2009/08/13
[MM日本国の研究559]「昭和16年夏の敗戦」と海軍軍令部「反省会」
2009年08月13日発行 第0559号 特別 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■■■ 日本国の研究 ■■■ 不安との訣別/再生のカルテ ■■■ 編集長 猪瀬直樹 ********************************************************************** http://www.inose.gr.jp/mailmaga/index.html ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 猪瀬直樹の著作に「日本人はなぜ戦争をしたか 昭和16年夏の敗戦」(猪瀬 直樹著作集8・小学館)という作品があります。 昭和16年4月1日、近衛文麿内閣は「総力戦研究所」を設置し、軍人、文官、 ジャーナリスト、学者など当時30代のエリート36名を一同に集めました。「も し日米が開戦すれば」という前提のもと、どのような結果になるのかをシミュ レートさせるためです。 36名はそれぞれ、内閣総理大臣役、陸軍大臣役、日銀総裁役などをあてがわ れ「模擬内閣」を構成します。連日「閣議」を開き、国力や国際情勢の綿密な 捜査をもとに日米開戦について論じました。 4か月後の昭和16年8月、模擬内閣は日本必敗の結論を導き出します。 「緒戦は勝つであろう。しかしながら、やがて、国力、物量の差が明らかにな って、最終的にはソビエトの参戦という形でこの戦争は必ず負ける」 実際の歴史と照らし合わせてみても、驚くべきほどに正確なシミュレーショ ンです。 しかし、東条英機陸軍大臣は模擬内閣が導き出した結果に対して「机上の空 論とはいわないとしても、あくまでも、その意外裡の要素というものをば考慮 したものではないのであります」として一蹴、日米開戦へと突き進んでいくの です。 正確なシミュレーションによって日米戦必敗の予測がたてられたにもかかわ らず、なぜ日本は開戦へと突き進んだのか。 存命の総力戦研究所のメンバーや厖大な資料にあたって進められた猪瀬の綿 密な取材は「昭和16年夏の敗戦」として結実しました。 1982年に雑誌連載後、83年に単行本、86年文春文庫として刊行しました。の ち90年代半ばに絶版。現在は猪瀬直樹著作集全12巻(小学館)の第8巻におさ められています。ぜひ手にとってみてください。 「日本人はなぜ戦争をしたか 昭和16年夏の敗戦」(猪瀬直樹著作集8・小学 館)は定価1260円です。 http://www.amazon.co.jp/dp/4093942382 * 8月9日・10日・11日の3夜連続でNHKスペシャル「日本海軍 400時 間の証言」が放映されました。 戦後40年近い歳月を経て、海軍の中枢「軍令部」に属した参謀たちが集まり 開催した「反省会」、その録音テープの検証がテーマです。 猪瀬直樹は昭和58年、東郷会館で行なわれた海軍軍令部の「反省会」を訪れ た経験があります。「昭和16年夏の敗戦」のエピローグで触れています。 今週はそのエピローグを特別配信します。今から約30年前の出来事です。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「昭和16年夏の敗戦」と海軍軍令部「反省会」 昭和57年8月6日の原爆記念日、僕の手元に分厚い封書が届いた。総力戦研 究所で机上演習を指導した松田千秋大佐(のち少将)からである。「国家総力 戦の見地において太平洋戦争の敗因を分析する」というタイトルのリポートだ った。 封書をもらう数日前、僕は東京五反田から三両編成の池上線にゴトゴト揺ら れて15分余り、御嶽山という小さな駅に降りて、駅前商店街を抜け、環状八号 線を横切った住宅街に「マツダカルテックス株式会社」を訪ねたのである。個 人住宅の一角に事務所と作業場がある小さな会社である。松田は、「マツダカ ルテックス」の社長である。松田という姓と彼が発明したカルテ・カード・書 類の自動抽出装置の名称カルテックスを合成したのがその社名となっている。 身長は165センチだが体重は45キロ、88歳の彼は枯れ木のようにやせてみ える。が、耳が遠いだけで白髪は豊かだし、目も歯も悪いところがない。毎朝 午前3時半に起床し、コーヒーを2杯飲んでから作業場の机に向かって発明の 仕事に明け暮れるのだ。「面接」や「机上演習」というコンセプトを発明した 彼は、いまは街の発明家として日曜日も、盆・正月も、そのペースを崩さない。 文字通り、“月月火水木金金”の日々を海軍軍人時代から保ちつづけていた。 僕が訪問したのは、総力戦研究所を所員側から取材するためであった。すで に飯村所長は昭和51年に、堀場大佐は昭和28年に、それぞれ故人となっている。 松田大佐は机上演習を指導した所員側の唯一の生き証人なのであった。 封書の中身に戻ろう。なぜ戦争に敗れたか。原因がいくつかあげてある。そ して毎月一回「反省会」という会合があり、最近そのリポーターとして報告し たものだと付記されてあった。 あれから一年。「反省会」に行ってみることにした。原宿駅から、若者たち の最先端ファッション街として注目を浴びている竹下通りを抜け、明治通りを 左に曲がる。そこに東郷神社の大きな鳥居がそびえ立っている。一歩中に入る と竹下通りの喧騒が遠い世界のように静かだ。境内にある東郷会館の一階の会 議室の入り口。旅館やホテルでその日の利用団体の名札が「○○様御一行」と いうように黒の地に白いエナメルで書かれている光景はよくみかけるがそれと 同じスタイルを思い浮かべてもらおう。名札には、ただ「反省会」とだけ書か れている。 コの字形にテーブルが並べられているのも変哲がないのだが、そこに座って いる人々は一種異様な雰囲気を醸し出していた。単に老人クラブの会合とはち がう。25人の出席者は80歳以上の高齢者が中心でいずれも眼光鋭い。メンバー は元中将3名、少将1名、大佐4名、中佐・・・・・・。 戦争に敗れてから40年近い歳月が経ようとしているとき、彼らはなぜアメリ カに敗れたのか、なぜ勝てなかったのか、毎月「反省」のために集まってくる のである。 松田リポートの一節。 「今次開戦時における軍令部当事者は・・・・・・伝統の作戦計画を放擲し、連合艦 隊が開戦直前突如思いついた大規模攻勢作戦の主張に屈したことが惨敗の根本 原因になったのである・・・・・・」 真珠湾奇襲など思いつきで、あんなもの本来の海軍の作戦にはなかった。そ れにやるのならなぜ空母を徹底破壊するところまでやらなかったのか、おかげ でミッドウェーでわが軍が返り討ちにあってしまったではないか・・・・・・。そう だその通りだ。いや、それだけじゃない。総力戦ということがだな、つまりは ・・・・・・。 昭和20年8月15日という時間がセピア色に支配している東郷会館の一隅。い っぽう、昭和58年夏の原宿・竹下通りは、平和という語感を原色の風船のよう にハチ切らせている。わずか100メートルの隔たりを僕は40年の歳月ととも に一瞬のうちに横切っていた――。 (猪瀬直樹著作集8「日本人はなぜ戦争をしたか 昭和16年夏の敗戦」所収) * 来週のメールマガジン配信はお休みいたします。次回は8月27日木曜日に配 信予定です。 * メールマガジンの感想をお待ちしております。 「日本国の研究」事務局 info@inose.gr.jp 猪瀬直樹の新着情報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■テレビ出演 ・8月17日(月)21:00-21:54、ビートたけしのTVタックル(テレビ朝日) に出演します。 ■掲載情報 ・8月10日(月)発売「文藝春秋」9月号に論考「『高速無料化』最後に笑う のは役人だ」が掲載されました。 ・日経BPネットの好評連載「猪瀬直樹の『眼からウロコ』」最新号がアップ されました。「地方分権改革への本気度を各党に問う 地方分権委員会の審 議を踏まえ、すみやかに実行すべきだ」はこちら。 http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20090811/173802/ ・東京都公式ホームページに、財政再建中の北海道夕張市に派遣された東京都 職員のレポートが公開されました。ぜひご覧ください。 http://www.soumu.metro.tokyo.jp/03jinji/yuubari/index.htm ――――――――――――――――――――――――――――――――――― □□■□□■□□■□□■□□■□□■□□■□□■□□■□□■□□■□□ 猪瀬直樹新番組・放映開始! ■□■ 『東京からはじめよう』(MXテレビ) ■□■ 次回放送:9月5日(土)21:00-21:55(毎月第1土曜日) 第5回(8/1) ゲスト 渡辺喜美・衆議院議員 第4回(7/4) ゲスト 竹田恒和・日本オリンピック委員会(JOC)会長 第3回(6/6) ゲスト 増田寛也・安心社会実現会議事務局長 第2回(5/2) ゲスト 河野一郎・東京オリンピック招致委員会事務総長 第1回(4/4) ゲスト 丹羽宇一郎・伊藤忠商事会長 ■■□■■□■■□■■□■■□■■□■■□■■□■■□■■□■■□■■ ◆◇◆◇◆◇ 猪瀬直樹最新刊 ◇◆◇◆◇◆ ◆◇◆◇ 『霞が関「解体」戦争』 ◇◆◇◆ ◆◇◆ (草思社) ◆◇◆ 日本の権力構造のド真ん中に猪瀬直樹が切り込んだ! 地方分権改革推進委員会を舞台に繰り広げられた 官僚とのバトルを大公開。 何を、どう変えれば日本は再生するのか? この国を覆う閉塞感に風穴をあける痛快な書! 草思社の民事再生第一号です。乞う、応援。 http://www.amazon.co.jp/dp/4794216815 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ バックナンバーはこちら。 http://www.inose.gr.jp/mailmaga/index.html ご意見・ご感想はメールでどうぞ。 info@inose.gr.jp 配信解除の方はこちら。 http://www.inose.gr.jp/mailmaga/index.html まぐまぐの配信解除は http://www.mag2.com/m/0000064584.html 猪瀬直樹の公式ホームページはこちら。 http://www.inose.gr.jp/ ○発行 猪瀬直樹事務所 ○編集 猪瀬直樹 ○Copyright (C) 猪瀬直樹事務所 2001-2009 ○リンクはご自由におはりください。ただしこのページは一定期間を過ぎると 削除されることをあらかじめご了解ください。記事、発言等の転載について は事務局までご連絡くださいますよう、お願いします。


