クラシック音楽夜話 Op.209
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クラシック音楽夜話 Op.209 2007年11月4日(日)
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オッサンも、荒野をめざす
Op.209 CONTENTS━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
1.愛しの幕の内弁当よ
2.ハイドン 交響曲第98番 変ロ長調 Hob.I-98
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1.愛しの幕の内弁当よ
駅弁を選ぶとき、どういう弁当を選びますか。目の前にある弁当から好みの食
べたいものを選ぶのだ、別にどうってことのない選択だ。しかし、私はいつも
決めるのに時間がかかる。あれこれ迷ううちに始発時間となり、何も買えず列
車に飛び乗り空腹のまま車内で過ごした経験も一度や二度ではない。
予備知識が事前にあるならよいが、当時はなかった。今ならインターネットで
全国駅弁の情報を瞬時に調べることができるから、あらかじめインプットして
おき、出張時や旅行時には「あれを食べてみよう」と決めておけるだろう。た
とえば、「かにめし」(長万部駅)、「前沢牛めし」(一ノ関駅 )、「だるま
弁当」(高崎駅)、「鯖の押し寿司」(大船駅)、「慶喜弁当」(静岡駅)、
しゃぶしゃぶ弁当(神戸駅)、吾左衛門寿し(米子駅)、めんたい弁当(博多
駅)。あとは財布の中身と相談し即決だ。なーんてことはないだろう。
が、仮に現代でも、私は迷う。なぜか?
名物と呼ばれ強烈な存在感をアピールする弁当群の横に、さりげなく置かれて
いる気になる弁当がある。「幕の内弁当」である。
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「幕の内弁当」はどこにでもある。ごくありふれた存在と云ってもよい。構成
はきわめてシンプルである。ご飯と数種類のおかずのセット。ご飯は白飯が基
本。それも俵状になっているのが正式らしい。最近は炊き込みご飯系を使う幕
の内弁当も登場し、その筋では物議を醸していると聞くが、どうぞ存分に議論
してください。おかずの基本は、汁気のないものを少しづつ詰め合わせる。三
種の神器と呼ばれるのは「焼き魚」、「卵焼き」、「かまぼこ」。そういえば
どの幕の内弁当にも入っていたような気がする。そしてその他土地の素材を使
った揚げ物、漬け物、煮物。(参考:ウィキペディア)
見た目は驚くほど似ている。同じようなおかずのセットに、白飯の上には黒ご
まと小さな梅干し。非個性的でワンパターンといっても良いかもしれない。せ
っかくの旅なのだから、土地の個性が感じられる弁当を食べたい、という方に
は物足りないだろう。
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だが、私はこのワンパターンが妙に心地良い。ワンパターンに対し「安心感」
を抱くのだ。せっかく訪れた土地だ、土地の名物弁当を食べ、感性に刺激を与
えるのもよい。が、時と場合によるもので、仕事で出張の時はいつも疲れ果て
そういう「刺激」よりも、「安心」を求めた。「信頼」といってもよい。いつ
もと変わらぬご飯に、いつもと変わらぬおかず。安らぐではないか。いつも行
くなじみの食堂、なじみの店のように。幕の内弁当には「安心と信頼」がある。
なんだか、安っぽい広告のコピーみたいになってきたか?(笑)。
8月末にAbeさんの(結果)短命内閣ができた時、有名なTという評論家は、
「幕の内弁当内閣」と揶揄した。個性がない閣僚たちを、「似たようなおかず
の集まり」に例えたのであった。が、幕の内弁当擁護派の私は大変憤慨した。
例え話であっても、「幕の内弁当」を馬鹿にするなよ、と。そもそも、日々実
直にこれら弁当を作っている人々に失礼ではないか、とも。ちょっと考えすぎ
ですが…(笑)。
いっておくが、幕の内弁当にも個性はある。確かに見た目は似たようなおかず
かもしれない。白飯も白い米だ(←当たり前だ)。しかし、土地の素材を使い、
調理法を工夫し、おかずの種類を厳選し、土地自慢の米を使っている。決めら
れたパターンの中、いわば制約の中で、小さくともキラリと光る個性を魅せる、
それが幕の内弁当なのだ。舐めてはいけない。
これからも 私は、各地名物弁当を尻目に、土地の幕の内弁当を選ぶだろう。各
地にしっかりと根付く味が凝縮された弁当を愛し続けるだろう。もっとも、時
々浮気するかもしれませんが(笑)、許してね。
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2.ハイドン 交響曲第98番 変ロ長調 Hob.I-98
★ハイドンの交響曲=幕の内弁当(?)
管弦楽曲や交響曲を聴く気になり、シューベルト、ブラームス、ブルックナー、
マーラーなどを取り上げる計画を立てているのですが、今回幕の内弁当のこと
を考えているうちに、ふと頭をよぎったのがハイドンの交響曲のことでした。
交響曲のスタイルを確立した張本人はハイドンです。104もの交響曲を書きな
がら模索し、彼が創り上げたスタイル(厳密にいうとハイドンとモーツァルト
両人が模索したどりついた形式)とは次のようなものでした
第1楽章 ソナタ形式
第2楽章 緩徐楽章〔変奏曲または複合三部形式〕
第3楽章 メヌエット
第4楽章 ソナタ形式またはロンド形式
ここで形式についてのウンチクを語るつもりは毛頭ありません。興味のない方
は「ああ、そうか」程度に受け止めてください。ただ、交響曲の各楽章には、
暗黙の決まりパターンがあること。乱暴にいうとワンパターンですね。そして、
パターンの組み合わせで、ひとつの交響曲ができている。それぞれ決まりごと
のある各楽章で、さまざまなメロディ、リズム、和音、楽器の起用など、工夫
が凝らされている。それでいて、パターンを逸脱しない配慮。さりげない気品。
これはまさに幕の内弁当、と思ったのです。少し強引すぎますか(笑)。
前項で、幕の内弁当に「安心感を抱く」と書きました。私はハイドンやモーツ
ァルトの交響曲にも似た感覚で接しています。強い刺激やワクワク度は求めま
せん。たとえばハイドンの場合(主に後期交響曲の場合)、いつも決まったパ
ターンで始まる第一楽章序章、その後のアレグロ。四拍子の時もあれば三拍子
もあるけど、軽快なリズムと弦楽器のほとばしる喜び、管楽器の色彩。第二楽
章のゆったりと美しいメロディ。思わずからだが動きそうになる第三楽章メヌ
エット、四楽章快活なフィナーレ。
パターンが決まっているため、聴く心の準備ができて安心なんですね。余裕を
もって聴けるのです。一方、曲調の予想はついていいても、「今度はどんなふ
うにアレンジするか」「どんなメロディや和音を聴かせてくれるか」と、静か
な期待感もあるのです。この曲では、どんな手を使うのだろう、と。とはいえ
とんでもない奇策はないから、気持ちがよい。だから、聴いた後すがすがしい
気持ちになるのだと思っています。
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★モーツァルトの助言にもかかわらずロンドン行きを決断
「あなたは、もう年齢も年齢ですから、長旅は体に応えますよ。それに言葉も
通じない土地での音楽活動はキツイと思います。考え直した方がよいのでは」
「お気遣いありがとう、モーツァルト君。
でもね、私は、残りの人生で、私を待ってくれる一般聴衆に音楽を捧げたい。
私の音楽は長い宮仕えのため、ごく限られた貴族とその関係者にしか聴いて
もらえなかった。主人から解放された今がチャンスなのさ」
「でも、何もロンドンへ行かなくても。ここウィーンでだって機会はあるでし
ょう。いまやハイドンの名は欧州にとどろいているのですから。私と共にコ
ンサートを開き、市民に聴いてもらいましょう」
「いや、ウィーンでは音楽はまだ大衆のものではないよ。君がそのことを一番
わかっているじゃないか。ロンドンでは市民のための公開演奏会がごく当た
り前に行われているんだ。年甲斐がないかもしれないけれど、胸がふくらむ
思いで、私は興奮しているんだ」
ハイドンとモーツァルトのこの会話は架空のものですが、直に60歳になるハイ
ドンの意志はモーツァルトの助言を退かせるほど強靱なものでした。モーツァ
ルト30代半ば、20歳以上の年齢差。しかし、ハイドンはオッサンの域の感覚
を脱し、青年のように荒野を目指したのです。
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ハイドンは4回のロンドン公演(各々3ヶ月以上の滞在)をこなし、その間新
作を書き上げ公演では指揮をします。ロンドンの聴衆たちからは絶賛され大成
功。ハイドンここにあり、とその名を欧州にとどろかせます。
交響曲第98番は、第二回目のロンドン公演用に書かれました。『ハイドン復活』
(春秋社刊)で中野博詩さんが書いておられるように「密度の高い」作品です。
全楽章ぎっしりと充実感が詰まり、聴いた後の満足度の高さといったら、他に
類を見ません。
【第1楽章】アレグロ〜アダージョ 2/2拍子 変ロ長調 序奏付ソナタ形式
冒頭の序奏はこの交響曲の明るさを全く予感させない、むしろ違和感たっぷり
の悲劇を感じさせます。楽しげなメロディを期待していれば「え?」と驚き、
少し後ずさりしてしまうでしょう。前々号で取り上げたベートーヴェン「弦楽
四重奏曲第9番」もそうでしたね。意表をつく、のはベートーヴェンの特許だ
と信じていた私でしたが、ハイドンもモーツァルトも既に試みていたというわ
けです。そう、意表とつかれ、その後短調であった序奏のメロディが、長調に
なって現れるのです。「あれま…」という感じで拍子抜け。嬉しくなります。
低音ユニゾンの主題の後絡み合うヴァイオリンのメロディ。軽快なリズムです。
ときおり垣間見せるオーボエやファゴットの音色が美しい。ティンパニーもひ
かえめに存在感を主張しています。
中間部は主題が短調に転じ小刻みな音符がキビキビと動き回ります。ここから
後半へはフルートも我ここにあり、と出てきます。きれいな音色ですね。
【第2楽章】アダージョ ヘ長調 3/4拍子 かなり不規則な変奏曲
不規則な変奏曲、というのがそそられます(笑)。動きの少ないメロディが泣
かせます。人はなぜ、こういうゆっくりの音符の少ない音楽に、心奪われるの
か今度ぜひ研究してみたいです。綺麗な和音の仕業とだけともいえません。強
烈な三連符に導かれ、哀愁帯びた旋律へと転じていくところ。アルペジオにも
似たフレーズが染みてきます。チェロの独奏あり。
【第3楽章】メヌエット アレグロ 変ロ長調 三部形式
メヌエット=踊りの音楽、ということで思わず体を揺らしたくなる、または
指揮をしたくなる、というのが私の習性です。気持ちの良い三拍子のフレーズ
の繰り返しです。垣間見せるフルートの音色がしみじみと良いです。弦とユニ
ゾンで奏でられるファゴットの渋い音色も味わい深い。
【第4楽章】フィナーレ プレスト 変ロ長調 6/8拍子 ソナタ形式
全楽章のメロディを継承しているやや細かい音符のメロディという印象。フィ
ナーレを予感させる休止が要所要所で登場。「もう終わるのか、終わってしま
うのか」という、焦がれ似た切ない感覚を呼び起こします。独奏ヴァイオリン
の活躍をはさみ音楽は曲想が変わった印象を持たせるのは憎い演出。ですが、
ソロの演奏は再び主題を導き、フィナーレへと向かいます。クライマックスの
途中チェンバロが登場。意表をつかれるようですが、ハイドン初期中期の交響
曲ではチェンバロが併奏されることが多かったようで、別に珍しくもありませ
ん。でも、私たちの耳には新鮮ですね。
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★私が聴いているCD
TOCE-7848 EMI CLASSICS
ハイドン 交響曲第96番「奇蹟」、第98番、第93番
ジェフリー・テイト指揮 イギリス室内管弦楽団
※優雅で美しい音。手に入るなら、ぜひこの演奏を聞いて下さい!
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【今週のPODCAST】
ー最新配信番組ー
◆11月4日配信
エピソード op.209 ハイドンの交響曲について
◆10月8日配信
エピソード op.208 ホルスト《惑星》、夏川りみさんの歌声など
◆9月24日配信
エピソード op.207 ベートーヴェン弦楽四重奏曲第9番
※iPODやiTUNESをご利用でない方も、次のURLでお楽しみいただけます。
ぜひどうぞ。
http://musiker21.seesaa.net
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【私の聴いたCDや本】
http://www.musiker21.com/cdinfo.html
※本誌で取り上げた作品のCDや書籍などを掲載しています。
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【あとがき】
前号の後書きで、「平原」綾香さんを「平山」綾香さんと記述してしまいました。
ファンの皆様ごめんなさい。訂正すると共にお詫び申し上げます。
一ヶ月ぶりの配信となりました。言い訳はしません(平謝り)。
音楽とは関係ない幕の内弁当のお話で驚かれた方も多いでしょうね。
6月から発売されている新幹線弁当「幕の内弁当・信濃尽くし」「牛めし弁当」
のパッケージデザインに関わり(デザインは勤務先の女性スタッフ2名による
もの)、こだわりの幕の内弁当のすごさを知ったこと。実際食べてみると本当
に美味しく感動したこと。そんな矢先に例のT氏の発言に憤慨。
この頃あまり注目されないハイドンの交響曲、私が大好きなこの音楽の魅力は
何だろうと考えてみると、地味だけど安心感と溢れる気品。ということでこの
ふたつが本号テーマにおいて融合したのです(笑)。何が登場するかわからな
い「クラシック音楽夜話」。
それにしても、最近の月間化ぎみ配信間隔から早く抜け出したいものです。
では、op.210まで、皆様お元気で。
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