2009/11/14
文芸同人「主婦と創作」2009年11月14日発行 通巻 たぶん344号
┏テ┃キ┃ス┃ト┃系┃創┃作┃メ┃ー┃ル┃マ┃ガ┃ジ┃ン┃━━━━☆ ┃━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛ ┃ ┃ 文芸同人 主婦と創作 ┃ ┃ 2009年11月14日発行 通巻 たぶん344号 ┃ ★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛ ∵¨∵¨∵¨∵¨∵¨∵¨∵¨∵¨∵¨∵¨∵¨∵¨∵¨∵¨∵¨∵¨∵¨∵ 初めましてのかたは、初めまして。 そうでない方は、お待たせいたしました。 【「自称・文芸同人誌」主婦と創作】発行人の銀凰です。 メルマガをお読みになった感想などはぜひ↓こちらからお送り下さい。 http://ohimesamaclub.chat-jp.com/petit/postmail/index.cgi ↑こちらはWeb拍手(patipati)というシステムですので、 リンク先にアクセスしただけで「応援しているよ」というメッセージになります。 また、リンク先にはコメント投稿用のフォームもありますので、 何か一言添えてくださると、執筆者一同創作の励みになります。 よろしくお願いいたします。 なお、リンク先にはちょっとしたグラフィックが表示されることがあります。 このグラフィックはダウンロードフリーとなっており、デスクトップや webサイトやブログなどに飾っていただけます。 (グラフィックは不定期に入れ替わります) それでは本日の会報をお楽しみ下さい。 ∴..∴..∴..∴..∴..∴..∴..∴..∴..∴..∴...∴..∴..∴..∴∴..∴..∴ @━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━@ ◇本日の目次… ◆連載……風天マン 実録国際線乗務員の飛行(非行)日誌 43 ◆連載……高野聖 Neo horror Fantasy 黄龍(ウォン・ロン) 23 ◆連載……湖東わたる 『きっと帰るから』 3 ◆連載……神光寺かをり フレキ=ゲー編によるガップ民話集 3-34 @━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━@ ★文芸同人「主婦と創作」ではあなたの作品のご投稿をお待ちしています。 投稿は専用メールフォームで(http://mm.9no1.gozaru.jp/mmagazine.html) 作品投稿に際しては投稿規約(http://mm.9no1.gozaru.jp/03.html)必読です。 ○相互リンクメルマガ・サイト募集中↓お問い合わせはこちらのフォームで↓ http://mm.9no1.gozaru.jp/mmagazine.html ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◇連載 実録国際線乗務員の飛行(非行)日誌 作:風天マン ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ☆☆ 実録! 国際線チーフパーサーの飛行(非行?)記録 ☆☆ 「エッ、ウソ、ホント?」笑いと感動、痛快、恐怖の裏側を覗いてみる? 航空会社志望の学生、外国事情やスッチーに興味あるヒト、飛行機を利用 するヒトは必読! 国際線2万時間のハチャメチャ乗務員が仕掛けた、笑いと涙、恐怖と珍事 の打ち上げ花火。 ===================================================================== VOL 43. ハイジャックに遭遇( その2 ) ---------------------------------------------------------------------- 今回は、A子の担当していた挙動不審の男性客からハイジャックの告示が提示 されます。 これに対して、どういうふうに対応するのでしょうか? ---------------------------------------------------------------------- A子の報告に、私は「うん・・・何?」と、ワインのコルクを開けながら聞き 返しました。 この時、私は少し機嫌の悪いお客様でもいるのだろうという程度にしか思って いませんでした。 「ビジネス・クラスの最前方の窓際の席の方なんですが、どうも挙動がおかし いのです!」 「どうおかしいんだ?」 「はい、離陸の時にソフト・バッグを抱えていたので、私が上の荷物棚に収納 しましょうかと 声をかけたんですが、イヤ、いいと答えて、それからずっとそのバッグを抱 えているのです」 「余程、大事なものが入ってるんだろう・・・で、食事中もか?」 「いえ、食事中は隣の席が空いているので、そこに置いてます」 「だったら、問題ないと思うが、他に何か?」 「はい、視線に落ち着きがなくて、時々何かボソボソとひとりごとを言ったり するのです」 「わかった、食事サービスが終わったら、僕もそれとなく観察してみるから、 引き続き君もウォッチ(見張る)しておいてくれ」 「わかりました」 それから2時間ほどしてからのことだった。 ファースト・クラスの夕食サービスが終わり、私が入国書類(機体、乗務員、 旅客・貨物)を乗務員席に座って作成していた時に、先程のA子が緊張すると、 時折見せる青ざめた表情をして足早に私の前にやってきた。 「チーフ大変です!」周囲のお客様を気にしながら抑えた声だが、声自体が引 きつっていた。 「いいから、まァー座れ!・・・どうしたんだ?」 「これをチーフに渡せと言われて、さっきのお客です!」 と言いながら、A子は赤い表紙の日本国のパスポートを私に手渡した。 「ん・・・本人のパスポートなんだな・・・それで?」 「チーフ、ここを見て下さい!」 A子はパスポートのページをめくった。 そこに、赤いボールペンで丁寧な書体の文字があった。 --------------------------- 100万ドルを要求する。 要求に応じない場合は、 この飛行機を爆破する。 --------------------------- 非常事態に、経験則は通用しません! 仮に通用したとしても、ハイジャックの経験は幸いにして、これまでなかった のですから、訓練時のビデオを見ながら、教官の解説を聞くのと、こと現場に いるのとはウンデンの差です。 事件後の対応の良し悪しは、後からだと何とでも言えるのです。 当事者ではないのですから、都合のよい後講釈や無責任な評論でしかないのです。 私は、ユックリとこの文字をなぞって読み返した。傍で彼女も読み返していた。 A子を見た。彼女はすがるような眼差しで私を見つめていた。 私だって、誰かにすがりたい気持ちだったのです。ただ、すがる相手がいな かっただけです。 なぜなら、客室の総責任者は私なのですから・・・ 恐怖心なんてものを感じるより先に、「これは大変だ!何とかしなければ!」 という思いしかなかったのです。 神妙な2人の様子に気づいたのか、ファースト・クラス担当のB子が怪訝な顔 をしながら、横を通りかかった。 私は彼女に、「悪いが、コーヒーをブラックでいいから2つ頼む」と伝えた。 コーヒーをもらい、私はA子に「まー飲みながら、ここは落着いて善後策を考 えよう」と言った。 この時、彼女のカップを持つ手が小刻みに震えていた。 「で、君はこの件を誰かに言ったか?」 「いいえ、直ぐにチーフに伝えなければと思って・・・ハイジャックですね」 と小声で言った。 私には、この時点で「ハイジャック」という言葉に、まだ実感はなかった。 彼のパスポートの写真はあどけなさが残る少年だった。 ファースト・クラスとビジネス・クラスをへだてた壁と通路のカーテンの直ぐ 向こうに、その彼が居るのだ。 「ということは、機長にはまだ報告していないんだな?」 「はい、まだです」 「機長には、僕が伝える。もう少し彼のことを詳細に聞かせてくれ」 A子の話は、最初の報告とほぼ同じようなもので、バッグを枕で包み込んで、 膝に抱えるようにしているということと、周囲のお客さま(全員外国人)が彼 は少し変だと感じ始めているということぐらいだった。 233名のお客の命と、操縦室3名、客室15名の乗務員の命が危険にさらさ れることになる。 何としても、最悪の事態を回避することだけに集中した! 私は次の7点を彼女に指示した。 1)機長への報告は私がやる。 2)ビジネス・クラスの前方客室の9名のお客には、 彼が精神的に情緒不安定なので、奇声を発したり、変な挙動をする 可能性があるということを説明して、 私が彼と話しを始めてから9名人全員を手分けしてすみやかに、 後部客室に移動させる。 3)ビジネス・クラス担当の全乗務員と後方客室のパーサーには、 詳細を伝えておく。 ただし、まだ、お客さんにはこの件は一切言ってはいけない! 4)これから、私が機長に報告後、当人と話をする。 5)途中で、私が乗務員呼び出しボタンで呼ぶので、君が来ること。 その際に、僕が自分用に「紅茶」を頼んだら、本物のハイジャックだ。 また、砂糖を頼んだら、共犯者がいるということだ。 砂糖のステイックを2つと言ったら、2人以上の共犯者の可能性がある ということだ。 レモンを頼んだら、いつでも起爆可能な爆発物を持っているということだ。 6)本物のハイジャックの場合は、君は直ぐに操縦室に行って、 機長に直接伝える。 機長の指示を仰いで、その内容をパーサーに伝えて、 パーサーから全員に伝えて所定の「ハイジャック対応」を 直ぐに実施してくれ。 7)私が彼と話を始めたら、10分おきに客室を巡回するふうを装って、 我々の様子を機長とパーサーに報告してくれ。 なお、その際に私から君に「ご苦労さん」と声をかけたら、 リスクは高くない状況だというサインだ。 君は「何かお飲み物でもお持ちしましょうか?」と僕に声をかけてくれ。 A子は私の指示を復唱して確認した。 「パーサーを呼びましょうか?私よりパーサーのほうが・・・」 「いや、パーサーとは今回が初めての乗務だから、だが、君とは1年間一緒だ からお互いに阿吽(あうん)の呼吸ってのができる。 また、彼は君のことを信頼してるようだから、知らないパーサーを呼べば、 彼が警戒する可能性もある。 ここは是非とも君がやってくれ!」 「わかりました」 「彼には僕がもう直ぐ来ると伝えておいてくれ。まだ、本物と決まったわけで はないので、いつもの君らしく落着いてやってくれ!」 A子は私の目を見ながらシッカリとうなずいた。 彼女のコップを持つ手から、さっきの小刻みな震えは消えていた。 ====================================================================== A子の担当していた挙動不審の男性客からハイジャックの告示を提示されて、 いよいよ私は彼と対峙することになりました。 さて、一体どういうふうに対応するのでしょうか? ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ☆感想は「主婦と創作」気付で↓こちらからお寄せください。 http://mm.9no1.gozaru.jp/mmagazine.html Web拍手からも送信できます http://ohimesamaclub.chat-jp.com/petit/postmail/index.cgi ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ _________________________________ ■Neo horror Fantasy 黄龍(ウォンロン)連載 第23回 by 高野聖■ part2、~白虎(びゃっこ)西の守護獣~ _________________________________ 突然、木陰で悲鳴があがった。ジョギング中の主婦の叫び声だった。 「いゃー、何これ?何ーーーーー???!!!!」 場所は、薄扶林(ポフラム)の公園の遊歩道から、ちょっとはずれた脇道 の奥だった。 あたりは木々が枝を伸ばし、陽を遮っていて薄暗かった。 手入れが行き届いていないようだった。 若い女が雑草の上に、手足を投げ出して、倒れていた。 両目を見開いたままでいるので、一目で【死んでいる】とわかった。 葉の間から鋭く地面に切り込む朝の光の中で、スカートがめくれ上がり むき出しになった両足が、異様に白く浮き上がって見えた。 しかし警察が来て、主婦がふるえながら指で示した場所は、確かに草が押し つぶされていて、人が横たわっていた痕跡はあるけれど、若い女はどこにもいなかった。 公園にいたホームレス達は、こそこそ話し合った。 (あの女は、きのうの夜からあそこに倒れていたよ。たぶん、クスリのやりすぎで 死んだんだろ) (死体はどこへ行った?) (クスリの売人が始末したんじゃないか?) (いや俺は見た。悲鳴がしたら突然起きあがり、フラフラとどっかいっちまったよ) その前日、柏木護(かしわぎ・まもる)は、うっすらとカビくさいのが気に 入っている、陳(チェン)家の書庫にいた。 空調設備の整った書庫で、カビの匂いなどするはずもなかった。 柏木の「古書はカビくさい方が古書らしくていい」という、軽い思いこみだった。 携帯に、銀鈴(インリン)からのメールが届いていた。 「柏木さんに聞いてもらいたい話があります。明日の午後1時あいてますか?」 内容を見たとたん、柏木はその場でジャンプしながら「すぐ行きます」と 声に出したい気分で、石のように固まっていた。 うれしさではじけそうな気持ちと、うれしすぎてかえって不吉な気持ちとが ごっちゃになり、15分ほどしてから、「うん、いいよ」と一言、送信した。 さらに15分ぐらいして「じゃ、明日ね」と返事が言ってくると、柏木は痛い 思いをかかえて書庫を出た。 (実はつきあってる人がいるの) (カンボジアに帰るからもう会えないの) 考えたくもないシミュレーション が、あぶくのように涌いては消えた。 本当のところ、銀鈴がどんな話をしようとしているのか、想像できなかった。 柏木はベッドの上で、 黄龍からもらった新聞の切り抜き写真をながめながら、 銀鈴と会いたいような、会いたくないような気分でゴロゴロしていて、いつ の間にか寝てしまった。 翌日、柏木は、妙に寝不足だった。 待ち合わせの場所である、セントラルの星巴克(スターバックス)前で 道路の向こう側に、人混みにまぎれて一瞬だけ銀鈴を見たような気がしたが 背中をポンと叩かれて、はじめて自分が見ていたのは反対方向だったと気 が付いた。 銀鈴は後ろに立っていた。 「なんだか眠そうね。半分、夢の中にいるみたい」 「かもね」 スタバには入らなかった。街角の茶店で、冷たい鴛鴦茶(インヨンティー) を注文した。 コーヒーと、煮詰めた紅茶とをミックスさせた香港名物のドリンク。 甘ったるくて水っぽく、後味が苦い。 柏木は何口か飲んで銀鈴の方を見ると、お茶には手を付けず、遠くを ながめていた。 「.....................何か、.変わったことでもあった?」 「うん」 「もしかして、話したい内容って............」 「この間、パーティーに関すること。新聞にのって、私の写真もあったよね。 その写真を見て、新聞社に連絡してきた人がいるの。 【ぜひ一度お会いしたい】って。ちょっと不思議でしょう? 私も気になって、自分の方から相手に電話してみた。 出たのは、20代半ばぐらいの人かな..............話していて、一瞬息を止めたほど驚いた」 「どうして?」 「【私たち、もしかしたら、いとこ同士かもしれない】って言われた」 「いとこなんていたっけ?」 銀鈴は首をふった。 「父は私が3つになる前に家を出ていってしまった。他に身よりはいないのに、ね。 北京生まれの孤児だったのよ。今は再婚して新しい家族がいるかもしれないけど............ 連絡がないからわからない。きっと向こうも私の居場所を知らないと思う。 母の親戚も全員カンボジアで亡くなった。 伯母だけは別。母と国境までいっしょに来たのに、行方不明になって以来 未だに生きているのか死んでいるのか、わからないままよ」 「つまり、いとこがいるとしたら..........伯母さんが生きていたってことだよね? だいじょうぶ?何か、証拠はある?」 銀鈴は、親戚かもしれないという可能性だけで、飛んでいくほど淋しくは なかった。長い間母と2人きりで、孤独に馴れていた。 銀鈴(インリン)にとって、伯母とは具体的な誰かというより、亡くなった 母親の人生の象徴だった。 はじめからブレスレットの中にいる崇高な存在だった。 夜空の星や月に近いものだった。 月は遠くから眺めるだけで、手にとったりできないように、伯母がそばにい る姿をリアルに想像したことはなかった。 そんな銀鈴を突き動かしたのだから、電話の向こうの相手には、よほど の切り札があったんだろう。 「客観的に見て証拠になるかどうかわからないけど.......................... 全然関係のない人ではありえないの。だって伯母の名前を正確に知って いたから。その人、私と母しか知らないはずの名前を口にしたのよ」 (To be continued) _________________________________ よかったら、こちらのサイトも覗いてみてくださいね 「英国歴史散歩~薔薇の王国~」 http://www.kingdom-rose.net/ フランス革命 サン・ジュスト http://www.kingdom-rose.net/france.html __________________________________ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ☆感想は「主婦と創作」気付で↓こちらからお寄せください。 http://mm.9no1.gozaru.jp/mmagazine.html Web拍手からも送信できます http://ohimesamaclub.chat-jp.com/petit/postmail/index.cgi ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◇連載 『きっと帰るから』 (三) 湖東わたる ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - ここまでのあらすじ=のぞみは、地上の重力下ではやがてHDMOを発症し二 十歳を待たずに死ぬ。しかし、国連が衛星軌道上に配備している病院船 『ニューホープ』に移住すれば長生きができる。だがそれは家族との永遠の別 れを意味していた - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 2章 川内のぞみは十二歳になった。 のぞみは、健介と葉子の愛情のもとで、明るく積極的な少女に成長していた。 毎月、血液検査と骨密度検査を受けているが正常値で、幸いまだHDMOは発 症していない。今のところのぞみの体の中で活性型ビタミンD3は、正常に生 産されていて、そのおかげで食物からカルシウムを摂取できていた。 しかし、岡本医師は十二歳で発症した症例もあることから、川内夫婦に、出 来るだけ決断を急ぐよう促していた。 春が来た。 のぞみが生まれた時のように、満開の桜がマンション前の公園に咲いていた。 葉子は桜の小学校の卒業文集を開いていた。 『わたしは大人になったらお医者さんになってたくさんの病気の人を助けたい と思います。――川内のぞみ』 そんなことを考えていたなんて。救われねばならないのはのぞみなのに。 健介は、朝、出勤する前に葉子に、きょうのぞみにすべてを話そうと言った。 今月、のぞみは中学校に進学した。理解する事はできるはずだ。 葉子は、マンションの窓から見える、隣の公園ののぞみをながめていた。日 光を浴びて揺れる花たち……。 しかし、葉子の心は華やぐことはなかった。あの、初めてのぞみのHDMO を知らされた日も、こんな桜のきれいな日だった。桜を見ると、あの日に時間 が引き戻されるような気がする。いったい何度、すべてが夢で目覚めたら自分 たちはごく普通の家族なのだと、思いこもうとしたことか。 家族三人が揃い、夕食を済ませた後、自分の部屋に行こうとしたのぞみは、 健介に呼び止められた。 「のぞみ、大事な話がある。お父さんの言うことをよく聞くんだ」 葉子も健介の隣に座った。 「今まで言わなかったけど、のぞみは、ある病気にかかっているんだ」 健介は話し始めた。 HDMOという病気の詳細。 地上で暮らした場合の寿命のこと。 病院船『ニューホープ』のこと。 『ニューホープ』で暮らせば、長く生きられること。 そして、健介と葉子が、長い時間をかけて、のぞみを『ニューホープ』に送 ろうという決心をしたこと。 のぞみは、黙って聞いていた。出し抜けにこんな話を聞かされて頭が混乱し ている。しかし、話している父と横でのぞみを見つめている母が、とても辛そ うなことだけはわかった。 父は、最後にこう言った。 「急に聞かされてびっくりしたろう。もちろん今すぐに決めなくても良い。よ く考えなさい。分からないことがあったら、お父さんでもお母さんでも、遠慮 なく尋ねるんだよ」 のぞみは何も言わず、部屋に戻った。ベッドに身を預けた。 人は死ぬ。そんな当たり前のことだが、今までじっくり考えたこともなかっ た。あたし、病気なんだ。死ぬんだ……。 『ニューホープ』――どんなところなんだろう。二度と地球に戻れない病気 の人たちと、お医者さんたちだけの船。 そこでなら長生き出来るという。でも、ひとりぼっちだ。両親とも、友だち とも離ればなれになっても、長生きすることのほうが大事なんだろうか。 死ぬのは怖い。いやだ。だけど、お父さんやお母さん、みんなが見守ってく れる。 言ってみれば、寒い長生きと温かい死だ。どっちが良いんだろう。 「わかんないよ。難しすぎるよ」のぞみは枕を顔に押し当て、泣き始めた。 数日後、のぞみは夕食の途中で箸をぱたりと置き、言った。 「あたし、『ニューホープ』には行かない。HDMOで死ぬことになるとして も、最後までお父さんとお母さんと一緒にいたい。それが運命なら、あたしは それで良いよ」 健介も葉子も、食事の手を止め、驚いてのぞみを見つめた。 葉子が言った。 「お母さんたちは、のぞみに健康な人と同じ長い人生を送って欲しいの。だか ら『ニューホープ』に行って。それにいつでも映像で会えるのだから」 「それが良いことなの? ひとりぼっちで、ただ生き続けるだけじゃない」 健介も言った。 「生きていれば、きっと楽しいことも見つかるだろう。友だちもできるだろう。 それもこれも、生きていればこその話なんだよ」 「いやだ!」 「のぞみ、HDMOを発症したら、体中の骨が紙のように弱くなって次々と折 れていくのよ。長くて、ものすごい苦しみよ。のぞみは二十歳を迎えられない のよ」 「じゃあ、どうすれば良いの? ひとりぼっちと長い苦しみと、どっちを選べ ば良いの? どうして二つしか無いの?」 ばんと席を蹴って、のぞみは立ち上がった。 「もういい。あたし、自分で三つ目を作る!」そう言ったかと思うと、のぞみ は、部屋を駆け出て、裸足のまま玄関を飛び出して行った。 「のぞみ!」 健介と葉子は慌てて後を追った。のぞみの姿が見えない。 「どこだ!」 「あなたエレベーターだわ」 エレベーターに駆けつけたが、表示が六、七、八…と登っている。このマン ションは二十階建てだ。 昇降ボタンを叩いたが、表示は登り続けている。 「屋上だ。おれは階段を登る、お前はエレベーターで上がって来るんだ!」 健介は叫ぶと階段を駆け上がり始めた。 葉子はエレベーターが下降してくるのをイライラしながら待った。 健介と葉子は、ほぼ同時に屋上に着いた。夜空の下、夜景が目映い。風が吹 き続け、耳元で風鳴りの音がする。 「のぞみ!」 のぞみは、どうやって越えたのか、安全柵の外側にいた、髪が風で踊ってい る。顔が真っ白だった。だが噛みしめた唇が決意の固さを物語っていた。 「のぞみ、危ない。戻りなさい」 健介は近づいた。 「来ないで! お父さん。これならすぐに終わるわ。ひとりぼっちでもないし、 長くもない。あたしこれで良い!」 健介は語気の強さに思わず立ち止まった。しばらく睨み合ったまま時間が止 まった。三つ目の選択肢……健介はアドレナリンのかすかな苦みを感じていた。 答は二つしかないと思っていた。だが、のぞみは自分たちとは違う答を出した。 こんな壮絶な答を。 屋上は風が笛のような音を立てて吹きすさんでいた。時間が過ぎた。 葉子が静かに言った。 「そうだね。のぞみ」 健介は振り向いた。葉子は泣いていた。 「わかった。確かに、これならすぐに終わるね。お母さんものぞみと飛ぶわ。 一緒に飛ぼう。ね?」 のぞみは驚いた表情を見せた。 葉子はゆっくりと歩いてきた。 健介も心を決めた。 「そうだ。父さんも飛ぼう。みんなで飛ぼう。これが一番良い」 健介も歩み寄ってきた。 のぞみは柵にしがみついたまましゃがみ込んだ。涙をポロポロこぼしながら、 「なんでそんな事言うのよ。お父さんもお母さんも馬鹿じゃないの」 健介と葉子も柵を挟んでのぞみの前にしゃがみ込み、柵を掴むのぞみの両手 をそれぞれひとつずつ、包み込むように握った。 「そう、馬鹿だよ。だけど母さんの言ったことは名案だ」健介が言った。 葉子も言った。 「その通り、馬鹿なのよ。のぞみ。飛び降りようとする娘を黙って見送る親な んていないのよ。みんな馬鹿になるのよ」 「お母さん……どうしてなの」のぞみは泣きじゃくった。葉子の涙もさらに溢 れた。 「好きだからよ。のぞみのことが大好きで大切だからよ。だから一緒に飛ぶの よ。お母さん、のぞみと一緒なら、全然怖くないわ」 「お父さんもだよ。のぞみが大好きだから、一緒に飛ぶんだよ。いまそっち側 に行くから、三人で『せーの』で飛ぼう」 「お父さん……」のぞみは泣きじゃくりながら鼻声で言った。「もういいよ、 うちに帰る。ごめんなさい、ごめんなさい……」 健介が手を貸して、のぞみの体を柵の内側に抱え戻した。 三人はしばらく抱き合っていた。風は相変わらずだが、のぞみはちっとも寒 くなかった。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ☆感想は「主婦と創作」気付で↓こちらからお寄せください。 http://mm.9no1.gozaru.jp/mmagazine.html Web拍手からも送信できます http://ohimesamaclub.chat-jp.com/petit/postmail/index.cgi ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◇連載小説 フレキ=ゲー編によるガップ民話集3-34 作:神光寺かをり ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ※この小話はフィクションであり実在の人物・団体・思想とは関係ありません。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 地上に巨人が生まれて、そのあと絶えた訳 34 この世で最初のお医者さんのフッラと青いペネムエルの夫婦には、なかなか 子供が生まれませんでした。 最初の子供が生まれたのは、他の兄弟姉妹たちの子供がオムツを脱いだ頃の ことでした。 この夫婦にも初めに女の子供が生まれ、次に男の子供が生まれました。二人 とも母親に似て物覚えが良くて、父親に似て美しい子供でした。 赤ん坊たちは麦のお粥を一椀食べると一椀分だけ体が大きくなりました。 毛玉牛の乳を二椀飲むと二椀分だけ体が大きくなりました。 二人はお粥も乳もかみしめながら食べるので、ゆっくり体が大きくなりました。 両親は大変喜んで、女の子供をエルダ(知恵)と名付けました。それから男 の子にはミーミル(知識)と名付けました。 七組の夫婦にはそれからも子供が生まれました。子供たちは皆、一椀食べれ ば一椀分、二椀飲めば二椀分、体が大きくなりました。 大きくなったら大きくなった分食べましたので、もっともっと大きくなりま した。 子供たちはどんどんどんどん大きくなって、やがて背丈は両親を追い越しま した。それでもどんどんどんどんどんどんどんどん食べるので、みな小山のよ うな大きな体に育ちました。 七組の新しい親たちは最初はたいそう喜んでいたのですが、そのうちたいそ う困り始めました。 子供たちが大きくなりすぎたのです。 試しにフッラが夫のペネムエルの肘から指先を物差しにして、娘のエルダの 背丈を測ってみました。 踵から腰までが百クデ、腰から肩までが百クデ、腕を広げると指の先から指 の先までが二百と五十クデ、髪の長さが三百クデありました。エルダは子供た ちの中で一番背が低かったのですよ。 親たちはとても困りました。 マッハの一族がどれほど鳥や獣や魚を捕っても、みなのお腹を満たすことが できません。 ジョカの一族がどれほどパンやスープを作っても、みなのお腹の虫は泣きや みません。 ポイベの一族が服や靴を作っても、みなの体を覆い隠すことができません。 ディーヴィの一族が毛玉牛をどれほど増やしても、みなに乳や酪を行き渡ら せません。 ティアマトの一族が大きな家を建てても、窓から手足がはみ出してしまいます。 ヌトの一族がどれほど良い声で歌っても、耳の高さの所まで詩が届かないの です。 子供たちもとても困りました。 ご飯は足りない、着る物はない、家もない。 大きな大きな子供たちは、ご飯を争って食べ、服を取り合って着、家を奪い 合って住みました。 隣の子供を拳骨でゴンと撲ち、あちらの子供を踵でポンと蹴り、向こうの子 供を頭突きでドンと打ち、押し退けて引きずり下ろして突き飛ばして、欲しい 物を欲しいだけ手に入れようとしました。 ですから、力の強い子供はますます大きく力が強くなりましたし、力の弱い 子供はどんどん弱ってゆきました。 親たちは考えました。自分の子供が弱くなって、ご飯も食べられずに死んで しまっては大変です。例えご飯が食べられたとしても、殴られてけられて落と されて突き飛ばされて、その怪我が元で死んでしまっては大変です。 何分この子供たちときたら親たちよりも体がずっともっと大きいので、フッ ラの一族が作った薬を山のように飲んだとしても、少ししか効かないのです。 ヌトとアシズエルの夫婦は考えて思いつき、自分の子供たちに言いました。 美しい化粧を施して、耳に優しい言葉で話すように、と。 美しい女と美しい男が美しい姿とやさしい言葉で話すと、男は女のために食 べ物を運ぶようになり、女は男のために食事を作るようになりました。 ところが大変です。美しく化粧のできる男と女はヌトとアシズエルの子供た ちより他にいませんので、男はその娘たちを奪い合い、女はその息子たちを奪 い合い、大きな争いとなってしまいました。 ティアマトとムルキブエルの夫婦は、考えて思いつき、自分の子供たちに言 いました。立派な家を建て、優雅な暮らしをするように、と。 立派な家に住み、優雅な暮らしをしているのを見ると、男は女のために食べ 物を運ぶようになり、女は男のために食事を作るようになりました。 ところが大変です。立派な家に住んでいる男と女はティアマトとムルキブエ ルの子供たちより他にいませんので、男はその娘たちを奪い合い、女はその息 子たちを奪い合い、大きな争いとなってしまいました。 続く ─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─ ★「フレキ=ゲー編によるガップ民話集」のバックナンバー(今までのお話)は ↓こちらのサイトでもお読みいただけます↓ http://ohimesamaclub.chat-jp.com/petit/cb/folklore/ ★神光寺かをりのファンタジー小説・歴史小説サイトはこちら↓ お姫様倶楽部Petit:http://ohimesamaclub.chat-jp.com/petit/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 今週号はここまで。 また次回お会いいたしましょう。 メルマガの感想、各作家さんへのメッセージは「主婦と創作」気付で ↓こちらからお寄せください。 http://mm.9no1.gozaru.jp/mmagazine.html Web拍手からも送信できます http://ohimesamaclub.chat-jp.com/petit/postmail/index.cgi ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ このメールマガジンは サイト/ブログなどの購読フォームから購読のお申し込みを戴いた皆様や、 無料レポートのご請求を戴くなどした際にメールマガジン購読を ご希望いただいた皆様に配信しています。 お申し込みのお心当たりの無い場合は、 メールアドレスの間違いやいたずらの可能性がありますので、 お手数ですが下記の解除URLより購読登録の解除をしてくださいますよう お願い申し上げます。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ━【奥付】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆テキスト系創作メールマガジン 文芸同人「主婦と創作」◆ 発行人:銀凰恵(P.N.神光寺かをり) サイトURL :http://mm.9no1.gozaru.jp/ ブログURL :http://ohimesamaclub.seesaa.net/ お問合用メールフォーム:http://mm.9no1.gozaru.jp/mmagazine.html 登録・解除用フォーム :http://mm.9no1.gozaru.jp/02.html このメールマガジンは、以下のメルマガスタンドを利用して発行しています。 まぐまぐ http://www.mag2.com/m/0000093007.html めろんぱんhttp://www.melonpan.net/mag.php?004900 アルファポリス http://www.alphapolis.co.jp/maga.php?maga_id=1000313 メルマ! 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