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今、時代は大きな転換期にあると思います。この時代の性格と、今後わたしたちに何が問われているかを、世界や日本の主な出来事の分析を通じて考えます。

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2009/04/30

インターナショナル62

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
                  ┏━━━━━━━━━━━━━━━┓
【月刊ニュースレター:メール版】 イ ン タ ー ナ シ ョ ナ ル
                 ┗━━━━━━━━━━━━━━━┛
 メール版第62号(通巻186号)      2009年4月30日発行
 発行所:MELT
     ホームページアドレス http://www014.upp.so-net.ne.jp/tor-ks/
          Eメールアドレス   melt-ks@jn3.so-net.ne.jp
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
わたしたちはいま、大きな時代の転換点に生きているのではないでしょうか?
だから今とは、人間の自立と自律や民衆の自治という新しい民主主義のあり方
と、旧い代行民主主義の葛藤の時代でもあるのでしょう。 
 次々と起きるいろいろな事件や社会現象の分析をとおして、そんな問題を考
えてみたい人たちのためのメールマガジンです。
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
今号の内容:
1:私たちの世界は(世界):●悪化つづく米金融市場
       オバマ政権の金融政策担うウォール街のエリートたち
       −金融危機対策から「大圧縮」への転換はできるか−
2:運動と組織のありかた(労働):【資料】
 JR採用差別事件の鉄建公団訴訟高裁判決を受けての4者・4団体共同声明
3:私たちの世界は(日本):●かんぽの宿入札疑惑
     国民資産を資本に委ねる郵政民営化の隠れた本質
      −不動産、郵貯・簡保資金、そして天下り−
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1:●悪化つづく米金融市場

        オバマ政権の金融政策担うウォール街のエリートたち

        −金融危機対策から「大圧縮」への転換はできるか−

▼「崖っぷち」の財務長官

 オバマ大統領によって財務長官に任命されたティモシー・ガイトナーが、6
月にも辞任するのではないかとの観測が浮上している。
 直接の契機は、2月10日に発表した「新金融安定化プラン」が、市場の不興
を買ったことである。
 プランは、FRB(米連邦準備制度理事会)による融資枠の拡大と併せて、官民
共同で最大1兆ドルを出資する「不良債権買取基金」構想を打ち出したが、不
良債権化した証券化商品の評価方や経営責任の追求など、壊滅状態にある証券
化商品市場の修復について具体策がなく、「抽象的で中身がない」と批判され
て、当日のダウ平均が380ドルもの大幅下落を記録したのである。
 ガイトナーが「その場しのぎ」とも言えるプランを公表せざるを得なかった
のは、彼が財務長官就任にもたついたためとも言われるが、この「もたつき」
の原因が「脱税疑惑」なるスキャンダルだったことで、彼への信頼は大きく揺
らぐことになった。結局スキャンダルは「納税漏れ」だったとしてガイトナー
は財務長官に就任したのだが、この期間、彼は新政権の経済政策に関する最終
議論に参加できず、オバマ政権で経済政策をリードしているのは、国家経済会
議議長に就任した元財務長官のローレンス(ラリー)サマーズと見なされてい
る。
 かくしてガイトナーは、3月26日にオバマ大統領が「予算教書」を発表する
直前の3月23日、不評だった不良債権買取基金構想を補強する「官民投資プロ
グラム」の詳細な枠組みを発表したのだが、これはこれで、売却側の不良債権
損失額が膨らみ、プログラムによる買い取りが機能しないのではないかと危惧
されている。
                           *
 昨年9月の「リーマンショック」以降、アメリカ経済の急速な悪化に歯止め
をかける金融政策は、90年代から始まった一連の金融緩和のツケの支払である
とは言え、オバマ政権が当選時の高い支持率を維持し、金融と消費に極度に依
存するアメリカ経済の構造的転換を促進する「本来の経済政策」に踏み出すた
めには、ぜひとも成功させたい最初の試金石でもある。
 だが、その中枢を担う財務長官の不評と辞任説の浮上は、オバマ政権の前途
に不安を投げかけるばかりではなく、今日の金融危機が内包する複雑で困難な
問題を浮き彫りにすることになった。

▼損失額確定は、なぜ困難なのか

 ガイトナーの財務長官起用は、ニューヨーク連邦銀行総裁という、それなり
に信頼に足る「金融の監督者」を任命することで投資家に安心感を与え、金融
市場のさらなる悪化を防ぐ効果を期待したのだろう。
 だが「脱税疑惑」は、その出端で彼の信頼性を傷つけたばかりか、ガイトナ
ーが選んだ副財務長官候補や国際金融担当次官の候補者が、彼のスキャンダル
発覚に伴う厳密な「身体検査」を嫌って指名を辞退し、3月末になっても50以
上の高官ポストが空席の財務省は、機能マヒに陥っていると言われている。さ
らにリーマンの破綻直後、政府による850億ドルの緊急融資で救済された保険会
社・AIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)の幹部たちが、巨額の
ボーナスを受け取るのを阻止できなかったことも彼の不評に拍車をかけた。
 こうした状況下で、ガイトナーは慌ただしく「新金融安定化プラン」をまと
める羽目になったのだが、実はこれらは表層的な要因にすぎない。
 というのもバブル崩壊による金融市場のマヒを打開するには、日本のバブル
崩壊の経験からしても不良債権処理、つまり金融機関の損失額を確定し、それ
を帳簿上も損失として計上して金融機関のバランスシートを「正常化」するこ
とが決定的に重要なのだが、今日の、複雑に組成された証券化商品のバブルで
は、その損失額の確定が極めて困難だという難題を抱えているからである。そ
してこれこそが、オバマ政権の金融政策をもたつかせる真の要因である。
 金子勝(慶応大)とアンドリュー・デウィト(立教大)の両氏が、損失額の
確定が極めて困難な実情について月刊『世界』4月号で報告しているが、最大
の難題は、670兆ドル(1ドル100円換算なら6京7億円!)もの規模に膨らんだ
デリバディブ(=金融派生商品)市場で、CDO(債務担保証券)より「はるかに
シンプル」なMBS(住宅ローン担保証券)でさえ、資産評価に大きなばらつきが
生じていることなのである。
 両氏は、2月2日付「ニューヨーク・タイムズ」紙が報じた例を紹介してい
るが、それは住宅購入の際に頭金を全く払わないか、もしくはほんの少額しか
払わなかった9000件の住宅ローン債権を束ねたMBSで、その内の25%が債務不履
行に陥り、平均損失は40%と見なされている。
 ところが、この債権を保有する金融機関は債権評価を額面の97%としてたっ
た3%の損失しか計上しないのに対して、格付け会社大手「S&P」は同じ債
権を額面の87%と評価し、急増する債務不履行率が倍増すれば53%まで下がる
こともあると考えているという。しかも最近、この債権が額面の38%で取引さ
れたことを考えれば、53%という評価さえ楽観的すぎるかもしれないと言うの
だ【以上前掲『世界』】。
 件数は多いが、住宅ローン債権が直接の裏付けになっている「シンプルなケ
ース」でさえ評価額にこれだけの落差があるとすれば、MBSと他のローン債権
(自動車ローンやクレジットローンなど)を束ねたりしたCDO評価が、更に大き
くばらつくのは明らかである。これが、「官民投資プログラム」による不良債
権買い取りが機能しないのではないかと危ぶまれる理由でもある。
 不良債権化したCDO価格を低く算定すれば、損失が膨らむ売り手は買い取りに
応じないだろうから、金融市場の機能マヒも解消されない。だが逆に高く算定
すれば、政府支出が巨額になるばかりか、自己責任を標榜して投機に奔走した
金融機関の損失を税金で肩代わりすることになるからだ。
 問題の核心は、MBSよりはるかに複雑なCDOや、そのディフォルト(債務不履
行)の際に元本を保証するCDS(クレジット・ディフォルト・スワップ)が、
670兆ドルのデリバディブ市場で「主力商品」だったことであり、さらに言えば
その取引価格が、実は公開市場の売買で成立した市場価格ではなく金融工学の
数式で算出した「理論価格」、要するにリスクに目を塞いだ理論上の数式に基
づく価格だったことにある【理論価格については本紙183号「人為的な装置が醸
成した非常識な市場心理の結末」を参照】。
 大量のCDOに埋め込まれたサブプライム・ローンなどの高リスクを、複雑な数
式を使って低リスクに見せかけた「理論価格」は、いまや不良債権処理の最大
の障害となっているのである。

▼オバマ政権の「ルービン人脈」

 このデリバディブの資産価値評価の困難さが、オバマ政権に、あるディレン
マを突き付けることになった。
 それは、金融市場の機能マヒを早急に打開したいオバマ政権が、デリバディ
ブの資産評価を含む金融政策の担い手として、その開発や販売に関与し、ある
いは自らのビジネスのために金融規制緩和を推進した「金融の専門家たち」を、
政府高官として迎え入れたからである。
 かくして、オバマ政権の金融政策の中枢にはウォール街のエリートたち、と
くに昨年のリーマンショック直後、自ら金融持ち株会社に変身して政府の保護
下に逃げ込んだ米最大手投資銀行ゴールドマン・サックス(GS)出身者が次々
と就任した。
 GS出身の政府高官としてすぐに思い浮かぶのは、リーマンの救済を拒否し
て金融危機の引き金を引いたと非難されたブッシュ政権の財務長官、ヘンリー
・ポールソンだが、オバマ政権で商品先物取引委員会(CFTC)委員長に指名さ
れたゲーリー・ゲンスラー財務次官も、公的資金7000億ドルを投じる金融安定
化法の運用責任者に抜擢されたニール・カシュカリ財務次官補も、そしてガイ
トナー財務長官がニューヨーク連銀総裁の後継に指名したウィリアム・ダドリ
ーも、やはりGS出身である。
 共和党のブッシュ政権と民主党のオバマ政権の金融政策担当者に、金融グロ
ーバリゼーションの頂点に君臨した投資銀行出身者が多数就任したことをいぶ
かる向きもあるかもしれないが、実は民主党・クリントン政権の財務長官だっ
たロバート・ルービンが、GSの共同会長だったことは周知の事実である。し
かも1995年から99年7月まで財務長官を努めたルービンは、伝統的に「大きな
政府」をめざす民主党内に「市場中心主義」を定着させたとも言われ、グリー
ンスパン元FRB(連邦準備制度理事会)議長と共に、90年代以降の米国経済繁
栄の立役者とまで評価されているのである。
 さらにルービンは、08年夏からオバマの主要経済政策の顧問になっており、
新政権の金融政策中枢に就任したGS出身者は「ルービン人脈」と見られても
いる。
 ではルービンは財務長官当時、どんな金融政策を推進したのだろうか。
 端的に言って彼は、金融規制緩和の進展に大いに貢献した財務長官であり、
それを象徴するのが退任直後の99年11月、金融制度改革法(グラム・リーチ・
ブライリー法)が成立したことと、当時のグリーンスパン元FRB議長と共に、
CFTCのもつデリバディブ規制権限の撤廃を議会に訴えたことである。
 前者は、1933年銀行法(グラス・スティーガル法)が禁じてきた銀行と証券
業の兼業規制を廃止して「預金から投資へ」の流れ、つまり金融投資拡大の流
れを加速して金融投機の道を準備し、後者は、金融バブルとその崩壊を招くこ
とになるデリバディブの「乱開発」を野放し状態にしたと言って過言ではない。
直前に財務長官を退任したとは言え、99年11月の2つの出来事はルービン金融
政策の帰結であり、金融バブルというパンドラの箱を開くものであった。
                        *
 そのルービンは最近、リーマンショック以降の金融危機について様々な弁明
をしているが、それは基本的には「人知を超えたやむを得ない出来事」とする
もので、わたしの知る限り、自らの金融政策に対する反省の弁は見受けられな
い。
 たしかに金融システムの修復には不良債権処理が不可欠だし、そのためには、
金融市場がそれなりに納得する「現実的な資産価値の評価」を提示し、不良債
権化したデリバディブの買い取りを促進する必要がある。しかも腹立たしいこ
とには、この「現実的な」不良債権処理のために、デリバディブの複雑な仕組
みやその取引に精通し、投資家たちの心理状態まで推察するような「専門家」
の知識やノウハウが、どうしても必要とされる現実もあるのだ。
 それでも彼ら「専門家」が、デリバディブのリスク管理に失敗したからこそ
現在の金融市場の崩壊があるし、それは「ウォール街・財務省複合体」と呼ば
れる、彼らも様々に関与してきた金融政策グループが推進した金融規制緩和の
帰結でもあったのだ。

▼オバマへの期待と実像

 こうした、オバマ政権による一連の金融政策について、「どこがチェンジな
のか」との批判の声があがるのは、当然と言えば当然のことである。
 だがオバマ自身は、金融グローバリゼーションの「行き過ぎ」を批判はして
も、その抜本的転換を唱えてこなかったことは確認しておくべきだろう。
 予備選中の08年3月、ニューヨークのクーパー大学の演説で、「アメリカの
実験がこれまで概ねうまくいったのは、市場の見えざる手を、より崇高な原則
で導いてきたからである。自由市場は決して、好きなだけ利益を得てよい、ど
んな手段を使ってもよい、という無制限の自由を意味してきたのではない。競
争を公正でオープンで正直なものにするためのルールを敷いてきたのはそのた
めだ」と述べたように、オバマの基本的立場は、「適正に規制された自由市場
の尊重」と言うべきものである。
 現に、グリーン・ニューディールと呼ばれるオバマの新経済戦略も、金融グ
ローバリゼーションに取って代わる戦略というよりも、歴史的水準に達したア
メリカの借金=対外債務の削減のために、環境技術の革新を新機軸にして国内
投資を再生し、金融と消費に極度に依存した米国産業構造の再編を展望する政
策だったはずだし、それはまたドル暴落の危機を回避し、基軸通貨であるドル
を防衛・堅持する戦略でもあった。
 だがリーマンショックが大統領選挙の様相を一変させた。争点は「テロとの
戦争」から「経済問題」へと変わり、ブッシュ政権の無策=前述のように、ポ
ールソン財務長官が危機を「放置」したことに対する富裕層の怒りと動揺も手
伝って、オバマが大統領選挙を制することになった。その点は本紙(183号「非
白人層の圧倒的支持と『ただひとつのアメリカ』−争点となった金融危機と富
裕層の動揺」)でも指摘した通りである。
 オバマ政権の金融政策は、その当初から、金融グローバリゼーションの抜本
的転換をめざしてはいないと考えるべきなのである。そもそもルービン元財務
長官を経済政策の主要アドバイザーとしてきたオバマのチームが、市場中心主
義という価値観の転換を伴う金融政策の抜本的転換を構想してきたと考える方
が、ナイーブに過ぎるだろう。
 したがってオバマ政権の金融政策は、悪化しつづける景気をにらみつつ、か
つウォール街との「折り合い」を探りながら策定されるのは不思議ではない。
そして結局のところそれは、今回の金融危機で手ひどい経済的痛手を被った大
多数の投資家たち、つまりオバマの減税対象の上限ライン=年収20万ドル前後
のアッパーミドル層(上層中産階層)への配慮でもあるだろう。
 「ただひとつのアメリカ合衆国」を唱えて初の黒人大統領となったオバマに
は、そうしたバランス感覚の方が相応しい。
 ではオバマ政権の経済政策は、歴代共和党政権と変わり映えしないのかと言
えば、それは違う。というよりもすでにオバマ政権の金融政策は、すべてを市
場に委ねようとしたブッシュ政権のそれとは、まったく違った政策なのである。
 昨年の金融危機に対する米国政府の迷走を思い起こせば判ることだが、ブッ
シュ政権が金融安定化法案を提出したのは、公的資金の投入を躊躇したことで
引き起こされた金融危機=リーマンショックの衝撃で180度の路線転換に追い込
まれた結果だったし、これに激しく抵抗したのは、政府による市場への介入を
自由市場の破壊とみなす共和党議員たちであった。そして逆にオバマ政権は、
「社会主義」と非難されたこの枠組みの継承を躊躇しなかったのである。
 その上でオバマ政権は、金融市場の機能マヒを打開する「官民投資プログラ
ム」という具体策を打ち出したのであり、これによる不良債権の買い取りは、
実は金融機関の国家管理を一段と強化することでもある。しかもこのプログラ
ムが「機能しないのではないか」と危惧されているのは、買い取り価格が「安
すぎる」ことへの懸念であって、その逆ではない。
 したがってオバマ政権の今後を占う上で注目すべきことは、当面の金融政策
に投じる巨額の公的資金と、グリーン・ニューディールや医療保険制度改革に
必要な財源をどう確保するかという問題であり、財政赤字削減を公約したオバ
マ政権がこれにどんな回答を与えるかが、この政権の今後の進路をかなり明ら
かにするに違いない。

▼ルーズベルトの「大圧縮」

 金融グローバリゼーションによって世界中から資金を集め、莫大な財政赤字
と貿易赤字を埋め合わせてきた米国にとって、この借金体質からの脱却はいず
れにしても重大な問題である。
 そしてオバマが、「問題は、自由な市場のインフラがもたらしてくれる富を
いかに公平に配分するか、といういう点だと主張している」(福本容子・毎日
新聞論説委員)とすれば、「適正に規制された自由な市場」の実現と併せて彼
が達成しようとするのは、「所得格差の是正」ということになる。
 すでにオバマは、年収20万ドル以下の人々に減税を約束しているが、新自由
主義的経済政策を推進したブッシュ政権が実施した高額所得層を優遇する減税
や金融取引税の減税をそのままに、オバマが公約どおりの減税を実施すれば、
それだけで財政赤字は、4年間で1兆ドル増えると言われている。
 つまりオバマ政権が、公約どおりに財政赤字の削減と中産階層の減税の両方
を達成しようとすれば、ブッシュ政権の減税政策からの転換は不可避である。
しかもブッシュ政権の減税政策は、米国経済が全体としては18%拡大した00年
から06年の間に、上位10%の世帯では所得が32%増加し、上位1%の世帯では
203%、上位0.1%では何と425%も所得が増加するという、驚くべき格差をつく
り出してきたのだ。
 もちろんだからこそオバマは、ブッシュ政権時代の大型減税を止め、年収25
万ドル以上の所得層に対する増税を公約にしてきたのだが、予想をはるかに上
回る景気の悪化で、現状での増税は困難との認識に転じつつあると言われる。
 したがって当面は、金融市場の機能マヒを打開する様々な救済策を講じなが
ら、他方では「強欲な金融機関」に対する規制強化を進めることで、金融機関
への公的資金の投入に対する大衆的反感とのバランスを図ることになるだろう。
 実際に、オバマ政権の国家経済会議議長に就任したラリー・サマーズは、か
つてはルービンの後継財務長官として金融規制緩和に熱心で、前述した「デリ
バディブ規制の撤廃」でも積極的役割を果たした人物だが、今ではすっかり規
制強化論者である。
 昨年10月26日付け英「ファイナンシャル・タイムズ」でサマーズは、「振り
子が動くだろう。市場システムの過剰さや不十分さを回避するために政府の役
割を強化する方向に動くべきだ」と語っただけでなく、「儲けだけ得て損は社
会に押し付けるといった行為をさせないための政策」に言及し、一連の金融危
機対策の後に、何らかの税収増の政策が実行されることを示唆している。
 いずれにしろ高額所得層に対する累進課税の復活は、中産階層に対する減税
と財政赤字削減のためには必要不可欠である。そしてこうした高額所得層への
増税の前例は、1930年代の世界恐慌に抗してニューディールを推進した、かの
ルーズベルトの政策に見い出すこともできる。
 というのもルーズベルトは、ニューディール政策を象徴する公共投資と並行
して、「大圧縮」と呼ばれる高額所得層に対する大増税を行っているのだ。そ
れは当初24%だった高額所得層の最高税率を、段階的にだが91%にまで引き上
げ、所得格差の「大圧縮」を図ったのである。この税制改革は、戦争のために
導入された価格統制と最低賃金制ともあいまって、当時の格差社会・アメリカ
を「中産階級のアメリカ」へと変貌させる契機になったと言われている。
 そして確かに、数年後にはその効果が剥落して景気後退に陥ることになった
公共投資よりも、この「大圧縮」の方が、豊かな中産階級による大衆消費市場
の拡大を促し、戦後アメリカの経済的繁栄の礎(いしずえ)になったと考えら
れる。
 「中産階級の復活モデル」とでも言うべき公約を掲げてきたオバマ新大統領
とそのチームが、ルーズベルトのこうした政策を知らないはずはない。
                          *
 したがって、金融市場のマヒを打開する諸政策の後に、その財源の調達も含
めて「大圧縮」つまり高額所得層への大増税を断行できるか否か、これがオバ
マ政権の評価にかかわる重要な焦点となる。
 そしてもしオバマ政権がこうした税制改革を断行できなければ、その時こそ
基軸通貨ドルの暴落が現実性を帯びるだろう。
(4/15:さとう・ひでみ)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
2:【資料】
 JR採用差別事件の鉄建公団訴訟高裁判決を受けての4者・4団体共同声明

 東京高裁は3月25日、国労闘争団員らによる鉄建公団訴訟控訴審判決で、一
審東京地裁判決と同様に旧鉄建公団(現鉄道・運輸機構)の不当労働行為責任
を認め、原告らに、一審判決より50万円多い550万円の損害賠償の支払いを命じ
た。
 以下、4者(国労闘争団全国連絡会、鉄建公団訴訟原告団、運輸機構訴訟原
告団、全動労運輸機構訴原告訟団)・4団体(国労、建交労、中央支援共闘、
国鉄共闘)の共同声明を資料として掲載する【編集部】。
                 * * * * *
 3月25日、東京高等裁判所第17民事部は、国労組合員が独立行政法人鉄道建
設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)に対して提訴したJR採用差別
事件に関する控訴審で、一審判決を基本的に支持し、原告らの控訴を事実上棄
却する判決を出した。
 しかし、高裁判決は、JR採用に当たって「不当労働行為」があったことを
明確に認めると共に、消滅時効の起算点は、最高裁判決により確定した2003年
12月22日であると判示し、一審原告の22年間の闘いが正しかったことを証明し
た。
 不当労働行為に基づく解雇を容認したものの、精神的損害の賠償として550万
円の支払いをじたが、到底22年間の苦闘を考えた時に、その償いとは言えない。
 また、一部原告らについて、国鉄時代の処分歴などを理由に、請求を棄却し
ている等の点は、問題の性質を理解せず形式的判断として強く批判されるべき
ものである。
                         *
 国鉄の「分割・民営化」から、実に22年が経過する。国鉄改革法審議過程の
中で「一人も路頭に迷わせない」「組合差別があってはならない」との大臣答
弁や参議院での付帯決議が行われたにも関わらず、何一つ守られることなく、
原告らは組合差別の末解雇され、22年間も路頭に迷わされてきた。この間、52
名の被解雇者が亡くなり原告・家族の精神的、経済的苦痛は筆舌に尽くせない
ものがある。
 原告らの「路頭に迷わない」解決要求はすでに明らかにしているように「雇
用、年金、解決金」であり、22年間の原告らの辛酸を推し量ったときに、これ
らの要求が満たされねばならない。
                         *
 南裁判長は「この判決を機に1047名問題が早期に解決されることを望みます」
との異例のコメントを付け加えた。
 現行法制下では22年間放置され、路頭に迷ってきた当事者を、「十分救済で
きない、従って政治で解決しなさい」というメッセージに他ならないと我々は
判断している。
                         *
 昨年の7月14日、南裁判長が「裁判外での和解」を呼びかけたことに対して、
当時の冬柴国土交通大臣も「誠心誠意努力する」と発言し、解決に向けての当
事者間の話し合いは、現在の金子国土交通大臣に引き継がれている。
                         *
 判決後、マスコミ各社は、「今こそ政治決断する時」「不採用から22年とい
う長きにわたる原告たちの苦悩を思えば、一日も早い解決を願わずにはいられ
ない」と、政治の責任でこの問題を解決すべきであると一斉に報道している。
                         *
 今こそ鉄道・運輸機構及び政府、政治は解決を決断すべきである。
 鉄道運輸機構及び政府が、3月25日の判決で示された不当労働行為の事実と
損害賠償責任を踏まえ、「人権問題」として採用差別事件の全面解決のための
交渉のテーブルに着くことを強く求めるものである。
 4者・4団体は、国策によって引き起こされた1047名問題の全面的な解決に
向けて、引き続き政治解決を求めて行くことを、内外に明らかにするものであ
る。
2009年3月26日
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
3:●かんぽの宿入札疑惑

     国民資産を資本に委ねる郵政民営化の隠れた本質

     −不動産、郵貯・簡保資金、そして天下り−

▼巨大株式会社−日本郵政

 日本郵政株式会社は06年1月、郵便局会社、郵便事業会社、ゆうちょ銀行、
かんぽ生命への郵政事業4分割に先がけて、4事業を統合する株式会社として
設立された。
 資本金は3兆5000億円、発行株式総数6億株、発行済み株式1億5000万株。現
在は、財務大臣が唯一の株主となっている。その業務内容は、グループ会社各
社に対する経営管理、会社の設立準備および業務・資産・職員を各会社に引き
継ぐことであった。いわば郵政本省の役割である。
 旧郵政局に当たるのが「郵便局会社」で、各支社(東京、大阪、名古屋等)
中央郵便局、社宅、職員訓練所、集配業務を行わない郵便局が引き継がれ、「
郵便事業会社」は集配事務を取り扱う郵便局と物流センター、「ゆうちょ銀行」
と「かんぽ生命」はそれぞれの事務センターのみとなり、窓口の業務は貯金・
保険・郵便ともに郵便局会社に委託し、手数料を払うというものであった。
 この構造は、郵政省、公社時代とはほとんどかわらない。
 表にするとすると、以下のようになる。

         ▼資本金    ▼株主    ▼不動産

日本郵政    3兆5000億円   財務大臣    2250億円
郵便局会社     1000億円   日本郵政   1兆0020億円
郵便事業会社    1000億円   日本郵政   1兆4030億円
ゆうちょ銀行  3兆5000億円   日本郵政    1200億円
かんぽ生命     5000億円   日本郵政     900億円

▼かんぽの宿問題と郵政の不動産

 こうした構造の中で、最も経営が危ぶまれるのは郵便事業会社である。
 郵便事業は恒常的に赤字であるうえに、ユニバーサルサービス【注】が義務
つけられている。そしてこれまでは、貯金と保険の利益でその赤字を埋めてき
たが、それができなくなるのである。はじめから指摘されていた公共サービス
の崩壊は、現実のものとなると思われる。
 しかし大資本にとって、過疎地の郵便局の廃止などを問題にする気は全くな
い。郵便貯金200兆、かんぽ115兆の資金をどうかすめ取るのか、都市部の優良
不動産をどう獲得するのかが最大の関心事なのである。
 そうした中で浮上してきたのが、かんぽの宿と東京、大阪の中央郵便局(中
郵)などの改築問題なのである。
 東京駅前の超一等地にある東京中郵を、総工費876億円をかけて地上38階建て
の賃貸オフィスビル「JPタワー」に立て替える計画が具体的に動き出した中
で、鳩山総務大臣から待ったがかかったが、結局は「文化財」として残す部分
を少し拡大することで決着しそうである。
 これが完成すれば、土地建物で1兆円の価値があると言われている案件であ
る。自民党内部にどのような対立があるのか定かではないが、建設が中止され
るはずはない。
 しかも郵便局会社と郵便事業会社は、他にも大阪、名古屋、京都の中央郵便
局をはじめ、地方都市の中心部に局舎を持っている。郵便事業がどのような危
機になろうと、これらの不動産を活用することによって生き残ろうとするであ
ろう。
 これ以外の不動産、全国14カ所の逓信病院、逓信総合博物館(東京・大手町)、
人事・経理集約センター(旧熊本貯金事務センター)のほか、簡保資金と郵貯
資金でつくられた「かんぽの宿」と「メルパルク」などが、日本郵政の所有と
なったのである。
 ところで「かんぽの宿」の売却には総務大臣の許可が必要で、中郵では必ず
しもその必要がないのは、かんぽの宿を所有する郵政株式会社の唯一の株主は
財務大臣だが、各地の中郵は郵便局会社の所管で、株主は日本郵政だからであ
ろう。
 2400億をかけたかんぽの宿を、109億円でオリックス不動産に売却しようとし
て問題になったが、新たに「メルパルク」問題をめぐる疑惑も表面化している。
 メルパルクは、郵便貯金の普及宣伝を目的にしてつくられた宿泊施設である
が、かんぽの宿も含めて、郵政官僚の天下り先をつくることが本当の目的であ
ったことは明らかである。メルパルクは現在11の施設があるが、08年6月、土地
建物は日本郵政所有のままで、営業権だけが京都に本社がある「ワタベウェディ
ング」に売却された。
 この入札も、かんぽの宿同様極めて不透明で、実質上は随意契約である。し
かも「営業権はタダ」というウワサもあり、かんぽの宿と同様に真相の徹底的
解明が必要である。
 メルパルク以外にも、旧厚生省のグリーンピア同様の複合型保養施設を建設
したが、民営化直前の07年3月に営業を停止し、その後売却された。
 その売却価格も、「メルモンテ日光霧降」(栃木県日光市)は、210億円の建
設費に対して7億円で「大江戸温泉物語」に売却されているし、「メルパール伊
勢志摩」(三重県志摩市)も、250億円に対して5億円で「近畿日本鉄道」に売
却されているのだ。
 そして問題のかんぽの宿は、全国に100ヶ所近くあったが、30施設はすでに売
却されている。
 これも、75億6000万円の建設費をかけた浦安簡保ホームは7億3000万円、約93
億円の広島簡保検診センターは10億円、仙台検診センターは61億円が11億円で
売られるなど、格安のバーゲンばかりである。合計すると、建設費810億2000万
円に対して売却額は74億7000万円と、10分の1以下である。
                   ▼
 【注】1)国民生活に不可欠で、2)誰でも利用可能な料金など適切な条件で、
3)全国で公平かつ安定的に提供されるべきサービスと定義される。郵便のほか、
電力や電話も法律で供給義務が定められている。

▼莫大な郵貯・簡保資金の行方

 郵政民営化のもう1つの側面は、300兆円を超える貯金・保険の資金を、金融
資本主義の主戦場に流し込むことであった。
 これを最も執拗に要求したのはアメリカ政府であった。
 アメリカ政府は、対日規制制度改革要望書の中で郵政民営化を強く要求し、
郵貯・簡保に対していかなる特権も与えぬよう要求したのである。
 小泉政権の閣僚となった竹中平蔵と、ゼーリック米通商代表の会談は21回に
も及んだというが、結果として日本郵政の株式は全体の3分の2が、郵貯と簡
保の株式はすべて市場に放出されることになった。
 仮に、日本郵政の株式の過半が外国資本に握られることになれば、郵貯・簡
保の資金はハゲタカファンドの餌食になる事は明らかである。「リーマンショ
ック」でアメリカ金融資本主義の破産が明らかになったが、逆に言えばだから
こそ、自分たちの破産を取り繕うためには「何でもあり」という状況になるの
ではないだろうか。
 さらに、国と地方自治体を合わせれば1000兆円を越える借金を抱える日本で
あるが、それを支えてきたのは、郵貯・簡保・年金を財源とする財政投融資
(財投)資金であった。この資金が、大量の国債と地方債を買い支えてきたの
である。
 そして恐らく、これらの財投関連の特別会計は破産寸前であると思われる。
少なくとも大量に抱え込んでいる国債を売却しなければ、新たな資金は出てこ
ない状況にあるのではないだろうか。
 郵政民営化のヤミを明らかにし、同時に特別会計のヤミを明らかにすること
が求められているのである。
(3/25:かがわ・みのる)
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 メール版第62号(通巻186号)      2009年4月30日発行
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