2009/12/18
ユーラシア・ウォッチ 第167号 【秋野豊ユーラシア基金】
since June 2002 ====================================================================== ◆◆ ユーラシア・ウォッチ ◆◆ Eurasia Watch 編集・発行:秋野豊ユーラシア基金 http://www.akinoyutaka.org ---------------------------------------------------------------------- 第167号 2009年12月18日 ====================================================================== ◇お知らせ◇ サーバーのメンテナンスで、年明け2010年1月11日(月)午前2時から午前6時 にかけて、秋野豊ユーラシア基金ホームページの閲覧ができなくなります。 また、同時刻にinfo@akinoyutaka.org宛にお送りいただいた場合、送信エラー となることがありますのでご了承下さい。 ====================================================================== ◇Contents◇ ・エッセイ/ゆーらしあの風 久保 珠美「タイ-ビルマ国境の街:サンクラブリ」 ・新刊書・論文紹介 ・イベント紹介 ====================================================================== ■『ユーラシアの紛争と平和』、明石書店より好評発売中!■ 秋野豊ユーラシア基金では秋野氏没後10周年を記念して『ユーラシアの紛 争と平和』を刊行しました (定価:¥2,500+税)。秋野豊賞受賞者を中心とす る執筆者により、アジアから欧州までのユーラシア各地域の紛争と平和の問題 を、1)歴史的背景、2)現在のとりくみ、3)当面の課題、4)平和のシナリオ、と いう四つの観点から分析した作品です。 [ご購入はこちらから] http://www.amazon.co.jp/dp/4750328138/ref=nosim/?tag=akinoyutakaor-22 広島修道大学の佐藤紀子先生による本書の書評が『国際安全保障』第37巻第2号 に掲載されていますので、そちらもあわせてご覧ください。 ====================================================================== ■エッセイ/ゆーらしあの風■ ○タイ-ビルマ国境の街:サンクラブリ 久保 珠美(第11回秋野豊賞受賞者、東京外国語大学大学院博士課程在籍) 私が調査に訪れたタイ-ビルマ国境地域のタイ側には、9つの難民キャンプ が点在している他、ビルマ側の国内情勢の混乱による政治的・経済的動機から 越境してきた移民労働者、さらには先住の少数民族であるカレン、モン、シャ ン人等の多種多様な民族、言語、文化が複雑なモザイク模様を成して並存して いる。 今回紹介するカンチャナブリ県サンクラブリ郡もこうした街の1つである。 統計で確認できるだけでもタイ人の比率は4割にも満たず、キャンプの難民と それ以外の非タイ人、そしてタイ人が混在しながら街を形成している。 気候的に農業に適していないことに加え、農地として利用可能な土地も限ら れており、これといった伝統的な産業がないことから、現金収入の機会に恵ま れず、地域住民の生活は貧しく苦しい。 乾季は寒暖の差が激しく、また雨季は降雨量が多く湿度も高いため、マラリ ア蚊が多く生息しており、感染率はタイ国内2位である(ちなみに1位は北隣 のターク県で、やはり難民キャンプが位置している)。そのため、米陸軍が世 界でも数少ない熱帯疾病研究所を設置し、軍医を常駐させている。これはマラ リア等の熱帯疾病を研究する役割を担っていることは言うまでもないが、タイ 側国境より「対ビルマ」の動向および人権改善状況の把握というもう1つの役 割も担っている。 また、歴史的に過去何度もビルマ軍(当時)がその地峡を越えてシャム(当 時)に攻め入り、アユタヤ朝を始め、かつて隆盛を誇った王朝を滅亡させるに 至った「因縁」のルート上にあるため、タイ中央政府から見た場合、今日なお 首都バンコクに通ずるアクセスを容易にするインセンティブは乏しい。太平洋 戦争中には、旧日本軍による泰緬鉄道建設に伴う膨大な犠牲が生じた歴史もあ る。その結果、同郡へのアクセスは車で7~8時間陸路を走破するしかなく、バ ンコクからの相対的な近さにも関わらず、最も開発から取り残された地域とな っている。 私が訪問したバンドンヤン難民キャンプは、郡中心部から20キロほど離れた 国境に位置し、キャンプ検問所入口から実際の難民居住地までの道のりは、か なりの傾斜もあって険しく、周囲は鬱蒼とした竹薮である。雨季には、舗装さ れていない山道はぬかるみ、所々に大きな水溜りができるため、四輪駆動車を 使っても相当な困難を伴う。 現場を統括するタイ陸軍のキャンプ司令官によると、他のキャンプと違って、 国際基準で定められた国境線からキャンプまでの地理的距離を満たしていない、 つまり国境に近過ぎた場所に位置しているため、散発的にビルマ側から攻撃を 受けることもあるという。 このように「隔離」されたキャンプに入って先ず目に付いたのは、子供や未 成年の多さである。このキャンプは9キャンプ中、最も小規模なキャンプである。 しかし、約3600人の総人口のうち、約1600人が18歳未満で約4割を占めている。 将来展開が不安定で見通し難い状況での子供の多さは、親と子供の双方にとっ て、経済的にも心理的にも負担が増すばかりである。加えて、電力も届いてい ないキャンプでは、夜間にテレビやDVD鑑賞、読書等で時間を過ごすことが 出来ないこともあり、保健・医療を専門とするNGOやUNHCR等の支援・ 援助機関が産児制限(バースコントロール)に力を入れても、効果を上げるこ とは容易ではなく、子供の数を抑制するのが難しい状況になっている。 次に目に留まったのは、野菜や米を栽培している段々畑、放牧されている乳 牛や水牛、なまずや蛙の飼育場である。キャンプでの滞在が長期化し、食糧支 援予算が年々削減されていく一方、難民未登録者への食糧支給はないため、そ の不足分の穴埋めと食糧自給率を上げる活動として、実益と職業訓練を兼ねて 行われている。また、石鹸や蚊帳等の日常生活品への支援予算も削減されて来 ているため、こちらも「自給自足」を目指して、試行錯誤を重ねていた。こう した数々の試みの中で、余剰分が出た暁には、近隣の地域住民に分け与えるこ とによって、キャンプ内外の格差是正を図って、彼らの不満を和らげ、共存意 識を高める一助としている。 タイ-ビルマ国境の街で、人々は与えられた厳しい運命の中で日々を生きて いる。調査者である自分が生きている日本の日々と照らし合わせ、複雑な想い に駆られた訪問であった。(くぼ たまみ) ====================================================================== ◆新刊書・論文紹介 冒頭の「○」は単行本や雑誌、「・」は雑誌に掲載された論文を意味します。 価格は原則として総額表示としております。 ~~~~~~~~~~~~~《政治・安全保障全般》~~~~~~~~~~~ ○焦点「戦争法の変容」『国際問題』No.587(2009年12月) ・新井京「『新しい戦争』と武力紛争法」 ・河野桂子「兵器の『人道化』クラスター弾の規制を中心に」 ・岩本誠吾「国際人道法におけるサイバー攻撃の規制問題」 ・小野圭司「民間軍事会社の実態と法的地位 実効性のある規制・監視強化に 向けて」 ~~~~~~~~~~~~~~~~《アジア》~~~~~~~~~~~~~~ ○川島真・毛里和子『グローバル中国への道程 外交150年』岩波書店、 2009年12月(\2.520) ○岩崎育夫『アジア政治とは何か 開発・民主化・民主主義再考』中央公論新 社、2009年12月(\2,100) ○『アジア経済』第50巻第11号(2009年11月) ・鈴木早苗「ASEANのコンセンサス形成における制度的要因―国際レジー ム論再考に向けて」 ====================================================================== ◆イベント紹介 国際シンポジウム「社会統合政策の課題と挑戦―新たな理念と役割を求めて」 のご案内 笹川平和財団主催の国際シンポジウム「社会統合政策の課題と挑戦―新たな 理念と役割を求めて」が開催されます。人の移動が一層自由化する中で、受け 入れ国では移民排斥や人権侵害といった摩擦や、移民をめぐる教育・雇用・福 祉の課題に直面しています。しかし、社会統合政策が進む欧州や、結婚移民や その子どもを対象とした社会統合政策が始まりつつあるアジアでは、人道的観 点や人口構成の変化、送り出し国との互恵的関係構築、また経済のグローバル 化に対処するため、移民に国境を閉ざすよりも、むしろホスト社会への受け入 れや積極的な統合が図られており、同時に必要とされる社会統合政策のあり方 が再検討されています。 国境を越えた人の移動が加速化し、多様な人々が暮らす社会にあって、いか なる社会統合政策の理念が求められているのか、また、政府や自治体、非政府 組織などの多様な主体が果たすべき役割は何か―世界各地のさまざまな社会統 合政策の実践から、どのように「ともに生きていくか」を考えます。 日時: 2010年1月14日(木)10:00-17:30 (9:30受付開始) 会場: 日本財団ビル2階 会議室(東京都港区赤坂1-2-2) (銀座線虎ノ門駅または溜池山王駅より徒歩5分) プログラム、参加方法などの詳細は下記のサイト http://www.spf.org/newsevent/091210.html ====================================================================== ◆編集後記 今年最後のエッセイは本年第11回秋野豊賞受賞者の1人、久保珠美さんによる 現地調査先のタイ-ビルマ国境の街サンクラブリの紹介です。 ◆現在デンマークで国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)が開 かれています。温室効果ガスの削減、排出権の売買をめぐって各国の利害が対 立するなど気候変動への対応は今や国際政治の大きな争点となっています。し かし、兵器や原油などと違い、二酸化炭素(CO2)は目に見えないので、これ を削減するだの、取引するだのと言われても、子供がゲーム機で遊んでいるの と同じバーチャルな話のようで、未だに私にはピンときていません。◆それで も私の研究対象である中国が無縁ではないので、入門書でも読んでみようかと 書店で数冊手にしてみましたが、排出権取引のノウハウ本がほとんどでさっぱ りCO2が見えてこない。そんな中、新聞の書評に黒木亮『排出権商人』という 本が紹介されていました。小説なのでわかりやすいかなあと早速購入しました。 年末年始に読もうと思いますが、この本は私の目にCO2をはっきりと見せてく れるでしょうか。私が来年、中国絡みで気候変動問題について語っていたら、 きっとこの本のおかげだと思ってください。 ◆今年1年メルマガをご覧いただきありがとうございました。どうぞ、よいお 年をお迎えください。次回メルマガ配信は年明け2010年1月15日頃の予定です。 (佐々木) ********************************************************************** ユーラシア・ウォッチ 第167号(2009年12月18日発行) 発行元:秋野豊ユーラシア基金(代表 秋野洋子) 〒151-0061 渋谷区初台1-51-1 初台センタービル803 編集責任者:広瀬佳一・江崎智絵・小尾美千代・佐々木智弘 郵便振替02740-2-3000 ★ご意見・ご感想はinfo@akinoyutaka.org までお寄せください。 ★このメルマガはインターネットの本屋さん『まぐまぐ』(マガジンID:91758) および『メルマ!』(マガジンID:m00119358) の発行システムを利用していま す。送付先変更・配信解除は、下記のURLからいつでも可能です。 http://www.akinoyutaka.org/mailmagazine/mailmagazine.html ***********************************************************************


