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日頃、何気なく使っていることわざや故事成語が、どんな時代背景のもとで生まれたのか?出典となった史書をひもときつつ、詳しく解説します。気が付けば、中国の歴史に詳しくなっているかも!?

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2005/06/29

故事成語で見る中国語(24)井の中の蛙

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故事成語で見る中国史・第24回

日頃、何気なく使っていることわざや言い回しの多くは、
中国の歴史に出典を求める事ができます。
耳馴染んだ言葉がどのような時代背景で生まれたのか?
歴史書の原典をひもときながら詳しく解説します。
現代にも生きている言葉から、中国史を浮かび上がらせてみましょう。

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井の中の蛙(いのなかのかわず)


考えや知識が狭くて、もっと広い世界があることを知らない。
世間知らずのこと、見識の狭いことにいう。(広辞苑)

用例:「こんなことで得意になっているようでは、まだまだ井の中の蛙だ」
    
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(出典)【荘子・外篇・秋水第十七】より
北海若曰、井蛙不可以語於海者、拘於虚也。
夏蟲不可以語於氷者、篤於時也。

(書き下し)
北海若(ほっかいじゃく)曰く、井蛙(せいあ)は以(もっ)て
海を語るべからざるは、虚に拘(かかは)ればなり。
夏蟲(かちゅう)は以て氷を語るべからざるは、
時に篤(あつ)ければなり。

(語注)
○北海若(ほっかいじゃく):北海の神。
○井蛙(せいあ):井戸の中の蛙(かえる、かわず)。
○虚(きょ):ここでは、「虚」は「居」(狭い居場所)の意。
○夏蟲(かちゅう):夏の虫。
○篤:一つの事柄にとらわれるさま。

(現代語訳)
北海の神・若(じゃく)が言った。
「井戸の中の蛙(かえる)はには、海のことを話しても分からない。
それは、自分の狭い居場所にこだわっているからだ。
また、夏の虫に氷のことを話しても分からない。
それは、夏の季節だけにとらわれているからだ。」

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(解説)

「春秋時代」の後半、儒家の祖・孔子(こうし)が現れました。
戦乱の世に身を置いた孔子は、
太平であった古代の政治のあり方をよしとして、
礼儀、教養に裏打ちされた社会の再構築を目指し、
後半生は、弟子の教育に情熱を注ぎました。(注1)

孔子の思想が後世に与えた影響は甚大で、
「春秋時代」につぐ「戦国時代」には、すでに
人々の思想的な指針の大きな一翼を担うまでになりました。

勉強をして知識を増やし、昔からのよき風習を学び、
道徳を重んじ、目上の人を敬い、
身分に応じて礼儀正しく交際する、
常識的とも言えるこうした事柄を重んじたのですから、
儒家の思想が人々の間に浸透したのも当然でありました。

ところが、儒家の思想に対して「待った」をかけたのが、
道家(どうか)と呼ばれる一群の思想家です。
その開祖と目されるのが、老子(注2)と荘子(そうし)です。

荘子こと荘周(そうしゅう)は、世俗の権勢よりも、
貧しくとも自由な市井(しせい)に価値を見出しました。

荘子の残した言葉をまとめた書物『荘子(そうじ)』は(注3)、
数多くの寓言(ぐうげん)、すなわち巧みなたとえ話に彩られています。
たとえば、曰く、

蝸牛(かぎゅう・かたつむり)の左の角(つの)の上に
触(しょく)氏が国を建て、右の角の上には
蛮(ばん)氏が国を興しました。
そして触氏と蛮氏の両国は、数万の死骸を残すほどの
血みどろの争いを繰り広げました。(※4)

ここから、ささいな事柄で争うことを、
「蝸牛角上の争い(かぎゅうかくじょうのあらそい)」というようになりました。
人間が血道をあげている戦争も、こういったたぐいのものだ、
という荘子の皮肉(シニカル)な比喩であります。

この「かたつむり」の話のように、荘子は多くの寓言のなかで、
人々が何かを絶対的なものだと思い、執着(しゅうちゃく)する態度を、
鮮やかに嘲笑(ちょうしょう)して見せます。
その中の一つに、次のような話が見えます。

秋、水かさの増える季節になると、黄河の水神・河伯(かはく)は、
「天下の美しい眺めはすべて自分のものなのだ」と思い、
嬉しくてなりませんでした。

流れにしたがって東へと川をくだって行き、
ついに北海へとたどり着きます。ところが、
茫洋(ぼうよう)として果て知れぬ海の広さを目の当たりにすると、
それまで得意の絶頂であった河伯は、ため息をつき、
北海の神・若(じゃく)に、「私はあなた(北海)のところまでやって来なければ、
独りよがりで得意になり、みんなに笑われるところでした」と言いました。

それを聞いた若(じゃく)曰く、
「井戸の中の蛙(かえる)はには、海のことを話しても分からない。
それは、自分の狭い居場所にこだわっているからだ。
夏の虫に氷のことを話しても分からない。
それは、夏の季節だけにとらわれているからだ」

そして若は、続けてこう言います。
「それに比べれば、あなた(河伯)は大きな海を目の当たりにして、
自分の矮小(わいしょう)さに気づいたのだ。これで、
「道(みち・タオ)」、すなわち万物を司(つかさど)る大いなる摂理について、
ともに語ることができるようになったのだよ」(注5)

北海の神・若が河伯に言ったこの言葉から、
考えや知識が狭くて、もっと広い世界があることを知らない人のことを
「井蛙(せいあ)」、「井の中の蛙(かわず)」と言うようになりました。

荘子は、儒家が汲々(きゅうきゅう)として追求する知識や道徳を、
偏狭(へんきょう)で人間性を束縛するものだとして、
一蹴(いっしゅう)のもとに退けてしまいます。

様々な智恵や知識は、実は、
ごく限られた相対的なものでしかないのだ、と訴えた荘子は、
絶対的なものを信奉することへの懐疑を、
自分自身に向けることも忘れていません。

『荘子』には、こんなエピソードも見えます。

あるとき、荘周(荘子)は、
胡蝶(こちょう)、すなわち蝶々になった夢を見ました。
ひらひらと気ままに飛び回りながら、自分が荘周であることに気づきません。
ふと目覚めると、驚いて辺りを見回しているのは、まぎれもなく荘周です。
さて、これは荘周が胡蝶になった夢を見たのでしょうか、
それとも胡蝶が荘周になっている夢を見ているのでしょうか…(※6)

「胡蝶の夢」と呼ばれるこのエピソードを読んでいる私たちも、
もしかしたら、夢の中にいるのかも知れないですよ、
という荘子の声が聞こえてくるようですね。

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(※1)当メルマガ第23回配信「敬遠」参照。
(※2)当メルマガ第16回配信「大器晩成」参照。
(※3)後世に加筆された部分も多く、当回「井の中の蛙」も
後世加筆の可能性もある。尚、「荘子」は慣用的に、
人名の場合は「そうし」、書名の場合は「そうじ」と読まれる事が多い。
また、曾子(そうし:曾参の敬称)との混同を避けて、
人名・書名とも「そうじ」と読む事もある。
(※4)『荘子』雑篇・則陽第二十五、参照。
(※5)『荘子』外篇・秋水第十七、参照。
(※6)『荘子』内篇・斉物第二、参照。
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発行者だより φ(.. )

昔、おたまじゃくしを取ってきては、せっせと育ておりました。
いつ後足が生えて、前足が生えて、陸にあがるんだろう、
とドキドキしていたものですが、あるとき、
すっかり立派なトノサマガエルになった一匹が、
気づいたら水槽から脱走してしおりました。
探し回っても見つからず、悲しいやら、
車にでもひかれていないかと心配したものですが、
どこかで北海若に出会っていたのか、
それとも蝶々になった荘周を食べてしまっていたのでしょうか…

年々猛暑が厳しくなってくるようですね。
私は以前、夏ばてで食欲不振に陥り、
一ヶ月間「刺身コンニャク」ばかり食べておりましたら、
胃を壊して入院したことがあります(涙)(--;)
皆様もお体に気をつけてお過ごしください。
それでは、また☆(2005.6.29)

次回予告 「百聞は一見に如かず(ひゃくぶんはいっけんにしかず)」

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