2008/08/02
猫のおきてVol.183番外編「ヘディ猫の水ぼうそう見舞い・後篇」
猫は人の足を踏みながら通る。猫が膝に来るとトイレに行きたくなる。などなど、どう いうわけでだか猫たちが決まってする行動の数々。このメールマガジンでは、そんな愛ら しくも不可解な行動、習性を「猫のおきて」と呼び、それにまつわるあれやこれやについ て大まぢめかつ勝手気ままに考察してまいります。筆者の飼い猫、黒猫の「ち」や、通い 猫の「ヘディ猫」の日常を、覗いていただけます。 さて、前篇に続き、水ぼうそう話題の後篇です。筆者は発熱後、水ぼうそうだというこ とが判明。そしてヘディ猫のとった意外な行動とは? どうぞお楽しみくださいませ。 ======================================== 猫のおきて 183号 番外編 ヘディ猫の水ぼうそう見舞い・後篇 ======================================== 7月半ばの金曜から発熱し、週末を寝込んで過ごした。風邪だと思っていたのだが、ど うにも熱が下がらず、日曜の夜のこと。 私は自分の顎のあたりに触れて、できものがあるのに気づき、「ああ、体内バランス崩れ て吹き出物まで……」と思いかけたのだったが、「……いや違う、これはもしや!」と思っ て鏡を見て、ようやく状況に気づいたのだった。土曜日も日曜日も一日中寝込んでいて一 遍も鏡を見なかったのでわからなかったが、顎どころか顔のそこここにぽつぽつと発疹が できているではないか! これはもう風邪ではあるまいと観念し、月曜日に行った医者で 「これはもう見ればわかる、わかりやすい水ぼうそうですね」と診断されたのである。 水ぼうそうは、未だに根本的な治療薬がない病気で対症療法しかない風邪やはしかと違 って、去年、日本でも抗ウイルス薬が認可されているので、治療は簡単だ。その抗ウイル ス薬と、発疹のために、副作用といえば眠気くらいという抗ヒスタミン系のかゆみ止めの 飲み薬、それから塗り薬を処方された。 「その薬ですが、すごい匂いがします」と先生。「くさい」ではなく「すごい匂い」という のに疑問を持ち、私は「すごい匂いですか?」と問い返した。すると「絵の具のような匂 いです」と先生。「発疹は水ぶくれになり、その後、かさぶたになって治りますが、無理に はがさないでください。また、掻いたりすると別の菌で二次感染することがありますから、 患部にその薬をつけて保護して下さい」とおっしゃるので、自分の腕の発疹を眺めつつ、 「これら一つずつにですか?」と聞くと「一つずつにです」とのご指示。そして、「乾くま ではべとべとするので、薬がついても洗いやすいものを着て下さい」とのことである。 私は性格的には素直ではないが、患者としては素直である。家に戻り、昼飯を食べて先 生に言われたままに薬を飲み、発疹に薬を塗った。塗り薬はフェノール亜鉛華リニメント、 別名、カルボール・チンク・リニメント。「カチリ」という何やら古臭い通称がついている 通り、古くから使われている薬である。インターネットで調べたところ、消毒、鎮痒作用 があるフェノールと、消炎作用がある酸化亜鉛を含み、リニメントとは泥状の塗り薬のこ とで、日本語では「糊膏」。乾くと被膜になって患部を保護する。 容器を開けると、まさしく絵の具の匂い。しかしそれは匂いをごまかすような香料が入 っていないということで、私の感覚からすると、薬としてはタチがいい。まっ白でとろり とした見た目もまさにポスターカラー。それをぽちぽちと塗りつけていると、自らの体に 模様を描いているよう。それまで単色の猫だったのが、斑の猫になったような気分である。 そうして、「食後に」と指示された薬を飲むため、三食きちんきちんと食べて服薬しては 眠り、寝汗を落として発疹部位を清潔に保つため、朝晩に湯を浴びるという規則正しい生 活習慣で過ごす。湯を浴びると、患部に塗ったカチリが溶け出し、図工の時間の後に筆や 水入れを洗っているような匂いである。 そしてこのカチリが、なかなか厄介だったのだ。 指先でカチリを取り、あちこちに塗るのだが、塗り終わった後、手を洗っても何だかま だカチリくさい。麦茶も自分で作ったのを冷やして飲んでいたが、カチリくさい気がする。 そんなとき、ヘディ猫が「にゃああん〜」とご機嫌で訪れた。 私は、「ああはいはい」と言いながら、皿にフードを盛ってやった。ヘディ猫はすぐに寄 って来て皿に鼻先を寄せたが、はっとした感じで動きを止め、一瞬ののち、くるりと向き を変え、風を通すために開けたままにしてあるドアから、すっと出て行ってしまった。 たぶん、猫フードや皿に、私の指先からカチリの匂いが移ってしまっていて、それを嫌 がったのだろう。こういう匂いは、猫はきっと好かないだろうな、無理もないと思いつつ、 自分の食事に戻り、サラダを食べたら、やっぱりカチリくさいし味が変だ。うーん、どう したんだろう? と、そこに至って私はようやく、自分の手首の発疹に塗ったカチリが、 胡瓜やトマトを水洗いする際に溶け出し、それらについてしまっていたことに気づいたの だった! げえええ、道理でカチリ風味なわけだよ! ヘディ猫のフードだって、この手 で出してやったんだから、カチリがついていたに違いない。 そして、念入りに手からカチリを洗い落し、カチリ汚染されたサラダや麦茶を廃棄し、 汚染のおそれのないレトルト食品を食べてから、服薬して眠った。 その翌日、事件は起こった。 朝食後、机に向かってメールチェックをしていたら、カチリの匂いを避けたのか、夜じ ゅう訪れなかったヘディ猫の声が、「にゃあ〜」と聞こえてきた。私はパソコンから目を離 さずに「はいはい」と答える。また「にゃあ〜」と聞こえ、声が近付いてくる。風を通す ために開け放してあるドアから入ってきたのだろう。また「にゃあ〜」と鳴くが、いつも より鳴き方がせわしない。「どうした、忙しそうだな」と言いつつ、パソコンの画面から目 を離しヘディ猫のほうを見て、私は度肝を抜かれた。 彼女はその口に、鼠をくわえているではないか! 猫って口に鼠をくわえたまま鳴けるものなのか? それにしても、鼠が生きていたら、 それが一番困る! などの思いが頭を駆け巡り、私は咄嗟にテーブルに飛び乗るという意 味不明な行動をとってしまった。そのとき、ヘディ猫の口元で鼠が「チュウ」と鳴いた! おおおお生きてるよー!! お願い、頼むからそれを口から放さないで! とりあえず、ヘ ディ猫の体ごと抱えて外に出さねばならないか、などと思っていたのだが、私のただなら ぬ心理状態を察したのか、ヘディ猫は鼠をくわえたまま、自らまた外に出て行った。 私は、おおおお良かった〜と胸をなでおろしたものの、ひとりテーブルの上に呆然とた たずみながら、それにしても今のはどういうことだったのだろう、と思った。 ヘディ猫の能力からすれば、鼠を捕るなどというのはたやすいことだろう。しかし彼女 は今まで、捕った鼠を持ってくるなどということは、一度もしたことがない。それをなぜ 今日に限っては持って来たのか。 猫の心などという永遠の謎の中身はわからないから、ここからは私の、人間側の感覚で 推理するのだが、どうもヘディ猫は、「カチリ臭」に、「やばい」と感じたのではないか。 猫フードを出した私の手から「カチリ臭」を嗅ぎ取り、彼女は、「何?! このにおい? こ れ、食べ物の匂いじゃないし、ましてや生き物の匂いじゃない。どしたの? この人間、 もう生き物じゃなくなるの? そういえばこのごろ、あんまり動かない」と思ったのでは ないか。そして、「どうしよう、何か精のつくもの食べさせたほうがいい? 生きのいい鼠 とか」という判断のもと、鼠を運んできたのではないだろうか。 彼女がそういう「お見舞い」のようなつもりで鼠を持ってきてくれたのなら、ありがた く頂戴せずに申し訳なかったのだが、あのとき、私の活動性や心理的なエネルギーが一気 に上がったのはヘディ猫も感じたろう。だから、「あ、鼠いらないのね。食べなくても元気 出て、ダイジョウブなのね」と、思ったかどうかはわからないが、何か納得して、鼠を持 ち去ったのではないか。 それ以来、ヘディ猫が鼠を持ってくることはない。いつも通り手ぶら(?)で、軽快な 感じで「にゃあ〜ん」と訪れている。私も熱が下がり、自らのかさぶたをはがしたくなる 衝動を、ヘディ猫の耳掃除などをして紛らしつつ、「ねえ、あのとき、何で鼠持ってきたわ け?」などときいてみるのだが、もちろんヘディ猫は何も答えないのであった。 *−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−* ●さてこれが、ヘディ猫の水ぼうそう見舞いの正体でした。いやあ、このショックで身体 活性が上がったような、却って消耗したような。いずれにせよ今やすっかり快癒し、かさ ぶたの大半もなくなりまして、普通に世間に出られるようになりました。 ご心配いただいた皆様、ありがとうございました! ●そういえば、2年前の夏、子猫の町蔵を世話しているときも、どうにも体がしんどくな ったことがありました。それは夏風邪でしたので、一日二日でよくなりましたが、あのと きも、最初は心理的な不調かと思ったのでした。学習がないなー、自分。 その時の模様をnifty語ろ具の「子猫の町蔵日記」に書いております。8月4日に以下 のサイトにアップされますので、よろしければご覧下さいませ。 「子猫の町蔵日記」 http://golog.nifty.com/feature/koneko/ ●残りの夏は、健康にいきたいものです。皆様も、お健やかに夏をお過ごしくださいませ。 御感想、メッセージなど、メールやブログ「猫おき」のコメントで、お寄せ下さいませ。 ======================================== 「猫のおきて」(183号)2008年8月2日発行(ほぼ2の日発行) 【著者・発行者】 馨歩 【E-MAIL】 bon-neko@mbi.nifty.com 【サイト「盆猫」】 http://homepage2.nifty.com/bon-neko/ 【ブログ「猫のおきて」】http://plaza.rakuten.co.jp/nekonookite/ 【配信システム】購読申込、購読解除、バックナンバー閲覧は下記にて。 melma! http://www.melma.com/mag/84/m00052884/ ( melma!の購読解除 http://www.melma.com/taikai/) カプライト http://cgi.kapu.biglobe.ne.jp/m/5925.html まぐまぐ http://www.mag2.com/m/0000096408.htm (まぐまぐの購読解除) http://www.mag2.com/m/0000096408.htm 【解除ならびに配信停止について】ご利用の配信システムの手順に従い、ご自分でお手続 き願います。(上記に「購読解除」記載のないシステムは記載してあるURLで解除手続 きできます)※このメールへの返信や発行者宛メールで解除依頼をなさっても、配信停止 はシステム上できませんのでご注意下さい。また、そのメールへの返信も致しませんので ご了承下さい。 ======================================== ■誤字、脱字、文字化け、不具合、御不明点がありましたらご連絡いただければ幸いです。 ■「猫のおきて」に掲載されている内容は、ご家族、ご友人などまわりの皆さんにどんど んお広め下さい。その場合「『猫のおきて』で読んだんだけどさ」と言っていただけると 嬉しいです。転載などなさる場合もお知らせいただけると嬉しいです。 ―――――――記事内容の全ての著作権は著者・馨歩に帰属します―――――



