的中してしまいました。 中島は前掲書において、現代社会はスケープゴートを必要とする社会で あり、ベストセラーにもその傾向が見られることを指摘しています。 それを読んでふと、昨年のいまごろの飯島愛の死(08年12/17?)を思い 出しました。それにしても彼女といい、大原麗子(8/3)や山城新伍(8/12) といい、芸能人の孤独死があいついだ一年でもありました。 最後にとりあげるのは、やはりこの人をおいてほかにないでしょう。100歳 で大往生したフランスの文化人類学者、クロード・レヴィ=ストロース (10/30)です。 80年代にめざましい経済成長をとげつつあった韓国を訪れたものの、 朝鮮文明の遺跡しか求め歩かなかったレヴィ=ストロースを見て、現地の ある学生は「レヴィ=ストロースは、もはや存在しないものにしか興味を 示さない!」と言ったといいます。 原始文明と先進文明という区分を取っ払い、すべての人類に不変的な構造 を見出したこの偉大なる思想家にとって、たかだか一世紀のうちに起きた 変動など、人類の長い営みからすればささいなものとしか思えなかった のかもしれません。 これまでにあげた人たちすべての人生がすっぽり納まるほど生きながら えた人物をとりあげたところで、本稿を締めたいと思います。 あらためて、彼ら彼女らに哀悼の意を表しつつ――。 ●近藤正高(こんどう・まさたか) ライター。 著書に『私鉄探検』(ソフトバンク新書)。 昨年に続き、今年も物故者で一年を振り返ってみました。 『徹子の部屋』でのタモリの密室芸よろしく、年末恒例の企画になると いいのですが……。なお、本稿で書ききれなかったネタは、 Twitter(http://twitter.com/donkou)やブログにアップする つもりでいますので、そちらもどうぞよろしくお願いします。 ブログ:Culture Vulture http://d.hatena.ne.jp/d-sakamata/ ■━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ■□ 3.編集部の現場から 吉尾太一 ■□ ■□ 出口汪『教科書では教えてくれない日本の名作』 ■━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ 夏目漱石、芥川龍之介、太宰治――誰もが知っている日本の文豪ですが、 実際に、彼らの作品を理解している人は少ないのではないでしょうか? あるいは、国語の教科書で習っただけで「知ってるつもり」になっては いないでしょうか? 本書では、執筆した受験参考書が累計六〇〇万部を超える、超カリスマ 予備校講師・出口汪が「日本の名作を10倍面白く読む方法」を紹介 します。 「こんな読み方があったのか!」と目からウロコが落ちること請け合い です。 女子高生“あいか”との「会話」で展開する、「楽しみながら読める」 スタイルですので、誰でもカンタンに日本の名作がわかるようになって います。ぜひ、ご一読下さい。 また今回、出口汪氏の最新刊発売を記念いたしまして、豪華特典付き キャンペーンを実施します! 本書ではご紹介できなかった「森鴎外の『舞姫』の読み方」を、 キャンペーン参加者全員にPDF版にてプレゼントいたします。以下の ページより奮ってご参加ください。 http://blog.sbcr.jp/topics/010021/002077/index.html △▼△▼↓↓↓↓ご購入はこちらから↓↓↓↓△▼△▼ http://www.amazon.co.jp/dp/4797357193/wwwsbcrjp-10-22/ref=nosim +=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+= (編集後記) 今年も残り一週間ですね。読んでくださった皆さんと書いてくださった 皆さん、どうもありがとうございました。 いつまで続くんだろうか……なんて思いつつやっている媒体ですが、 今年も48回の配信を終えることができました。 こうやって毎週届くメルマガを読んでくださった方々にとって、その号の 執筆者の書いたものが面白かったならば、ぜひその執筆者の書いたり 訳したりした書籍や雑誌を買ったり、その執筆者のホームページやブログ を覗きに行ったりしてもらえるきっかけになれば、とても嬉しいです。 あるいはまた、出版関係の読者の方も多いようですので、「仕事をお願い してみたい」と思ってもらえれば、これまた嬉しいです。 出版不況とよく言われますが、だからといって新しい書き手が出てこなく なっては困りますので、ささやかながらそういった場の一つにここが なればいいなぁと。ただ、来年のことはもう何ともわかりません。 ともあれ今年一年大変お世話になりました。 来年もどうぞよろしくお願い申し上げます。 良い年末・年始をお過ごしください。 上林達也拝 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ □記事内容に関するご意見、ご質問、ご感想などは bswebmaster@cr.softbank.co.jp までお願いします。 □新製品ニュースリリース等の送信先は mailto:bspr@cr.softbank.co.jpへ ■本メールマガジンは、「SBPメンバーサービス」と「まぐまぐ」を利用して 発行しています。 ●SBPメンバーサービスをご利用の方へ ◇解除はこちら http://member.sbcr.jp/mail/info/bs.aspx ●まぐまぐをご利用の方へ ◇解除はこちら http://www.mag2.com/m/0000098654.htm ○編集:学芸書籍編集部 上林達也 ○発行:ソフトバンク クリエイティブ(株) 〒107-0052 東京都港区赤坂4-13-13 ○無断転載を禁じます。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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