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2008/02/18

ぷろこんエッセイ 第148号 自転車に宿る出発点にもどる力

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現役コンサルタントによるワイルド・コンサルティング・エッセイ
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第148号 自転車に宿る出発点にもどる力
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 走っている最中は頼れるものは自分の力だけになる。自転車は出発した
 地点にかならず戻る。最初に下りで楽をすれば、後で同じ分だけ上る。
 逆も同じ。楽あれば苦あり、苦あれば楽ありだ。
 2008年2月7日 日本経済新聞 『こころの玉手箱』 総務相 増田寛也氏

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 改革派でならした岩手県知事時代、増田寛也さんは2001年、花巻で開催
された全国サイクリング大会で「スターターとして1キロ位はぜひ参加者と
一緒に走ってください」と頼まれた。それまでママチャリしか知らなかったと
述懐されているが、ロードレーサーで走り出すと何とも気持ちよく、止まらなく
なってしまい、次の予定まで一気に20km走りきった。

 それ以来自転車にハマり、ロードレーサーに次いでマウンテンバイク、さら
にはクロスバイク{(マウンテンバイク+ロードレーサー)÷2の自転車}まで
買い、合計6台所有という。さすがは改革派!選挙の時だけ自転車に乗って
庶民派を装う、どこぞの選挙候補者とは違います。

 「自転車は出発地点にかならず戻る・・・苦あれば楽あり」、日経への大臣
の寄稿、的を得ている。自転車は“苦”でもあり“楽”でもある。行ったら帰って
来なければならない。歩きでも自動車でも、行きあれば帰りがあるのはあたり
まえでしょ?と乗らない人は言うかもしれない。だがそれは違う。自分の身体
が自然にさらされ、自然から何を受けとめるか。それは苦であり楽である。

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 まだまだ筋力の無い、あるサイクリストの例です。

 サイクリングコースのある川沿いの土手に上がる。上流と下流に延びる
サイクリングロードがある。さて・・・右に行くべきか左に行くべきか、ゴルファー
が芝をつまんで投げて風向きを見るように、頬にあたる風向きを感じる。今日
は風は右からか左からか。ええいままよ。どっちにせよここに戻ってくるの
だから同じさ、と走り出す。飛ぶようにスピードが上がるときは帰りがキツい。

 なぜオレはこんな苦行をするのだろう?オレはかなりマゾだなとヘイコラ
いいつつペダルを押す。ヘイコラさえ言えないほどの逆風にあおられるときも
ある。とにかく踏むしかない。踏まないと元の場所に帰れないのはもちろん、
ちっとも前にも進まないのだから。それを何キロも踏む。苦行が終わって
出発点にもどってきたとき、やったぞ!と心は躍る。

 ところが足を地につけたとき、引き攣っておっとっと・・・倒れかけた。ああ!
なんてわたしはブザマなのか!でもブザマであっても逆風でも足を一度も
付けず、出発点までヒイコラ帰ってくることは達成感がある。

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 もどりがキツいから、往きだけ自転車で走って帰りは電車や自動車で帰ると
いうお利口なサイクリストもいる。中距離を走るミニ旅行にはいい。

 「よぉし、今日は東海道の戸塚宿から箱根宿までいくぞ」と自転車でヘイコラ
箱根の山を上り下りして、温泉ですっきりして、帰りは東海道線で一杯やりな
がらトコトコ帰ってくる。いいですね。自転車を電車に乗せるのはJRがなかなか
ヨシと言わないので、「サイクリングヤマト便」で返す(営業所持ち込み、営業所
止め配送のサービスがある)。

 まだ未来だが、26インチくらいの自転車でホイールを“折りたためる”発明を
した工業デザイナーもいる。リムに切れ目が入っていて、丸いタイヤがクシュン
と、レモンの輪切りをタテに潰すように折りたためるそうである。現在開発中で、
ゴルフバッグ程度の大きさにして、電車はもちろん飛行機の貨物室でも運搬
可能にするのが目標だという。これが実現すれば自転車旅行の革命になる。

 往きは自転車で苦行、帰りは自動車や電車でヨイヨイ。なにせ箱根の宿へ
自動車で先回りしているわ♪なんて優しい相方、そうそういませんから、宅急
便のさらなるサービス開発もありし、折りたたみ自転車革命も実現するだろう。
だがそれまで当分のあいだは、自転車は走った分だけ自分の力でもどると
いう宿命には変わりがない。

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 ところが人間は、行けば必ずもどってくるとは限らない。

 旅ならば家に帰る。だが月日は一代の過客にして・・・と旅が人生になって
しまう人もいる。若いころ海外に出て帰れなくなる人は多い。海外でなくても
故郷から上京して、さっぱりもどらない人もいる。都会の仮面をスッポリかむ
って、髪も目元も口元も指も服も変わり果て、故郷に帰っても誰だかわから
ないこともある。

 チャリの選挙運動家は票田を何十kmも走っても、選挙期間中は選挙事務所
にもどる。当選して国政に出ても、選挙のたびに票田にもどってくる。だが前の
候補者の顔ではなく、偉く変わり果てたセンセイになっているかもしれない。

 嫁ぐ、というのは結婚したら実家にはもどらない比喩だったが、最近では出
もどる人はかなり増えた。アムールが破れれば人はもどってこない。だが
アムールが破れても、身体だけそこにいて、心がもどってこないよりはマシで
ある。だからなのか、そもそも実家から出ない人も増えた。

 情熱を失って金曜日を待ち望む毎日に行ってしまうと、もうもどれないかも
しれない。人はあの世へいったん往ったら、たいていはもどらない。もどられても
いろいろと困る(笑)。

 往きそうになって自転車で生還した人もいる。

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 08年2月、武道館で1万3200人を集めた“完全復活ライブ”をやり遂げたロックン
ローラーの忌野清志郎。06年7月に喉頭がんを告白し治療と長期療養へ。昨秋
からコンサートが張れる身体づくりのために、自宅からリハーサル会場を、愛車
(自転車)で毎日往復した。そして武道館で3時間24曲を歌い、もどってきた。

 彼の自転車愛好ぶりは有名である。愛車に「オレンジ」や「ファイアーガール」
と名前を付けてツール・ド・鹿児島など走りきってしまう。がんという身体への
逆風が吹いたとき、彼には頼れるモノがあった。もどるのはキツいけれど、
自転車には人を出発点にもどらせる力が宿っている。

 2008年2月18日発行

【ブログ 「マーケティング・ブレイン」】
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【Business Media 誠 “うふふ”マーケティング】毎週木曜掲載
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