日本国の研究 不安との訣別/再生のカルテ  RSSを登録する

編集長猪瀬直樹。混迷する現代の諸問題への処方箋を経済を中心に提示します。コンセプトはジャーナリズムと歴史的視点の新しい融合。30歳代の現場人間による寄稿、座談会、書評等で構成しています。

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2009/06/04

[MM日本国の研究549]「猪瀬直樹の語る東大生論」

                  2009年06月04日発行 第0549号 特別
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 ■■■    日本国の研究           
 ■■■    不安との訣別/再生のカルテ
 ■■■                       編集長 猪瀬直樹
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              http://www.inose.gr.jp/mailmaga/index.html

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         猪瀬直樹新番組・放映開始!
     
    ■□■ 『東京からはじめよう』(MXテレビ) ■□■  

    次回放送:6月6日(土)21:00−21:55(毎月第1土曜日)
        ゲスト:増田寛也・安心社会実現会議事務局長
        
 第2回(5/2) ゲスト 河野一郎・東京オリンピック招致委員会事務総長
 第1回(4/4) ゲスト 丹羽宇一郎・伊藤忠商事会長

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 今年4月から開始した新番組『東京からはじめよう』(MXテレビ)も早くも
3回目の放送。今月は増田寛也・安心社会実現会議事務局長をゲストに招きま
す。
 
 増田寛也氏は95年より岩手県知事を3期つとめた後、安倍内閣・福田内閣で
総務大臣に就任、現在は「安心社会実現会議」の事務局長として活躍されてい
ます。猪瀬とは共に地方分権改革推進委員会のメンバーとして選任された07年
4月以来、特に地方分権改革について意見を交わす間柄です。
 
 今回の放送では「安心できる社会づくりとは何か」をテーマに、地方分権改
革の現状や高齢化社会に対する具体的な政策等について語り合いました。

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 先週5月31日日曜日、猪瀬直樹は本郷キャンパスで開催された東大五月祭に
おもむき、「この国のゆくえ」をテーマに講演を行ないました。
 
 講演の最後に猪瀬は、教科書でよく見かけるあごに手を添えた芥川龍之介の
写真と、そのポーズを真似る高校時代の太宰治の写真を紹介し、「当時のメデ
ィアによって作家イコール格好いいというイメージが流布された。青森に生ま
れた太宰治も芥川龍之介につよく憧れ、上京して作家になりたいとがむしゃら
に奔走した。現在の若者も憧れのイメージを強く持って未来に生きてほしい」
と結びました。
 
                *  
 
 今週のメールマガジンは、講演会に先立ち東京大学新聞に掲載されたインタ
ビュー「猪瀬直樹の語る東大生論」をお届けします。
 
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「猪瀬直樹の語る東大生論」

 五月祭には例年、多くの著名人が招かれ講演を行う。今年は東京都副知事を
務める猪瀬直樹さんが訪れる。作家として日本の近代に鋭い視点で迫り、小泉
純一郎元首相の改革の下で道路公団の民営化に深くかかわるなど多彩な活躍を
見せるが、その根底には自明とされることに対して率直に疑問を抱く感性があ
った。客員教授として東大で教鞭を執ってきた猪瀬さんの目には、東大生の感
性はどう映っているのか。

 
――東大ではどんな講義を行ってきたのか

 文学部の他分野交流ゼミで約10年間「作家とは何か」について話してきた。
藤村操って知っているかい?
 
 藤村は教養学部の前身の旧制第一高等学校(一高)出身。彼は満16歳で滝つ
ぼに飛び込むんだよ。遺書を残したんだが「宇宙と天地、時間と空間がある。
その中で僕はちっぽけな一人の人間に過ぎない。悩んだけれど人生は不可解」
と言って死んだんだ。
 
 当時、悩む時間を持つのは特権だった。旧制高校、帝国大学に行けるのはほ
んの一握り。一高に行き、藤村は生まれて初めて「人生とは何か」を考える時
間を与えられた。

 いざ考え始めると、人生は不可解で答えは分からない。「自分探し」の第1
号が藤村だった。今、みんなが大学や専門学校に行き、高卒ですぐ働く人は少
ないから悩む時間がある。だから、なぜ自分はここにいるのだろう、と自分探
しができる。

――誰もが悩む時間を手にしたのは好ましいことか

 それは難しいな。悩む自由を持てることは豊かさの象徴であるはずなんだけ
ど。悩む意味まで分からなくなってきたのかもしれない。これから先どんな国
家があるか、どんな未来があるかなど大きな物語がないことが背景にあると思
う。
 
 藤村の生きた明治後期は官僚機構、帝国大学、銀行など、ある程度国家制度
の形ができた。すると藤村は「自分は国家のために何を果たすことができるの
だ」と考える。自殺の理由にはそういうこともあったはずだ。
 
 僕みたいな全共闘世代が若い時も、戦後の混乱期から抜けて高度成長が始ま
り、国家の枠組みが回復していた。全共闘世代は何をしたらいいのか分からな
くて暴れたり騒いだりしたんだよ。僕の世代が、自分のすべきことが見えなく
なっている今の世代の先頭。
 
 人間は自分個人のことだけで生きてるわけじゃない。人のためになるような、
人とつながるものが組み込まれていないと仕事はできない。今の若い世代も、
人のためとか国のためというものと自分の人生とを重ねる機会がない。人との
かかわり合いの物語が消えてしまっているのでしょう。

――自身は悩みにどのように向き合ったのか

 僕も悩める青年だったんだが、自分がどこから来てどこへ行くのか、足場を
固めないと何も分からないじゃないかと思ったから作家を志した。日本の近代
に興味があったので研究を始めたんだ。
 
 一番大きなテーマだったのが日本人はなぜ米国と戦争をしたのかということ。
あんな大きな国だよ。中学校2年生の時、教科書には「軍部が台頭したから」
と書いてあるが、台頭しても勝てるわけがないと当時でも分かるだろう、と疑
問を持った。実は負けると分かっていたんだよ、当時のシミュレーションで。
  
 1941年にエリート青年が30人ほど集まって模擬内閣を作った。米国と戦争し
たら、とシミュレーションをすると初めは勝つけれど3、4年したら負けると
出た。
 
 今の教科書は戦後が善で戦前が悪というけど、同じ日本人だから本質が変わ
っているわけがなくて、負けると皆分かっていた。ただ、その時には「戦争し
か道はない」という「空気」が出来上がっていたから開戦にながされたんだ。
分析すれば分かる、戦前の人がおかしかったんじゃない、と疑問は解決した。
(『空気と戦争』(文春新書)参照)
 
 分析できるということは非常に大事なこと。道路公団の民営化にかかわった
のも、データを集めて分析したところ財務状況がおかしいと気付いたから。さ
らに調べて民営化が可能だということを突き止めた。

――特殊法人の民営化や地方分権に取り組むようになったのは、データを示せ
ば可能なのに誰も取り組まないことへの憤りからか
 
 そうだね。作家のような個人にできることには限界があるけど、小泉さんの
ような変人と一緒だったから道路公団の民営化に成功した。普通の首相なら僕
ができると言っても信用しなかっただろう。2年前、石原慎太郎都知事に「今
度はおれを手伝え」と言われたんだ。あの人も変人だし、僕は変人にばかり頼
まれるんだなあ(笑)。
 
 地方分権改革推進委員会委員として地方分権にも力を入れている。地方分権
は霞が関から権力を取り上げて地方に移譲することを意味している。つまり霞
が関解体なんだよ。官僚の抵抗にあって非常に困っているというのが本音。戦
前でいえば陸軍海軍を敵に回して戦うことだからね。暗殺されないだけましだ
けど。
 
 官僚機構は荒波を越えながら戦前から戦後まで続いてきた。ただ変化はあっ
たわけで、お金がないときの官僚は清貧に甘んじていた。お金がない時はいい
んだよ。少ない資源をいかに公平に分配することを考えるから。お金が増える
と裁量権が肥大化してしまう。民間が発達すれば官僚の役割は縮小するのが当
然。あれこれと民間に規制が掛かるのは良くない。

――官僚機構にはどんな問題があるのか

 社会や消費者のニーズをつかまないと民間は倒産するかもしれないわけでし
ょ。まずいレストランはつぶれるわけだ。いいと思っていたものも明日になれ
ば変わっているし、求められるものが違ってくるから、それに合わせて必死に
考えると感性が磨かれる。最近の若者の流行はなんだろうと考えて、こんな服
が売れるのではと思い付く。それが感性。一方、官僚機構は社会のニーズに合
わせて政策を打たなくてもつぶれることはない。感性の部分で覚醒してないん
じゃないか。
 
 官僚にはコンシステンシー(一貫性)とコンティニュイティ(継続性)があ
る。昨日正しかったことが今日は違うかも、というのが民間のメンタリティー。
一方で官僚は、昨日正しかったことは今日も正しい、と全く逆。それは一種の
安定感なんだが、前例に縛られ過ぎるってことにもなる。

 ただ、官僚をバッシングしているだけではいけない。無責任な人はすぐ官僚
が悪いって言うけどね。霞が関と民間が入れ替われるような労働市場の流動性
がないからだめなんだ。もっと入れ替われるような公務員制度にしないと。

――官僚機構の改革のために障害となっているものは

 永田町の政治が良くない。民主党も自民党も結局は同じ政党だから。同じも
のがけんかしていると足の引っ張り合いになる。似ているんだよなあ、戦前の
立憲民政党と立憲政友会に。するとみな政党に幻滅して、当時は軍部、現代な
ら官僚機構が台頭してくる。平成になってから、小泉さんの5年半をのぞけば
首相の平均在任期間は1.3年。
 
 昔、外国の新聞が日本の首相の顔を間違えたことがあったんだが当然だよ。
1年3カ月で交代となると、官僚の方が連続性があっていいとなるが、官僚を
誰もチェックできなくなる。

 大阪府の橋本徹知事も頑張っているし、大阪と東京で「薩長連合」を組もう
かと思っているんだよ。対談した時に頑張れと焚き付けた。感性や直感がある
人でなければだめなんだよな。

――東大は多数の官僚を輩出しているが、教壇に立って感じた東大生の印象は

 東大生は箱に入ったものを整理整頓するのは上手だけど、新しい箱を作る発
想は弱いかな。はみ出していく感性がない。そういうことをしていたら東大に
は入れないんだろうけど。
 
 アメリカの優秀な学生はまず起業家を志し、長いものに巻かれようとは思わ
ないが、東大生は官僚に行くのが一番だとかいう傾向がある。

――感性を磨いていくにはどんなことが必要なのか
 
 僕はなぜ日本は米国と戦争したのだろうという疑問があって、教科書に書い
てあるようなことを疑ってかかった。たぶん東大生は教科書通りで考えるパタ
ーンが多い。いかにして教科書から外れるかということが大事なんじゃないか
な。
 
 08年にノーベル賞を受賞した益川敏英さんだって30年以上、自分はこうだと
思ってやってきたわけでしょ。要は変人であれ、ということだよ。でもオタク
とはちがうんだぜ。「開かれた」っていうのかな。

――「変人」を貫き通すのは、他人からの評価を気にしてしまうと難しい
 
 自分の考えはあまり受け入れられないと小学生の時から思っていた。僕は異
端の系譜。小泉さんが現れなかったら政府の仕事をやるはずもなかったし。そ
もそも小泉さんが総理になるとは誰も思っていなかった。正統派の系譜はコン
システンシーになるんだけど、どこかで異端による入れ替えが必要なんだよね。
 
 僕は人に評価されることを考えない。僕の本が文学賞の候補になったが落ち
たことがあった。選考委員がばかみたいなことを言っていたので「ばかに選ば
れたらたまらないな」と思った。
 
 実際、そのとき選ばれた作家はもう消えているよ。人の評価が正しかった例
はないから、自分を信じるしかない。東大生は東大に入ったことで「東大生」
という評価を得ているが、その評価はあまり信じない方がいい。本当の評価は
後から出てくる。その時に、「東大生」以外に自分が何を持っているのか、分
かっていないとだめなんだぜ。

                    (東京大学新聞5月19日号掲載)

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       草思社の民事再生第一号です。乞う、応援。

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