日本国の研究 不安との訣別/再生のカルテ  RSSを登録する

編集長猪瀬直樹。混迷する現代の諸問題への処方箋を経済を中心に提示します。コンセプトはジャーナリズムと歴史的視点の新しい融合。30歳代の現場人間による寄稿、座談会、書評等で構成しています。

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2009/02/26

[MM日本国の研究536]「日本経済の行方」

                  2009年02月26日発行 第0536号 特別
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 ■■■    日本国の研究           
 ■■■    不安との訣別/再生のカルテ
 ■■■                       編集長 猪瀬直樹
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              http://www.inose.gr.jp/mailmaga/index.html

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         何を、どう変えれば日本は再生するのか? 
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 25日水曜日発売の『BIG tomorrow』4月号に石原慎太郎都知事との対談「不
況下で勝ち残る男の資質とは?」が掲載されています。石原都知事、猪瀬が共
に挙げたキーワードは「感性」。ぜひ手にとってください。
 
                 *                 

 今週のメールマガジンは小林慶一郎氏執筆「日本経済の行方」をお届けしま
す。
 アメリカ発の金融危機による経済悪化に対し、市場経済そのものを否定する
ような意見も一部に見られますが、小林氏はそのような過剰な反応に対し、冷
静に対応するよう警鐘を鳴らしています。

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「日本経済の行方」

           独立行政法人経済産業研究所上席研究員 小林慶一郎


 昨年秋からのあまりにも急激な景気悪化で、実感が追いつかない深刻な事態
が続いている。10−12月期の国内総生産は、前期比で年率12パーセント以上も
下落し、文字通り戦後最悪の不況に突入した。輸出産業の落ち込みは、相次ぐ
「派遣切り」を発生させ、歴史的な雇用悪化が続いている。
 
 深刻な世界不況の中で、欧米各国で保護主義的な動きも現実のものとなりつ
つある。
 
 アメリカの景気対策法案には、公共事業の使用物資をアメリカ製品に限ろう
とするバイアメリカン条項が入り、結局、多少の修正はされたものの上下両院
で可決されてしまった。また、フランスは、戦略的に重要な国内自動車メーカ
ーに公的な資金支援を決めた。
 
 ローマで開かれた先週のG7財務相・中央銀行総裁会合では、保護主義の回
避で一致したが、具体的な動きは鈍い。

 自由貿易体制の最大の受益者といってよい日本で、自由な世界経済を守ろう
という世論のコンセンサスができないのは残念なことである。

 しかし、足元の景気悪化からすれば、ある程度は、無理もない。製造業大手
では、生産の3割、4割減は当たり前になり、下請けの中小企業では、7割減、
8割減になっていると聞く。これは不況というよりも、地震のような「激甚災
害」と言ってもよい状況である。政策的な対応も、経済政策というより、「災
害対策」のつもりで実施するべきだといっても過言ではないだろう。
 
 ただ、景気と雇用の悪化に浮き足立って「アメリカ主導のグローバル経済が
間違っていた」とか「新自由主義は終焉し、新しい経済原理が必要だ」という
ような議論が聞かれるようになったことは問題である。
 
 特に、アメリカが金融危機を引き起こしたのだからアメリカが何とかするべ
きだ、という議論には落とし穴がある。そもそも、危機の原因は、アメリカ国
民が住宅バブルに乗って借金を膨らませ、身の丈以上の消費を続けたことだっ
た。住宅バブルの崩壊で、アメリカ人の過剰消費ができなくなったために、日
本からアメリカへの輸出が減り、派遣切りが頻発しているわけである。
 
 これをアメリカの責任で解決するには、もう一度、アメリカでバブルを起こ
して、アメリカ人が過剰な消費を再開するしかない。しかし、バブルが容易に
再来するとは思えず、現実的なシナリオとは言えないだろう。

 アメリカ経済が身の丈にあった大きさに縮むとすると、日本の景気と雇用を
回復させるには、言い古されたことだが、長期的にはやはり日本の内需を拡大
するしかないということではないか。福祉や介護、医療の現場での雇用を増や
し、抜本的な改革によって安心できる社会保障制度を作り、国民が安心して消
費できる環境を作ることが必要だ。

 特に雇用格差や派遣切りなど、国内の労働者の苦境の原因を、外国(中国や
インドなど低賃金国に限らず、グローバル経済システム全体も含む)に求める
意見が強まっているように感じられる。
  
 雇用問題の原因を外国に求める思考は、天に唾するのと同等である。排外主
義は保護主義となって世界貿易を縮小させ、国内の雇用をさらに悪化させるか
らだ。実際、日本の雇用問題の中で、もっとも重大な不満の原因は外国ではな
い。社会的な怨念を高めているのは、非正規労働者が受けている労働制度上の
不当な扱いであろう。たとえば非正規労働者への雇用保険があまりにも貧弱で
あるなど、雇用のセーフティネットはいまだに正社員中心の考え方でできてい
る。
 
 また、昇進や正社員への格上げのチャンスがほとんど無いなど、欧州の例な
どに比べて不公平の度合いが強いことが非正規労働者の多い若年層の不満を増
幅している。

 これらは、外国に原因があるのではなく、国内の労働関係制度の改革によっ
て解決すべき問題である。外国やグローバル経済を悪役にする議論は、結果的
に問題を助長する。つまり、問題解決のためには、行政・経営側・労働者の間
での厳しい利害調整や、もっと言えば「正社員VS非正社員」の利害調整が必要
になるが、外国を悪者にする議論は、国内の一体感を演出し、そうした利害調
整の努力を棚上げする口実になってしまうのである。

 危機が深刻化するいまこそ、われわれは内なる敵を直視して、問題の解決に
努める必要がある。何でも外国のせいにしたくなるわれわれ自身の弱さを克服
しなければならない。
 
 最近、マルクス主義や社会主義を再評価しようという論調もあるので、それ
について最後に付言しておきたい。

 強欲資本主義が破綻したから次は計画経済、という意見があるが、計画経済
がどのように腐敗し、破綻するかを知るには、旧共産圏諸国を見る必要はない。
日本の社会保険庁による年金記録の紛失、改ざんなどの不祥事は、官僚による
計画経済が現実に実行されるとどのような結果を生むかを示す本質的な例であ
る。

 世の中の人間が全員聖人君子のような立派な人間であれば、計画経済は問題
なく回る。だがそのためには聖人君子以外の多数の人間を粛正して殺す必要が
でてくるだろう。それが革命後のフランスや共産主義のロシアで起きたことで
ある。
 
 筆者を含めて、愚かで利己的で、時に悪意を持ってしまう弱い人間によって
社会をどうにか運営する方法が市場経済の仕組みなのであり、強欲資本主義の
結果がいかにひどくても、おそらく市場経済に代わるものは出てこない。
 
 保護主義の誘惑に抵抗し、自由な市場経済システムの欠陥をきちんと直しな
がら、何とか危機をしのいでいくしかない。そして中長期的には、日本国内の
改革によって、内需主導の健全な経済成長を回復する必要がある。

■著者略歴■
小林慶一郎 (こばやし・けいいちろう) 独立行政法人経済産業研究所上席
研究員。1991年、通商産業省入省。1998年経済学博士号取得(シカゴ大学)。
2001年より経済産業研究所研究員、2007年より現職。中央大学大学院客員教授。
著書に『日本経済の罠』(日経ビジネス人文庫)などがある。

猪瀬直樹の新着情報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■テレビ出演

・2月28日(土)14:00〜14:55放送!
 朝日ニュースター『日本のキーパーソン』(第4土曜日放送、再放送あり)。
 政治学者の福岡政行氏をゲストに迎え、混迷を極める政局や地方分権改革に
 ついて議論します。

■掲載情報

・25日(水)発売『BIG tomorrow』4月号に石原慎太郎都知事との対談「不況
 下で勝ち残る男の資質とは?」が掲載されました。

・日経BPネットの好評連載「猪瀬直樹の『眼からウロコ』」最新号がアップ
 されました。「14万戸もある『雇用促進住宅』とは何か? 厚生労働省のお
 かしな雇用・能力開発政策は見直すべきだ」はこちら。
 http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20090224/134254/
 
・今週23日(月)発売『AERA』掲載「皇太子さま『愛と苦悩』」にコメントを
 寄せました。

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