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今、時代は大きな転換期にあると思います。この時代の性格と、今後わたしたちに何が問われているかを、世界や日本の主な出来事の分析を通じて考えます。

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2007/02/12

インターナショナル46

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
                  ┏━━━━━━━━━━━━━━━┓
【月刊ニュースレター:メール版】 イ ン タ ー ナ シ ョ ナ ル
                 ┗━━━━━━━━━━━━━━━┛
 メール版第46号(通巻170号)      2007年2月12日発行
 発行所:MELT
     ホームページアドレス http://www014.upp.so-net.ne.jp/tor-ks/
          Eメールアドレス   melt-ks@jn3.so-net.ne.jp
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
わたしたちはいま、大きな時代の転換点に生きているのではないでしょうか?
だから今とは、人間の自立と自律や民衆の自治という新しい民主主義のあり方
と、旧い代行民主主義の葛藤の時代でもあるのでしょう。 
 次々と起きるいろいろな事件や社会現象の分析をとおして、そんな問題を考
えてみたい人たちのためのメールマガジンです。
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
今号の内容:
1:運動と組織のありかた(労働組合/NGO):
  【ホワイトカラー・エグゼンプションの導入】
      成果主義の貫徹と労働基本権の清算
   −格差の是正ではなく、基本的人権の擁護が必要だ−
2:生活と環境:Kさんへの手紙(6)
    目の前しか見ない危うさ−耐震偽造問題で考えたこと−
3:【時評】金融犯罪に対するダブル・スタンダード
    粉飾187億円のNCCと粉飾56億円のライブドア
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1:【ホワイトカラー・エグゼンプションの導入】
       成果主義の貫徹と労働基本権の清算

   −格差の是正ではなく、基本的人権の擁護が必要だ−

▼WE法案提出の先送り

 政府・与党が、1月25日にはじまった通常国会に「ホワイトカラー・エグゼン
プション」(以下:WE)法案の提出断念を表明したのは、1月16日のことである。
 連合、全労連、全労協など労働団体のみならず、労働弁護団が「過労死促進
法だ」と反対してきた法案の提出が見送られたことは、もちろん歓迎すべきこ
とである。
 だが、法人税減税要求とあわせてWEの導入を要求してきた経済団体連合会
(経団連)など経営側の狙いは、後述するような巨額の残業代を「節約」して
労働分配率をさらに低下させようとするだけでなく、労働時間に基づく賃金体
系を労働の「成果に対する報酬」とする賃金体系に転換し、90年代から顕著に
なった「成果主義」を低所得層にも貫徹しようとするものである。
 それは同時に、98年に労働基準法(労基法)が改悪されて以降、常態化した
差別雇用の諸制度が必ずしも日本企業の労働生産性を強化しなかったという、
経営側の「誤算」に対する「修正」の側面もある。
 正規雇用労働者を減らし、それを派遣、請負、パート等の非正規雇用労働者
に置き換えた90年代後半のリストラは、人件費の削減=労働分配率の低下を通
じて企業の業績と財務内容を改善し、これを好感した金融投機の拡大=平均株
価の上昇を促し、企業の業績低迷に歯止めをかけはした。だが反面では、「企
業への忠誠心」や「多能工的働き方」など、労働密度の極大化を自発的に達成
させようとする日本的「動機づけ」の強みをも棄損したからである。
 かくして、経団連の新会長・御手洗(キャノン会長)は、「年功賃金は廃止
すべきだが、終身雇用は守る方が良い」と公言し、返す刀で「労働密度の極大
化」を達成する新たな動機づけとして、「管理職としての成果を評価する制度」
と称してWEの導入を声高に要求するのである。
                           *
 以下、「ワーキング・プア」を大量に生み出すことになった労基法改悪後の
雇用形態の多様化と、WEという労働時間規制の廃止を切り口にして、日本の
労働者運動が直面する課題について考えてみたい。

▼ブッシュ政権の労働法改定

 すでに周知のことではあろうが、WEは一定条件以上の労働者を週40時間・
1日8時間以内という残業規制から除外(=エグゼプション:exception)する制
度で、管理職や専門職(=ホワイトカラー:white-collar)がその対象である。
 この除外規定の起源は、1938年にアメリカで成立した「公正労働基準法」で
ある。当時のルーズベルト大統領が、ニューディール政策の一環として最低賃
金を設定したり残業代の支払いを義務づける労働者保護政策を打ち出したのだ
が、代わりに管理職や専門職の一部高収入層は「例外」としてこれを適用しな
い制度も設けられた。これが「ホワイトカラー・エグゼンプション」と呼ばれ
るようになったのである。
 その後この除外規定は、戦後のサービス産業の勃興に伴う大量のホワイトカ
ラーの誕生にもかかわらず、1949年に一部改正されただけだった。まさにその
結果として、90年代になると「残業代支払い請求訴訟」が続出することになり、
90年には1257件だった訴訟は、2002年には4000件近い数にまで増加したのであ
る。
 こうして、雇用者側が訴訟費用に悲鳴を上げる中で登場したのがブッシュ政
権であり、チャオ長官の下でアメリカ労働省が改正原案を公表したのが、03年
3月である。この原案の目玉は「簡素化」と「低所得者の保護」だとチャオ長官
は自賛したが、実態は法改正案ではなく省令のたたき台であり、除外規定の改
訂は、労働長官の判断に一任されることになったのである。
 アメリカ労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)と民主党の反対はあったが、04年
4月には最終案が出され、8月からは新ルールが施行された。その新ルールでは、
週給455ドル=年収2万3千660ドル(1ドル=120円で284万円)以下なら無条件で
残業代をもらえるが、それ以上は1:エグゼクティブ(管理職)、2:専門職、
3:事務管理職、4:コンピューター関連職、5:外勤営業職に分類し、業務
内容など条件を明確にした除外規定が盛り込まれた。
 例えば、いま日本でも残業代をめぐるトラブルが多発しているレストランチ
ェーンの店長は、日常的にレジ業務などをこなしていても、従業員の採用や解
雇の権限をもっていれば「エグゼクティブ」と見なされ残業代はもらえない。
シェフ(コック長)も、4年制の料理専門学校を卒業していれば「専門職」と断
定される等々である。
 労働者の大半が年収2万4千ドルから10万ドルの範囲内におり、アメリカ国民
の年収の中央値が3万2千ドルという現状でこの規定が意味するのは、年収300万
円程度の「低所得エグゼクティブ」を大量に生み出し、同時に残業代支払い請
求訴訟を劇的に減少させるだけである。
 事実、雇用者側はこれを「快挙」と称賛するが、改訂に批判的なシンクタン
クの試算によれば、労働協約などで残業代を認められてきた労働者のうち600万
人が、新たにその権利を失うと言う。

▼抵抗権を奪う「猿まね改革」

 ブッシュ政権によるWEの改訂は、残業代未払いのグレーゾーンを逆に「合
法化」することで、訴訟などによる労働者の抵抗権を奪おうとするものである。
 つまり日本のWE導入は、政府が05年3月、規制改革・民間開放推進3カ年計
画で「米国の制度を参考に検討する」との方針を打ち出したことでも明らかな
ように、このブッシュ政権の「快挙」を日本でも再現しようということに他な
らない。
 それは、厚労省がWEの適用範囲を年収700万円〜1000万円で検討しているこ
とが明らかになった一方で、05年6月に発表された経団連の提言には、「年収
400万円以上」と例示されていたことからも明らかである。そしてもちろん各労
働団体が指摘するように、法案には年収を明記せずにWEを導入し、適用範囲
はその後の改訂で拡大する狙いも透けて見える。
 「労働運動総合研究所」の試算によれば、仮に400万円以上がWEの対象にな
れば、残業代を受け取れない労働者は1013万人にものぼり、「節約」される残
業代総額は、年間で11兆6千億円の巨額になる。
                           *
 だが問題は、そればかりではない。
 フリーターと呼ばれる時給払いの非正規雇用労働者を「店長」に仕立て、「過
労死ライン」と呼ばれる月80時間以上の残業を強いながら、「長時間労働は店
長の能力の問題」と言ってはばからない大手ハンバーガーチェーン店が、残業
代未払いで提訴された(『週刊朝日』1月26日号)ように、あるいは個人加盟労
組に「フリーター」が駆け込み、残業代支払いを含めて労働条件の改善を要求
する事態が増加しはじめているように、雇用形態を無視した名目的「管理職」
が、過密労働と残業代無しの減収に耐えかねて抵抗を始めつつある事態が、経
営側にWE導入を急がせる背景にあるのは確実である。
 つまり労働者が超過密労働に抵抗する法的根拠をWEによって奪い、残業代
支払い要求などを先取りして封じ込める意図が、むしろ問題の核心であろう。
 実際に、「店長」と呼ばれる時給払いの非正規雇用労働者を含む5人の「フリ
ーター」が首都圏青年ユニオンに加入し、団体交渉で残業代の支払いを求めら
れていた牛丼チェーンの「すき家」は、昨年11月、「賃金制度に一部問題があ
った」として1日8時間を越えた分を残業とする一般的賃金制度に改め、ユニオ
ンに加入した5人には過去2年分の割増賃金を支払っている(『朝日新聞』1月10
日)。
 つまり残業代不払いは、「すき家」のような変形労働時間制の不当な拡大解
釈や、名目的な「管理職」への任命を口実にすでに常態化しているのだが、そ
れは労組などに指摘されれば違法性を認めざるを得ない「グレーゾーン」であ
ることも明らかである。だからまたこれに対応して、常態化している「半違法
状態」をWEによって合法化する必要が、経営側の切迫した課題になっている
ということでもある。
 しかもWEの導入は、前述のとおり相も変わらぬアメリカのキャッチアップ、
いや、ブッシュ政権に追随する「猿まね改革」に過ぎないが、それを、「アメ
リカ式経営がベストではない」と公言する御手洗会長を先頭に経団連が要求す
る事態は、皮肉と言うよりも悪い冗談のたぐいである。

▼ワーキング・プアと外国人労働者

 とは言え、WEの導入が「低所得エグゼクティブ」を量産し、過労死に至る
ような過密労働を「個人的能力の問題」として企業の雇用責任を免罪するとす
れば、それはグローバリゼーションの本家・アメリカに倣って、日本でもサー
ビス産業における労働力構成の再編が本格化することである。
 日本におけるワーキング・プワ(WP)=働く貧困層の増加は、まずはブルー
カラー層つまり生産現場の労働力構成の再編として、労基法改悪による雇用形
態の多様化をテコに加速した。そしてWEの導入は、WPが生産現場から溢れ
出し、サービス産業の現場に広がることを意味している。
 しかもそれは、出生率の低下と急速な高齢化社会の到来を背景に、日本の労
働力不足を補うように流入してサービス産業に従事する外国人労働者の多くが、
WPとして社会の底辺に滞留するという問題をはらんで進展することになるだ
ろう。
 現に、「ニッポン製造業復活」のシンボルとなったシャープ亀山工場がある
三重県の亀山市では、外国人労働者家族の未就学児童の増加が問題になってい
るが、それは「偽装請負」という違法な雇用とWPの上に、「亀山ブランド」
なるシャープの成功神話が作られたことを物語っている。と言うのもここで働
く日系ブラジル人請負労働者は、1日12時間拘束の2交替制、月勤務25日で平均
年収は312万円と、日本人の非正規雇用労働者の平均年収381万円(1日12時間拘
束の月勤務21日)の8割程度しかなく、WPの典型と言えるからである。
 ちなみに同工場の正社員の平均年収は736万円で、日系ブラジル人請負労働者
の2.4倍である。
                         *
 もちろん「偽装請負」はシャープだけでなく、松下電器など他の家電メーカ
ーでも発覚したが、ブラジル人労働者を工場周辺に集団で居住させ、直営工場
のみならず下請け企業も含めて「組織的に」ブラジル人労働者を就労させてき
たという意味では、亀山工場は突出した事例と言える。
 例えば亀山工場が稼働し始めた04年、工場で働く正社員が550人だったのに対
して非正規雇用労働者は1100人もおり、正社員が2200人になった06年でも、な
お1800人の非正規雇用労働者が就労していた。しかも、亀山工場本体からは請
負や非正規雇用を極力排除し、近隣の下請け工場に移動させる「請負隠し」も
行われている。
 亀山工場に隣接し、液晶テレビ生産の一端を担う下請け会社「カメヤマテッ
ク」には、シャープとの契約を切られたブラジル人労働者が約300人就労してお
り、亀山工場むけに液晶偏向フィルムなどを生産する日東電光亀山事業所は、
全就労者1700人中請負労働者が1000人もおり、そのうちの800人がブラジル人労
働者である【以上『週刊東洋経済』06年9月16日号】。
 この亀山の事例は、すでに多くの外食チェーン店などサービス産業に従事す
る外国人労働者の、明日の姿でもある。

▼低所得層への成果主義の貫徹

 WPは、外国人労働者を含む最下層労働者の問題であり、かたやWEは「中
流」労働者層の問題と言えなくはないが、それはやはり皮層な見方であろう。
 なぜなら、導入されようとしているWEの主なターゲットは、中高年の現職
管理職ではなく、フリーターや専門学校出身の若年非正規雇用労働者と、パー
トや派遣で働く女性労働者だからである。
 長時間の過密労働にもかかわらず、収入の全く増えないこの労働者層は、直
ちにWPには陥らないとしても、過労死に至る危険と隣り合わせである。つま
り病気やケガに対する賃金保障などのセーフティーネットが全く無い現状では、
病気やケガが失業に直結し、家計を直撃するのも目に見えている。要するに彼
・彼女らはWPどころか、いつでも「無収入の貧困」に突き落とされる可能性
がある労働条件を、WEによって押しつけられようとしているのだ。
 彼・彼女らを名ばかりの「店長」や「管理職」に仕立て上げ、あるいはIT
関連の単純作業労働者を「専門職」と見なし、「時間で拘束されない多様な働
き方」と言った耳障りの良い言葉で、成果主義賃金体系に組み込もうしている
のである。
 経団連の提言が「年収400万円以上」と例示したのは、WEがこうした労働者
層を狙った制度であることを示唆しており、この水準でWEが実施されれば、
「管理職」や「専門職」の人件費は劇的に軽減されるだろう。つまりWEの本
当の狙いは、日経連が提唱した「新時代の『日本的経営』」が「高度専門能力
活用型」と分類した中間労働者層を、年収400万円程度の非正規雇用で構成しよ
うとすることなのである。
 パートやアルバイトなど、多様な雇用形態の労務管理を名目的な「管理職」
に丸投げしたり、あるいはIT関連の単純労働も「技術職」と断じて長時間
労働にともなう割増賃金の負担を免れ、さらには過労死などの労働災害を「個
人的能力の問題」にすり替えることができれば、サービス産業の職場の様相
は一変するに違いない。
 こうして、WE導入を要求する経団連の本音が明らかになる。それは、製造
現場の労働力の主軸を請負や派遣など「雇用柔軟型」へと再編したのにつづい
て、「新時代の『日本的経営』」が提唱した労働力の3類型をサービス産業に
も貫徹しようと、ブッシュ政権の「快挙」に便乗してWEを日本にも導入しよ
うというのである。
                           *
 ところでWEは、たしかに「残業代ゼロ」を意味する制度だし、この名称は
人々の即時的反感を呼び起こす効果もある。あるいは労働弁護団が命名した
「過労死促進法」も、前述したように、WEのひとつの核心をついた名称では
ある。
 だがここまで述べてきたように、WEの導入によって現実となるのは、厚労
省と経団連の主観的意図がどうあれ、8時間労働制の制定など、人間の奴隷的
労働を規制する労働基本権の思想が「成果主義」の名によって全面的に清算さ
れる事態であり、あるいはWPの増加に象徴されるように、「社会的生存権」
が脅かされる基本的人権思想の解体状況に他ならない。
 そうだとすれば、日本の労働者運動が今日直面する課題は、この問題を真っ
向から見据えて、ILO(国際労働機構)条約に明記された労働基本権を擁護
し、基本的人権思想の解体に抗する、新たな人権闘争の展開であるとは言えな
いだろうか。

▼価値観の逆転との思想的対峙

 労働基本権の擁護と基本的人権の確立は、「過去の課題」と見なされるかも
しれない。少なくとも戦後日本では、これら人間の普遍的権利は、「民主国家
の常識」として広く受け入れられてきたと言えるからだ。
 だが1998年9月、自民、民主、平和・改革、自由、社民の5党共同修正案として
労基法が改悪されて以降10年も経ずに、WPという名の「貧困」が深刻な社会
問題となり、過密労働による過労死という労働災害は増加の一途をたどり、自
殺に追い込まれる人々も増えつづける事態が現実となったのである。
 しかもこの過程は、新自由主義イデオロギーの攻勢と手を携えて進展し、
「社会的再分配機能」や「相互扶助の文化」を否定する意識を蔓延させもした。
 「社会的生存権」を保障する社会的再分配制度と、生活インフラに関わる水
道などの公営事業が、国家による市場への介入と混同されて「経済的停滞の原
因」として排撃され、労働組合の自立的互助機能は「個人の自由」に反する特
権的機能だと非難され、代わって「個人的能力」をアピールして「自由に競争
する」市場原理こそが、「社会を進歩させる最良の原理」とする価値観が社会
に押しつけられたのである。
 それは同時に、労働組合や社会保障の土台となってきた労働基本権や基本的
人権といった思想を卑(いや)しめ、失業、過労死、貧困など、社会と経済の
仕組みが生み出す社会的問題を「個人的能力」や「個人的責任」へと転嫁し、
個々の労働者が自らの経済的価値をめぐって市場で競争する「労働力の商品化」
を肯定して、人間労働に関わる「価値観の逆転」をもたらした。
 いまや労働者は、自尊心ある人間である以前に「企業が必要とする経済的価
値」の優劣で競い合い、その評価次第で「勝者と敗者」に分類される「差別的
な文化」が、やむなくではあれ、多くの人々が容認する社会が出現することに
なった。
 こうして日本の労働者運動は、まず何よりもこの新自由主義イデオロギーと
思想的に対峙し、労働者と市民の「自立した共同体」を形成するのに必要なイ
デオロギーの再構築を迫られていると言える。
 労働基本権に関する「グローバル・スタンダード」であるILO条約の遵守
や、日本国憲法のみならず世界人権宣言(1948年)にも明記された基本的人権
の思想を盾にした抗議と抵抗とは、その意味で「過去の課題」ではなく、「人
間の尊厳を回復する」古くて新しい闘いになるのである。
 しかも、歴史的闘争を通じて確立された人権思想を新自由主義イデオロギー
に対置することは、グローバリゼーションという現実の中でこれらの思想を実
践的に適用し、新たな現代的体系へと鍛え直す意味をもつことにもなるだろう。
                           *
 だがいずれにしろ決定的なのは、新自由主義イデオロギーが醸成した「差別
的文化」を逆転させようとする思想的対峙が、否応無しに「成果主義」に組み
込まれつつある「フリーターや専門学校出身の若年非正規労働者とパートや派
遣の女性労働者」自身の運動として展開されるか否かである。
 なぜなら、彼・彼女たちが「時間で拘束されない多様な働き方」と言った
「耳障りの良い」謳い文句に引きつけられる現実は、それ自身として、新自由
主義イデオロギーの攻勢の結果だからである。

▼転機を迎える新自由主義

 新自由主義イデオロギーが、労働組合の互助機能を「個人の自由に反する」
と非難できたのは、戦後日本の労働運動が熟練工を核とした徒弟的関係を基盤
に成立してきたことと合わせて、獲得した既得権が「男子本工労働者」に偏っ
て再分配され、非正規雇用と女性とが、そこから排除されつづけてきた現実が
あったからである。
 労働組合の互助機能とは全く無縁であった彼・彼女らが、労組の正統性を説
く労働基本権や基本的人権の思想を、「特権的」な既得権を擁護する「旧い思
想」と考えても不思議ではない現実があったのだ。
 したがって新自由主義イデオロギーとの対峙は、労働組合の「主体的欠陥」
を改めようとする自律的運動を伴うことで、初めて大衆的反抗の呼び水になる
ことができる。しかも昨今の情勢は、これを差し迫った課題にしていると言わ
なければならない。
 なぜなら、前述のように「フリーター」と呼ばれる若年非正規労働者が、過
密労働や残業代不払いへの抵抗を始めつつあり、あるいは労働組合への駆け込
みが、個人から「若年層の集団」へと変化しつつある状況があるからである。
それは新自由主義イデオロギーの攻勢が、新しい世代の抵抗に遭遇しつつある
ことを示唆している。
                          *
 イデオロギー攻勢をともなったグローバリゼーションの展開が、ある転機を
迎えつつあるとすれば、昨年11月と12月には、これを象徴する出来事があった。
 経済学者のミルトン・フリードマンと、73年にチリのアジェンデ政権を軍事
クーデターで打倒したピノチェト元大統領が、相次いで死亡したのである。
 M・フリードマンは、シカゴ学派と呼ばれる新自由主義経済理論の最高権威
であり、グローバリゼーションの展開をイデオロギー的に主導したと言っても
過言ではないが、彼の経済理論の最初の実験場が、クーデター後のピノチェト
政権下だった事はあまり知られていない。
 クーデターから2年後の75年3月、フリードマンは「シカゴ・ボーイズ」と呼
ばれたグループの招きでチリを訪れたが、このグループは、インフレに悩むピ
ノチェト政権の下で、フリードマンがすでに「ショック療法」と呼んでいた経
済政策を遂行するイニシアチブを取ったのである。国家支出を一挙に20〜25%
削減し、数万人の政府職員を解雇し、賃金と価格統制を廃止して国営企業の民
営化をすすめ、資本市場の規制を緩和した政策は、「完全な自由貿易」という
多国籍資本の要求に応えるものであった。
 その後「ショック療法」は、インフレと超過債務に翻弄される南米各国に
「構造調整プログラム」として押しつけられ、1985年から92年の間に南米全体
で2000以上の公営企業体が売却され、90年代にはソ連邦崩壊後のロシアでも猛
威を振るった。
 もちろんピノチェト政権の強権的抑圧に補完された「ショック療法」は、
「抑圧と一対の市場絶対主義」との批判に直面したが、フリードマンは「経済
的自由は政治的自由の基本的前提条件だ」と、資本の自由と人間のそれを同一
視することでこの批判に答えたのである。そしてこのフリードマンの論理は、
今や新自由主義を正当化する「常識」として世界中を覆っている。
 だが今日の南米には、「構造調整プログラム」が生み出した差別と貧困に立
ち向かう左翼もしくは中道左派政権が次々と成立し、多国籍資本を規制しはじ
めている。四半世紀の苦難を経て、南米ではグローバリゼーションへの反抗が
始まったのであり、フリードマンとピノチェトの死は、そうした時代的転換の
象徴に思えてならない。
                          *
 南米・チリを最初の実験場として始まった新自由主義の攻勢は、世界中で急
増した差別と貧困という現実によってその破壊的効果があらわになりつつある。
 わたしたちは、この時代の転機を捉えるために、思想と実践の両面において
再武装を加速させなければならない。
  (2/10:きうち・たかし)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
2:Kさんへの手紙(6)
     目の前しか見ない危うさ−耐震偽造問題で考えたこと−

 今年も年頭から、いろんな事件が相次いでいますね。正月の内から世間はな
にやらざわついていて、今年も激動の年になりそう。
 この中でひっそりと報じられた事件。
 昨年の暮れに、例の耐震偽造問題についての一審判決が出たのですが、姉歯
被告が控訴したという記事が、夕刊の片隅に載っていました。

▼うさん臭い控訴理由

 控訴の理由は、国会での偽証を理由に実刑判決が出たのですが、証人喚問で
の証言で「木村建設の東京支店長から強要されて構造計算書を偽造した」と発
言したのは、別に耐震偽造の責任を他人に転嫁しようとしたわけではない。偽
造を始めた時期を間違えて証言したにすぎないということで、実刑判決は承服
できず、この件については執行猶予をお願いしたいということでした(耐震偽
造そのものについては罰金刑となっています)。
 この控訴の記事を見て、少し不審な点がありました。
 それは一つは、なぜこの事件では構造計算書を偽造した建築士だけの責任が
問われ、関係者、とりわけ建築の専門家であるから偽造を見ぬけなかったはず
はない人々(建設会社の責任者や建築士、そして「経済設計」の名の下に鉄筋
の量を減らした設計を提唱していた研究所の関係者など)の責任が、なぜ裁か
れないのかということ。
 そしてもう一つは、国会証言の段階では、建設会社に強要されて偽造を始め
ていたと証言した姉歯建築士がなぜ、警察での取調べの過程で証言を翻し、自
分個人の責任だと自白したのかということ。
 彼が自分個人の責任において、膨らんでいる借金や生活費を稼ぐために構造
計算書を偽造したのなら、国会での証人発言は、事態の捜査を混乱させ、責任
を他になすりつけたものと弾劾され実刑判決がでることは当然と言えましょう。
それに対して「執行猶予」と主張するのは、なぜなのでしょうか。
 どうも、胡散臭いものを感じるのです。
 直接根拠を示せないのですが、姉歯建築士が証言を途中で翻し、結局は建設
会社などの責任が問われないのは、建設会社などの関係者が姉歯氏に対して「
あなた一人の責任でやったことにしてくれれば、罰金刑で済んで実刑はくらわ
ない。罰金や保釈金などはこちらで負担する」と持ちかけたからではないだろ
うかと思うのです。

▼専門家が見抜けなかった?

 こう思うのには、幾つか根拠があります。
 一つは構造計算書の偽造を始めた理由は、姉歯氏としては、彼が自供してい
るような個人的な経済的な理由だし、彼のいいかげんな計算書を、建築の専門
家が見破れないはずはありません。
 現に事件が明るみになったときの報道では、実際に鉄筋を組んで建物を建て
る技術者たちは、「こんなに鉄筋が少なくてこの建物は大丈夫なのか」という
不安があったと証言しているものもいたし、姉歯氏に最初の建物の設計は依頼
したが、出来た建物を見てとても不安に思ったので、2件目からは他の建設会社
に発注したというホテルチェーンの経営者の証言もなされていました。
 ちょっと見る目のある専門家が見れば、姉歯氏が設計した建物は、建物の大
きさや高さからすると下の階の柱が細すぎるし、壁も薄すぎるのだそうです。
構造計算書を偽造しろとは指示しなかったかもしれませんが、どう見てもおか
しいことぐらいは、建設会社や、これと一体になっていた設計事務所の専門家
は見ぬいていたと思います。
 またこの事件が明かになる1年以上も前に、不安になった注文主が他の建築士
に構造計算のやり直しを依頼して、姉歯氏のものの数字が偽造されていること
を見つけ、その結果をその建築士が、建設会社と設計事務所に対して姉歯氏立
会いの下で指摘していることは、当時も報道されていました。
 どう考えても、関係の専門家たちは、事件が明るみになるずっと前に、構造
計算書が偽造されていたことは知っていたと思います。
 そしてマンションの安売り競争が激化している当時としては、設計者に対し
てどんどん単価を安くしろということは圧力として当然かけられており、その
過程で、法令ぎりぎりの線で、鉄筋の強度をぎりぎりまで下げろという指示が
されていたことは確かだと思います。国会の証人喚問で、木村建設の東京支店
長は、そのような発言をしています。ただ「法令違反の偽造をしろ」とまでは
言っていないと繰り返していましたから。

▼「作られた自白」の疑惑

 しかしこれは当然、証拠はないでしょう。問題になったときに数字を偽造し
ろと指示した文書があった場合には、建設会社が当然責任を問われます。口頭
での指示だけなら「そこまでは言っていない」で、建築士が強硬にこれに反対
して指示されたことを証言し続けたり証拠を開示しないかぎり、建築会社や設
計事務所の責任を問うことはできません。
 だから警察も状況証拠しかないし、とうの姉歯氏が証言を翻してしまったの
だから、建設会社や設計事務所の責任を法的に問うことはできないのだと思い
ます。
 そして姉歯氏はなぜ拘置所に収監されてから8ヶ月も保釈されなかったので
しょう。たった500万円の保釈金が払えなかったと報道されていますが。
 たしかに一文なしの彼にはすぐには払えなかったでしょう。知人からかき集
めるのに時間がかかったと一般には理解されます。しかしなぜ裁判が始まる直
前になって保釈金が払われ、彼は保釈されたのでしょうか。
 そして一審の審議では、彼は検察側の主張を完全に受け入れ、自身の責任で
偽造を行い証言も嘘をついたことを、「素直に」認めました。
 なのになぜ、判決に不服なのでしょうか。
 こういう疑問から、彼の自白は作られたものではないのかという疑惑を抱い
たわけです。
 この耐震偽造の背景には、今の経済活動が、目先の利益をあげることだけに
汲々として、その経済活動の社会的責任と言う事を放棄しているという問題が
あります。
 このことは事件の発覚以来、さまざまな人々が発言し、指摘したことです。
 そして偽造されることを前提にして厳しいチェックをするのではなく、偽造
はないとの前提で、すばやく建築確認がなされてどんどん建物ができるように、
従来は公的機関しか構造計算書のチェックが出来なかったのを民間企業ができ
るように法令を改正した政府の責任も追及されました。
 しかしこの中で一つだけ指摘されなかった問題があります。それは、鉄筋コ
ンクリートのビルを破壊するほどの巨大地震は、いつ起こるかわからないとい
う問題です。
 これがこの事件の背景にある、根本的な問題ではなかったかと思うのです。

▼なぜ、地震に備えないのか?

 たしかに「巨大地震はいつ襲ってくるかわからない。だからちゃんと備えて
おかないといけない」と、政府も気象庁も、地震予知協議会の学者たちもマス
メディアも声を揃えて言います。
 しかし、ではそれはいつなのかと尋ねると、その答えは曖昧。東海地震など
は、30年も前から「来る、来る」と言われ続けているけど今だその前兆すらな
い。そして直下型地震もいつ来るかわからないと言われ、しかもこれは周期性
があるのかないのかもわからないし、原因となる活断層は無数にあって、活動
周期を地面を掘って調べるには、資材も資金も時間もないとまで言われていま
す。
 要するに巨大地震がいつくるかということは、確定的にはわからないのです。
 でも予知できるという説もあります。地殻の中を流れる電流を測定すれば、
巨大地震は予知できると。
 ギリシアではこの方法でいくつかの巨大地震を予知した学者たちがおり、そ
の結果、ギリシア政府の地震予知関係の役所の係官が総入れ替えになったそう
です。
 この方法は、日本でも金沢大学など一部の研究機関が試しています。しかし
東京は地上も地下も雑音や様々な電磁波が多いため、地下1000m規模の穴を掘
らないと測定できないのだそうです。そして東京大学では、まだこの研究をし
ていません。
 他にもいろいろな研究がなされていますが、どうも学閥に分かれていて、学
際的な総合的な研究は進んでいないように見えます。おかしなことです。当然
来る危機に備えようとしないのですから。
 わからないとなれば、よほどの用心深い人しか備えようとはしません。しか
も長い間、巨大地震の恐ろしさが科学者たちから警告されていても、政府を始
めとして公共機関は、その具体的な対策をとろうとはしてきていません。いま
だに大人数が集まる公共的な建物の半分以上が、巨大地震に耐えられない古い
基準で作られた建物ですし、多くの人が住む木造住宅については、その8割が巨
大地震に耐えられないといわれながらも、その耐震補強や立て替えを進めるた
めに税制での優遇措置も取られていませんし、公的な資金補助も多くの地域で
は定められてすらいません。
 この背景には、利益優先の風潮とともに、地震の研究者たちが研究だけを優
先して、その社会的役割、危機に備える社会体制を構築させるための具体的提
言を、学者が積極的に果たすと言う意識に欠けていたという問題もあります。
 これは先に、三宅島噴火の問題で指摘した所ですが。

▼危機を「見ない」意識構造

 こんな状況の中で、目先の利益だけを追いかけている人々に、地震に備えろ
というのは無理があります。
 耐震偽造事件が明らかとなったとき、姉歯氏は「巨大地震が来て、あなたが
偽造した建物が破壊されて、多くの人が死ぬ事を考えなかったのか」と質問さ
れて、彼はこう答えていました。
 「そこまでは考えていなかった」「巨大地震が来るのは何十年も先のことだ
から、その時には、この建物は耐用年数が過ぎて立て替えられているだろうか
ら、偽造はばれないと思った」と。そういえば、阪神・淡路大震災の被害を受
けた建物の中に、明かに巨大地震に耐えられない構造になっていた建物がいく
つもあり、耐震偽造や建築段階での手抜きが予想されていたが、この問題は深
く追求されていなかったそうです。
 そしてまた、偽造がわかってから藤沢市のマンションを売った、マンション
販売会社ヒューザーの小島社長もまた、偽造は知らない段階で売ったと強弁し
ながらも、「巨大地震が来るとしても先のことだ」とも発言していました。
 そう。耐震偽造を行った姉歯建築士を始めとして、彼が設計した多くの建物
が巨大地震に耐えられないことを知っていたり疑った人々が、この動きをしっ
かりと阻止するための社会的行動に出なかった根本の理由は、「巨大地震が来
るのはずっと先だ」という根拠のない認識だったということです。
 そしてこれは社会一般の理解でもあると思うのです。
 たしかにこの事件の背景には、目先の利益だけを追い求めるという、現在の
資本主義の悪しき姿があります。そしてそれを許してしまう、政府や業界団体
の上意下達的構造や身分秩序も。
 しかし根本の所は、目の前に危機が見えないことは、「ずっとさきの話しだ」
と対応を先延ばしする意識構造があったと思います。目に見えないものは、存
在しないのと同じという考え。もしくは目に見えないことにして見ないように
すれば、その存在はなくなったと観念する考え方。
 どうもこの考え方が、世の中に蔓延していると思います。

▼「ものの見方」の提供

 いじめ問題にしても、虐待の問題にしてもそうです。人の心の中は見えませ
んからね。
 そして見えないものは見ようとしない心性は、神を怖れない・敬わない心性
と同じであり、神を信じない考えかたが、社会全体を覆った現在だからこそ、
社会に跋扈する考え方になっているのでしょう。
 物のみを、物質的な豊さだけを信仰する精神、ただ物主義。あるいは拝金主
義。これが現代人の精神の有りかたです。信仰を持たれるあなたには、たぶん
こういう問題は見えていると思います。怖れを失った人間が、欲望のままに暴
走している姿として。
 これはどのようにしてなくすことができるのでしょうか。これは信仰を回復
することを通じてなのでしょうか。また民族主義者たちが言っているような、
民族主義的な、自民族をもっとも価値有るものとした観点からの社会的道徳・
倫理の復興ということを通じてなのでしょうか。
 どちらでもないというのが、神の存在を信じない僕の考えではありますが。
 もちろんこれは、宗教の役割の否定ではありません。神を信じる人たちに対
して宗教の面から現代社会の問題点と今後のあり方を示す事は大事ですし、人
は、さまざまな契機を通じて新たに神を発見します。この意味で宗教の力は大
きいと思います。
 ただその信仰が、唯我独尊になってはいけないと思っています。自分の信仰
だけが正しく、自分たちは選ばれた民だという考えに陥ると、自分と異なる信
仰(考え)を持つ人を排撃するだけになり、それこそ、このような偏狭な信仰
は、さまざまに差別を温存したり人を支配する世の中を温存しようとする人々
に利用され、宗教の名の下に、差別や殺戮が許されてしまいます。
 1月9日の毎日新聞夕刊で、瀬戸内寂聴と学者の中島岳が対談していましたが、
その中で中島が、瀬戸内が以前にガンジーと同じことを言っていたとして、
「富士山の頂上は一つでも登り口はたくさんあります。それが宗教なんです」
という言葉を紹介していました。異なる他の存在を認めつつも、社会の真実の
姿を見つめて、ありうべき姿を探ろうと言う意味で活動するならば、宗教・信
仰がまだまだ大きな役割を果たせるとは考えます。
 要は、人々が現在の社会のありかた、人間のありかたの醜さおかしさを認識
するために、ものの見方を提供することが、今はもっとも大事なことなのだと
思います。
   (1月11日:すどう・けいすけ)
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3: 【時評】金融犯罪に対するダブル・スタンダード

        粉飾187億円のNCCと粉飾56億円のライブドア


 昨年12月25日、日興コーディアルグループ(以下NCC)の臨時取締役会は、
不正決算の責任をとって金子会長と有村社長が辞任し、後任の社長には、桑島
氏が就任する人事を決定した。その後NCCには5億円の課徴金という行政処
分が課されたが、辞任した2人の経営幹部の刑事責任を追求する動きは、いま
のところない。
 取引の詳細は省くが、証券取引等監視委員会が指摘したNCCの粉飾決算と
不正取引とは、以下のようなものである。
 1:NCCは、100%子会社の「日興プリンシバル・インベストメンツ」(以
下NPI)が100%の株を保有して事実上支配下にある「日興プリンシバル・イン
ベストメンツ・ホールディングス」(以下NPIH)を連結決算に含めず、本来は
内部取引で相殺されるNPIの評価益のみを決算に取り込んだ。2:04年9月
22日に「他社株式償還特約付社債」(いわゆるEB債)発行を決議したが、これ
を8月9日にさかのぼらせて評価益を水増した。
 これによって連結経常利益を約187.5億円、同当初利益を約116.7億円かさ上
げし、この虚偽の財務諸表を開示して500億円の社債を公募した(05年11月)の
は、証券取引法171条第1項の規定に該当するとして課徴金の金額を決めている。
 さらにNCCが委託した特別調査委員会の調査報告書では、1:本来は貸借
対照表に算入される評価益を、EB債を使うことで損益計算書に計上した。2:
株式公開買付(TOB)価格を設定してBE債の交換価格が上回るように操作した
と指摘された。
 要するにNCCは、TOBを前提にしてBE債を「仕組んだ」インサイダー
取引か、BE債評価益を「膨らませる」為にTOBで株価を操作をするかをし
たのだ。この手口は、あの「ライブドア」と同じである。
 しかもNCCは、有価証券の引き受けに当たって「企業を審査する立場」に
ある証券会社であり、「証券市場の健全化」には、ライブドアとは比較になら
ない社会的責任を負っているはずだ。とすれば今回の粉飾決算と不正取引は、
金額が大きいといういう以上に「はるかに悪質」でもある。
 ホリエモンは「小悪党」だと弁護したい訳ではないが、ベンチャー企業のオ
ーナーは逮捕しても、大手証券会社の「巨悪」の刑事責は追及せずに幕引を行
うとすれば、それは金融行政と検察庁のダブル・スタンダード以外の何もので
もない。【Q】
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【お知らせ】07年1・2月号をお送りします。次号は3月号です。
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【月刊ニュースレター:メール版】イ ン タ ー ナ シ ョ ナ ル
                ┗━━━━━━━━━━━━━━━┛
 メール版第46号(通巻170号)      2007年2月12日発行
 発行所:MELT
    ホームページアドレス http://www014.upp.so-net.ne.jp/tor-ks/
         Eメールアドレス   melt-ks@jn3.so-net.ne.jp
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