2008/02/25
インターナショナル54
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆ ┏━━━━━━━━━━━━━━━┓ 【月刊ニュースレター:メール版】 イ ン タ ー ナ シ ョ ナ ル ┗━━━━━━━━━━━━━━━┛ メール版第54号(通巻178号) 2008年2月25日発行 発行所:MELT ホームページアドレス http://www014.upp.so-net.ne.jp/tor-ks/ Eメールアドレス melt-ks@jn3.so-net.ne.jp ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆ わたしたちはいま、大きな時代の転換点に生きているのではないでしょうか? だから今とは、人間の自立と自律や民衆の自治という新しい民主主義のあり方 と、旧い代行民主主義の葛藤の時代でもあるのでしょう。 次々と起きるいろいろな事件や社会現象の分析をとおして、そんな問題を考 えてみたい人たちのためのメールマガジンです。 @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ 今号の内容: 1:私たちの時代とは(世界):●世界同時株安の再燃 モノラインショックと日本株の一人負け −米金融資本の国富ファンドの導入− 2:私たちの時代とは(日本):●薬害肝炎訴訟の和解 官僚の抵抗と保守政治の「知恵」 −政府・厚労省を追いつめた原告団の闘い− 3:生活と環境:●食料は「輸入で済む」のか? 輸入食品への依存と食料価格の高騰 −中国製冷凍食品の中毒事件から見える事− ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 1:●世界同時株安の再燃 モノラインショックと日本株の一人負け −米金融資本の国富ファンドの導入− ▼大発会史上最悪の株安 1月4日、恒例なら年頭のご祝儀相場で株価が上向くことの多い東京証券取引 所の「大発会」だが、今年は大幅な株価下落という大波乱の幕開けとなった。 4日の日経平均株価は一時、昨年末比765円安と大幅に下落し、終わり値も同 比616円安と1万5千円の大台をあっさりと割り込み、大発会史上最悪の下げ幅を 記録した。その後も東京市場の株価は下落をつづけ、15日には1万4千円台を、 22日には1万3千円台をも割り込み、実に2年4カ月ぶりの低水準にまで下落した のである。 こうした東京市場の大幅な株価の下落は、1月2日から始まったニューヨーク 市場の今年初の取引で、アメリカ景気の先行き懸念から株とドルの売り注文が 急増し、ダウ工業株平均が昨年末の終わり値比で一時は150ドルも下落し、外国 為替市場でも円の対ドルレートが一時は109円53銭まで急騰したこと、さらには 原油価格が年初に100ドルの大台にのるなどしたことで、依然として対米輸出に 依存する日本経済への悪影響が嫌気されたためであった。 もっとも、サブプライム問題(=本紙178号参照)に端を発したアメリカ経済 の減速を受けて、年明けから始まったアメリカ発の同時株安は、東京市場のみ ならずヨーロッパの主要市場でも株価下落の連鎖を引き起こし、さらには後述 する「モノラインショック」によって、当初は堅調に見えたアジア市場でも株 価が急落したことで、世界各国・地域の中央銀行、とりわけアメリカ政府と連 邦準備制度理事会(FRB)は、緊急の対応策を迫られることになった。 こうしてブッシュ大統領は1月18日、総額1500億ドル(約16兆円)規模の「戻 し税」や法人税の軽減など、景気対策の概要を前倒しで発表することを余儀な くされ、22日にはFRBが臨時の公開市場委員会(FOMC)を開き、短期金利の指 標となるフェデラルファンド・レート(FFレート)を0.75%引き下げる、ほぼ 6年ぶりの緊急利下げに踏み切るなど対応策に追われたのである。 2008年の年明けから世界の主要市場を襲った株安の連鎖は、FRBの大幅利下 げを機に1月下旬になってようやく落ち着きを取り戻しはしたが、もちろん不 安材料が払拭されたとは言い難い。 * ところでこの世界同時株安の過程では、二つの注目すべき現象があった。ひ とつは前述の「モノラインショック」だが、いまひとつは、東京市場の「世界 でも突出した低迷」ぶりである。以下、この2つの問題について検証してみた い。 ▼アメリカ経済の新たな不安 東京証券取引所で、2年3カ月ぶりに日経平均が1万3500円を割り込んだ1月21 日、市場関係者の間で「モノラインショック」という聞き馴れない言葉が聞か れた。 「モノライン」は直訳すれば「単一事業」の意だが、金融業界では金融派生 商品の損害保証を専門的に扱う保険もしくは保険会社のことを指す。自動車や 火災など一般的な保険を「マルチライン保険」と呼ぶのに対して、金融商品専 門の保険が「モノライン保険」と呼ばれている。 実はブッシュ大統領が景気対策の概要を発表した1月18日、格付け会社「フ ィッチ・レーティングス」が、アメリカの4大モノラインのひとつである「ア ンバック・アシュアランス」の格付けを、最上位のトリプルAから一挙に2段 階引き下げたと発表した。格下げの直接的理由は「増資が見送られたこと」と されているが、それはザブプライムローン関連の損失が、損害保険会社の経営 にも悪影響を及ぼすまでに深刻化したことを明らかにするものであり、債権市 場の不安をさらに助長する事態であった。 損保業界にも波及したサブプライム関連の損失は、すでに日本にも現れてお り、今年1月11日には、損保ジャパンが、金融保証保険で3億ドル(340億円) の保険金を支払う可能性があると発表しており、その影響は他人事ではなくな っている。 だが「モノラインショック」のより深刻な問題は、アメリカの債権市場全体 に打撃を及ぼす可能性にある。 というのもモノライン保険は、もともとはアメリカの州政府などが発行する 地方債の保証から始まっており、現在もなおそれが業務の中心を占めている。 高い格付けのモノライン保険の保証があれば地方債の格付けも上がり、その分 だけ各州政府は低コストで地方債を発行できる。要するにモノライン保険は、 州政府が低金利で資金調達するのを助け、その財政政策の原資を担保してきた のだ。 だがモノライン保険の格付けが下がり、つまり信用保証が低下すれば、地方 債市場をはじめアメリカ債権市場全体が低迷に陥る可能性があるのだ。それは また債権発行コストを上昇させ、地方債発行を抑制して州政府の財政政策を制 約することになるばかりか、最悪の場合は、州政府の財政が悪化する事態まで 想定されよう。 同じく1月中旬には、銀行最大手のシティーグループのほか、大手証券会社 のメリルリンチやモルガンスタンレーなど、アメリカの金融大手10社が巨額の 赤字を計上する07年第4四半期(10〜12月期)決算を発表しており、その損失 総額は、第3四半期(7〜9月)の損失を合わせた半年間だけで、合計242億ド ル(約2兆5900億円)の巨額に達したことが明らかになった。それはアメリカ の景気が、減速から後退(リセッション)へと陥る懸念を深めるに十分である。 これに「モノラインショック」が加わるとすれば、アメリカ景気への懸念は さらに大きくなるのも当然であろう。 ▼政府系ファンドの受け入れ ところで、サブプライムローン関連の証券化債権の価格崩壊による底無しの 損失の拡大について、日本では、90年代の初頭にバブル景気が破綻して長期不 況に陥った経験から、今後10年のアメリカ経済に対する悲観論が強まりはじめ ている。 たしかに終わりの見えない証券化債権の損失拡大が、モノラインショックの ように新たな分野に飛び火する損失の連鎖は、銀行など金融機関の資本を毀損 させて金融収縮が懸念される事態に至っており、日本でのバブルの破裂とその 後の「失われた10年」を思い起こさせる状況ではある。 ところが現実に進展しつつあるのは、より大規模な国際資本の再編、あるい はグローバリゼーションの新たな展開であり、その新しい主役は政府系ファン ド、別名「国富ファンド」と呼ばれる新興諸国の国家資金が、国際金融システ ムの重要なファクターとして台頭してきたことである。 * まず確認しておきたいのは、バブル景気が破裂して以降の、日本とアメリカ の対応の違いである。 アメリカの住宅バブルに依存した証券化債権バブル(これがザブプライム問 題の実態だが)が破裂し、銀行や証券会社など金融機関の資本が毀損されたと ころまでは日本とアメリカで違いはないが、その後の対応には大きな違いがあ った。 第1に日本では、不良債権をつくった金融機関の経営者たちが責任もとらず に居座り、あげくに高額の退職金まで手にし、結果として不良債権処理が大幅 に遅れて金融不安は長期化し、金融関係者の間には勤労意欲やモラルの低下も 見られた。 これに対してアメリカでは、サブプライムローン問題が明らかになるや、シ ティーグループやメリルリンチと言った最大手金融機関でも経営トップが更迭 され、その経営責任を明確にするとともに損失処理の阻害要因がいち早く取り 除かれ、損失を処理する新たな経営体制が整えられた。 第2は、資本の毀損を補う増資を資本系列が同じグループ企業に頼るなど、 内向きの損失処理に固執した日本では財務体質の改善が遅れたばかりか、金融 不安に歯止めを掛ける政府による資本注入さえ、大手銀行は横並びでようやく 受け入れるなど、責任回避の糊塗策ばかりに気を奪われ、結果として、迅速な 損失処理による金融システムの健全化は、大きく立ち遅れた。 ところがアメリカ金融資本は、中東産油国や中国の政府系ファンド、つまり 新興諸国の政府が外貨準備などを運用する国家資金を引き入れてでも、資本の 増強を図ることを躊躇しなかったのである。 原油価格の高騰に悲鳴をあげるODA諸国の増産要請を拒否した中東産油国や、 ブッシュ政権が仮想敵国視してきた中国の政府系ファンドを導入する大胆さは、 危機に直面した金融資本として必要であれば、自国政府の思惑にさえとらわれ ずに資本主義的原則に徹する選択と決断であり、日本では思いもつかないこと であろう。現に日本では、シティーグループが中東の政府系ファンドを受け入 れる増資に踏み切った事実は、驚きをもって受けとめられた。 だがこうして、サブプライム問題で痛手を負ったアメリカ金融資本は、90年 代初頭のバブル崩壊のトラウマを引きずる日本での悲観的予測にもかかわらず、 はるかに短期間で立ち直る可能性を手にしたのである。 だが同時に、アメリカの国際金融資本が外国の政府系ファンドによる増資に 踏み切ったことは、アメリカを中心とする国際金融資本の資金調達先のシフト チェンジを促進し、これまではアメリカ国債への投資に偏ってきたドル建て資 金の運用を、大きく変化させる契機となる可能性がある。 ▼アメリカの景気に翻弄される日本 そしてもうひとつの問題が、年明けからはじまった世界同時株安の過程で、 東京市場の価格の回復が他の主要市場との比較で立ち遅れ、あたかも「日本株 の一人負け」の様相を呈したことである。 具体的は、世界の主要市場の昨年6月末の株価と、同時株安がアジア市場に も及んだ今年1月中旬の株価を比較すると、上海、香港そしてインドなどの市 場では経済成長への期待から上昇し、サブプライム問題で痛手を被った欧米市 場でも下落率が10%程度だったのに対して、日本だけが20%を越える下落率で あった。 また格付け会社スタンダード・アンド・プアーズがまとめた、07年の各国の 株価指数上昇率の比較でも、日本は主要52カ国中51位と、サブプライム問題で 大幅な株価下落にみまわれた欧米諸国さえ下回る低迷ぶりだったのである。 好況と言われた昨年でさえ、日本株の当落率はアメリカ株を15%ほど下回り、 東京証券取引所の売買高の約6割を占めるヘッジファンドなどの外国人投資家 は、すでに昨年の後半から売りに転じていたのだ。そこに、アメリカ発の世界 同時株安が襲ったのが、東京市場の低迷を一段と増幅した要因であるのは明ら かであろう。 こうした東京市場の低迷を受けて、日本経団連の幹部たちは「構造改革の停 滞」がその原因だとして、さらに市場至上主義的改革の推進を声高に要求して いる。 だが冒頭でも指摘したように、日本の株安は、「依然として対米輸出に依存 する日本経済への悪影響が嫌気された」ことが大きな要因である。さらに対米 輸出の減少要因となる円高がすすみ、原油価格の高騰など輸入原材料の値上が りが日本製品のコストを上昇させる可能性も高まった以上、日本経済の好況を 主導してきた対米輸出と、その対米輸出の好調に支えられた対アジア輸出が減 退するだろうとの予測が広がるのは、当然と言えば当然のことであろう。 言い換えれば「日本株の一人負け」という現象は、サブプライム関連の損失 拡大でアメリカの景気が後退し、日本の対米輸出が落ち込む可能性が強くなっ たことへの「正常な投資家の反応」であり、アメリカの景気後退が、日本株の 価格形成に織り込まれたことを意味するだけである。 だとすれば、東京市場の低迷を打開する方策は、日本の金融資本が、サブプ ライム関連の損失で痛手を被ったアメリカの金融資本に資金を提供し、金融収 縮を回避してアメリカ景気の後退に歯止めを掛けようとするか、あるいは国内 需要に即した内需拡大によって、対米輸出に依存する経済構造の転換を図る以 外にはない。 前者は、まさにアメリカ金融資本が日本の大手銀行に要請している「増資の 協力」に他ならないが、後者の内需拡大は、例えば高齢者介護サービスの充実 とか、出産・育児支援サービスの充実とかに投資を集中するなど、これまでの 経済成長至上主義にもとづいた土木建築投資偏重の内需拡大政策を抜本的に転 換し、社会的な有用サービスの拡充を図る内需拡大という、新たな経済戦略の 提起が求められるのである。 その意味では、国際競争の激化を口実にして、その多くが輸出産業である日 本の基幹産業に資金を集中し、結果として社会的格差を耐え難いまでに拡大し た、小泉政権が推進した「改革」それ自身の変更もしくは転換こそが課題とな っているのであり、いずれにしても経団連幹部たちの要求はまったくの的外れ と言うほかはない。 もっとも、昨年の参院選大敗以降、「格差是正」を求める世論におもねり、 旧いバラマキ政治へと軌道修正して有権者の歓心を買おうとするだけでは、日 本経済の低迷を克服できないとする福田政権への批判は、当を得てはいる。 だが日本政治の問題点は、経団連幹部たちが批判する「改革の停滞」にある のではない。むしろ「日本株の一人負け」が明らかにしたのは、小泉−竹中か ら安倍へと受け継がれた「改革」の破綻なのである。 それは、輸出産業優遇と土建投資偏重の経済成長戦略から脱却することに失 敗したという、格差問題とは位相の異なる「改革の破綻」を暴き出したのであ り、だからまた日本政治の問題点は、この破綻を克服する道筋を示せない自民 党が政権にしがみついていることなのである。 アメリカの景気後退が現実味をおび、世界経済の停滞も懸念される情勢の中 で、「国際的プレゼンス(存在感)が著しく低下している」(安東俊夫・日本 証券業協会会長)経済大国・日本の現実は、この国の政治と経済が陥っている 深い混迷を映しだしている。 (2/18:きうち・たかし) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 2:●薬害肝炎訴訟の和解 官僚の抵抗と保守政治の「知恵」 −政府・厚労省を追いつめた原告団の闘い− ●隠匿資料の突然の「発見」● 今年1月15日、4日前の11日に「薬害肝炎救済特措法」が参院で可決・成立し たことを評価した原告団が、ようやく政府との和解合意書を取り交わした時に は、大阪高裁が、原告団と国・製薬会社の双方に和解案を提出するよう求めた 昨年9月14日から、4カ月もの時間が経過していた。 薬害HIV訴訟が和解した96年から12年、すでに当時から知られていた薬害肝 炎の被害者たちにもやっと安堵の表情がみられたが、この4カ月の過程は、原 告団が苦難直面しながらも、政府・厚労省を一歩一歩と追い詰める過程でもあ った。 攻防の焦点は、これまでの訴訟と同じように「国の責任」の有無でもあった が、原告団が頑強に求めつづけたのは、すべての薬害肝炎被害者の「全員一律 救済」であり、それは政府みずからが、実際の行為を通じて被害者の「生命の 平等」を明確にすべきだという要求に他ならなかった。 * 当初から難航が予想された和解交渉だったが、転機となったのは、いわゆる 「418人リスト」である。 昨年10月上旬、大阪訴訟原告団の一人に届いた製薬会社の回答書には、当人 へのフィブリノゲン製剤の投与事実が記載されおり、その資料は、製薬会社が 医療機関から情報を集め、02年に作成したものだった。 製薬会社が資料を作成したのであれば、同じような資料が厚労省にも保管さ れていて当然と思われるが、舛添厚労相は10月16日、参院予算委員会で「国は (個人名を)特定できる情報を持っていない」と答弁し、国=厚労省と製薬会 社作成の資料を切り離し、厚労省は「知らなかった」と答弁したのだ。ところ が3日後の19日、その厚労省の地下倉庫から2人の実名と116人のイニシャルが 記載された481人分のリストなど、関連資料が「発見」されたのである。 薬害HIV訴訟でもそうだったが、政権党との長い癒着に馴染んできた戦後日 本の官僚機構は、不作為や失策を明らかにする情報を隠匿し、所轄大臣が省益 防衛で動くことを期待するのを常としてきた。そうした教訓がありながら、官 僚の言い分を鵜呑みにして国会答弁をした舛添厚労相の対応は、勇ましさと日 和見が交互に顔を出す、その後の彼の迷走を暗示していた。 とはいえ、この資料の「発見」を機に、和解交渉に対する政府の対応は大き く変わり、10月31日には福田首相が、「今までの経緯を見ていて、政府に責任 がないというわけにはいかない」と初めて国の責任に言及し、翌11月1日には、 舛添厚労相に和解協議を指示したのである。 ●一律救済をめぐる攻防● こうして11月7日、大阪高裁が和解を勧告して原告団と国の交渉が始まった が、それは原告団にとっては、新たな苦難の道程のはじまりとなった。 国の責任を認めることを前提とした和解交渉とは言え、製剤の種類や投与時 期、訴訟の有無を問わない「全員一律救済」を求める原告団に対して、厚労省 は、敗訴した4地裁判決のうち、国の責任を最も狭くしか認定しなかった東京 地裁判決を基準にした「線引き」を行い、原告全員の補償には応じない姿勢を 崩さなかったからである。 案の定、12月3日に大阪高裁が原告団に伝えた和解案骨子の基本部分は、国 の主張する被害者の線引きを認め、「線外」の原告に対する国の責任は認めな いが、8億円の「基金」を積んで間接的な補償をするという内容だった。舛添 厚労相もこの日、「福田衣里子さんも救済します」と記者団に語り、80年に感 染した九州原告団の福田さんら「線外」患者の救済に言及したが、それはあく までも基金による間接救済のことだった。 原告団は、「福田首相の政治決断を求めたいので、それまで和解案骨子を提 示しないでほしい」と大阪高裁に申し入れ、与野党国会議員を通じて、福田首 相に政治決断を促す要望をつづけたが、13日には、その決断のないまま和解案 骨子が提示され、原告団は受け入れ拒否を表明したのである。 その後も非公開の協議がつづけられ、20日には、8億円の基金を30億円に積 み増し、舛添厚労相が「事実上の全員救済」と強調する政府修正案が出された が、線引きを認めない原告団は即座に受け入れを拒否、和解協議の打ち切りも 表明した。 こうして和解交渉は暗礁に乗り上げたのだが、その背後には、厚労省や法務 省官僚の激しい抵抗があった。その一部が表面化したのは12月17日、法務省関 係者が裁判所に報道陣を集め、「司法判断を政治がねじ曲げる前例をつくれば、 裁判制度そのものがが揺らぐ」とまくし立てた時である。 和解交渉を指示された直後には、「内閣総理大臣、福田康夫の命に従えない 役人は辞表を出せ。言うことを聞かないなら力でねじ伏せる」とまで息巻いた 舛添厚労相も、国の責任を認めて事態の沈静化を図ろうとした福田首相も、こ うした官僚たちの抵抗を公然と非難することはなかった。 その意味で和解交渉の行き詰まりは、戦後も無傷で残った「陛下の官僚」と 癒着し、その政策に寄りかかって予算の分捕り合戦に明け暮れてきた、自民党 政治の行き詰まりをも象徴するものだった。 ところがその自民党には、政党としての必要と官僚機構の利害の衝突をすり 抜ける、ある種の「知恵」も蓄積されていた。 ●戦後保守勢力の「知恵」● その「知恵」が発揮されたのは、和解交渉が暗礁に乗り上げた翌日である。 21日の午後2時過ぎ、与謝野前官房長官が首相官邸を訪ね、「政府案では合 意は得られない。議員立法しかありません」と進言し、全員一律救済や速やか な補償認定の仕組みづくりなど、骨子を記したペーパーを示したという。与謝 野の進言や、野田毅元自治相らが20日の夜、議員立法での解決を進言したこと などは、原告団と国が和解の合意書が交わした後になって報じられた。 この時、与謝野は福田首相に、「知人から『これでいよいよ自民党も終わり ですね』と言われたました」とも語ったと報じられたが、それは21日の朝日新 聞朝刊に掲載された世論調査で、福田内閣の支持率が10%も急落し、自民党支 持率も27%に下がり、民主党に2%差に迫られたことを念頭に置いてのことだ ろう。自民党議員たちの、政権に執着する執念のすごさを物語るエピソードと 言うべきなのだろう。 その後の福田首相の対応も、素早かった。3連休中にもかかわらず、福田は 23日に急きょ記者団を首相官邸に集め、「自民党総裁として、全員一律救済と いうことで議員立法を決めました」と語り、「官の論理」を乗り越えたと強 調して政治的ダメージの回復を図ったのである。 議員立法による全員一律救済の決断は、福田が期待したように、小泉がスモ ン訴訟の控訴断念を決めた時のような支持率の急回復には結び付きはしなかっ たが、原告団と薬害肝炎被害者にとっては、勝利的和解に向けた扉が開いた、 画期的な瞬間となったのは確かであった。 ●政府を追い詰めた原告団の闘い● 与謝野や野田の議員立法の進言を、政権に居座るための「姑息な知恵」と切 り捨てることも可能であろう。あるいはこの救済策にも不十分な点が多々あり、 薬害という不条理を繰り返さないという肝心の課題は、なお残されているのも 事実である。 それでも、その「姑息な知恵」で実現された結果、つまり原告団が自らの犠 牲すら顧みずに要求しつづけた、被害患者の全員一律救済の基本的枠組みが作 られた事実は、正しく評価されるべきだろう。 「姑息な知恵」を侮ることは、人々の切実で切迫した要求を実現するあらゆ る方策を追求する、人々に寄りそった賢明な努力に冷笑を浴びせかけるニヒリ ズムに通じかねないからである。 これと同じように、本来は議会の立法活動で大きな役割を担うべき議員立法 という手段が、被害者救済という社会正義の達成のために効果的に使われた事 実も、冷静に評価されるべきだろう。 国会に提出される法案の大半が、官僚によって作られた政府提出法案である という日本の議会の現実は、政・官の長きにわたる癒着の象徴であり、形骸化 した議会に対する広範な不信の要因でもあるからだ。 しかし何よりも重要なことは、自民党政権をして、「姑息な知恵」を使って でも和解を追求することを決断させたのは、原告団による非妥協的で粘り強い 闘いの成果だったことを確認することである。 薬害に侵された身体的苦痛に耐え、寒風の吹きぬける国会周辺で議員たちを 説得し、街頭で署名を訴えつづける原告団の不屈の闘こそが、多くの人々の共 感を呼び起こし、福田や舛添の無能と無策への憤りを広げ、内閣支持率の急落 を引き起こし、議員立法による全員一律救済を福田に決断させたことは、誰の 目にも明らかである。 それは政府と官僚機構を追い詰め、不作為の違法による国の責任を認めさせ た、日本で久々に現れた大衆運動であり、「全員一律救済」という勝利的和解 を実現した真の力だったのである。 * たしかに、薬害という不条理はまた繰り返された。だがその被害のただ中か ら、そうした不条理に敢然と立ち向かい、政府に妥協を迫る力強い運動が現れ たとすれば、そこに不条理な社会を変革する希望の灯をみるのは、不謹慎では ないだろう。 和解から12後の昨年夏、薬害HIV訴訟の原告だった川田龍平氏が参議院議員 に当選し、昨年の暮れには薬害肝炎原告団と共に闘ったように、それは明日に 芽吹く可能を秘めた運動に他ならないからである。 (2/21:ふじき・れい) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 3:●食料は「輸入で済む」のか? 輸入食品への依存と食料価格の高騰 −中国製冷凍食品の中毒事件から見える事− ▼冷凍ギョーザパニック 日本たばこ産業(JT)の子会社「ジェイティーフーズ」が輸入した冷凍ギョ ーザを食べた3家族計10人が、下痢や嘔吐など中毒症状で入院し、そのうち5歳 の女児ら3人が一時は重体に陥ったことが明らかになった1月30日以降、中国製 の冷凍食品に対する不安が日本中を駆け巡っている。 その後の調査や日中両国の警察と公安機関の捜査によって、中毒は「中国製 冷凍食品の問題」ではなく、人為的な農薬の混入という刑事事件の様相が深ま った。 実は中毒が発覚した直後から、生協関係者などの間では、事件の背景には労 使紛争があるらしいと囁かれていたが、「解雇通告に反発した元従業員が嫌が らせをした」(週刊文春2月21日号)可能性も報道されはじめたのは、検出され た農薬の高濃度を、残留農薬や工場で使用する殺虫剤の混入として説明するに は無理があるからである。 つまり今回の中毒事件は、何者かがパンに針を仕込んだとか、缶ジュースに 農薬を入れたのと同様の、異例で特異な犯罪である可能性が強くなったのだが、 一度火がついた中国製食品に対する警戒感と不信感は広がるばかりで、国産冷 凍ギョーザの売上にまで影響が出る事態になった。 「冷凍ギョーザパニック」とでも呼べるこうした現象の背景には、国際的な 農薬規制や食品衛生管理の水準からは遅れていた、中国産品への根深い不信も あるだろう。 だがより本質的には、輸入品による「価格破壊」が「庶民の味方」であるか のように語られ、同時にそうした企業経営が「成功物語り」として誉めそやさ れるなど、90年代半ば以降、広く日本社会に浸透した市場万能主義と、これに 慣らされた「庶民」が食料品の産地や生産過程にますます無関心になり、いま や低価格と利便性ばかりが幅をきかす、現代日本に蔓延した「逆転した価値観」 と無関係ではないと思うのだ。 ▼価値観の逆転の進行 実際に、低価格と利便性ばかりが幅をきかせる現代日本の食生活は、日本の 食料自給率を低下させつづけてきた。 農水省の統計によれば、1994年にはまだ46%あった食料自給率(カロリーベ ース)は、95年に43%、96年に42%と年々低下し、06年には、98年以降かろう じて維持してきた40%を割り込んで39%に低下し、先進国で最下位に転落した。 ここまで食料を海外に依存するようになったのは、食料が、世界中の市場から いくらでも調達できる「商品」と見る価値観と無関係ではない。 そうした価値観を社会に押し付けるやり口の典型は、途上国との自由貿易協 定(FTI)交渉に現れていた。 国内農業を犠牲にする食料品輸入関税の引き下げと、工業製品の輸出促進の ために相手国の輸入関税を引き下げさせるバーターが次々と強行され、結果と して自動車や家電などの基幹産業が潤う一方で、国産食料品の採算性は悪化の 一途をたどったが、「高付加価値製品」を輸出して「安価な食料」を輸入する のが「国民の利益」だとする論理が、あたかも世論であるかのように政府と多 国籍資本によって宣伝されたからである。 しかもこうした食料品輸入の増加と並行して、日本国内では労働分配率の低 下、要するに非正規雇用の拡大と賃下げが進行し、安価な輸入食品がいつの間 にか低賃金に喘ぐ「庶民の味方」に祭り上げられ、あるいは労働者家族の所得 低下で増加した共稼ぎ夫婦や、長時間労働を強いられる一人暮らしの人々から 家事労働の時間を奪い、冷凍食品やレトルト食品の利便性を歓迎する価値観が 社会に浸透するのを助長した。 さらに言えば、輸入食品の安全性を確保すげき行政の責任も、BSI汚染の有 無が不確かな米国産牛肉の輸入再開によって放棄されてしまったのだ。 それは、食の安全や命の尊さよりも低価格や利便性という「商品価値」を優 先し、戦後日本にも残っていた米作農家への感謝や、企業社会によって歪めら れとはいえ、仲間による相互扶助といった価値観を急速に破壊し逆転させる、 新自由主義イデオロギーの攻勢の結果だった。 このような、ここ10年ほどの間に起きた「価値観の逆転」は、同時に、人間 労働を市場的な価値だけで、つまり利潤を追求する企業にとっての有用性だけ で評価する、能力主義と称する労務管理を広く普及させたのであり、それがま た賃金引き下げの論理として活用された。食料を、市場でいくらでも調達でき る「商品」と見なす価値観は、人間労働もまた「企業にとっての有用性」や金 儲けの能力で賃金=価格が決まる「労働市場」で、容易に調達できる「商品」 と見なす価値観と手を携えて社会に浸透したのだ。 安価で便利な輸入食品への依存を深めた一方で、中毒事件を機に一転してパ ニックに陥る状況は、まさにこのようにして準備されてきたのである。 ▼中国産食品への深い依存 したがってこの国の食の安全を確保するためには、中国製食品を忌避するだ けでは済まないのは明らかである。という言うよりも、新自由主義的攻勢の結 果として現実となってしまった今日の日本の食料事情は、中国からの食品輸入 なしには成り立たないまでになっているのだ。 だからまた必要なことは、輸入食品の実態について、正確な認識を共有する ことだと思うのである。 * まず何よりも、中国からの輸入食品が他国に比べて特に危険だという事を示 す証拠は、少なくとも日本には無い。 検疫で見つかった輸入食品の食品衛生法違反件数を、厚労省の「輸入食品監 視統計」(06年)で見ると、中国産食品の違反件数は530件と最大だが、それ は輸入量が多く検査件数自体が多いためである。 財務省の「貿易統計」によれば、07年の日本の食料品輸入総額は5兆3000億円 で、そのうち中国からの輸入は9100億円と全体の17%を占める。ところが06年 の冷凍食品輸入を見ると、輸入総額1400億円のうち中国産はその6割を占める 812億円である。つまり中国産冷凍食品のシェア(市場占有率)の突出が、違反 件数を多くしているのだ。 ところが中国産食品全体の違反率(違反件数÷輸入届け出件数)を見ると、 それは米国産の0.12%(第4位)を下回る0.09%(第7位)に止まっている。 さらに、畜肉類を使用した製品を日本に輸出できるのは、中国に限らず、 農水省が指定した工場に限られており、問題のギョーザを輸出した天洋食品は、 「HACCP」(ハッセブ)や「ISO」(国際標準化機構)という品質管理の国際認 証を取得しており、おそらくはこうした根拠にもとづいて農水省が「指定工場」 として認定し、中国政府も検疫フリーの特権を与えたのだろう。 多くの日本企業が、天洋食品の加工食品を輸入してきたのはこうした理由が あってのことであり、その限りでは「中国の遅れた衛生管理」も偏見に過ぎな い。 ではその上で日本は、中国産食品にどの程度依存しているのだろうか。 これも農水省の06年度統計などによれば、中国からの輸入依存が高いのは、 生鮮野菜の46.4%、水産物の22.4%、大豆6.2%、トウモロコシ2.8%などであ る。ちなみにそれぞれの自給率は、生鮮野菜と水産物は79%と52%と比較的高 いが、大豆はわずかに5%、トウモロコシに至っては0%つまり全量を輸入に頼 っている。ただ輸入トウモロコシの用途別内訳は、家畜飼料の66%とコーンス ターチ(トウモロコシでんぷん)の21%が大半で、後者も酒類や洋菓子の原料 なので、いわば業務用と言うことができる。 もっとも、トウモロコシの96.3%と大豆の76.5%は米国からの輸入で、自給 率13%の小麦も米国からの輸入が53.8%を占め、米国への依存が群を抜いて高 い。06年の輸入食品の生産国別シェアでは38%の米国がトップで、2位の中国 は14%と半分以下だ。 それでも、生鮮野菜や水産物など鮮度が重要な食品は、冷蔵輸送などのコス トを考えれば距離の近い中国への依存が今後も高まる可能性が強いし、問題と なったギョーザのような加工食品も、加工賃の安い(それは同時に中国労働者 の低賃金をも意味するが)中国産の輸入が、この先もそれほど大きく減るとは 考えにくい。 ▼穀物価格高騰の影響 ところがここ数年、日本の食料輸入は大きな危機に直面しはじめている。世 界中で食料品価格が急騰し、「食料は世界の市場からいくらでも調達できる」 という大前提が揺らいでいるからである。 世界最大の穀物市場であるシカゴ商品取引所では、05年初頭から今年初頭ま での3年で、小麦は3.32倍、トウモロコシは2.52倍にまで高騰したが、これを 受けて06年から08年にかけて穀物輸出国に輸出規制が広がり、それがまた穀物 価格の高騰に拍車をかける事態になっているのだ。 穀物価格が急騰している背景のひとつは、原油価格の高騰に刺激されたバイ オ燃料ブームである。バイオ燃料向けのトウモロコシ、サトウキビ、大豆など の需要が増加の一途をたどっているのだ。 そうした中で、世界のトウモロコシ輸出シェアの43.3%(07年)を占めるア メリカでは、昨年ついにバイオ燃料向け消費量が輸出量を上回り、ブッシュ政 権が2020年までに義務化するとした150億ガロンのトウモロコシエタノール燃 料利用が実現すれば、これに必要なトウモロコシ生産量は06年の2倍強になる。 つまりこのまま米国のバイオ燃料生産が増えつづければ、米国のトウモロコシ 輸出量もこれに反比例して減少し、米国産に全面的に依存する(96.3%)日本 の食肉生産や酪農は、壊滅的打撃を受けるだろう。 そしてもうひとつの背景は、中国やインドなど新興国による穀物輸入の急増 である。それは人口増加という問題もあるが、むしろ食生活の変化、つまり欧 米的な肉食の広がりが食肉生産用飼料の需要を増加させ、とくに中国では、飼 料用トウモロコシはなんとか自給を維持しているが、タンパク質飼料として重 要な大豆の輸入は、99年の約1000万トンから07年には約3500万トンと3.5倍にま で増加しているのだ。 しかも、こうして生産された中国の食肉は、自衛隊の給食からファミリーレ ストランの業務用まで、日本で広く使われている加工食品の原材料として輸出 もされるのだから、飼料用大豆の価格高騰は中国産食品の値上げ要因となって、 日本の「庶民の食卓」を直撃することになる。 米国と中国という、日本が依存する食料輸出国のこうした事情は、いずれに しても日本の食料輸入に大きな影響を与えずにはおかないのである。 * ところで第二次戦後は長らく、農産物輸出国の主な課題は余剰食料と価格下 落への対応にあり、それらの国の通商政策も、余剰食料をどう売りさばくかに 主眼が置かれてきた。こうした食料供給が過剰な時期には、日本のような低自 給率の国にとっては、有利な国際取引が可能だった。 しかし需給関係が大きく変わり、食料品価格が高騰しはじめた今、日本のあ まりにも無防備な食料政策は、その脆弱さを一挙に露呈することになる。「食 料は世界の市場でいくらでも調達できる」という、政府と多国籍資本が広めた 「常識」が今こそ見直されなければならない。 そしてこの見直しは、食料や人間を商品としてだけ評価する、90年代半ばか ら強まった新自由主義的攻勢によって逆転させられた価値観に対峙し、わたし たち自身が、食の安全や命の尊厳を優先する価値観を再び取り戻す作業と一体 だと思うのだ。 (2/20:さとう・ひでみ) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 【お知らせ】おそくなりました1・2月合併号を配信します。なお編集機器の 故障のため、本号の印刷版の発行は休止いたします。 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆ ┏━━━━━━━━━━━━━━━┓ 【月刊ニュースレター:メール版】イ ン タ ー ナ シ ョ ナ ル ┗━━━━━━━━━━━━━━━┛ メール版第54号(通巻178号) 2008年2月25日発行 発行所:MELT ホームページアドレス http://www014.upp.so-net.ne.jp/tor-ks/ Eメールアドレス melt-ks@jn3.so-net.ne.jp =================================== このメールマガジンは、『まぐまぐ』 http://www.mag2.com/ を利用して 発行しています。解除は http://www.mag2.com/m/0000089504.htm からでき ます。 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


