すまいとくらしのア・ラ・カルト vol.145
EDIT DESIGN WORKS エディットデザインワークス メールマガジン
2008.2.10 Vol.145
住まいづくりの6人の専門家が
あなたの暮らしと住まいを
デザインします
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●コラム(家づくり箴言の知恵・名言のヒント)
ついの栖を建てるには四千万円を必要とすると考える。そこでその計画を中
止して、五百万円を3DKの内装に投資する。・・・・・千五百万円で山の
中に土地を買い、小舎を建てる。アパートで余った家具類をそこへ持ってゆ
く。土曜日と日曜日は山小舎で暮す。これでも二千万円は余ることになる。
これは妙案だと思うが、やはり、実行した人は一人もいない。
(山口 瞳・作家)
人は慣例や習慣に縛られるもの。これまでは、ついの栖を建てることが人生
の目標のように思われてきました。しかし、それをあたりまえとしてきた時
代は終わったのかもしれません。
まず自分のライフスタイルを確立する。そしてその環境づくりとしての家を
考える。家を持つことは目的でなく一つの手段。都会の生活と山の中での暮
らしを両立させるためにあえて家を持たない、ということも、立派な「家づ
くり」といえるのではないでしょうか。
(笠井義文)
●6人の日替わりブログ日誌もご覧ください(毎日更新しています)。
→http://edit.jugem.cc/
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●エディット広場
エディット仲間の連載シリーズをおとどけしています。
美術発見 2008年2月
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勤め先がある公園で、毎朝、樹木まわりの清掃をしている数人の人達がいる。
猛暑の夏のまだ気温がそんなに上がらない時間、秋の落ち葉が絶え間なくひら
ひらと舞い降りる朝、冬の凍てつくような風が吹く寒い日も、同じ頃に、同じ
ような場所で、その人達は落ち葉や、公園利用者が捨てていったゴミを掃き集
めている。
年明けてしばらく経った頃、いつも見かけていたおばあちゃんの姿が見あたら
ないことが気になりだした。大きく曲がった腰のせいで、ぐんと小さく見える
そのおばあちゃんは、箒を手に、大きな動作で毎朝、元気に働いてくれていた。
昼休みはどんな季節にも戸外で、コンクリートの車止めあたりに腰を下ろして、
お弁当をつかっていた。雨の日は、屋根のある駐車スペースの片隅で、晴れた
日は、暖かいお日様の光を背に浴びて、いつもラヂオを大きく鳴らしながら、
一緒に働いている初老のおばさんと一緒に。
「どうしたんだろう。風邪でもひかれたんだろうか、それとも別のご病気で、
具合が悪くなられたんだろうか」と思い、数日が過ぎた。ある朝、いつも一緒
に働いていたおばさんに声を掛けてみた。「おばあちゃん、どうされたんです
か?」と。
「ああ、先月であの人は、仕事を辞められました」と即座に返答が戻ってきて、
安心したのと同時に、なんともあっけない気もした。「もう、89歳にもなる
んでね」と言うのを聞いて、その気の抜けたような気持ちが、しゃきっとした。
89歳!なんと素晴らしいおばあちゃんだったことでしょう。
どんな季節にも、朝から元気に身体を動かして、公園利用者が気持ちよく過ご
せるように環境を整え、90歳を目前に、「現役引退」とは。身の丈と同じく
らいの箒を大きく動かしながら、落ち葉を掃き集めていたおばあちゃんの名札
をちらりと見たことがある。確か、「ハツエさん」だったように思う。ハツエ
さん、長い間ありがとうございました。お姿が見られなくなって寂しい限りで
すが、どうぞ、御元気でいらしてくださいね。
さて、本題。昨年末に17年半ぶりに初めて転居と言える転居をして、仕方な
く、かなりの資料を捨てたのだけれど、残ったものもまだまだ多く、整理に追
われている。中でも、海外での私的な調査で持ち帰ったものの多さに改めて驚
いた。毎回、段ボール箱に何箱も資料を詰め込んで、各国の郵便局から船便で
送付していた。その資料が選別されても、やはり元の段ボールに入ったまま、
転居先に持ち込まれた。
そして、容れ物を見ると、勿論当時の様子をまざまざと思い出さないわけには
いかないのだが、隔年開催されるビエンナーレにこれまでのところ通い詰めて
いるヴェネチアからの郵便物にはほとんど、ワインのボトルが半ダース入れら
れる段ボールが使われている。これは食事に出かけた先であるホテル近くのレ
ストランからもらってきたものばかりで、ここに資料をいっぱいに詰め込むと、
ほどよい大きさと重さになるので気に入っていた。これを一つずつ抱えては、
いくつかの橋を渡って郵便局にたどり着かねばならいので。
対して、オランダ、ドイツからは、大抵郵便局で扱っている大きなパッケージ
を利用することが多かったようだ。資料を鞄や袋につめて郵便局に出かけ、ほ
どよい大きさのパッケージを買い求めて、郵便局でパッキングをするのだ。理
由の第一は、パッケージのデザインが気に入っていたことだろうか。あるいは、
美術館やギャラリー巡りをして、両手にイッパイになったところで、町中の郵
便局を探し当て、そのまま日本に送付するということもあった。ときに、郵便
局で扱っているカワイイカードなどを衝動的に購入し、荷物に紛れさせること
もあったので、思わぬご当地ポスト・グッズなんかも出てきて、少し楽しい思
いもした。
個人的な好みもあるのかもしれないけれど、生活の中の平面デザインは、ドイ
ツやオランダがいいなと思う。しかし、工業デザインになると、イタリアのス
マートなデザインには皆シャッポを脱がないわけにはゆかない。通貨の統一後、
オランダの紙幣のデザインの変遷を楽しみにすることはなくなってしまったけ
れど、切手は相変わらず人々の話題になりながら、移り変わっているのだろう
な。日本では、紙幣に登場する人物が話題になることはあっても、「紙幣のデ
ザイン」なんて、人々の話題になることはほとんどない。
先日、小さな女の子が「クララ・シューマン」の伝記物語を読んでいて、クラ
ラがドイツのマルク紙幣にも登場したことを知り、話してくれた。「ひょっと
して、あの中にあったかも」と思って見てみると、マルクをユーロに取り替え
損ねた時期のままの財布にクララはいた。わりと高額な紙幣だったと思うので、
寄付袋にも入れないまま、いつか時間のあるときにどこかの銀行に持って行こ
うと思って取り置いてあったものだ。
巻末に紙幣の写真が載っていたので、実物をその前に置いてみせてあげたら、
目を丸くしていた。私は私で、改めてクララの育ったドイツの音楽的な土壌に
思いを馳せた。大量に印刷された小さな紙幣の価値は、時代や状況に依って大
きく変わってしまう。美術作品も同じようなものだろうな、と思ったら、紙幣
が小さな版画作品のようにも思えた。
(玉川稲葉)
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