2009/05/05
猫のおきてVol.191「アートの中の猫の“ごろごろ”」
猫は人の足を踏みながら通る。猫が膝に来るとトイレに行きたくなる。などなど、どう いうわけでだか猫たちが決まってする行動の数々。このメールマガジンでは、そんな愛ら しくも不可解な行動、習性を「猫のおきて」と呼び、それにまつわるあれやこれやについ て大まぢめかつ勝手気ままに考察してまいります。筆者の飼い猫、黒猫の「ち」や、通い 猫の「ヘディ猫」、そして新たに登場した子猫「町蔵」の日常を、覗いていただけます。 さて、今回はアートなご報告。しかも、猫の“ごろごろ”がモチーフ…? ======================================== 猫のおきて Vol.191 番外 アートの中の猫の“ごろごろ” ======================================== 猫は、ごろごろ言う。 機嫌がいいとき、リラックスしているとき、のどを鳴らしてこの音を出す。 私は昨日、わざわざこの音を聞くためだけに水戸に行って来た。 「猫の“ごろごろ”が聞きたいのなら、お宅には、よくごろごろ言う、ご機嫌なヘディ猫 (通い)が居るじゃないですか」とおっしゃるのはその通りなのだが、私が聞きに行った “ごろごろ”はちょっと違う。それは、アートの中の“ごろごろ”なのだ。 現在、水戸芸術館で、ツェ・スーメイという現代美術アーティストの展覧会が行われて いる。私は現代美術に特に関心を持っているわけではないが、ここで展示されている中に、 猫が喉をごろごろ鳴らす音を使っている作品があると知り、俄然興味が湧いたのだ。 「美術」とは言え、スタティック(静的)なビジュアルだけでなく、映像や音声をも表現 手法として用いるのは、現代美術ではおなじみのスタイルだ。特に今回は、作家自身がチ ェロ奏者でもあるということで、音楽や音をテーマとした作品も多い。 そんなわけで、猫の“ごろごろ”も、音のモチーフとして使われたのであろう。 初夏の水戸芸術館は、新緑に彩られ、実にすがすがしかった。しかも連休中なのに、意 外なほどすいている。混んでいるのが苦手な私には、実にありがたいことだった。 お目当ての作品の前に、いくつもの作品を見た。それぞれに面白いのだが、共通して言 えるのは、自分にとって馴染みのない宗教の祭壇を見ているような感じ、ということだ。 作品パンフレットが、個々の作品それぞれで作家が表現した意味を親切に解説してくれ て、それを読めば「なるほど」と思うのだが、そういうところも、「この供え物には、この ような意味があって」と説明されている感じに似ている。 そんなことを感じつつ歩いているうちに、いよいよ、その作品が現れた。 タイトルは「不眠症の治療」。壁に、ほぼ正方形の大ぶりの白い額がかかっている。その 数は5つ。どれにも違う猫の写真が入っている。写真は、“猫らしさ”の大きな要素である 三角の耳が入らないほどのアップで、猫の顔立ち、表情がよくわかる。 こんなにアップで、しかも大きく引き伸ばした猫顔写真は、なかなか見ない。半眼なも のあり、きりっとこちらに視線を送っているものあり。そして、さすがというか当然とい うか、5匹の猫たちは全員が、瞳孔を小さく絞った目つきのリラックス顔なのである。 額の正面には、木製の立方体の椅子が置かれ、椅子からはコードが伸びていて、その先 にあるのはヘッドフォン。ヘッドフォンをつけると、「ごーろごーろ」という猫が喉を鳴ら す音が聞こえてくる。椅子の座面の右前端近くに小さなモニターがはめ込まれ、そこには、 5つの額のうちの1つの猫の顔と名前が写っている。モニターの隣の銀のボタンを押すと、 順次、他の猫の顔と名前に切り替わる、という仕組みだ。 へえええ〜、と私は嬉しくなり、ボタンを押して5匹全ての猫の「ごろごろ」を聞いた。 モニタによれば、猫の名前は、額の向かって左から順に「Anapaula」、「Kueder」、「Minimo」 「Lucien」、「Finnchen」であったが、それぞれの猫のごろごろは、こんな感じである。 ●Anapaula(三毛? サビ?) 「ボロー、ブロー」という、もっと早ければバイクの排気音のようにも聞こえる音。とき どき、「ぴちゃぴちゃ」、「ぐるー、るるー」が混じる。Finnchenより音が大きい。 ●Kueder(白三毛?) 「ごーご、ごーご」と規則的で早い。 ●Minimo(白地に黒被り。タキシード猫?) 「ボー、ビー、ボー、ビー」とゆっくり規則的なリズムで、音量も一定。最初は、短い録 音で、エンドレス再生しているのかと思った。 ●Lucien(白キジ 半眼) 早くなったり遅くなったり、鼻をすするような音が紛れ込んだり、Minimoとは対照的。 ●Finnchen(白キジ) 「ドーローゴーロー」と、ゆっくり聞こえる低く規則的な音。 思えば、こんなに念入りに真剣に、猫の“ごろごろ”を聞いたのは初めてである。通常、 猫のごろごろを聞く場合、こちらものんびりとリラックスして猫の腹の毛並みに顔をうず めたりしていることが多いので、特に意識的に聞いているわけではなく、心地よく耳に入 ってくるのを感じている、という程度だからだ。 しかも、5匹の猫の“ごろごろ”を一度に聞き比べたのも初めてで、これほど違うもの か、とびっくりした。へええー面白いなあ、と私は興奮した。 というわけで、この作品は私にとってエキサイティングなほど面白かったわけだが、そ ういえばこれはどういう意図のもとに作られたのだろうか、と、解説パンフレットを読ん でみると、次のように書かれていた。 「この作品でツェ・スーメイは、伝統的な肖像画の方法で撮影された5匹の猫のクローズ アップを示している。これらのポートレイトは猫に人間的な表情を与え、ありのままの個 性を強調している。それぞれの猫がゴロゴロと喉を鳴らす音が録音されており、それぞれ の猫や、彼らの鳴き声の違いがインスタレーションの形式で示されている。「不眠症の治療」 ではツェ・スーメイはユニークな方法で、不眠症を患っている人に、彼らに合った猫の音 を見つけることで心穏やかになり、眠りへと至ることができるのではないかと提案してい る」 なるほど。 この作品を鑑賞した直後の私は、興奮してテンションが上がってしまったので、それと は全く逆のベクトルである。つくづく、自分が現代美術に向かない、と思い知らされた。 しかし、通常、猫のゴロゴロは確かに人をリラックスさせる効果がありそうなので、こ の発想には共感できる。……と、私は次のようなシーンを夢想した。 憂鬱そうな一人の男が、白い外観の店に入っていく。中のカウンターにいる白衣の人が 「どうしました」と声をかけると、「近頃眠れなくて」と言う男。白衣の人は男にヘッドフ ォンをかけさせ、「これはいかがですか?」、「これはちょっと違う」、「ではこちらは?」「も っとゆっくりで」、「これなんかどうでしょう」「ああ、これはいい感じだ…、効きそうだ…」 「わかりました、ではこちらで」などというやりとりの後、白衣の人が白い小さな薬袋を 手渡す。そこには、猫の“ごろごろ”が録音されたメディア(MDかCDか、もっと別のデ ータか)が入っている。 そう、ここは、猫の“ごろごろ”で不眠症を治すための、いわば薬局のような店。さっ き白衣の人は、男に様々な“ごろごろ”を聞かせ、適した「処方」は何か、試していたの である。 そして白衣の人は男に言う。「3日ほど試して効かないようでしたら、またいらしてくだ さい。もっと“強いの”を試してみましょう」 「“強いの”って一体どんな…?」と自分の夢想にツッコミを入れつつも、そんな、睡眠 薬でなく、猫の“ごろごろ”が不眠症に処方される世界、いいかもしれない、と思う。 現代美術と医学との融合。現代美術アーティストの人たちに取り組んでもらえたら、嬉 しいテーマである。 *−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−* ちなみに、5匹のうち、Finnchenの、流し眼でこっちを見ている感じが、ヘディ猫に似 ていました。“ごろごろ”も、一番近い感じがしました。 ●ツェ・スーメイ 水戸芸術館 現代美術ギャラリーにて、5月10日(日)まで開催中。 http://www.arttowermito.or.jp/art/modules/tinyd0/index.php?id=6 ●今回のアンケートは、猫の“ごろごろ”について。皆さんは、どんな感じですか? 問い:猫の“ごろごろ”を聞くと、眠気を催す。 ◆その通り ┗ http://clickenquete.com/a/a.php?M0000072Q0029241A1b1f1 ◆そうでもない ┗ http://clickenquete.com/a/a.php?M0000072Q0029241A27e39 ◆どちらともいえない ┗ http://clickenquete.com/a/a.php?M0000072Q0029241A342b8 ○結果を見る ┗ http://clickenquete.com/a/r.php?Q0029241C6266 ○コメントボード ┗ http://clickenquete.com/a/cb.php?Q0029241P00C78ef 締切:2009年05月12日23時00分 協力:クリックアンケート http://clickenquete.com/ ※アンケートへのご回答、ご記入いただいたコメントにつきましては、「猫のおきて」や 他の媒体に掲載することがございます。予めご承知おきください) ※アンケートのシステム自体についてのご質問は、 クリックアンケート http://clickenquete.com/に直接お願い致します。 ●その他ご感想、リクエストなど、メールや「ブログ猫おき」のコメント欄へぜひお寄せ 下さいませ。 ======================================== 「猫のおきて」(Vol.191)2009年5月5日発行(本来は2の日発行) 【著者・発行者】馨歩 あらため 蔦谷耕書堂 (猫おきブログを今、この名で運営してますので。あと「蔦谷K」とか。 でも、ケイホでも何でも、皆様の呼びかけやすい名前で、何でも結構です) 【E-MAIL】 bon-neko@mbi.nifty.com 【ブログ「猫のおきて」】http://nekono-okite.cocolog-nifty.com/ 【ブログ「猫毛フェルトの部屋】http://nekoke.com 【@nifty「子猫の町蔵日記」】http://golog.nifty.com/feature/koneko/index.htm 【サイト「盆猫」】 http://homepage2.nifty.com/bon-neko/ 【配信システム】購読申込、購読解除、バックナンバー閲覧は下記にて。 melma! http://www.melma.com/mag/84/m00052884/ ( melma!の購読解除 http://www.melma.com/taikai/) カプライト http://cgi.kapu.biglobe.ne.jp/m/5925.html まぐまぐ http://www.mag2.com/m/0000096408.htm (まぐまぐの購読解除) http://www.mag2.com/m/0000096408.htm 【解除ならびに配信停止について】ご利用の配信システムの手順に従い、ご自分でお手続 き願います。(上記に「購読解除」記載のないシステムは記載してあるURLで解除手続 きできます)※このメールへの返信や発行者宛メールで解除依頼をなさっても、配信停止 はシステム上できませんのでご注意下さい。 ======================================== ■誤字、脱字、文字化け、不具合、御不明点がありましたらご連絡いただければ幸いです。 ■いただいたコメントなどは、記入者にお断りなく、ブログ上及び他の媒体でご紹介する 場合があります。予めご了承ください。 ■「猫のおきて」に掲載されている内容は、ご家族、ご友人などまわりの皆さんにどんど んお広め下さい。その場合「『猫のおきて』で読んだんだけどさ」と言っていただけると 嬉しいです。転載などなさる場合もお知らせいただけると嬉しいです。 <記事内容の全ての著作権は著者・蔦谷耕書堂に帰属します>



