2009/10/22
猫のおきてVol.194 「モリの猫とガリの猫」
猫は人の足を踏みながら通る。猫が膝に来るとトイレに行きたくなる。などなど、どう いうわけでだか猫たちが決まってする行動の数々。このメールマガジンでは、そんな愛ら しくも不可解な行動、習性を「猫のおきて」と呼び、それにまつわるあれやこれやについ て大まぢめかつ勝手気ままに考察してまいります。筆者の飼い猫、黒猫の「ち」や、通い 猫の「ヘディ猫」の日常を、覗いていただけます。 前回は、猫毛アンケートにご協力ありがとうございます。そのご報告の前に今回は、5 月以来の猫的美術館猫訪問です。どうぞお付き合い下さい。 ======================================== 猫のおきて Vol.194 番外 モリの猫とガリの猫 ======================================== 豊島区の熊谷守一美術館に行ってきた。 熊谷守一といえば、濃淡や立体感なく面で色を塗り分ける独自の画風で知られ、当方の ような素人でも、ぱっと見て「もしやこれは熊谷守一作品?」とわかるほど特徴的である。 そして熊谷守一自身の風貌も印象的だ。白髯白髪、帽子にパイプ。世間がイメージする 「自由な画家」を体現しているかのようである。 熊谷守一こと「モリ」は、猫好きだったのも有名だ。その独自の画風で猫の絵を何点も 残し、ファンも多い。この美術館でも、常設展示で『白猫』が見られる。 しかし実は当方は、風景や静物は別にして、猫に関しては、モリの油彩よりも墨絵や鉛 筆画のほうが好きだ。2階に展示された墨絵の『すわる猫』も、画家の手の動きや勢いを 感じさせる自由な線が、猫の体のしなやかさや筋肉の力感を的確に描き出し、見事である。 ところで、今回熊谷守一美術館にやってきたのは、もうひとつの目当てもあった。 同館3階のギャラリーで開催中の「~鉄筆で山を描く~ あべみつこ展」である。 鉄筆で描く、という通り、あべさんの画材はなんとガリ版である。 今や知らない世代も多いかと思うが、ロウ紙と呼ばれる専用の薄い紙に、先端が細く硬 い鉄筆という道具で線を描き、こすられてロウ紙にできた細かな穴からしみ出るインクを 紙に刷るという孔版の一種で、正式には謄写版という。 版を作る際、面やすりの上にロウ紙をのせ、鉄筆で書くときに「カリカリ」「コリコリ」 という独特な音がすることから、ガリ版と呼ばれるのだと思う。 ガリ版はかつて、学校の先生がプリントを作るときなどに重宝されたし、私も大学時代 にサークルの文集を作る際、お世話になった。当時既にコピーは普通に使われていたが、 我がサークルには、カリカリと「ガリ切り」をする古き佳き伝統が受けつがれていたので ある。 そんなわけで細い鉄筆を使うガリ版には、文字や線画など「線」のイメージがあったが、 あべさんの作品は、むしろ「面」で構成されている。 初めてあべさんの作品を観たのは、著書『山のABE』(茗溪堂2006年刊)が発行され、 茶房高円寺書林で原画展を開かれた折だった。そのあたたかな柔らかい色と、一種平面的 で、独特なマット感がありながら重くない彩色に、何で描かれているのだろう? と思い、 ガリ版と知ったときは驚いた。 一体どうやって、こういう「面」で彩色された、しかも多色使いの作品を作るのだろう? 複数の版を刷り重ねているのはわかるが…… そんなふうに、「もしやこうするのでは?」 と自分なりに推理しながら作品を拝見しつつ、「見るのも楽しいけれど、これは作ると楽 しいだろうな」と思った。読者諸賢がご存知の通り、私はちまちました作業が好きである から、ちょっと試みてみたく思ったのだ。ガリ版で猫絵、いいかもしれない…… しかし、結局今に至るまで取り組んでいないのは、道具がない、これ以上作るものの間 口を広げないほうがいい、ということ以上に、実はもっと猫的な理由による。 それは、当家の通い「ヘディ猫」の行動である。 私が何か作業をしていると、彼女はどういうわけでだか、まるでそのときを計ったよう にやって来る。そして、ひらりと作業台に飛び乗り、その意図はさっぱり分からないが、 やたらに確信に満ちた身ごなしで、作業をしている中央にどしん!と横になるのだ。 当然、使用中の道具や材料はヘディ猫の体の下敷きになり、作業は否応なく中断される。 熊谷守一美術館には「ネコにくらべてイヌは/人間の言うことに気をつかうので/それほ ど好きではありません」というモリの言葉を記したパネルがあったが、こんなときは、如 何な猫たわけの私でも、「猫もたまには人間の言うことに気をつかってくれ」と思わずに はおられない。 そうして、「もー、ヤメテクレヨ~」などと言いながら、へディ猫の腹の毛並みの下を まさぐり、下敷きになった材料を回収する。しかしいつもはその材料が、紙や布、糸など だから大事には至らないが、もしガリ版のようにたっぷりとインクを使う作業だったら! …その後のことは考えたくない。 だからやっぱり、丹念に刷られたあべさんの作品を見て、楽しんでいるのがいいのだと 思う。 今回も、心がすがすがしくなる山のガリ版画が16点。また、「ガリ版でいったいどうや って?」という作品作りの謎の答えも、説明パネルで明かされている。 展示作品に猫はいないが、ポストカードに1匹だけ、金魚を狙っている白猫がいた。 モリの猫、ガリの猫。奇しくもどちらも白猫であった。 ======================================== ●最近、ただでさえ足りないところから出し続けて枯渇気味な当方。他者の創作を拝見し、 何やら補充された感じがしました。熊谷守一美術館、佇まいも気持ちのいいところでした。 ●豊島区立 熊谷守一美術館 http://kumagai-morikazu.jp/ 東京都豊島区千早2-27-6 Tel.03-3597-3779 午前10時30分~午後5時30分(入館は閉館の30分前まで)月曜日休館 ※金曜日は午後8時まで(ただしギャラリーは午後5時30分まで) 観覧料:一般500円 ●「~鉄筆で山を描く~ あべみつこ展」 熊谷守一美術館 3階ギャラリーにて 2009年10月20日(火)~25日(日) (最終日は16:00まで) ●本文中で書いたあべみつこさんの白猫のポストカードの画像を、ブログ猫おきにて掲載 しています。暖かな色をうぞご覧くださいませ。 http://nekono-okite.cocolog-nifty.com/blog/2009/10/post-6455.html ●この夏の猫毛劇の際、オープニングに鳴らしていた(すみません、鳴らし忘れた回もあ ります…)「猫の鳴き声の擬音笛」を作って下さった知人のM本さんがNHKラジオに登場な さるので、お知らせです。猫毛笛の音も、ご披露されるでしょうか? NHKラジオ第1放送 2009年10月23日(金) 「ふるさとラジオ内 週末リポートコーナー」で、1時18分から8分ほどの放送だそうです ので、お聞きになれる方はぜひ♪ ●さて、次回はさらに猫的なアートの話題の予定。どうぞお楽しみに。アンケート結果の ご報告はたぶんその次で! ======================================== 「猫のおきて」(Vol.194)2009年10月22日発行(ほぼ2の日発行) 【著者・発行者】蔦谷耕書堂 あるいは 蔦谷K 【E-MAIL】 bon-neko@mbi.nifty.com 【ブログ「猫のおきて」】http://nekono-okite.cocolog-nifty.com/ 【ブログ「猫毛フェルトの部屋】http://nekoke.com 【@nifty「子猫の町蔵日記」】http://golog.nifty.com/feature/koneko/index.htm 【サイト「盆猫」】 http://homepage2.nifty.com/bon-neko/ 【配信システム】購読申込、購読解除、バックナンバー閲覧は下記にて。 melma! http://www.melma.com/mag/84/m00052884/ ( melma!の購読解除 http://www.melma.com/taikai/) カプライト http://cgi.kapu.biglobe.ne.jp/m/5925.html まぐまぐ http://www.mag2.com/m/0000096408.htm (まぐまぐの購読解除) http://www.mag2.com/m/0000096408.htm 【解除ならびに配信停止について】ご利用の配信システムの手順に従い、ご自分でお手続 き願います。(上記に「購読解除」記載のないシステムは記載してあるURLで解除手続 きできます)※このメールへの返信や発行者宛メールで解除依頼をなさっても、配信停止 はシステム上できませんのでご注意下さい。 ======================================== ■誤字、脱字、文字化け、不具合、御不明点がありましたらご連絡いただければ幸いです。 ■いただいたコメントなどは、記入者にお断りなく、ブログ上及び他の媒体でご紹介する 場合があります。予めご了承ください。 ■「猫のおきて」に掲載されている内容は、ご家族、ご友人などまわりの皆さんにどんど んお広め下さい。その場合「『猫のおきて』で読んだんだけどさ」と言っていただけると 嬉しいです。転載などなさる場合もお知らせいただけると嬉しいです。 <記事内容の全ての著作権は著者・蔦谷耕書堂に帰属します>



