2003/04/03
★福岡発アジア映画行き 第11号 『アレクセイと泉』★★★
★福岡発アジア映画行き★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
第11号
発効日2003年4月3日
発行部数 67部
発行人 Jun Uwo(うを)
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
『アレクセイと泉』 2002年度作品
監督 本橋成一
出演 アレクセイ・マクシメンコ
他 ブジシチェ村の人々
『アレクセイと泉』を観にいきました。チェルノブイリ原発から180キロ離
れたところに、ブジシチェ村と言う、小さな村があります。ベラルーシの東端
に位置し、コヴピタ村の向こうはロシア連邦にある国境の村です。
1986年4月26日にチェルノブイリ原発の爆発事故が起こりました。南風に乗っ
て、拡散した放射性物質の70%がベラルーシへ降り注いだのです。
国土の30%が半永久的に汚染の地と化し、約170万人が住んでいます。
ブジシチェ村は、とても美しい村です。針葉樹林と広葉樹林が混ざり合って
いる美しい森林があります。じゃがいも畑や小麦畑もあります。そして、美しい
川と村の人たちが「聖なる泉」と呼んでいる泉があります。
原発事故以後、「強制移住」の対象とされた地域は、放射能汚染調査で、
「40キュリー以上」の地域でした。
ブジシチェ村は、汚染がひどい地域で、2001年調査でも、森では、60〜150キュ
リーだったそうです。
ほとんどの人は、「強制移住」の勧告に応じて、アパートに住んでいます。
しかし、勧告に従わなかった人たちが今でも生活をしているのです。
かつてはソ連、今はベラルーシ共和国にあるこの村では、現在55人の老
人とたった一人の青年が住んでいます。
この村は、旧ソ連の地図上からは抹消された村なのだそうです。
老人たちは、生まれ育った村から離れようとしませんでした。年々衰えてい
く体力の中で、じゃがいも畑を耕し、泉(なんと、この泉から出る水は放射能
測定値ゼロ)から、バケツ2杯の水を家まで何度も運ぶのです。小麦は、ソフ
ホーズがなくなったために安く譲り受けた、コンバイン(よく故障する)などで、
なんとか収穫をしています。
月に一度、年金がもらえますが、村の中では自給自足の生活なので、あまり
お金は意味はありません。娘息子に食べ物を送ったり、週に2度やってくる行
商の車から食料品やお酒を買ってすぐに使ってしまいます。
男たちは、老人でも胸板が厚く、かえって、日本の老人よりも体力はありそ
うです。でも、極寒の地で、働き続けることはだんだんと難しくなっていきま
す。
質素な生活です。テレビはもちろんありません。ラジオは持っている人もいま
す。洗濯は、泉の水を使ってします。もちろん冬も。
洗い場の丸木でできた枠が腐ってしまっています。そこで、女性達は、男性
に、木枠をつくるようにお願いをしていました。しかし、実行にとりかかるま
でには2年もかかりました。なぜなら、男たちは歳をとりすぎていて、重労働
に耐えられるか不安だったのです。
なんとか、木を6本ばかり切り倒して適当な大きさずつに切って、馬を使っ
てそれを運びます。そして、木枠を男たちで斧とのこぎりで作っていきます。
ほぞの作り方など、とても器用だと思いました。とても60過ぎのおじいさんば
かりだとは思えないほどです。男たちは、木を泉に転がして落とし、木の枠を
組み立てていきました。おそらく、この木の枠をつくる作業はこれで最後なの
です。
木の枠は無事に完成します。女性達は、洗濯がこれまでよりも楽にできるよ
うになりました。
この作品は、この村の一年の生活を、淡々と追っています。
悲壮感あふれる作品かと言えば、そうでもないんです。放射能が汚染された
土地でじゃがいも、小麦を栽培し、もっと放射能の蓄積濃度が高いキノコまで
とって食べています。カメラを向けられた老人たちは、にこやかな表情を浮か
べることも多かったのです。
彼らの子どもや孫たちは、遠く離れた町に住んでいます。町からのバスは、
週に2度。煩雑に会いに行くことは難しそうですが、収穫の時には、手伝いに
来てもらったり、逆に、育てたニワトリを、ローストチキンにして町まで届け
て一緒に食べるシーンもあります。その場面では、もってきてくれたじゃがい
もやチキンを町に住んでいる子や孫たちは食べています。
「汚染されているからいらない」と冷たく言われる場面は観たくないなあ…
と思っていたので、ちょっぴりほっとしました。「日本は検疫が厳しいので、
放射能に強く汚染された作物はほとんど入ってくる可能性はないのですが、貧
しい国々へ輸出されていくのです」と監督は言われていました。
村の老人とひとりの青年の生活感がとてもていねいに描かれている作品でした。
ギリシャ正教の習慣に基づくと思われる行事が数多く出てきます。
例えば、ひとりひとりが木を削って、十字架をつくります。その十字架を、
「聖なる泉」に持っていって、他の人がつくった十字架と交換します。泉から
バケツで水を汲み、十字架を浮かべて持って帰ります。何か植物の葉っぱのよ
うなもので、汲んできた水に浸しては、部屋のあちこちに蒔いて行きます。何
か清めの儀式のようでした。そして、ビンに水を入れ、木の十字架をその中に
浮かべて、フタをして、それを部屋の隅の方に一年間置いておくのです。
また、司教が、木の枠の完成したため、2年ぶりにやってきて、ねぎらいの
言葉をかける場面もあります。司教の持っている大きな銀の十字架に、男達は
キスをして、それから、司教が、「この困難な地に、聖なる泉が沸いているこ
とには意味がある。あなた方はよく、神の使いとしてこの仕事をやってくれた
」と言うようなことを述べていました。木枠の外側には、「イコン」と呼ばれ
る宗教画が飾られていました。(宗教に疎い僕には、よくわからないのですけ
ど、女性が子どもを胸の前で片手で抱いている絵。2人ともこちら向き)
「イコン」…ギリシア教会でまつるキリスト・聖母・聖徒・殉教者などの画像。
ビザンチン美術の一表現で、六世紀に始まり、一一〜一七世紀に特にロシアで盛行。図像。
(「広辞苑」より)
たったひとりの青年(34歳)のアレクセイは、こう言います。
「僕の体の中には、泉から湧き出た水が流れている。だから、この場所から
離れないんだと思う」
【ブジシチェ村 放射能汚染調査 単位 キュリー/平方キロ】
2001年5月19日 チェチェルスク保健局測定
パーティの広場 6
ジャガイモ畑 10〜12
学校跡地 20
薪をとった森 60〜150
泉の水 検出されず
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上映前、ビデオメッセージで、監督はこう言われていました。
水は、かつて、恐竜が使っていたものかもしれない。僕たちは、水を借りて
使ってるのだ。いずれ、この水は、返さなければならない。その水は、犬や植
物や、ミミズが使うのかもしれない。この村の老人たちは、「借りた水は、借
りた故郷の大地に返さないと…」と言っていたそうです。自給自足の生活で、
生まれてから「聖なる泉」の水を使って暮らしていたから、離れると罰が当たる
と言うのです。
故郷の土地と遊離した食物、水を使っている僕達の体内の水は、もはや「多
国籍」なのだなあ…と、改めて気づきました。
余談ですが、「ネコの動き」にも注目です。
寒い地方なので、「かまねこ(かまどの中の灰をかぶって寝るネコ)」が出
てきます。
黒いネコの尻尾の先が、先に広がっているのも面白いし、
ある老人が、丸木を切って作業をしているのを、家の中の窓枠の内側か
ら、ネコが後ろ足で首の上をペイペイペイペイと掻きながら眺めているのも、
ユーモラスでした。
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現在、チェルノブイリ原発があった周辺の地域では、0〜14歳の甲状腺がん
は、95年をピークに少しずつ減っていますが、思春期の甲状腺がんが、毎年
確実に増えているのだそうです。発見が早ければ、手術で命には別状はありま
せん。でも、一生ホルモン剤を飲まなければならないし、ホルモン剤は慢性的
に不足しているのだそうです。現地の医療技術では、鎖骨の辺りに大きな傷跡が
残ります。女性たちには、精神的なショックとなります。日本人のボランティア
医師たちが、現地の医師たちに、診断、手術などの技術を伝えるために、研修を
してもらいながら治療にあたっているのが現状なのだそうです。
音楽は坂本龍一が担当しています。
今回ご紹介した映画『アレクセイと泉』は、各地で上映会が行われています。
一日限りの上映がほとんどですので、興味を持たれた方は、「上映スケジュー
ル」を「公式サイト」でチェックされてくださいね。
今後の上映スケジュールに入っているのは、以下の通りです。(4月1日現在)
4月 沖縄、東京
5月 北海道
6月 長野、岩手
7月 東京、茨城、埼玉、
8月 大阪
詳しくは、以下の「公式サイト」でお確かめください。
http://www.ne.jp/asahi/polepole/times/sosna/alec/summary.html
http://www.ne.jp/asahi/polepole/times/sosna/alec/info.html
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