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今、時代は大きな転換期にあると思います。この時代の性格と、今後わたしたちに何が問われているかを、世界や日本の主な出来事の分析を通じて考えます。

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2008/11/26

インターナショナル59

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
                  ┏━━━━━━━━━━━━━━━┓
【月刊ニュースレター:メール版】 イ ン タ ー ナ シ ョ ナ ル
                 ┗━━━━━━━━━━━━━━━┛
 メール版第59号(通巻183号)      2008年11月26日発行
 発行所:MELT
     ホームページアドレス http://www014.upp.so-net.ne.jp/tor-ks/
          Eメールアドレス   melt-ks@jn3.so-net.ne.jp
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わたしたちはいま、大きな時代の転換点に生きているのではないでしょうか?
だから今とは、人間の自立と自律や民衆の自治という新しい民主主義のあり方
と、旧い代行民主主義の葛藤の時代でもあるのでしょう。 
 次々と起きるいろいろな事件や社会現象の分析をとおして、そんな問題を考
えてみたい人たちのためのメールマガジンです。
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
今号の内容:
1:私たちの世界は(世界):【アメリカ大統領選挙】
     非白人層の圧倒的な支持と「ただひとつのアメリカ」
      −争点となった金融危機と富裕層の動揺−
2:私たちの世界は(世界):【世界金融危機】
     人為的な装置が醸成した非常識な市場心理の結末
      −投資銀行を消滅させたモラルハザード−
3:時評:【時評】潔くないぞ!田母神空将
     ●シビリアンコントロールと軍人としての覚悟
4:運動と組織のありかた:【反貧困世直しイッキ!大集会】
         弱さの自覚の上に、強い絆を
      −「社会的労働運動」が姿を現すとき−
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1:【アメリカ大統領選挙】

     非白人層の圧倒的な支持と「ただひとつのアメリカ」

      −争点となった金融危機と富裕層の動揺−

▼選挙結果の特徴

 11月4日に投・開票の始まったアメリカ大統領選挙は、民主党のバラク・オバ
マが、得票率53%、6492万票(アメリカ東部時間7日0時現在)を得て、アメリ
カ史上初の非白人大統領に選出された。それは、ネオコン勢力が主導した8年間
の外交的・経済的破綻に対するアメリカの動揺を示す、その意味で画期的なで
きごとである。
 CNNの出口調査などによれば、今回の大統領選挙の際立った特徴は、高い投票
率と、人種的マイノリティー(非白人)、若年層、低所得者層、働く女性、非
キリスト教徒など、ブッシュ政権に強い不満を持つ人々が圧倒的にオバマを支
持したことである。 
                          *
 投票者全体の75%を占める白人は、男女ともにマケイン支持が多く、とくに
白人男性の6割近くはマケインに投票した。唯一の例外は、18〜29歳の白人若
年層(全体の12%)で、オバマ支持が55%とマケインを上回ったことである。
 他方、投票者の13%を占める黒人層は、男女とも95〜96%という圧倒的多数
がオバマに投票し、同じく8%を占める「ラティーノ」(ラテンアメリカ出身で
「ヒスパニック」とも呼ばれるスペイン語を話す人々)も、前回、民主党のケ
リーへの支持を上回る66%がオバマに投票した。
 性別では、女性の56%がオバマに投票したが、男性では49%でマケインと拮
抗している。また年齢別では18〜29歳(18%)で66%、30代でも54%と若い世
代でオバマ支持が多いのに対して、40代と50代ではほぼ互角、60代ではマケイ
ン支持が過半だった。
 さらに働く女性(30%)と労働組合員のいる世帯(21%)は共に60%がオバ
マを支持し、白人の非クリスチャン(13%)の7割がオバマに投票している。
 白人の、とくに男性を中心とする層との比較で下層に位置する人々の多くが、
ブッシュ政権の8年間を否定的に評価したのは明らかだが、実はマケイン支持
者の中にも、ブッシュ政権への否定的評価があることも確認しておきたい。な
ぜなら、マケインがブッシュの路線を継承しないと考える人が48%おり、その
うちの実に85%がマケインに投票しているからである。

▼富裕層のアイデンティティー危機

 ところで、冒頭で述べたアメリカの動揺、とりわけ9月金融危機で金融グロ
ーバリゼーションの破綻が露になり、これによって生じた動揺が端的に現れた
のは、高所得者層の投票行動である。
 所得別の投票では、年収3万ドル(300万円)以下の低所得者層(18%)の65
%がオバマに投票し、年収3万ドルから5万ドルの「ロアーミドル」(中流の下
:20%)でも、前回の拮抗状態からオバマが55%に支持を広げたのは、今回の
大統領選の特徴を示すものであり、それ以上の所得層、例えば年収15万ドル〜
20万ドルではオバマ48%マケイン50%と、支持は拮抗していた。
 ところが、年収20万ドル(2000万円)以上の高所得層では、52%対46%とオ
バマが6ポイントもマケインを上回り、同時に行われた連邦議会選挙でも、共
和党の大物議員で前院内総務クリストファー・シェイズ下院議員が、ゴールド
マン・サックス出身の「怒れる富裕層」の一人と言われるジム・ハイズに敗れ
る波乱もあった。
                         *
 今回の大統領選の最大の争点は、9月の金融危機を契機にイラク問題や社会
保障問題から経済問題に移行したことは、投票者の最も重視する政策の63%が
「経済問題」だったことに示されている。そしてこの経済問題をめぐって、富
裕層の動揺が現れたことは注目すべき現象だろう。
 それは、危機の要因となった金融グローバリズムへの不信がこの層にまで及
んだことを意味しているだけでなく、新自由主義を信奉するブッシュ政権が9
月の金融危機で「公的資金による救済」を拒否し、それが危機の更なる深刻化
を招いたことへの不満も反映されていると考えられる。
 もちろん「公的資金による救済」を求める富裕層の言動は、多くのアメリカ
民衆にとっては非難の対象であることは、金融安定化法による7000億ドルの公
的資金投入に対する反対が56%と、賛成の39%を圧倒している事実でも明らか
である。
 ところでブッシュ政権の8年間は、強力な軍事力の行使と同時に、世界中の
富をアメリカに集中させる金融グローバリズムという両輪で世界を闊歩してき
たと言えるし、富裕層はとくに後者の政策によって多くの恩恵を得てきた層で
ある。だがその両輪は、イラク戦争のドロ沼化と9月の金融危機で「両足骨折」
の重傷を負い、完全な展望喪失状態に陥ってしまったのだ。
 これが富裕層を動揺させた要因だが、より重要なことは、この動揺には、新
古典派経済学や金融グローバリズムとして持て囃された価値観への疑義、つま
り90年代以降に「強いアメリカ」を実現した、新自由主義的な価値観への疑惑
と不信とがはらまれているだろう点である。
 つまりアメリカ富裕層の動揺はそのアイデンティティー危機の表現であり、
それが「チェンジ」を唱えるオバマへの期待となって、「非白人大統領」への
逡巡を乗り越えさせたと言えるかもしれない。

▼「ポスト公民権運動」の壁

 この、アメリカ史上初の非白人大統領は、政策的争点とは違う意味で、大統
領選挙のいまひとつの焦点であった。
 しかしオバマ新大統領の登場が、この国の人種差別を大幅に改善するか否か
は、予断を許さぬ困難な問題である。
 それを典型的に示したのは、大統領候補を選ぶ予備選中の今年初め、オバマ
が、ジェレマイア・ライト牧師との断交を表明した「スキャンダル」であろう。
 ライト牧師は、1万人の信者を擁するシカゴ最大の黒人教会の牧師だが、彼
が03年の説教で、アメリカ合衆国が黒人に対する人種差別を犯してきた歴史を
語り、黒人は「アメリカよ、神の祝福あれ」と歌うよりも「神の罰を受けよ」
と歌うべきではないかと信者に語りかけたとして、メディアから非難を浴びた
のである。しかもその矛先は、彼と親交のあるオバマにも向けられた。
 オバマは当初、ライト牧師の意見には同意しないが、彼の語る黒人の歴史は
他人事として突き放せないと応じていたが、メディアの激しい攻勢に抗しきれ
ず、結局「ライト牧師との関係を断つ」と表明せざるを得なくなったのである。
 この事件の背景には、80年代以降のアメリカで、「ポスト公民権運動」と呼
ばれる世論が高まったことがある。それは、黒人や人種的少数派の社会的平等
は、1964年の公民権法制定とその後の差別是正政策で達成されたという、現実
とは異なる前提に立ち、この立場から、現在も人種差別を非難するのは「人種
問題」の不必要な強調だと批判する、70年代から現れはじめた「逆差別」の主
張を受けついだ世論である。
 つまりオバマは、黒人やラティーノの圧倒的支持を受けた「非白人初」の大
統領であると同時に、白人を含むアメリカの多数派が求める「ポスト公民権運
動」の枠内に自ら収まり、それもあって選ばれた「アメリカ合衆国の大統領」
でもあるのだ。オバマが選挙期間中に、「白人のアメリカでも、黒人のアメリ
カでもなく、ただひとつのアメリカ合衆国があるだけだ」と語りつづけたのも、
彼のこうした支持基盤に対応している。
 もちろん、黒人奴隷制度の記憶が社会の心的外傷として残っているこの国で、
奴隷の直接の子孫ではないとはいえ黒人の大統領が登場したことは、それ自身
として画期的できごとである。
 ただ「黒人初」を強調する、日本のような報道や論評は、オバマ新政権に対
する評価を不要に混乱させる可能性があることを、肝に銘じておくべきだろう。
                          *
 オバマ新大統領の登場は、何よりもブッシュ政権の8年間を清算し、ネオコ
ンが主導した「新保守革命」なる路線からの転換=チェンジへの期待の現れで
あろう。
 この期待の具体的内容は、ブッシュ政権下で構築された外交的枠組みと金融
構造の転換への期待といえる。つまりひとつは「テロとの戦争体制」の清算で
あり、もうひとつは「金融グローバリズム」からの脱却という課題である。前
者についてオバマは、就任直後からイラク駐留米軍の撤退計画を策定すると表
明しているが、後者は、それ以上に困難な課題であろう。
 もちろん、金融規制システムの再構築の試みは欧州連合(EU)で始まってお
り、G7(先進7カ国蔵相・中央銀行総裁会議)を、中国、ブラジル、ロシアなど
の新興国を加えた20カ国へと拡大した初の会合も開かれた。だが9月の金融危
機で甚大な痛手を被ったアメリカ経済の立て直しは、長期に及ぶ大胆な変革を
伴う大事業となるに違いない。
 オバマ政権に対する評価は、その変革の展望が示されてからになるだろう。
(11/22:きうち・たかし)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
2:【世界金融危機】

     人為的な装置が醸成した非常識な市場心理の結末

      −投資銀行を消滅させたモラルハザード−

▼中枢に波及した危機

 昨年8月、「サブプライムローン」を組み込んだ債務担保証券(CDO)の損失
拡大で欧州の金融機関が次々と経営危機に陥り、これを契機に世界中に広がっ
た金融不安が、ついにアメリカの大手投資銀行を破綻や業態転換に追い込む事
態に発展した。
 直接の契機は9月15日、アメリカ投資銀行大手第4位のリーマン・ブラザーズが、
連邦破産法11条の適用を申請して破綻たことでニューヨーク市場の株価が暴落、
世界同時株安の連鎖が始まったことである。だが、数カ月前から経営危機が顕
在化していたリーマンの破綻が、「大恐慌以来の危機」と言われる金融危機に
まで発展したのは、「期待を裏切られた」金融市場に、予想を越える狼狽が広
がったためであった。
 と言うのは今年3月、同じくアメリカ証券大手のベアー・スターンズが経営
破綻に追い込まれたときは、連邦政府が事実上その損失を補填する形で大手銀
行JPモルガン・チェースに救済買収させ、9月7日には、ファニーメイ(連邦住
宅抵当金庫)とフレディマック(連邦住宅貸付抵当公社)の政府系住宅金融2
社の救済も発表されたことから、「リーマンも救済されるはず」との見通しが
支配的だったからである。
 しかし、ポールソン財務長官が「公的資金での救済はない」と繰り返し表明
してリーマン救済を拒絶したことで、救済合併の交渉は頓挫してしまった。
 リーマン破綻後の金融不安の高まりにもかかわらず、9月27日に「金融救済法
案」が下院で否決されたことでも判るように、連邦政府・財務省は、多くの訴
訟を抱えるリーマンの悪評もさることながら、詐欺まがいの住宅ローン貸し付
けに関して全米で400人を越える逮捕者が出ているなど、「強欲な」投資銀行救
済に対する批判が高まり、リーマン救済を躊躇せざるをえない事態に直面しつ
つあったのである。
 だがリーマンの破綻は、ニューヨーク株式市場の暴落と、世界同時株安とい
う最悪の展開の引き金となった。この事態に驚き、連邦政府は金融救済法案の
提出へと180度の路線転換に追い込まれたが、投資銀行もまた、なりふりかまわ
ぬ自己保身に走った。投資銀行大手3位のメリルリンチは、大慌てで大手銀行
バンク・オブ・アメリカへの身売りを決め、同じくゴールドマン・サックスと
モルガン・スタンレーも、連邦政府による規制と保護の対象となる銀行持ち株
会社への「変身」を余儀なくされた。
 こうして、金融グローバリゼーションの頂点に君臨し、金融工学を駆使した
多様な金融派生商品の開発・販売と、高レバレッジ(高い借入比率)の手法で
荒稼ぎをしてきたアメリカ大手投資銀行は、わずか数日の間に姿を消し、独立
系の大手投資銀行と呼べる金融機関は、野村ホールディングスを残すのみとな
ったのである。

▼「非常識な市場心理」の形成

 もっとも、大手投資銀行の消滅が、投資銀行が引き受けてきた多様な金融業
務やビジネスモデルの消滅を意味する訳ではない。現に多くの銀行持ち株会社
は、その傘下に商業銀行と共に「投資銀行」を抱え、銀行と証券の分離規制の
撤廃を受けて、商業銀行の多くも投資銀行と同様の業務を行う部門を抱えても
いるからだ。
 その意味では、現在の金融危機の背景や要因について、ひとつは投資銀行の
相次ぐ破綻の要因となったモラルハザード(倫理崩壊)の問題として、いまひ
とつは世界的な金融バブルの背景である「空前の金余り」、つまり後期資本主
義の危機の現れである過剰流動性の問題として、それぞれ区別して考える必要
があると思う。
 本稿では、大手投資銀行の消滅に帰結した金融危機と、その要因となったモ
ラルハザードについて考えてみたい。
                           *
 もともと「投資銀行」と邦訳されているアメリカ型金融業は、日本では「法
人向け総合証券会社」と理解した方がなじみやすい。だが反面で、日本におけ
る証券会社のイメージは、株式売買の取り次ぎを行う「証券ブローカー」とい
う、リティール証券に限定されているのも実情だろう。
 しかし投資銀行と証券会社の収益源は、企業が金融市場から直接資金を調達
するのを仲介して手数料を稼ぐこと、つまり証券や社債の発行仲介手数料を稼
ぐことであり、他には財務リスクヘッジ(=債務不履行の危険への歯止め)や
M&A(企業の買収や合併)への助言や仲介、つまり顧客企業と有料のアドバ
イーザー契約を結ぶなどにある。
 そして金融仲介業の必要は、投資銀行が消滅しても無くなりはしない。
 もっとも、全盛を誇ったアメリカの投資銀行が築き上げたビジネスモデルは、
これら金融仲介業に加えて、自ら資金を調達した投資(トレーディング)を最
大の収益源とするような、いわば自らが「ヘッジファンド化」して荒稼ぎをす
るモデルであり、その投資先が、金融工学を駆使した多様な金融派生商品だっ
たのである。
 ただ問題の核心は、投資銀行が「最も利回りの良い」投資先、言い換えれば
短期間で高収益を得ることができる投資として顧客にも推奨した金融派生商品
の多くが、実は「高いリスクに見合う高い利回り」(ハイリスク・ハイリター
ン)だったにもかかわらず、金融工学という複雑な確率算定数式に依存した証
券化技術と、アメリカ証券取引委員会(SEC)がお墨付きを与えた「格付け会
社」による格付け(=リスク評価)によって、まるで「低いリスクで高い利回
り」(ローリスク・ハイリターン)が可能な「夢の金融商品」であるかのよう
な、非常識な市場心理が醸成されてきたことにある。
 金融工学の、とくにディフォルト(債務不履行)確率を算定する怪しげな論
理ついては、本紙176号(07年10月)の「『根拠なき熱狂』をあおった米住宅
バブルと債務担保証券」で触れたので、ここでは省略する。
 ただCDO(債務担保証券)価格の大半は、この怪しげな数式で算定された「
理論価格」であり、それが金融機関の損失の確定を困難にし、「何処にどれだ
け損失があるのか判らない」という相互不信を助長し、金融機関の短期資金調
達を困難にして流動性危機(クレジット・クランチ)を深刻化させ、金融不安
を一段と深刻にした大きな要因であることを付け加えておきたい。
 と言うのも「理論価格」は、サブプライムローンを組み込んだCD0をはじめ、
多くのCDOが市場ではほとんど流通していない為に必要とされたからである。つ
まりCDO売買の大半は、証券市場の自由な取引ではなく、対面販売の形でヘッジ
ファンドや機関投資家そして他の金融機関に販売されていたために、新自由主
義者が偏重する「市場価格」が形成されなかったのだ。結果として買い手の無
くなったCDOは、投げ売りさえできない事態に陥ったのである。
 「すべてを市場に委ねる」を旗印にした新自由主義の下で、市場価格が成立
しないCDOが大量に売買され、それが金融バブルを醸成したという事実の中に、
90年代以降の金融グローバリゼーションの危うさが凝縮されていると言う他は
ない。
 しかもこうした「理論価格」や「リスク評価」の怪しげさを隠蔽し、「非常
識な市場心理の形成」に積極的役割を果たしたのは、SECのお墨付きを得た格付
け会社の「格付け」というリスク評価や、金融工学の権威づけに貢献した「ノ
ーベル経済学賞」など、市場原理とは無縁な「人為的装置」だったことは、あ
まり問題にされていない。
 だが、これら「人為的装置」の検証ぬきには、今日のモラルハザードの正体
は見えてこないだろう。

▼コーポレート・ガバナンスの監視役

 では、SECの「お墨付き」得た格付け会社とは何者だったのだろうか。
 ドルと金の公式な兌換停止から4年後の1975年、SECは幾つかの有力な格付
け会社(レーティング・エイジェンシー)に、「NRSRO」なるお墨付きを与え
た。
 全国的に(Nationally)、認められた(Recognized)、統計処理をする
(Statistical)、格付け(Rating)、組織(Organization)の頭文字を取っ
たNRSROは、創設から30年以上も経た今日でも、世界でたった7社しか認定さ
れていない。日本には、07年9月に認定された日本格付研究所(JCR)と格付
投資情報センター(R&I)の2社があるだけだ。
 この7社の内の上位2社、ムーディーズとスタンダード・アンド・プアーズ
(S&P)は、両社合わせて世界の格付けシェアの80%超を占める絶大な影響力
を持つが、その格付け、つまり「お墨付きのリスク評価」の威力をまざまざと
見せつけた例がある。
 本山美彦著『金融権力』(岩波新書)によると、1991年末、アメリカ自動車
メーカービッグ3のひとつGM(ゼネラル・モータース)が45億ドルの巨額損
失を発表すると、ムーディーズがGMの格下げを発表、これを受けたGMは21の
工場閉鎖と7万4千人の人員整理というリストラ計画を発表した。GM経営陣は、
資金調達を困難にする「格下げ」に押されて、大量解雇に踏み切ったのであ
る。
 ところが翌92年3月、今度はS&Pがリストラ計画が不十分だとしてGMの格下
げを発表、さらにS&Pは11月に、GMが新機軸を打ち出さない限り、格付けをジ
ャンク・ボンド並に、つまり「投資不適格」に引き下げると警告し、翌93年
にこれをを実施した。理由は、同社の年金資金の積立不足と莫大な医療費の
支払いだったが、これによってGMはCP(コマーシャル・ペーパー)の発行が不
可能になり、金融市場で資金を調達できない事態に陥ったのである。
 GMのような巨大企業さえ、NRSROによる格付け引き下げに抗し得ないとすれ
ば、他の企業は推して知るべしである。現に日本に進出したムーディーズと
S&Pは、1997年に日本企業の格付けを執拗に引き下げ、その年の11月には、戦
後最大となる山一証券の倒産が起きたのである。
 これだけの影響力を持つNRSROだが、SECはその認定基準を公表していない
し、格付け基準も個々の格付け会社に委ねられ、実態は不透明というよりブ
ラックボックスである。だがその意図は、明快である。
 『エコノミスト』誌(94年1月29日号)は、利益最大化の原則を取るよう企
業所有者を誘導し、その原則以外の考え方で行動しないよう監視する役割を
格付け会社が果たしてきたと報じたが、この「利益を最大化する」行動原則
は、当時のクリントン政権が推奨する「コーポレート・ガバナンス」(企業
統治)に他ならなかったのである。直接金融よりも間接金融への依存が大き
いドイツや日本の企業の格付けが低いのも、グローバル・スタンダード(世
界標準)とされたコーポレート・ガバナンスを基準にしてのことであり、そ
の監視役を果たす格付け会社、とくにNRSROと認定されたそれは、グローバル
・スタンダードを世界中の企業に押しつける道具=こん棒だったのである。

▼最上級格付けの瓦解とレバレッジ

 ところが今回の金融危機では、格付け最上級の「AAA」(=トリプルA)が、
次々と破綻に追い込まれた。
 その典型は、住宅バブルに陰りが見えはじめる前の05年まで、最大最強の
保険会社としてAAAの格付けだったAIG(アメリカン・インターナショナル・
グループ)が、AAAよりも安全とされ、「スーパー・シニア」と呼ばれる最
強のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の損失拡大で、リーマンが破
綻した翌日の9月16日、連邦政府による850億ドルの緊急融資を受け、事実上
の国家管理下に置かれたことである。
 CDSとは「デフォルト保険」、つまり証券化商品が債務不履行になったとき、
その元本を保証する金融商品だが、AIGはその最大の売り手であり、保証した
証券化商品の元本総額は4410億ドルに上っていた。
 しかもAIGのCDSは、格付け上は「最強の保険会社」が売った「最も安全な
CDS」ということになり、そのCDSさえ決済できないとなれば、CDSやモノライ
ン(金融保証専門会社)の保険の上に成立している金融派生商品市場600兆ド
ル(なんと6京円!)は一挙に瓦解し、アメリカ発の金融恐慌が世界経済を襲
うのは確実だった。
 これが、連邦政府・財務省があらゆる逡巡を振り切って、1民間企業たる
AIGを救済した理由であり、単に「大きすぎて潰せない」ということではなか
ったのだ。
 その後の「金融救済法案」の否決とニューヨーク市場の暴落、手直しされ
た「金融救済法」の成立と更なる株価の暴落と、連邦政府の混乱と金融危機
の拡大がつづいたが、事はそれに止まらなかった。
 ヨーロッパでは、今年5月までAAAだった金融グローバリゼーションの優等
生・アイスランドが、「国家非常事態宣言」を発して銀行の国有化に追い込
まれた。
 9月末から10月初旬にかけて国有化された3大銀行のカウプシング、ラン
ズバンキ、グリトニルは、00年の民営化を機に投資銀行化し、海外から莫大
な資金を借りてイギリスやデンマークに投資してきた。日本では「テコの原
理」などと訳される、高レバレッジ(高い借入率)投資である。
 非居住者口座預金を含む3行の資産総額は、アイスランドGDP(国内総生
産)の実に10倍にも達していたが、世界株式市況の暴落でバランスシートに
はGDPの何倍もの損失が生まれ、短期の対外借り入れだけでもアイスランドの
外貨準備の15倍と、文字通り国家が破産の危機に直面したのだ。
 これほどの高レバレッジと比べれば、AIGが自己資本の4倍の想定元本保証
をしたのは可愛い部類だが、そのアイスランドにAAAの格付けが付与されてい
たのは、借入で投資額を膨らますレバレッジこそは、グローバリズムの「正
しい生き方」、つまりアメリカ金融資本の推奨するコーポレート・ガバナン
スだったからに他ならない。
 そもそも短期資金の借り換えを繰り返しながら、証券化された住宅ローン
のような長期債券に投資すること自体、財務体質の脆弱化をもたらさずには
おかない。借り換えや資金調達に支障が出れば、たちまち経営破綻に追い込
まれるからだ。そのうえ、借金で投資額を膨張させるレバレッジが奨励され
て多用されれば、自己資本比率(対資産)がたった1%という、変身を余儀な
くされたモルガン・スタンレーのような投資銀行は持ちこたえられるはずも
ない。
 アイスランドの実例は、金融グローバリズムによるモラルハザードの行き
着く先を暴いて余りある。

▼「ノーベル経済学賞」の虚構

 AAAの凋落はいまや覆い隠しようもないが、格付けというリスク評価の算定
もまた、金融工学の産物であった。
 この金融工学という新しい技術(そう!これは学問というより技術なのだ)
に、NRSROによる格付けのような権威を与え、「非常識な市場心理の醸成」に
大いに貢献したもうひとつの「人為的装置」が、「ノーベル経済学賞」であ
る。
 実はこの賞は、正確には「ノーベル賞」ではない。正式には「アルフレッ
ド・ノーベルを記念するスウェーデン国立銀行による経済科学賞」という名称
で、スウェーデン国立銀行がノーベルを偲んで、1968年に設立した賞である。
だから選考方法や賞金額は他のノーベル賞と同じだが、その賞金はノーベル
財団からではなく、スウェーデン国立銀行によって支払われている。
 「ノーベル経済学賞」のいかがわしさは、ノーベル賞の選考機関であるス
ウェーデン・アカデミーが、1997年にスウェーデン国立銀行にその廃止を要
請したことや、ノーベルの兄弟のひ孫であるピーター・ノーベルら4人のス
ウェーデンの人権派弁護士が、2001年に地元の「ダーグブラデット」紙に、
経済学賞は「人類に多大の貢献」をした人への授与というノーベルの遺訓に
そぐわないとの批判を寄稿したことでも知れる。
 しかもこの賞のおよそ3分の2はアメリカの経済学者に授与され、とくに
新古典派経済学の牙城として有名なシカゴ学派のオプション理論やリスク評
価モデルに与えられているのも、際立った特徴である。
 これだけでも、この賞の果たした役割は十分に推察できるが、その最初の
綻びが露呈したのは、ノーベル経済学賞の受賞経済学者2人が参画したヘッ
ジファンド=LTCM(ロング・ターム・キャピタル・マネジメント)が、ロシ
ア国債のデフォルトをきっかけに、巨額の損失を被ってあっけなく破綻した
1998年のことである。
 このとき、LTCMの「金融界のドリームチーム」は、ロシア通貨危機は「標
準偏差値10個分の現象だ」と言う有名な言葉を吐いた。標準偏差値10個分は
数百億年に1回のことで、宇宙の歴史を数回やり直しても1回しか起きない
現象だと言い放ったのだ。
 それはまるで「間違っているのは現実の方だ」と言わんばかりの迷言だが、
金融工学のこうした致命的欠陥は、自然科学ではよく用いられる確率論の
「頻度理論」を、安易に経済学に適用した結果である。
 簡単なことだが、自然科学の分野で現れる諸事象の確率頻度は、長期に渡
って数多く反復される事象が「確率を数値化する」基礎になっているが、主
観的意図や思惑でバラバラに行動する無数の人間が営む経済現象では、「長
期に渡って数多く反復される事象」などあり得ない。人間は学習し、新たな
制度や技術を開発するからだし、ケインズが喝破したように、人々の経済行
動の多くは、将来への不安など、心理的要素にも大きく影響されるからであ
る。
 つまり経済学的な「予測」とは、「10年の間に一定の地域で戦争が起きる
確率」を予測するような不確実なものであって、宇宙工学やロケット工学が
「宇宙船と隕石が衝突する確率」を数式を用いて予測するのとは、基本的に
性質を異にするのだ。
 わたしが、金融工学を「怪しげな」と形容するのは、こうした致命的欠陥
を持つからに他ならないが、それはそのまま「ノーベル経済学賞」のいかが
わしさで
もある。
 だがこうして、90年代以降の国債金融市場は、NRSROやノーベル経済学賞と
いった「人為的装置」によって、繰り返して言うが「市場原理」とは無縁な、
むしろ政治的な意志によって、大きな変貌を余儀なくされてきたのである。
 この政治的意志とは、「ワシントン・コンセンサス」と呼ばれた、アメリ
カ金融資本の国際的優位を実現しようとするものだったのだが、それに言及
する紙幅はない。それは次号以降の課題としたい。

▼緊急課題は金融取引の規制

 最後に、本稿の目的であるモラルハザードについて考えてみよう。
 モラルハザードは「倫理崩壊」などと訳されるが、もう少し正確に言えば、
新しい制度や技術が、その本来の目的とは違った結果に帰結することを含意
している。「強欲な経営者」が、倫理や道徳を無視した儲け主義に走ると言
った矮小な事象とは、少しばかり意味が違うのだ。
 具体的に言うと、「リスク・ヘッジ」つまり金融取引上の損失の可能性に
対して、それを最小限に止めようとする技術や取引の開発は、それ自身とし
ては安定した経済活動に必要なことでもある。だがそれが、ヘッジファンド
として富裕層による資産運用の手段となり、さらにファンド相互が資金集め
を目的に高配当を競い合うようになれば、リスクを回避するはずの資産運用
も次第にレバレッジを効かせた投機の様相を呈し、「リスク・ビジネス」な
る本格的な投機へと変貌する。このように、リスクヘッジ本来の目的が後景
に追いやられ、リスクビジネスなる投機がそれに取って代わるような事態が、
問題とすべきモラルハザードである。
 「債権の証券化」も、その本来の目的は、住宅ローンのような長期債権を
ひとつの金融機関が保有しつづけるよりも、「住宅ローン担保証券」(MBS)
の形で多数の投資家に分散して保有してもらい、証券販売で回収された資金
を新たなローン原資として貸付に回そうというものであり、それ自身として
は「リスクの分散」という意味でも、資金の効率的活用という意味でも、決
して「怪しげな」金融商品ではない。
 ところが金融会社が「証券を売る」ことを目的に、しかも「より魅力的な」
金融派生商品の開発という名目で、プライム(優良)ローンもサブプライム
ローンもごちゃ混ぜにしたMBSを組成し、さらに他のクレジットローン担保証
券などと束ねて新たなCDO(債務担保証券)にする再証券化を繰り返し、価格
さえ金融工学の数式でしか決められないCDOを大量生産すれば、数式がいかに
精緻だろうと、そのリスクを正確に管理するのが不可能になって当然だろう。
 こうしてMBSやCDOは、事実上金融会社の債権リスクを簿外に「飛ばす」手
段と化し、帳簿上のリスクが消える分だけ融資資格審査は軽視され、ついに
は、住宅資金を貸し付けてMBSやCDOを売るだけで「利益の最大化」が実現で
きるという、「非常識な市場心理」が醸成された。その結果が、詐欺まがい
の手法で無収入の失業者にまでローンを組ませる、貸付競争の激化であった。
 蛇足ながら「飛ばし」は、倒産した山一証券が、当時は不良債権や損失隠
しのために多用した手法である。
 これが、金融危機の契機となったサブプライムローン問題のモラルハザー
ドの正体であり、それを促進した道具と技術が、NRSRO認定の格付け会社と、
ノーベル経済学賞で粉飾された金融工学であった。
                           *
 このモラルハザードの結末は、極めて深刻である。世界経済は、文字通り
奈落の淵に追い詰められている。
 しかもモラルハザードが、以上述べてきたように引き起こされたとすれば、
それを回避するための金融取引の規制は、最優先の重要課題である。レバレ
ッジの上限規制、CDS組成の際の構成要件の制限と情報公開、リスク管理の義
務化等々、それこそ「公正な市場」を実現するためにも必要な金融取引規制
の必要性が、これほど明快に認識される事態はないからである。
 もちろん、アメリカ金融資本の代弁者たちは、必ずや「行き過ぎた規制」
に反対するだろう。だが、90年代以降の「金融グローバリゼーション」の完
全な破産は、いまや誰の目にも明らかである。
(11/14:さとう・ひでみ)
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3:【時評】潔くないぞ!田母神空将

●シビリアンコントロールと軍人としての覚悟

 航空自衛隊のトップ・航空幕僚長の田母神(たもがみ)空将が、定年退官を目
前に更迭されたのは、10月31日である。理由は、「わが国が侵略国家だったと
いうのはぬれぎぬ」だとする論文を、民間企業が主催した懸賞論文に応募した
ことだが、この問題について国会は11月11日、参議院外交防衛委員会に田母神
前幕僚長を参考人として招致し、その見解を問い質した。
 その焦点は、1:文民統制(シビリアン・コントロール)に関する田母神の
認識と、2:麻生内閣も踏襲すると表明した「村山談話」という政府見解につ
いて彼の認識を問い質すことだったが、2:について田母神は、議場外とは言
え「村山談話は言論弾圧の道具だ」と公言して自ら確信犯であることを認めた
が、肝心の1:については、文民統制の何たるかを、田母神だけでなく、与野
党もまったく理解していないことが露になった。
 文民統制の根幹は、「文民政府が軍を統制する」だけではなく、軍=自衛隊
自身もまた政府の統制に服するのを「承認する」ことにある。だが田母神の答
弁は、彼と自衛隊の一部には、こうしたコンセンサスが決定的に欠如している
ことを暴くものだった。
 彼の答弁は、軍事行動を直接指揮する自衛隊の最高責任者が、最高司令官た
る総理大臣が率いる政府の政治見解に同意せず、だから戦争指導に関わる政府
の政治判断に従わなくとも構わないと主張するに等しいのに、政治の側は、与
党も野党も、これをまったく追及しなかったのである。
 田母神の主張がどれだけ非常識かを示すために、ひとつの例を挙げよう。そ
れは、9月にイラク駐留米軍の新司令官に就任したレイモンド・オディエルノ
中将が、CBSのインタビューに答えた、高級軍人=将官と支持政党の関係につい
ての言及である。
 大統領選挙を目前にして、インタビュアーが彼に支持政党を尋ねたのに対し
て、オディエルノ中将は、「私は将官に就任したとき、選挙で投票するのを辞
めたのです。私の任務は、最高司令官(大統領)の命令に従うことだからです」
と答えた。
 ここまで徹底しないまでも、軍人の最高位たる将官への昇進は、文民統制を
遵守しようとする限り、政府の決定=その政治的見解に基づく判断と命令に従
う「覚悟」が必要になるのは当然だろう。そしてもし田母神のように、政府見
解に同意できない強い信念があるのなら、将官昇任を潔く辞退するか、少なく
とも自衛隊の最高責任者への就任は、辞退して当然ではないか。
 ところが戦後生まれ(1948年)の、「平和ボケした日本」で育った田母神は、
軍事官僚としての栄達=幕僚長就任は喜んで受け入れた一方で、政府の命令に
従う覚悟もなく、かと言って職を賭(と)して「村山談話」の見直しを求めた
訳でもない。あげくに「言論の自由がないのは北朝鮮と同じ」と放言しながら、
「言論弾圧」に抗議して退職金をたたき返す気骨も見せはしないのだ。
 何とも〃潔くない〃田母神の態度だが、国会では、「なぜ幕僚長就任を辞退
しなかったのか」という核心を突く質問は、野党からもついに出なかったので
ある。
 文民統制がこの程度にしか理解されていないのだとすれば、旧帝国陸軍によ
る満州事変の「独断専行」が、どれほど悲惨な結末を迎えたかというこの国の
歴史的教訓は、活かされるはずもない。(Q)
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4:【反貧困世直しイッキ!大集会】

         弱さの自覚の上に、強い絆を
      −「社会的労働運動」が姿を現すとき−

▼反貧困全国キャラバン

 「反貧困世直しイッキ!大集会・明治公園に2千人」(朝日)、「反貧困ネッ
トワーク『私は部品じゃない』2千人が訴え」(毎日)、「自己責任ではない 
命を削らないで『反貧困ネット』都内で2千500人集会」(東京)。
 10月20日各紙の政治面、社会面トップに掲載された反貧困集会の見出しであ
る。かつて春闘や総評大会の記事は常にニュースのトップを占めていたが、近
年、労働問題がこれほど注目されたのも珍しい。
 10月19日、東京・明治公園で、反貧困ネットワーク主催の「反貧困世直しイ
ッキ!大集会」が、2千人の労働者、市民の参加で開かれた。
 反貧困ネットワークは、市民団体、労働組合、法律家団体などが集まって昨
年10月に結成された。その後、「今こそ、私たち一人一人が世直しに立ち上が
り、垣根を越えてつながっていくとき」とのアピールを発して、7月から東西
2コースで全国キャラバンを展開、10月19日に明治公園に結集した。反貧困ネ
ットワークは当日のプログラムで、自らを次のように自己紹介している。
 反貧困ネットワークは、日本で初めてできた貧困問題に幅広く取り組むネッ
トワークです。貧困問題に取組む多様な市民団体・労働組合・法律家・学者諸
個人が集まり、人間らしい生活と労働の保障を実現し、貧困問題を社会的・政
治的に解決することを目的として2007年10月に発足しました。私たちは、貧困
問題解決のために、さまざまな諸団体との連携の下、1:当事者のエンパワー
メント、2:学習会・イベント・ホームページなどを通じた社会的問題意識の
喚起、3:政・官・財各界への働きかけ、4:その他の活動を行っていきます。
「見えない」貧困問題を「見える」ようにして、社会全体で取組むように、皆
で声を上げていきたいと思います。
 全国キャラバンは、西日本コースが北九州市(7月12日)から、東日本コース
がさいたま市(同13日)からスタートした。北九州市や埼玉県がスタート地点
に選ばれたのは、生活保護打ち切りの結果である餓死事件(北九州市)や、行
政の生活保護打ち切り策動に対する三郷生活保護裁判(埼玉県三郷市)を意識
してのことだ。
 東日本コースのスタートとなったさいたま市の集会では、民主、共産、社民
党の国会議員と同時に、自民党国会議員も連帯あいさつを行った。また、笹森
清前連合会長は中央労働福祉協議会会長の肩書で「人間らしい生活を求めて」
をテーマに記念講演。彼は1989年の連合結成時には不倶戴天の敵であった国労
のスローガン、「1人の100歩よりも100人の1歩」を紹介しつつ、団結して貧困
と闘うことの重要性を強調した。
 この日のパネル討論出席者は、NPO法人自立生活サポートセンター事務局長の
湯浅誠さん、NPO法人ほっとポット代表理事の藤田孝典さん、首都圏青年ユニオ
ンの河添誠さん。また、連合埼玉、埼玉県労連(全労連系)の2つの労働団体
や埼玉弁護士会などから発言があった。
 3ヵ月の全国キャラバンを経た10月19日の反貧困世直しイッキ!大集会では、
派遣労働者やシングルマザー、生活保護受給者などが〃現代の貧困〃の窮状を
訴えた。全体集会後は12のワークショップに分かれて、正味2時間の真剣討論。
住まい、労働、食の危機、死刑廃止、多重債務・消費者問題、社会保障、後期
高齢者・医療制度、女性と貧困、子ども、フェアトレードなど、ワークショッ
プで取り上げた課題は、従来の労働運動の常識的枠組みを超えた社会問題その
ものといってよい。現代の貧困と正面から取り組もうとするならば、その課題
はこのような幅を持って山積しているのである。
 それは、私たちが主張してきた「社会的労働運動」と重なるのだが、さらに
そこには政治への要求が加味されている。解散・総選挙間近と思われていたこ
の時点でのワークショップの課題設定は、総選挙での争点化を狙ったものだっ
た。
 その趣旨は、「集会宣言」にもっともよく示されている。【資料参照】

▼運動の幅を広げた格差の拡大

 それでは「反貧困世直しイッキ!大集会」と、全国キャラバン運動の特徴と
意義を振り返ってみたい。
 それは第1に、7月のさいたま市で開かれた全国キャラバン東日本コースの
出発集会が見せた幅である。
 この集会には、連合埼玉と埼玉県労連という2つのナショナルセンターの地
方組織が正式に参加、記念講演は前連合会長が行った。また各党からのあいさ
つには、民主党、共産党、社民党の国会議員と並んで、自民党議員までもが登
場した。これは、驚くべき幅である。
 1989年に連合が発足したときの綱領「進路と役割」は、当時の総評左派(社
会党系左派と共産党系)の屈伏ないしは排除を目的とする〃反共〃綱領であり、
共産党系の全労連と連合が同じ集会に顔を並べるなど、あり得ない事態であっ
た。自民党議員の連帯あいさつも同様である。
 ところが反貧困全国キャラバンでは、このあり得ないことが現実のものとな
った。その実現の圧力となったのは、ワーキングプア問題が照らし出した日本
社会の深刻な格差拡大である。
 ワーキングプア問題が示した格差拡大の現状は、〃中流社会〃を謳歌してい
た10年前の日本社会と比べるならば、信じられないような過酷な社会である。
 いつでも解雇が可能な日雇い派遣労働の下で、年収200万円にも満たない数百
万人の若者たちが不満を鬱積させながら呻吟している姿、派遣労働の解雇によ
って住居を失い、ネットカフェ難民・路上生活者にならざるを得ない現実、生
活保護費の削減による餓死者の続出、健康保険から除外された膨大な人々。あ
まねく平等であり、健康で文化的な生活を享受していると信じられていた日本
的中流社会は10年後、失業から住居の喪失、餓死までの間に社会的なセーフテ
ィーネットがほとんど存在しない、恐るべき格差社会に変貌していたのである。
 このような惨状が過去との対比で鮮明であるだけに、ブルジョア的常識から
見ても異常な格差社会に対して、多くの人々が異議申し立てをせざるを得ない。
反貧困運動が有している幅は、このような現状に規定されているのであり、異
議申し立てに賛同する層をさらに拡大させていくことが可能である。

▼テーマの広がりと政治的な要求

 反貧困運動が持っている第2の特徴は、運動主体の深まりである。
 この運動の中心的担い手であるNPO法人自立生活サポートセンターやNPO法人
ほっとポットは、ホームレス支援としての生活保護受給申請へのサポート活動、
地域生活サポートホーム(住居のない生活困窮者の一時的居住のため一軒家の
借り上げ活動)の創設など、社会運動として労働問題にアプローチしてきた団
体である。
 このような社会運動と、非正規雇用労働者の組織化を通じて発展してきた様
々なユニオン運動が結合し始めたのである。そこには労働と生活、職場と地域
をトータルに問題化せざるを得ない方向性が最初から内包されているのであり、
日本の労働組合運動の宿痾(しゅくあ)とでもいうべき企業内組合とは一線を
画す、新しい質を持った運動の広がりが示されているといってよい。
 それは、10月19日の「反貧困世直しイッキ!大集会」でのワークショップに、
如実に示されている。住まい、労働、食の危機、死刑廃止、多重債務・消費者
問題、社会保障、後期高齢者・医療制度、女性と貧困、子ども、フェアトレー
ドというワークショップのテーマは、従来の個別的な労働運動の常識的枠組み
を超えた、〃人間としての生存〃を求める根源的内容である。
 われわれはかつて、このような労働運動の登場を希求しつつ、それを「社会
的労働運動」と呼んだ。いま姿を見せつつある反貧困運動は、未定型的要素が
多分に含まれているにせよ、そのような新しい運動の開始である。
                        *
 この運動の持つ第3の特徴は、反貧困運動の現実に根ざした政治的要求を掲
げ始めたことである。
 ワークショップで掲げられたテーマは、いずれも改良主義的な政治的解決を
必要とするものである。しかも政治的解決を求めるこの要求は、金融危機に見
舞われ、トヨタを中心とする大企業自動車メーカーで大量の派遣労働者が解雇
されている現実を見るならば、ますます切実である。
 資料として掲載した集会宣言は、この点を簡潔に「貧困を解消させる第一の
責任は、政治にある」と述べている。反貧困運動の規模はまだささやかではあ
るが、その運動が持っている質からして、今までとは異なる新しい政治勢力を
求めるものへと発展していくであろう。
 「100年に1度」とマスコミも言わざるを得ない世界金融危機の中で、日本の
社会に誕生した新しい運動の試みを大きく発展させなければならない。それは
かつての運動の失敗を背負う古い世代の責務であると強く感じている。
(11/16:あらい・たかよし)

                    *  *  *
【資料】反貧困世直しイッキ!大集会「集会宣言」

 私たちは、今日ここに「世直し」のために集まりました。
 どんな世を直すのか。
 それは、人が人らしく生きられない、人間がモノ扱いされる、命よりもお金
や効率が優先される、貧困が広がる、そんな世を直すためです。
 どうやって直すのか。
 それは、一人一人が声を上げ、場所を作り、それによって仲間を増やし、守
られる空間をつくり、一人じゃないことを確認し、そして相互に垣根を越えて
つながっていくことで直します。
 私たちの社会は今、間違った方向に進んでいます。私たちはそれを直したい。
それが、私たちの責任です。「自己責任」などは、決して私たちが取るべき責
任ではない。私たちには私たちの、市民には市民の責任の取り方がある。
 いま、日本社会は大きな岐路に立っています。
 労働者をいじめ続けるのか、人間らしい労働を可能にしていくのか、
 社会保障を削り続けるのか、人々の命と暮らしを支える社会にするのか、
 お金持ちを優遇し続けるのか、経済的に苦しい人たちへの再分配を図るのか、
 生存権を壊すのか、守るのか。
 私たちの選択は決まっている。私たちは、人間らしい生活と労働の実現を求
める。
 選挙が近い、と言われています。
 政権選択の選挙だと、言われています。
 しかし、私たちが求めているのは単なる政権交代ではない。日本社会に広が
る貧困を直視し、貧困の削減目標を立て、それに向けて政策を総動員する政治
こそ、私たちは求める。
 そのためにはまず、労働者派遣法の抜本的改正が必要である。また、社会保
障費2200億円削減の撤廃が必要である。
 しかし、それだけでは足りない。雇用保険、職業訓練、年金、医療・介護、
障害者支援、児童手当・児童扶養手当、教育費・住宅費・子ども支援、生活保
護、あらゆる施策の充実が必要である。この国ではそれらが、貧しすぎた。政
治は、政策の貧困という自己責任こそ、自覚すべきだ。道路を作るだけでは、
人々の暮らしは豊かにはならない。
 そしてその上で、国内の貧困の削減目標を立てるべきだ。貧困を解消させる
第一の責任は、政治にある。
 私たちが「もうガマンできない!」と声を上げてから一年半。私たちは着実
に、仲間を増やしてきました。私たちの仲間はすでに全国各地に存在し、分野
を越え、立場を越え、垣根を越えたつながりを作り始めている。
 小さな違いにこだわって、負け続けるのはもうたくさんだ。敷居を下げ、弱
さを認め、弱さの自覚の上に、強い絆(きずな)を作る。それが、私たちの運動
であり、私たちの世直しだ。
 声をあげよう。
 居場所を作ろう。
 仲間を増やそう。
 一人一人が、もう一歩を踏み出そう。
 そして、社会を変えよう。政治を変えよう。 もう一度言う。
 私たちは、垣根を越えたつながりを作ろう。
 労働者派遣法を抜本的に改正させ、社会保障費2200億円削減を撤回させよう。
 貧困の削減目標を立てさせよう。
 そして、誰もが生きやすい社会を作ろう。
 それが、私たちの権利であり責任だ。
 以上、宣言する。
                    *   *   *
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【お知らせ】11月号を配信します。
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                ┏━━━━━━━━━━━━━━━┓
【月刊ニュースレター:メール版】イ ン タ ー ナ シ ョ ナ ル
                ┗━━━━━━━━━━━━━━━┛
 メール版第59号(通巻183号)      2008年11月26日発行
 発行所:MELT
    ホームページアドレス http://www014.upp.so-net.ne.jp/tor-ks/
         Eメールアドレス   melt-ks@jn3.so-net.ne.jp
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