日本国の研究 不安との訣別/再生のカルテ  RSSを登録する

編集長猪瀬直樹。混迷する現代の諸問題への処方箋を経済を中心に提示します。コンセプトはジャーナリズムと歴史的視点の新しい融合。30歳代の現場人間による寄稿、座談会、書評等で構成しています。

最新号をメルマガでお届けします    
登録 解除

規約に同意して

登録した方には、まぐまぐの公式メルマガ(無料)をお届けします。
2009/07/16

[MM日本国の研究555]「霞が関の解体法」

2009年07月16日発行 第0555号 特別
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■■■    日本国の研究           
 ■■■    不安との訣別/再生のカルテ
 ■■■                       編集長 猪瀬直樹
**********************************************************************

              http://www.inose.gr.jp/mailmaga/index.html

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  7月14日、猪瀬直樹東京都副知事は、三重県で開かれた全国知事会議に、石
原慎太郎知事の代理として出席しました。知事会は総選挙にむけて、与野党の
マニフェストを採点し、公表することで一致しました。

 この際、猪瀬は以下のように述べました。

「分権委員会としては少なくとも出先機関は3万5千人削減しろと勧告した。
マニフェストで3万5千人削減すると言ってくれればいいが、担保がない。

 地方分権改革推進委員会の勧告に沿った義務付け・枠付けも、やってくれれ
ば問題ないが、安倍政権で分権委員会ができて、政権に近い菅さんが分権担当
大臣で、やれるかなと思ったら福田首相に変わった。

 そのあと、知事会出身の増田前岩手県知事が大臣で、まだやれるかなと思っ
たら、今度は麻生首相になって、鳩山大臣が「かんぽの宿」しか興味がないよ
うな感じで流れてきてしまった。

 だからそのとき良くても担保がないとどうなるか分からない。やっぱり橋下
知事がおっしゃった『国と地方の協議の場の法制化』がないと、たとえ国と地
方の税源配分5:5なんて言われても、どういう財源の下で5:5なのか説明
してもらわないと無理なわけで、美辞麗句に終わる可能性がある。

 もうひとつ提案ですが、知事会の皆さんが自民党なり、公明党なり、民主党
なりの人と、公開でマニフェストの討論をして結論を出してもらえば誤魔化し
ようがない。紙だけ出すとわからないから、公開討論しながらマニフェストを
つくっていく。

 一つ一つその場で、答えられなければ明日もう1回やります、でもいいです
よね。どんどん答えるまでやっていってもらうというかたちにしたらよいかな
と思います」

                *   

 今週は読者の要望を受け、朝日新聞5月16日(土)オピニオン面に掲載され
た猪瀬直樹のインタビュー「霞が関の解体法」をお届けします。

――――――――――――――――――――――――――――――――――― 

「霞が関の解体法」
                      

――ことしの黄金週間は高速道路が大渋滞でした。民営化された会社の料金を
政府が「1000円乗り放題」にするなんて、妙な話じゃありませんか。

 一時的な景気刺激策としては理解できる。高速道路会社が毎年、1兆6千億
円の借金を返す枠組みは維持しており、投入される税金は割引額分だけだから。
1000円より、むしろ民主党の無料化論の方に問題がある。

――でも、無料の方が利用者にはありがたいですけど。

 その考え方が間違い。無料にすれば、際限なく税金がつぎ込まれる。高速道
を使うのは10台に1台なのに、利用しない人も負担させられる。無料を喜ぶ国
民の意識が、いまの官僚主権を許していることに気づくべきです。

――いつも官僚に厳しいですね。いったい、なぜ、ですか。

 ひとつの記憶がある。1960年代、まだ僕が10代のころ、母親が入院した東京
の虎の門病院の屋上から見た光景です。あちこちに森ビルが建ち、ナンバーが
付いていた。なんでこの辺には森ビルが多いのかなあと思った。
 
 その後、日本の近代をテーマに作品を書き、独特な権力構造を分析するうち
に、その光景がふっとよみがえった。そうか、森ビルは特殊法人や公益法人な
ど霞が関の天下り先を顧客に取り込んで事業の土台を築いたのだ、と。
 
 どんどん増えるし、潤沢な資金があり、家賃も値切らない、いい客ですよ。
そこから、官の肥大化が民の仕事を侵食する構図が見えてきた。
  
 そして「虎ノ門」の存在に気づいた。権力の中心は「霞が関」(官僚)と
「永田町」(政治)だけではない。役所の関連法人が集まる虎ノ門が、各省の
資格講習や検査業務を請け負い、官僚機構と一体のコングロマリット(複合企
業体)をつくっている。
 
 霞が関からの天下りを受け入れ、永田町のパーティー券を買う。虎ノ門を媒
介にした権力のトライアングルがある。
 
 高度経済成長までで官僚の国家的使命は終わったのに、別動隊の虎ノ門は目
的を見失って自己増殖を続けたのです。

――官の肥大化が止まらない理由は何だと思いますか。

 ひとつは政権の短命さ。平成の20年間も小泉(純一郎)さんを除くと、平均
1年3カ月です。これでは、官僚が政権をなめてかかる。
 
 実は戦前も同じで、大正10年に原敬が暗殺されて以降、日米開戦までの間、
内閣の平均寿命は1年ちょっとだった。それで昭和10年代は官僚の完全な暴走
でした。
 
 もうひとつには、官僚がほとんどの法案をつくる構造がある。これも官僚が
天皇の命令の形で法律をつくった戦前の「勅令の体系」と基本的に変わってな
い。いまだに各省が自治体の仕事のやり方を決める「義務づけ・枠づけ」も、
その名残です。

――戦前から一貫して官僚主権が続いている、と見るわけですね。

 そうです。その最大の問題点は価値判断ができないこと。東条英機はテスト
の点数のいい秀才でしたが、戦争を止める決断はできなかった。いまも官僚機
構は「きのう、きょう、あす」という継続性でしか考えないから、局面の大転
換や危機管理はできない。だから、いまの未曽有の経済危機にも対応できませ
ん。

 今回の15兆円の補正予算も縦割りで各省が積み上げただけ。官僚は政策の優
先順位をつけられない。でも人間の人生は縦割りじゃない。頭の中も縦割りじ
ゃない。
 
 官僚に欠けていて、いまの世の中で必要なのは感性です。「なぜ」と疑問を
抱き、仮説を立てることです。小泉さんも石原さん(慎太郎都知事)も直感、
感性の人で、僕もそう。感性で官僚機構と戦う。感性は言葉です。思考回路は
文体に表れる。官僚の感性のなさは役所用語を見ればわかります。

――麻生太郎首相は「官僚は使いこなすもの」と言っていますけどね。

 うーん。麻生さんには官僚機構の黒い塊にぐさりと突き刺さるような言葉が
ない。もっと知的な握力がある言葉がほしい。
 
 このまま官僚主権が続けば、日本は滅びる。だけど、そんな夏目漱石の「三
四郎」の先生のような言い方は無責任でしょう。滅びないためにどうするかを
考えるべきなのです。

――それで、政府にもの申す立場を選ぶわけですね。最初は01年からの道路公
団民営化問題ですか。

 あそこで初めて官僚への対応法を学びました。データに基づく情報戦を、テ
レビカメラの前で繰り広げたのです。実は道路公団民営化委員会の分裂騒ぎの
ころ、二宮金次郎のことを調べ直していました。

――小学校の校庭の隅っこで、薪を担ぐ、あの金次郎ですか。

 彼は勤勉なだけではありません。薪は当時れっきとした換金商品で、切って、
運んで、売る。生産、流通、販売までひとりでやって、その資金で農村のいわ
ば民事再生をやった。
 
 実績を買われ、小田原藩をはじめ各地の行財政改革を任されました。すべて
を成就したわけではないけれど、改革のマニュアル、記録を残した。のちに豊
田佐吉(トヨタグループ創始者)の父親にも伝わったから、トヨタのカイゼン
にも影響しているのではないかな。
 
 これだっ、と思いました。記録によって改革の芽を残せる、と気持ちを切り
替えました。その後の追及は、公団副総裁の官製談合での逮捕にもつながりま
した。

――07年からは政府の地方分権改革推進委員として、自治体への権限移管や国
の出先機関の統廃合、それに伴う3万5千人規模の人員削減などを勧告してい
ます。難航中ですが、そこでも資料要求の多さは突出していますね。
 
 出てくる資料の内容には驚きます。例えば、僕らが出先の統廃合を勧告した
のに、各省には2千億円以上かけて36カ所の出先の合同庁舎を建て替える計画
があります。出先の随意契約の多さにも、あきれます。
 
 農林水産省の公用車の多さは、朝日新聞の記事がきっかけで判明しました。
国土交通省が4000台あるのに、農水省は125台だったから、少なすぎると思
い、資料を求めました。答えは7800台でした。
 
 もともと公用車の基準が違ったのです。官僚のよく使う手ですが、事実と違
うんだから巧妙なウソですよ。ウソをつくんです。
 
 分権委員会をインターネットで中継し、テレビカメラも入れたのは、こんな
官僚の臆面のなさを伝えたいからです。「国と自治体では公園の樹木の育ち方
も違う」とか「国は堤防のモグラの穴の数まで調べる」みたいな珍妙な答弁は、
言い逃れができなくなって飛び出した。
 
 政府の委員会ではありえなかった、こっけいさです。ひとりの作家でも、公
開の場でなら官僚集団と1対1の対等になれる。まあ、ゲリラみたいなもので
すけど、正規軍の官僚機構と戦うには、これしかない。

 日本には公開討論の伝統がなかったから、僕が政府の委員会の全面公開とい
う新しい世界をつくったと思う。記者クラブで情報をもらっていた記者にも、
公開の場で情報に接する新しい形ではないでしょうか。

――で、分権は進みますか。

 道路公団問題では(小泉)首相と直談判できたけれど、分権にはそれがない。
道路は国交省と道路公団が相手だが、分権はすべての省庁だから一気にできる
という幻想も抱いてない。
 
 ただ、分権は進化してきた。「ぼったくりバーみたいな請求書」で話題の国
直轄公共事業も減らさざるを得ないところまできている。たまたまですが、道
路公団の料金収入も直轄国道の事業費も2兆円規模です。
 
 有料の公団が民営化によって成し遂げたガバナンス(統治)の確立を、無料
の国道は議会の監視がきく自治体に移す分権でやれる。データに基づく論争で、
東京や大阪などの自治体職員に分権意識が根づき、国と地方の上下関係も変わ
ると思う。

――では、10年後に霞が関はどうなっていると思うのですか。

 難しい質問ですね。100年以上続く官僚機構は強いので、国民の意識しだ
いの部分が多いです。でも分権とは霞が関を解体すること。権限、財源を自治
体に移していけば、10年後には霞が関は半分になりますよ、きっと。
 
――永田町のふがいなさを見ると、霞が関が半分になる展開を想像できません。
分権委が昨年末に出した国の出先機関統廃合の勧告も、政府の工程表では無視
された格好ですよ。

 確かに、自民党も民主党も分権の考えが見えにくい。ともに公約を上書きし、
更新して、もっと分権の中身を競い合ってほしいなあ。

――最後に副知事への質問。東京でのオリンピックは、やめませんか。

 いやいや、やるべきです。64年の東京、88年のソウル、08年の北京と、アジ
アで開かれてきたインフラ整備型の大会にはしませんから。

――なぜ、また東京で、ですか。

 東京は清潔で食べ物もおいしくて安い。もっと観光客を呼べます。それにい
ま、官僚主権の日本は元気がない。代わって東京が成熟国家の理想の都市像、
環境技術大国へ向かう新しいモデルを示さないといけないのです。

   (朝日新聞09年5月16日土曜日掲載 聞き手 坪井ゆづる・編集委員)

               *  

 メールマガジンの感想をお待ちしております。
  「日本国の研究」事務局 info@inose.gr.jp

猪瀬直樹の新着情報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

・日経BPネットの好評連載「猪瀬直樹の『眼からウロコ』」最新号がアップ
 されました。「出先機関の庁舎ばかりか、官舎建設も進む 第2次勧告後も
 合同庁舎の建設計画続出、地方分権論議に逆行」はこちら。
 http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20090714/167201/

・東京都公式ホームページに、財政再建中の北海道夕張市に派遣された東京都
 職員のレポートが公開されました。ぜひご覧ください。
 http://www.soumu.metro.tokyo.jp/03jinji/yuubari/index.htm

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

□□■□□■□□■□□■□□■□□■□□■□□■□□■□□■□□■□□
              
         猪瀬直樹新番組・放映開始!
     
    ■□■ 『東京からはじめよう』(MXテレビ) ■□■  

    次回放送:8月1日(土)21:00-21:55(毎月第1土曜日)
  
 第4回(7/4)  ゲスト 竹田恒和・日本オリンピック委員会(JOC)会長      
  第3回(6/6)  ゲスト 増田寛也・安心社会実現会議事務局長     
 第2回(5/2) ゲスト 河野一郎・東京オリンピック招致委員会事務総長
 第1回(4/4) ゲスト 丹羽宇一郎・伊藤忠商事会長

■■□■■□■■□■■□■■□■■□■■□■■□■■□■■□■■□■■

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

    ◆◇◆◇◆◇     猪瀬直樹最新刊       ◇◆◇◆◇◆
  ◆◇◆◇      『霞が関「解体」戦争』       ◇◆◇◆
 ◆◇◆                (草思社)                   ◆◇◆
    
           日本の権力構造のド真ん中に猪瀬直樹が切り込んだ!
       地方分権改革推進委員会を舞台に繰り広げられた
               官僚とのバトルを大公開。
         何を、どう変えれば日本は再生するのか? 
       この国を覆う閉塞感に風穴をあける痛快な書!
       
       草思社の民事再生第一号です。乞う、応援。

        http://www.amazon.co.jp/dp/4794216815

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
バックナンバーはこちら。 http://www.inose.gr.jp/mailmaga/index.html
ご意見・ご感想はメールでどうぞ。 info@inose.gr.jp
配信解除の方はこちら。 http://www.inose.gr.jp/mailmaga/index.html
まぐまぐの配信解除は  http://www.mag2.com/m/0000064584.html

猪瀬直樹の公式ホームページはこちら。 http://www.inose.gr.jp/

○発行 猪瀬直樹事務所
○編集 猪瀬直樹
○Copyright (C) 猪瀬直樹事務所 2001-2009
○リンクはご自由におはりください。ただしこのページは一定期間を過ぎると
 削除されることをあらかじめご了解ください。記事、発言等の転載について
 は事務局までご連絡くださいますよう、お願いします。
最新号をメルマガでお届け
登録 解除

規約に同意して

登録した方には、まぐまぐの公式メルマガ(無料)をお届けします。

最近の記事

上へ戻る