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編集長猪瀬直樹。混迷する現代の諸問題への処方箋を経済を中心に提示します。コンセプトはジャーナリズムと歴史的視点の新しい融合。30歳代の現場人間による寄稿、座談会、書評等で構成しています。

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2009/09/17

[MM日本国の研究564]「高速無料化」最後に笑うのは役人だ

                  2009年09月17日発行 第0564号 特別
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 ■■■    日本国の研究           
 ■■■    不安との訣別/再生のカルテ
 ■■■                       編集長 猪瀬直樹
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                 http://www.inose.gr.jp/mailmaga.html

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 昨日16日水曜日、首班指名選挙で民主党の鳩山由紀夫代表が選出され、民主
党、社民党、国民新党3党の連立政権が発足しました。閣僚人事も発表され、
16年ぶりに政権交代を果した鳩山内閣の全容が明らかになりました。

                 *                 

 道路行政を所管する国土交通相には前原誠司元代表が就任しましたが、これ
までの言動をたどると、決して高速道路無料化を支持しているわけではないよ
うです。
「週刊東洋経済」09年5月2・9日合併号に掲載された前原大臣のインタビュ
ーは「財源論議は格段の進歩、高速道路無料化には反対だ」というタイトルで
した。

                 *                 
 
 朝日新聞の全国世論調査によると、高速道路を無料化施策への賛成は全体の
20パーセントにとどまっています(以下、引用)。

「高速道路を無料化して建設の借金は税金で返済することについては、賛成は
20パーセントにとどまり、反対が65パーセントとかなり評判が悪い。民主党に
投票した人でも56パーセントが反対だ。(中略)総選挙の公示直前に公約とし
ての評価を聞いた際には、(中略)高速道路無料化を『評価する』23パーセン
ト、『評価しない』67パーセントだった。(中略)『有権者が政策を支持した
ことが民主大勝の理由』とみる38パーセントを『そうは思わない』52パーセン
トが上回った。政策がお墨付きを得たとはいいがたく」
(朝日新聞9月2日水曜日朝刊)
 
 また、都道府県知事についても高速道路無料化を支持しているのはわずか3
人、16人は明確に反対を表明したことが共同通信社のアンケートで明らかにな
りました。(東京新聞9月13日日曜日朝刊)

 国民の声を受け入れ、民主党が高速道路無料化から勇気ある撤退することを
期待します。

                 *                 
 
 今週のメールマガジンは、文藝春秋9月号(8月10日発売)掲載の論考
「『高速無料化』最後に笑うのは役人だ」をお届けします。
 民主党の説明する高速道路無料化案について、その矛盾点、問題点をわかり
やすく丁寧に説明していますので、ぜひ一読ください。

 日経BPネットの連載「猪瀬直樹の『眼からウロコ』」、最新号「高速無料
化、虚偽の説明は訂正すべきだ 偽りの政治発言や論理矛盾に陥る馬淵議員の
発言をめぐって」も合わせてどうぞ。
 http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20090915/181447/

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「高速無料化」最後に笑うのは役人だ

 政権交代の時が近づいている。次の政権を担うだろう民主党はマニフェスト
に子ども手当の創設で2.7兆円の給付を決めたが、財源として配偶者控除の
廃止分を充てるという。
 
 改革には痛みを伴うことを正直に示した点は評価に値する。それに対し、高
速道路の無料化は単なるバラマキ政策、無責任すぎる。もう少し慎重であって
ほしい。
 
 日本の高速道路は高い、だからタダにします、というのは聞こえはいいが、
すこぶる危険な政策である。なぜなら、それは小泉政権が「官から民へ」のス
ローガンの下で、民営化委員が実現した道路公団民営化の成果を無に帰し、再
び官の肥大化を招く政策だからだ。
 
 高速道路無料化がなぜ、官の肥大化につながるのか。その理由をこれから具
体的に説明していきたい。
 
 まず、現在、高速道路がどのように運営されているのかを見てみよう。
 
 全国の高速道路は6社の高速道路会社によって運営されている。東日本、中
日本、西日本、本州四国、首都、阪神の6社である。特殊法人だった日本道路
公団など旧道路四公団が2005年に分割民営化されて発足した株式会社だ。
 
 規模が大きいのは旧日本道路公団系の東日本、中日本、西日本の3社で、主
に料金収入からなる売上げは年間約2兆円。6社の売上げの大半を占める。ち
なみに首都、阪神の売上げは合わせて約0.5兆円、6社合わせての売上げは
約2.6兆円である。
 
 一方、高速道路会社6社は現在、40兆円の借金を抱えている。もちろん、こ
れは道路四公団が普通の民間企業なら当然求められる経営努力を怠ったために
残された負の遺産だ。
 
 道路四公団は採算の取れない道路を談合によって高いコストでつくったり、
公団ファミリー企業にサービスエリアなどの運営、道路の清掃やパトロールな
どを丸投げし、放漫経営を長年にわたり放任していたことなどによって、莫大
な借金を抱え込んでいった。
 
 分割民営化によって、この借金を日本高速道路保有・債務返済機構が引き継
ぎ、高速道路会社六社が2005年から年間2.6兆円の売上げから毎年返済し、
45年で完済することとなった。重要なのは返済にあたり、税金は1円も投入さ
れないことだ。
 
 東日本、中日本、西日本に関していえば、3社合わせて30兆円の借金を返済
するために、3社の年間売り上げ2兆円のうち、1.6兆円を充てている。返
済は順調に進んでおり、あと41年で完済する。
 
 かつて特殊法人であった道路公団には、毎年、税金や財政投融資などが「予
算」という名目で入ってきた。来年度の予算を減らされないために「予算」は
使い切らなければならない。そんな思考法で運営されていた道路公団には、コ
スト削減も必要なければ、効率の追求もなかった。
 
 道路公団に投入されたお金が無駄に遣われ、全国の土建屋が潤い、道路工事
を引っ張ってきた政治家に票が投じられるという自民党が作り上げてきた土建
国家の巨大なシステムのなかで、無責任に借金ばかりが積み上がっていった。
 
 このままでは、未来に大きなツケを回す。無駄な道路をつくるのを即刻やめ
させ、40兆の借金は税金を遣うことなく堅実に返していく。民間企業のように
コスト意識を高め、できるだけよいサービスをお客に提供し、対価を得ること
で利益を上げる。そのような健全な経営をさせるために借金まみれの道路公団
の民営化が行われた。
 
■結局、借金返済に税金が投入される
 
 こうして生まれた高速道路会社には、自らのお金の出入りを透明化し、厳し
く統治・管理すること、すなわちガバナンスが求められるようになった。
 
 民営化委員会は民営化前から公団ファミリー企業を徹底的に見直し、無駄遣
いを改め、談合を排除することで、高速道路の管理費6000億円を4000億円へと
30パーセント削減した。また、投資にあたる新規道路建設計画を費用対効果の
算出などから、20兆円から10兆円に半減させた。
 
 通勤時間帯半額や夜間3割引きなど平均2割の料金値下げが実現できたのは、
こうした経営努力があったからである。道路公団の民営化は「予算」を使い切

る発想をしていた世界から、どれだけコストを削減して、利益を上げるかとい
う株式会社ではあたりまえの「決算」の世界への転換だったのだ。
 
 これまで述べてきたことを踏まえて、民主党の高速道路無料化案をあらため
て詳しく見てみよう。
 
 まず、民主党案では料金収入の2.6兆円のうち2兆円ほどが入ってこなく
なる。渋滞が多い首都高速と阪神高速では、当初からの無料化は実施しないの
で、その分の料金収入は得られる。だが、40兆円の借金のうちの10兆円はこの
2社の借金であり、返済しなければいけない。
 
 無料にする東日本、中日本、西日本3社の借金30兆円は、無料にするならば
、国債に付け替えて誤魔化すしかない。その場合、毎年、元本5600億円、利子
7000億円、計1.26兆円を、60年間、税金で支払いつづけるしかない。
 
 1987年の民営化の後に残された国鉄の約37兆円の借金処理が思い出される。
11年後の98年、結局、残った24兆円、国民1人当たり20万円もの借金は毎年の
支払いで元本4000億円、利子6600億円、合わせて1兆円以上となり、一般会計
予算に流し込まれている。60年間、毎年税金で支払うことで国民をだましたの
である。同じ禁じ手を使うつもりなのか。
 
 また、そもそも無料化は受益者負担の原則にも反している。高速道路を利用
するのはドライバー10人のうち1人ぐらいだ。つまり、無料化されると、1人
のために残りの9人もその代金を負担しなければならない理屈になる。
 
 東日本、中日本、西日本の主要3社の維持管理には毎年4000億円がかかる。
パトロールや清掃コストなども料金収入がないのだから、税金から支払われる
しかない。国民の負担はますます重くなる。
 
 さらに言えば、現在、主要3社関連で働いている2万3000人の雇用はどうす
るのか? 高速道路の渋滞解消と料金の正確な支払いのために設備を導入し、
国が助成金まで出して高速道路利用者の8割までに普及させたETCは無用の
長物と化してしまう。
  
 民主党案では地方の高速道路から順次、無料にする。ということは当初から
の無料化はされない東名高速や首都高速、阪神高速の通行料金収入が無料化の
コストに充てられることになるだろうが、それは都市部の負担で地方の高速を
無料化することにほかならない。そのとき噴出する不平の声にどう応えるのか。
 
 最大の問題は無料化によって、高速道路会社が果たしてきた道路をめぐるお
金の出入りを衆人環視の下で管理・統治(ガバナンス)する機能が破壊される
ことだ。受益と負担の関係も見えぬまま、無料化のために高速道路に税金が投
入されることになれば、高速道路は再び国の官僚の手中に掌握されることにな
る。そうなれば元の木阿弥である。
 
 道路の採算・不採算はまた見えなくなり、税金の使途をチェックし、無駄な
道路の建設に歯止めをかけることができなくなる。憂慮するのは無料化による
官の肥大化である。国土交通省の役人はすでに無料化をチャンスとして、虎視
眈々と高速道路に投下される税金とそれをめぐる利権を狙っているかもしれな
い。
 
■国交省地方整備局の呆れた実態
 
 高速道路が事実上の国営化になれば、どのようなことが起こるか? それを
考えるには、国道の実態を見ればよい。高速道路が無料化とは、高速道路の
「国道」化にほかならない。
 
 現在、国は約2万1000キロの国道を整備・管理しているのだが、その「直轄
国道」の建設と維持管理にかかる費用として、毎年2兆円の予算が組まれてい
る。その使途の大半は国の出先機関である国土交通省地方整備局国道事務所に
よって決められている。
 
 直轄国道が走る都道府県と政令指定都市は、直轄事業負担金として、建設費
の3分の1、維持管理費の45パーセントを負担する。これまでそのお金の使途
の明細は負担した地方自治体に示されていなかった。
 
 橋下徹大阪府知事はこの実態を「ぼったくりバー」と評し、明細が示されな
い場合は支払い拒否を表明した。こうした批判を受けて、国土交通省は今年か
ら使途明細を地方自治体に初めて公開したが、東京都でも首を傾げざるをえな
い項目がすぐに見つかった。
 
 たとえば、東京都は昨年度、432億円を負担したが、その使途には地方整
備局職員の退職金に1億2000万円、国家公務員共済組合費3億6000万円、その
他、宿舎(官舎)や国道事務所の庁舎建設費など地方が負担する必要のない項
目が多数見つかった。
 
 高速道路が無料化されれば、そこにつぎ込まれる税金も直轄国道の場合と同
じように、国の官僚の裁量で、本来の目的ではない事柄に無駄に遣われてしま
うだろう。
 
 直轄国道については現在、丹羽宇一郎が委員長を務める地方分権改革推進委
員会が整備・管理の権限移譲を求めている。この移管の最大の目的もやはり、
お金の出入りを透明にしチェックできるガバナンス(統治・管理)を確立する
ことだ。国から直轄国道についての財源と権限を移譲すれば、地元住民は地方
議会を通して税金の使途をチェックできる。
 
 そして、何よりも地方自治体が道路をつくればコストが安く済む。たとえば、
東京都を走る国道を調査したところ、維持管理費のうち清掃費について1キロ
あたりのコスト(交通量が一日3万台以上など条件が同じケース)を比較して
みたら、直轄国道で400万円に対し、東京都が管轄する都道では300万円
と25パーセントも安い。民営化が高速道路にガバナンス機能をもたらしたよう
に、直轄国道を地方に移管するだけで、住民に見えやすくなりガバナンス機能
が発揮され、税金の無駄遣いが減るのだ。
 
 ここまで読んでいただければ道路に対するガバナンスには二通りあることが
了解できるだろう。高速道路という2兆円の世界は、料金収入というキャッシ
ュフローがあるために民営化という手法で改革ができた。もう一つの2兆円の
世界、税金でつくる無料の直轄国道は地方に分権化すること、つまり財源とと
もに地方に移管し、責任を与えることで無駄を減らすことができる。
 
■民主党は初志を忘れるな

 今年の3月から政府与党が景気対策として打ち出した高速道路「土日祝日、
地方は1000円」の政策と民主党の無料化案も「1000円かタダか」という対立で
はない。高速料金を「1000円」にするために補正予算が2年で5000億円投入さ
れることが決まったが、これは景気対策のための一時的な財政出動であり、値
引きによる高速道路会社の減収入分を補填しているにすぎない。高速道路会社
の負債返済やコスト削減などのガバナンスには影響を与えていないのだ。
 
 もちろん、政府与党の景気対策は民主党の無料化案に引っ張られて登場した
面もあったと思う。その意味で、無料化案はその役割を果たし終えたとも言え
る。
 このまま民主党の無料化案が進行すれば、道路公団を民営化したことで確立
したガバナンスを解体することになってしまう。しかも、借金は国債に付け替
えられ、国債償還のルールに従って60年の間、ずっと税金が投入されつづけ子
や孫の世代へのツケ回しになる。
 
 問いは、株式会社か国営化か、にある。ガバナンスがあるかないか。税金の
無駄遣いを許さないのか許すのか。国の官僚の権限を縮小するのか拡大するの
か、である。
 
「1000円かタダか」という虚偽に満ちた問いによって、世論を導くことはポピ
ュリズム(衆愚政治)というほかない。税金の無駄遣いを再び許すことは国民
の利益にならないからである。

 高速道路無料化のメリットとして、民主党はその経済効果を喧伝している。
完全無料化で最大2.5兆円の生活・企業活動コストが軽減され、それが消費
や投資に回されれば7.8兆円の経済効果――。しかし、数字の根拠が怪しい。
 
 無料化すれば当然、渋滞が多くなり、物流が滞り、経済に悪影響を及ぼす。
これにより二酸化炭素の排出量が増えれば、削減計画とどう両立させるのか。
何より無料化によって、より早く目的地に到着でき、時間を節約できるという
高速道路自体の商品価値が減じてしまう。無料化によって、人やモノの移動が
活発化し、地方が活性化するとはかぎらない。タダを売り物にするのはポピュ
リズムである。
 
 政権奪取のためにポピュリズムに走る民主党を見ていると、隔世の感に堪え
ない。10年ほど前のことだっただろうか、僕は小泉純一郎から郵政民営化の勉
強会で講師を頼まれ、議員会館で特殊法人の民営化について話した。そこには、
2002年に暴漢に襲われ殺された石井紘基、現神奈川県知事の松沢成文など、民
主党議員の顔が多く見られた。出席者には40人ほどの国会議員がいたが、3分
の2は民主党議員だった。僕は「小泉さん、民主党が多いですね」と声を掛け
ると、「いいんだよ」と笑って答えた。
 
 そこで見た民主党議員の顔はバブル崩壊後の混迷を脱するためには、産業構
造を変革してグローバル化に対応した生産性の高い社会を作り、税金の無駄遣
いを徹底的になくしてスリムで効率のいい行政機構を作るしかない、という熱
い志に燃えていた。その国の未来を左右する事業は後に小泉首相によって「構
造改革」や「官から民へ」のスローガンの下で、いくらかは遂行されたが、僕
からすれば、改革は不十分であり、中途で終わってしまった感が強い。小泉首
相はあと5年は改革を続行すべきであった。
 
 あと5年あれば、昨今 批判が噴出している、構造改革に伴う非正規雇用者
や失業者に対するセーフティネットを整備して、改革は完成を見たはずである。
小泉首相の後の3人の首相がその路線を継承せずにいたずらに時間を浪費させ
た。その結果、自民党が下野しようというとき、「構造改革」や「官から民
へ」の路線を継承するのは民主党をおいてほかにないはずだ。だから、民主党
は初志を忘れないでほしい。
 
 過去を振り返れば、民主党が高速道路無料化で国民の人気をとろうとしたの
は、焦りからだった。
 
 民主党で無料化を言い出したのは、菅直人である。2003年3月、道路公団の
民営化委員をしていた僕のところに当時、民主党代表だった菅直人から電話が
かかってきた。彼にはそういう義理堅いところがある。それは、民主党は小泉
改革が進める民営化に対抗して高速道路無料化を衆議院の予算委員会で提案し
たい、という連絡だった。
 
 しかし、無料化への僕の反応は今と変わらなかった。そのときも、将来、政
権与党になる気があるなら、無謀な無料化案は引っ込め、自民党の抵抗勢力に
抗して、民営化に賛成すべきだと伝えた。岡田克也幹事長に電話をして、説得
してくれるように頼んだ。沈着冷静な理論派の岡田は僕の意見を聞き入れてく
れたので、菅は翌日の予算委員会で無料化を言い出すことはなかった。
 
 しかし、それから3カ月ほどが経ち、総選挙の気配がしだすと、再び菅は無
料化を言い出した。再度、岡田に説得を頼んだが、「あちらは代表で私は幹事
長ですから」という苦笑したかんじの言葉が返ってきた。結局、2003年11月の
総選挙で、民主党は政権公約に無料化を盛り込むに至った。
 
 今回の衆議院選挙で小選挙区制下の二大政党制がいよいよ本格的に始まるの
だろう。しかし、民主党が選挙が近づくたびに高速道路無料化案のようなポピ
ュリズムに走った政策を懲りずに持ち出すようでは、二大政党制に抱く不安は
拭えない。
 
 今の自民党と民主党を見ていると、戦前、民政党と政友会が二大政党制を実
現しながらも、スキャンダルの応酬とバラマキ合戦に明け暮れていったことが
思い出される。8月30日の総選挙後、二大政党は足の引っ張り合いに終始する
のではないか。僕は深い危惧を抱く。なぜなら、民政党と政友会がそのような
不毛なポピュリズムに陥り、進むべき方向性を見出せなかったことが、後の軍
部(官僚)の台頭を招いたからである。
 
 1921年に政友会の原敬首相が暗殺されて以来、太平洋戦争が始まるまで内閣
の平均寿命はおよそ1年ほどである。昭和大恐慌が起きて、農村が疲弊し、失
業者が増え、社会不安が広がっていったにもかかわらず、安定政権を築けなか
った政府は有効な政策を打てなかった。
 
 そのうち社会主義への共鳴が広がり、資本家が諸悪の根源として指弾される
ようになっていった。やがては社会主義思想に強い影響を受けた青年将校たち
が天皇を中心とした「国家改造」を夢想し、1932年に五・一五事件、36年に
二・二六事件を起こした。こうして、二大政党制による民主主義は息の根を止
められていった。
 
 民主党は政権を取ったらすぐにでも、これから日本はどのような道を歩むべ
きか、内部で深い議論を交わしてほしい。
 
 明治維新以来、日本は「曲がり角」に弱い。「富国強兵」を合言葉にして、
列強に追いつくための国を挙げての事業は成功したが、日露戦争で「一等国」
になったと安堵してから、自滅への道を歩み始めた。
 
 敗戦後の焼け野原からの経済復興のときもそうだった。高度成長によって、
奇跡の復興を遂げたとたん、国民は目標を見失い、バブル経済の到来に我を忘
れた。すでにある先行モデルを真似し、それを追いかける「直線コース」では
抜群の力を発揮するのだが、追いついたとたんに思考を停止し、進むべき道を
見失ってきた。「曲がり角」で必要なのは、ムードや情緒に流されないこと、
そして、正確な事実と数字を基に冷静な判断を下すことだ。
 
 民主党が高速道路無料化から勇気ある撤退をできるか否か。二大政党制が機
能するのか、あるいは日本が未来の自画像を描けるのかは、その成否に懸かっ
ている。
 
                      (文藝春秋09年9月号掲載)

               *  

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  「日本国の研究」事務局 info@inose.gr.jp

猪瀬直樹の新着情報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


■掲載情報

・日経BPネットの好評連載「猪瀬直樹の『眼からウロコ』」最新号がアップ
 されました。「高速無料化、虚偽の説明は訂正すべきだ 偽りの政治発言や
 論理矛盾に陥る馬淵議員の発言をめぐって」はこちら。
 http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20090915/181447/
 
・東京都公式ホームページに、財政再建中の北海道夕張市に派遣された東京都
 職員のレポートが公開されました。ぜひご覧ください。
 http://www.soumu.metro.tokyo.jp/03jinji/yuubari/index.htm

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         猪瀬直樹新番組・放映開始!
     
    ■□■ 『東京からはじめよう』(MXテレビ) ■□■  

    次回放送:10月3日(土)21:00-21:55(毎月第1土曜日)
 
 第6回(9/5)  ゲスト 田原総一朗・ジャーナリスト
  第5回(8/1)  ゲスト 渡辺喜美・衆議院議員
 第4回(7/4)  ゲスト 竹田恒和・日本オリンピック委員会(JOC)会長
  第3回(6/6)  ゲスト 増田寛也・安心社会実現会議事務局長     
 第2回(5/2) ゲスト 河野一郎・東京オリンピック招致委員会事務総長
 第1回(4/4) ゲスト 丹羽宇一郎・伊藤忠商事会長

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