クラシック音楽夜話 Op.197
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クラシック音楽夜話 Op.197 2007年3月18日(日)
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トラの品格
Op.197 CONTENTS━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
1.歌劇「イェヌーファ」(日本初演)出演エピソード(2)
2.リスト メフィスト・ワルツ第1番〜「村の居酒屋での踊り」
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1.歌劇「イェヌーファ」(日本初演)出演 出演エピソード(2)
一昨年、つまり2005年10月に書いた「オペラ出演体験記」の続きを、遅まき
ながら書こうと思う。
2005年10月以後読者になった、あるいは「そんな話わすれちまったぜ」とい
う皆さん、こちらをお読みください。
http://www.musiker21.com/opera01.html
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★前回のあらすじ
大学二年の時、ヤナーチェク「イェヌーファ」日本初演に群衆役合唱団員とし
て出演した。渡された手書きの楽譜で私が驚いたのは難しい旋律だけでなく、
本邦初公演のため書き下ろされた日本語訳詞。子音"N"を四分音符分伸ばすな
ど、外国語のような、いや外国語にもありえない歌詞を舞台で暗譜で歌うため
一所懸命覚えた。練習指揮者のもとでしばらく練習を重ねてきたある日、本番
の指揮者若杉弘さん、西松甫味子さん、丹羽勝海さん、入江進さんなどソリス
トたちも合流し、「本当にオペラをやるんだ」と実感がわいてきた。歌を覚え
なんとかさまになってきた頃、チェコから招聘したという背丈2メートル位あ
りそうな巨大なチェコ人演出家が練習に加わった。私たちには彼の執拗な演技
要求に応えるための過酷な試練が待ちうけていた。
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★演技の初体験
群衆役合唱団の一員として参加した歌劇「イェヌーファ」。難しい曲をなんと
か覚え、様になってきたので安心していた矢先、「演技をしろ」という全く予
想外の展開になってきたのだった。
チェコから招聘したという図体の大きい演出家は、大きな声でわめきちらした。
チェコ語なのでまったくわからない(かといって英語でも全く分からなかっ
ただろうなぁ、あの頃は)どうも、群衆役(合唱団)である我々が「ぼーっ」
と立っているのが気に入らないらしい。
群衆は酒場にたむろす客。主人公がしこたまよっぱらい、「俺様は偉い!」と
か「女は俺の手にかかればイチコロ」など威勢の良いことを言っているのであ
る。それを周囲の客らが完全無視なんて「ありえない」、なにせ同じ村人だか
ら。「何、いってやがんでぇ」とか「よ!いいぞ大統領!」「もっとやれ〜、
もっとわめきちらせ」など合いの手を入れる、それがまあ、普通ですねぇ。そ
ういう演技をせよ、というのだ。
だが、役者志望ならともかくごく普通の大学合唱団の学生に「演技せよ」と言
われても、どうしたらよいか全くわからないのである。歌を覚えるだけで精一
杯なのだから。とにかく、赤ら顔の演出家の怒りを鎮めるために、気恥ずかし
いが演技のまねごとをやった。そこの色男(主人公役の歌手)を親しい仲間の
つもりで合いの手を入れてみた。日本語訳での上演なのでアドリブも日本語で
よいのだ。なんとかなる、と。
【註】歌詞の内容を全部忘れましたので雰囲気だけを書いています。対訳と解
説を入手しましたので、次回ちゃんとしたストーリーと歌詞について記載します。
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赤ら顔はそれでも不機嫌だ。通訳によれば今度は「群衆の演技が不自然でぎこ
ちない」というのである。
「だから、俺たちは雇われ合唱団だって!」
頭に血が上った私は、思いっきり目立つように、大げさな演技もどきのことを
やった。奥ゆかしい私が(←本当か?)、ふだんなら絶対やらないジェスチャー
を交え、主役を大声をあげ手を叩いて馬鹿にした。飛び回ったり足で床を蹴っ
たり。迫真(?)の、いや、自暴自棄の演技に夢中になった。そのため、次の
歌の出だしに遅れ練習指揮者には怒られた。演出家は、次第に満足げな目で私
たちを見るようになった。
後で聞いたのだが、彼は私たち臨時の合唱団メンバーを「研究生」つまりオペ
ラ歌手の卵だと思っていたようなのだ。迷惑な勘違いだが、彼にとって出演者
はプロもアマもない。公演はプロ歌劇団による公演であり、お客さんたちはお
金を払って観に来るのだから、当然の話だ。
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★東京文化会館でのステージリハ
あれよあれよというまに東京文化会館でのリハーサル日がやってくる。衣装を
与えられ着替えてステージそでに集まる。男声はステージ裏から歌いはじめ、
歩いて舞台中央へと登場する。モニターに映る若杉さんの指揮に合わせアシス
タント指揮者が我々の歌い始めを指示する。ピアノによる伴奏と全く違う雰囲
気の管弦楽にとまどいテンポがあわない。少し遠くに聞こえる管弦楽と微妙に
ずれている気がする。
若杉さんが指揮を止め遠くの指揮台から叫んだ。
「合唱団の皆さん、指揮をよく見てください。オケの音を聴きながら歌うとテ
ンポが合いません」
そうだ。オーケストラピットのオケの音が私たちに聞こえるまでは時間差があ
る。だから、聞きながら歌うと当然オケと合唱団の音がずれるわけだ。
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照明がまぶしい。空っぽの観客席が異様に広い空間に思える。そして、ステー
ジも想像した以上に広い。群衆ひとりひとりの立つ位置を指示され、頭にイン
プットしておくように言われる。
主役、脇役ともにソロの歌手たちの声量に驚かされた。練習場ではさほど感じ
なかったが、広いステージではほんとに客席のすみずみまで轟いていた。自然
に我々も大声を出してしまい、指揮者からは「あまり力まないで」と注意され
た。
他大学から参加している女声陣も衣装に着替えるとまるで別人で二度驚いた。
パートナー役と手を取り踊る場面で、いつも違い、訳もなくにやけた顔をして
いるのが自分でもわかった。
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★職人気質のスタッフにビビる
リハが終わり、帰り支度をしていると、小さな男性が楽屋に怒鳴り込んできた。
舞台関係スタッフのようだった。
「おい、お前ら!今日ぎりぎりにきた奴がいだろう」
メンバーのひとりが手をあげた。
「僕です。でも、5分前にはいましたが」
「そんなぎりぎりに来る奴があるか!30分前には来てろ!」
「でも…、午前中の授業が終わってからだと、その位の時間になってしまうの
で」
「授業だかなんだか知らんが、とにかく、明日はもっと早く来い!予定は前後
にずれることもある。その時にスタンバイしていなけりゃ、他の出演者に迷惑
をかけることになるんだから、覚えておけ!特に明日はゲネプロと本番日だか
ら注意しろよ」
それまでは、優しい練習指揮者、温厚なスタッフたちとの接触しかなかった。
だから、舞台裏をしきる、職人気質のスタッフの迫力にビビった。ただ、彼の
いうことは至極もっともだったので、合唱メンバーは相談し、翌日は二限目の
授業をやむなくサボり、一時間前に楽屋入りすることにした。
エキストラにも品格が必要なのだ(学生の品格はどうした?)。
(この項続く)
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2.リスト メフィスト・ワルツ第1番〜「村の居酒屋での踊り」
リスト作の有名なこのワルツを、聴こうというきっかけは、いうまでもなく、
漫画「のだめカンタービレ」だった。主人公千秋真一が大学卒業演奏会で弾い
たことは、ファンなら誰でも知っているが、大人気で終わったTVドラマでは、
物語からカットされていた。野田恵出場のコンクールで、他の出場者が弾いて
いたのだが、実は、私がこの作品のさわりを聴いたのは実は11月であり、もし、
さわりを聴い ていなければ、残念ながらドラマの「さりげない」演出にも気づ
かなかった。ああ、あぶない。
原作で、千秋がこの曲を弾くと知った時、野田恵は笑い転げる。千秋先輩が居
酒屋で酔っぱらい踊る光景を想像してしまったからだ。その容姿と裏腹に「踊
り」なんて全く似合わないという先入観、そして酔いつぶれた姿を何度も見た
ことがあり、居酒屋での踊り=酔っぱらい=千秋を想像した二重の「笑い」で
ある。
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原語のタイトルは、"Der Tanz in der Dorfschenke"。そのまま訳せば「村の酒
場での踊り」となる。酒場でなく「居酒屋」としたことで、現代日本人、とく
に若者たちがタイトルから全く違うイメージを抱く要因にもなっている。
居酒屋。あなたはいったいどんな光景を目に浮かべますか?学生や会社員たち
がよく利用する比較的安価な居酒屋チェーン店で、チューハイを飲みながら、
どんちゃん騒ぎをする。今は自粛しているだろうが、「イッキ、イッキ」など
と、店中に声が轟きわたる。踊りは当然、日本風踊り、といいたいところだが、
私たちの年代以後は、日本の伝統的踊りなんか知らないので想像がつかない。
ここは人生の先輩たちにご登場いただき、裸踊り、とまではいわないが、どじ
ょうすくいなどを披露していただくことになる。いずれにしても「居酒屋」と
いうイメージは、日本人が想像すると、こうなるのである(え?私だけ?)。
リストのこの曲はもちろん日本の居酒屋ではない。当然、チューハイもなけれ
ば枝豆もない。ワインとビール、土地の料理が出てくる、欧風の酒場が舞台だ。
踊りもやはり地場の踊りだろう。ウィンナーワルツとは違うだろうなぁ。テレ
ビも映画も舞台もない。何の楽しみもない村人たちが、夜な夜な集まり酒と食
事、そして会話や踊りを楽しむ、歌劇「イェヌーファ」で私が村人を演じた酒
場のシーン。あんな感じだっただろう。
もともと「ファウスト」からのインスピレーションでリストが書いた音楽。
「ファウスト」でも、ゲーテではなくレーナウというオーストリアの詩人によ
る作品だ。メフィストの魔力で若者に変身したファウストが、快楽を求めて村
の酒場へ入る(快楽といっても、妙な想像をしてはイケマセン。踊りですよ、
踊り)。少し妖しげな雰囲気の酒場では、結婚式のお祝い会が行われている。
メフィストはヴァイオリンを手にして、景気づけに音楽を奏でる(これもメフ
ィストによる魔法の一種)。居酒屋の人々は酔いしれ踊り出す。いつのまにか
ファウストが花嫁と踊り始める。嫉妬に狂う夫。そうこうするうちに、人々は
闇へ消えていく。ファウストと花嫁も森へと…。
このような、実に妖しげで妙な想像をしてしまう物語(といっても短い詩であ
るが)を、リストが音楽にしたというわけだ。
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始まりから妖しさいっぱいである。変な音の動きによる前奏。不思議な音程は、
どこかで聴いたことがある。そう、オーケストラのチューニング時に聞こえる
響きである。ピアノ版はトリルを巧みに利用し妖しさを演出する。階段を上る
ようなオクターブのフレーズの後和音を轟かせた後、メインメロディへと移る
のだが、独特の音楽に一気に心奪われていく。ワルツというけれど、こんな速
いワルツをどうやって踊るというのか。鍵盤の上を指が飛び跳ねている。凄い!
華麗さと妖艶さを兼ね備えている。中間部の甘いメロディ。ロマンチックな雰
囲気に惹かれうっとりとしてしまう。ときおり、装飾音をともなう高速のフレー
ズで水をさされるが、ロマンチックな魔法は続く。氷のようなオクターブ音が
美しく幻想的だ。冒頭の音楽が再び現れ様子は次第に妖しげに変化する。逃げ
モードという感じがするほどスリリングなフレーズが続く。聴き手はますます
興奮の渦に巻き込まれ、ピアニストの超技巧に目が回る。緩急自在の音楽に、
手に汗を握る11分間。最後は星空を暗示する静かで不思議なメロディ。短い
怒濤のフレーズであっけない幕切れ。酔っぱらいが居酒屋から外に放り投げら
れ、正気に戻る、そんな感じだ。
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【私の聴いたCD】
リスト/超絶技巧練習曲S.139
アシュケナージ(ウラジミール)
●リスト:
1. 超絶技巧練習曲S.139
2. ゴルチャコフ即興曲S.191
3. メフィスト・ワルツ第1番S.514
●プロコフィエフ:
4. ピアノ・ソナタ第7番変ロ長調op.83
↓こちらに情報を記載してあります。
http://www.musiker21.com/cdinfo.html
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なお、この作品は管弦楽バージョンもある。レーナウの「ファウスト」からの
2つのエピソード(1.夜の行列 2.村の居酒屋での踊り)第2曲であり、
資料等では、管弦楽版が最初に完成し、すぐ後にピアノ版に編曲された、と
の記述が多い。しかし、この説には異論もあるため、本稿では明記しなかった。
ピアノ版とは違い、おちついた雰囲気を醸し出している。最後のフルートの音色
が妖しさ満載で聴きどころ。
LISZT IN WEIMAR
1.MAZEPPA 2.ORPHEUS 3.MEPHISTO WALTZER
4. TASSO, LAMENTO E TRIONFO 5. LES PRELUDES
シュターツカペレ・ワイマール
George Alexander Albrecht指揮
※同管弦楽団の演奏会で入手したCDです。
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【あとがき】
酔っぱらって店の外に放り投げられた経験は、私はありません(笑)。
酒を飲めば自ずから騒ぎたくなるのは万国共通です。でも、日本の居酒屋での
どんちゃん騒ぎのような光景に欧州でお目にかかったことはないですね。ドイ
ツでは、団体の貸し切りで手を取り輪を作って踊った経験がありますが、なご
やかなものでした。
ウィーンやザルツブルクで入ったお店では、ご夫婦らしき老年カップルが、
ワインやビールのグラスと、ハムやポテトなどの料理を前に、静かに時を過ご
す光景をよく見ました。年齢を重ねても、ああいう落ち着いた仲の良さを、さ
りげなく見せてくれるのは、とてもうらやましいし、見ている側にも幸せな気
分を味わわせてくれます。
春かとおもえばいまごろまた雪。はやく暖かくなってほしいですね。
では、op.198まで、お元気で。
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