2009/03/05
[MM日本国の研究537]「『出先機関』を潰し、権限を剥ぎ取れ」
2009年03月05日発行 第0537号 特別 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■■■ 日本国の研究 ■■■ 不安との訣別/再生のカルテ ■■■ 編集長 猪瀬直樹 ********************************************************************** http://www.inose.gr.jp/mailmaga/index.html ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆◇◆◇◆◇ 猪瀬直樹最新刊 ◇◆◇◆◇◆ ◆◇◆◇ 『霞が関「解体」戦争』 ◇◆◇◆ ◆◇◆ (草思社) ◆◇◆ 日本の権力構造のド真ん中に猪瀬直樹が切り込んだ! 地方分権改革推進委員会を舞台に繰り広げられた 官僚とのバトルを大公開。 何を、どう変えれば日本は再生するのか? この国を覆う閉塞感に風穴をあける痛快な書! 草思社の民事再生第一号です。乞う、応援。 http://www.amazon.co.jp/dp/4794216815 ――――――――――――――――――――――――――――――――――― 昨日4日水曜日、猪瀬直樹は地方分権改革推進委員会にて分権委の二次勧告 に基づき政府が作成している「国の出先機関改革についての工程表」に「出先 機関職員3万5000人の削減」を記載することを求めました。 * 今週のメールマガジンは、中央公論1月号に寄稿した論考「『出先機関』を 潰し、権限を剥ぎ取れ」をお届けします。 政局が混乱しているときこそ改革を進める好機だと猪瀬は考えています。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「『出先機関』を潰し、権限を剥ぎ取れ」 世界最大だったソビエト連邦共和国が瓦解した理由は、官僚機構の無感覚と 無責任が、社会に取り返しのつかない歪みを生じさせたことに主因があった。 翻って、わが国の現状に目を凝らせば、末期を迎えたソ連と同じように巨大な 行政がはびこり、相変わらず肥大化を続けている。 行政が無用な既得権にしがみつき、権限と財源を守ることに血道を上げれば、 せっかくの成長の芽まで摘んでしまう。この国が停滞から抜け出そうとする際 の足かせとなることは間違いない。 霞が関を改革しなければこの国に未来はない。僕はそう信じて「官」との戦 いを日々、繰り広げている。後述するが、今、霞が関の解体に向けて強い追い 風が吹いている。 政局の混乱によって“我が世の春”を迎え、油断している官僚機構に楔を打 ち込むことができる。この国を救うまたとない好機を逃してはならない、と指 摘しておきたい。 ■霞が関の「出先機関」は税金のムダ遣いの温床 現在、僕は地方分権改革推進委員会(委員長・丹羽宇一郎伊藤忠商事会長) の委員を務めている。この委員会は、2007年4月に内閣府に設置された。90年 代に行われた第1期改革と分けて第2期改革と位置づけられている。第1期改 革の最大の成果は、機関委任事務制度の廃止によって国と地方の関係を「対 等」としたことだろう。 一方、我われが推し進めようとしている第2期改革では、すべての討議を公 開し、インターネット中継を導入して国民に見えるかたちにした。なにしろ相 手は1府12省で霞が関の全体である。議論の内容は多岐にわたる上に、各省の 官僚が一つ一つ全力で抵抗してくる。分権委は毎週開かれ、これまで200時 間くらい議論をしてきたが、官の抵抗を跳ね返していくのは容易ではない。 こうした攻防戦を潜り抜け、分権委は08年5月、福田康夫前首相に第一次勧 告を提出した。この勧告では中央省庁の縦割り行政を排除し、地域の行政を総 合的に担う「地方政府」を確立するよう求め、国道の整備・管理の権限や一級 河川の管理権限を都道府県に移譲することなどを求めている。 12月上旬には、さらに第二次勧告として、国と地方の二重行政や税金の無駄 遣いの解消を目指し、国土交通省の地方整備局や農林水産省の地方農政局をは じめとする国の「出先機関」について廃止を含めて検討することなどを提言し た。 国、都道府県、市町村による「三層構造」についてはかねてから弊害が指摘 されてきたが、国の出先機関についてはつい最近まで見過ごされがちだった。 出先機関とはいえ、その規模は巨大だ。行政機関に勤める国家公務員は計33 万人いるのだが、なんと、このうち21万人が出先機関の職員なのである。霞が 関にある行政機関だけが中央官庁ではない。出先機関の予算額は、今回の対象 となっている8府省だけで10兆円にのぼる。 ところが、これら出先機関の予算、事業の執行具合などについて国会で取り 上げられたことは皆無だったに等しく、地方に事務所をおきながら、国の機関 ということで、地方議会でチェックされる対象にもならない。監視の目が行き 届かないため、やりたい放題だったのだ。 ■国交省地方整備局のムダ 今回、分権委が改革の目玉としているのが国交省の地方整備局だ。国道、河 川、港湾、砂防などの直轄、補助事業を行っている。全国に8局あり、河川国 道事務所などをはじめ約1000箇所もの下部組織を抱えている。職員数は2万10 00人。予算規模については8兆円を超えるという巨大組織だ。 近年、地方整備局を舞台にした官製談合が指摘され、道路特定財源の無駄遣 いなどが明るみに出たことなどから、広く一般の人々の注目をも集めるように なってきたが、実際の改革はまだなにも進んでいない。 地方整備局が担う道路の整備・管理、河川管理事業の多くは都道府県だけで 行えるはずだ。事実、地方自治体と重なっている業務も多い。この二重行政に メスを入れ、霞が関から無用な権力を引き剥がして地方に権限移譲すれば、河 川や道路を地域が一体的に管理することができるために効率化も図れる。 例えば東京都でいえば、皇居周辺の道は国道、都道、区道が入り混じり、一 体整備ができないでいる。このため植栽はバラバラで景観は損なわれている。 都市の景観や地域の交通政策は、それぞれが有機的に結びついていなければい けない。管理者が異なるため容易には改善に乗り出せない現実がある。 国が道路、河川の権限を自治体に移譲することで、地域の実状に即した決め 細やかな行政サービスが実現できるようになり、費用と人員面でもムダが省け るはずだ。 ■ソ連末期を彷彿させる農水省地方農政局 地方整備局と並んで今、統廃合の対象として注目を集めているのは農水省地 方農政局だ。農政局は全国に7局あり、地方農政事務所など約280の下部機 関を抱える。予算規模は1兆1500億円。農水省の職員2万2000人のうち、実に 1万6000人が地方農政局に勤務し、農業土木や食品販売業者などへの立ち入り 検査を行っている。 08年9月、米穀加工販売会社「三笠フーズ」が、発がん性のあるカビ毒や残 留農薬に汚染された工業用の「事故米」を食用と偽って転売していた事件は記 憶に新しい。この事件をめぐっては、農政事務所に数回の告発が寄せられてい た。農政事務所は立会い検査を行ったにもかかわらず、販売先を調べるなど流 通経路の追跡もしないで不正を見落としたことが分かり、大臣や次官の辞任に まで発展した。 驚くべきは不正の見落としだけではない。事故米の購入業者を検査する際、 事前に業者に検査の日程を連絡していたというのだ。業者側は連絡を受け、不 正の発覚を免れるために体制を整えてから検査を受けていたとされる。 いったい、農政事務所の職員は何のため、誰のために検査を行ったのだろう か。僕は、1960年代後半に読んだ埴谷雄高のソビエト紀行を思い出した。 空港の待合室での出来事である。事務室の脇に電話が置かれていた。埴谷が 受話器を持ち上げるとそれは壊れていた。ところが、ソ連の女性事務職員がや ってきて、その壊れた電話を使ってなにやら業務報告をしている。それが一度 や二度ではない。埴谷は、直ったのかと思い、再度、受話器を持ち上げるのだ が、やはり壊れている。 要するにこの女性は誰も出ない電話に向かって「業務報告」をしていたらし いのだ。ソ連の官僚組織では、報告したという形式こそが重要なのであり、そ れが相手に届かなくても構わないのではないか、と埴谷は解釈している。 話を元に戻すと、日本の農政事務所は不正を見抜くことが目的ではなかった。 いや、そもそも目的がないのに存在するのが農政事務所という出先機関なので はあるまいか。今の日本にソ連の末期にも似た光景がみられるとは。恐るべき ことである。 ■政治が混乱する今こそ、霞が関改革の好機 さて分権委の話に戻そう。昨今、規制緩和と行革を徹底して進めた小泉改革 に対するゆり戻しのような空気が醸成されたこともあり、第一次勧告を出した はいいが、これに沿って改革が進んでいくのかどうか、その先行きは不透明に なりつつあった。 霞が関はこうした空気を敏感に感じ取る。分権委の第一次勧告を受け、国交 省が地方への権限委譲の対象として示してきた国道は、計110路線、長さに して3800キロメートルと、国が管理する直轄国道全体の18パーセントのみだっ た。地方分権をできる限り小規模に押さえ込もうとする国交省の意図が透けて みえた。 河川も同様だ。第一次勧告では一級河川109水系中、65水系の移譲を求め ていたが、国交省側から権限委譲の対象として提示されたのはたったの20水系 だけ。日本全国の一級河川の国直轄管理区間の約7%にしかすぎないのだ。 国交省は一定の「回答」を示してくるだけまだマシである。そのほか農水省 をはじめとする各省からは「ゼロ回答」である。 とはいえ、国道、一級河川をはじめとする国からの権限移譲が極めて小規模 なものにとどまれば、出先機関はすべて生き残ることになる。分権委が描いた 改革は画餅となりかねない。第一次勧告後、僕はこうした危機感で一杯だった。 しかし、ここに来て、我われの勧告に強い追い風が吹きはじめた。 第一に、福田前首相が道路特定財源の一般財源化に言及したことが大きかっ た。民主党に追い込まれ、苦し紛れに一般財源化の方針を打ち出した後、福田 前首相は政権を放り出したわけだが、そうであっても、ときの首相が示した方 針は軽いものではないらしく、いまだに道路特定財源の一般財源化の話は“生 きている”。 そして、この方針を受け、麻生太郎首相は10月末、09年度から一般財源化す る道路特定財源のうち、新たに1兆円を使途を縛らずに地方に配分する方針を 固めた。税源移譲に伴い、国道や河川とともに国交省の地方整備局の人員も都 道府県に移らなければならないはずだ。ただちに分権委はこの1兆円を「地方 への税源移譲として行うべきである」と全会一致で意見集約し、麻生首相に具 申した。 次に追い風となったのが、福田前首相が7月の洞爺湖サミットで、北海道の 公共事業を一元的に管轄している国交省北海道開発局の“見直し”について言 及したことである。 当時、北海道開発局は現職の幹部らが逮捕される談合事件の舞台になったば かりということもあったのだろうが、福田前首相にしてはかなり踏み込んだ発 言だった。これが二重行政廃止に向けた第二の追い風である。 そして、極めつけは麻生首相が11月上旬、分権委の丹羽委員長と会った際、 国交省地方整備局や農水省地方農政局をはじめとする国の出先機関の原則廃止 を打ち出したことである。これによって、出先機関の統廃合の実現に向け、事 態は大きく動き出した。 ちなみに、当初、国交省から対象路線として15パーセントしか提示されなか った国道については国交省と再度、議論をした結果、73路線が候補に上積みさ れた。検討対象とされた道路のなかには、国道20号(東京都中央区――長野県 塩尻市)、国道246号(東京都千代田区――静岡県沼津市)まで入っていた。 これらの主要な大動脈が都道府県に権限移譲されれば、我われが推し進める 地方分権のシンボルにもなる。国交省以外の省庁の出先機関の統廃合にもつな げることができるかもしれない。 サッカーW杯では、世界に実力を誇る強豪チームを相手に戦う場合、点が入 るのはゴール前が混乱した一瞬だったりするものだが、霞が関解体に向けた我 われの作業はこれに似ている。 概して首相をはじめとする国の指導者は、切羽詰らなければ思い切った改革 などに手をつけようとはしない。今現在の政局の混沌とした状況は、まさに一 瞬、混乱したゴール前に等しい。 なんであろうとゴールを決めれば点は点。世論が盛り上がれば、一気に改革 への道筋につなげられる、と思っている。 申し上げたとおり、出先機関から権限を引き剥がして二重行政をただし、財 源を地方に移していけば、後は放っておいても出先機関は消えていく。この二 方向から出先機関に楔を打ち込み霞が関解体を実現していくつもりだ。 ■地方の土木部長は国交省からの出向者だらけ この攻防戦の中で、改めて霞が関という組織は「すごいな」と感じたことが ある。というのも、都道府県で道路や河川などの管理を行う土木部長、あるい は建設部長、もしくは県土整備部長などと呼ばれる土木関係の最高幹部の大半 が国交省からの出向者で占められていることが分かったのだ。 (http://www.inose.gr.jp/mailmaga/mailshousai/zuhyou/090305/zuhyo.pdf) 国交省は、国道や一級河川の権限移譲について、各都道府県知事と直接、交 渉をしながら決めていくことになるのだが、我われ分権委としては、移譲の対 象として国が提案しない場合でも、知事が移譲を求めることを期待していた。 地方からの積極的な働きかけによって地方分権が大きく進展する可能性がある からだ。 ところが、都道府県庁内で土木について最も詳しいはずの幹部が国交省の人 間であるならどうなるか。その“幹部”らは、国交省の提示どおりにコトをお さめようとするのはもちろんのこと、積極的に国に権限移譲など持ち掛けるわ けがない。 国交省の意向どおりに動く職員が知事よりも土木に詳しい存在として役所内 に君臨し、見事な抵抗勢力として霞が関とタッグを組む。これでは霞が関の思 う壺になる。 幸い東京都建設局の幹部は国交省からの出向者ではないが、それでも「国道 の権限移譲を進めよう」と持ちかけても、「あの道路をもらって、こういう街 づくりをしたい」という積極的な声は、まだ小さい。 国の方針に従って補助金をもらって仕事をすれば安泰だ――といったコトナ カレ主義の地方公務員のままであれば、「地方政府」は夢で終わってしまう。 だが、霞が関の専横に対して、真に地方分権を望んでいる地方公務員は少数派 かもしれないが、確実に存在する。 長い間、国の指導に従うことで、地方自治体は“創意工夫”を奪われてきた ことを今一度、思い起こすべきだろう。補助金漬けになり、無用なハコモノを 作り続けて破綻した夕張市を例に出すまでもないのだが、腐りかけている霞が 関にすがっているのでは、発展の絵は描けない。 国から税財源と仕事を剥ぎ取ることで、さらに地方が個性的で豊かになると 肝に銘じて踏ん張るべきなのだ。都道府県側も試練の時なのである。 (中央公論 09年1月号) 猪瀬直樹の新着情報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■テレビ出演 ・3月9日(月)TBS『NEWS23』にコメント出演します。財政破綻した夕張市 への都職員派遣の経緯やその成果について後藤謙次キャスターのインタビュ ーに答えました。 ■掲載情報 ・10日(火)発売の月刊誌『Voice』4月号に論考「小泉改革批判への大 反論」が掲載されます。 ・日経BPネットの好評連載「猪瀬直樹の『眼からウロコ』」最新号がアップ されました。「都の雇用関連施設を一度見てほしい 実践的で役立つ授業、 きめ細かいカウンセリングで就労へ」はこちら。 http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20090303/136067/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ バックナンバーはこちら。 http://www.inose.gr.jp/mailmaga/index.html ご意見・ご感想はメールでどうぞ。 info@inose.gr.jp 配信解除の方はこちら。 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