2009/10/20
<国際派時事コラム>電卓を片手に、風力発電と太陽光発電を考える
↓ 週3回更新のブログはこちら http://plaza.rakuten.co.jp/yizumi ◆■■■国際派時事コラム「商社マンに技あり!」■■■◆ http://www.f5.dion.ne.jp/~t-izumi/ 電卓を片手に、風力発電と太陽光発電を考える ■■■■第279号■平成21年10月20日発行■■■◆ 温室効果ガスの削減目標。 米国は今どういうレベルを考えているだろうか。 10月2日付『電気新聞』の1面記事によると、 2005年→2020年で17%削減というのが米国下院の案。 上院の“環境派”議員が「20%削減」に持っていこうとし ているが、反対論が噴出している。 米国の内政の最優先課題は医療制度改革だから、温室効果 ガス削減のために国富の大盤振舞いをするつもりはないのだ。 鳩山政権が、国会に諮ることなく与党の一存で打ち出した 国際公約は、 ・ 2005年→2020年で「30%削減」 (1990年比なら25%削減) ・ ただし、他国もこのレベルについてくることが前提 というもの。 迷走する鳩山政権に明確にしてもらいたいことがある。 米国の削減目標が17~20%にとどまるとき、日本の目標は どう設定するのか? 30%なのか? 中国に対しては、いかなる削減目標を要求するつもりか。 麻生政権が掲げた目標は、 ・ 2005年→2020年で「15%削減」 ・ 他国が掲げる目標レベルによってブレることはない というものだった。 ■ 大平原はカネでは買えないが ■ CO2の30%削減のために、風力発電と太陽光発電がどの くらい頼りになるのだろうか。 実際に計算してみよう。 2020年までの限られた時間にどのくらいの事業規模が必要 か、まずその客観的知識を共有したい。 * 「30%削減」の目標のうちの6分の1(つまり5%削減分) を風力発電と太陽光発電でそれぞれ達成するには、どのくら いの土地と手間が必要か、計算してみたい。 日本が出す温室効果ガスの34%が火力発電所から出ている。 http://www.chuden.co.jp/torikumi/kankyo/report/data_bumonco2.html 高効率のガスタービン発電を採用して火力発電所の発電効 率を劇的にアップさせるのが、ここ10年単位でできる現実路 線だと前に述べた。 その話をひとまず措(お)いて今日は、火力発電の発電量 の 5/34 相当を風力発電と太陽光発電でそれぞれ発電する ことを考えてみよう。 ■ 930億キロワット時の発電量 ■ 平成20年度、日本の電力会社が発電・受電した電力量は、 9,720億キロワット時だった。 うち火力発電が 65%を占める。 (原子力発電が26%、水力発電が8%、地熱・風力・太陽光 などが1%) つまり、火力発電で 6,320億キロワット時の電力量が確保 され、それによって日本の温室効果ガスの34%が排出された。 ということは、 6,320億キロワット時×5/34 =930億キロワット時 を風力発電で発電し、その分だけ火力発電所を閉じれば、 日本の温室効果ガス排出は5%減る。 ざっくり言えばそういう計算になる。 年間に930億キロワット時を風力発電で発電するには、 どのくらいの数の風車が必要で、それを建てるにはどれくら いの面積が必要だろうか。 ■ 17,600基の観覧車を建てる ■ かりに発電設備が 24時間、365日、フル稼働できるとすれ ば、計算はこうなる。 930億キロワット時 ÷(24時間 × 365日) = 1,100万キロワット。 現在、日本で実用化されている最大の発電用風車は、 2500キロワットの設備容量だ。 遊園地の観覧車くらいデカいが、これを 4,400基立てれば よい、だろうか? (1,100万 ÷ 2500 = 4400) 実際にはそれでは足りない。 前号で見たとおり、発電所は点検・保守で止めねばならぬ ときがあるし、風力の場合はまさに「風まかせ」だ。 風力発電の設備利用率は約25%、つまり年間フル稼働の 25%相当の働きしかできない。 だから、930億キロワット時の発電量を確保するためには、 4,400基の4倍の風車が必要だ。 つまり 17,600基ということになる。 2500キロワットの風車は、どのくらい大きいのか。 米国GE社の風車の資料がある: http://www.gepower.com/prod_serv/products/wind_turbines/en/downloads/GEA17007A-Wind25Brochure.pdf 風車の直径は100メートル。 つまり羽根の長さは50メートル近い。 タワーの高さは75メートルから100メートルの範囲で選べる。 75メートルのタワーに直径100メートルの風車をつければ、 もっとも高い地点は地上125メートル。 まさに、17,600基の観覧車を日本全国に建てたようすを想 像していただければよい。 ■ 風車1基あたり0.3 平方キロの空き地が必要 ■ 風車をびっしり密集して設ければ、よいではないか…… と、考える方がいるかもしれない。 風車を1基立てただけで、気流は乱れ、減速する。 高価な風車の性能が十分に出るようにするには、 横方向に風車直径の3倍(300メートル)、 縦方向に風車直径の10倍(1キロメートル)の空き地を確保 する必要がある。 つまり、2500キロワットの風力発電のために 0.3平方キロ メートルの空き地の確保が必要だ。 風向きが変わることを想定すれば、必要面積はさらに広が る。 この空き地では風車の風切り音がし、低周波騒音もあるか ら、住宅地としてはまず使えない。 (太陽光発電用地としては、大いに使いでがありそうだ。) 17,600基の風車を立てるには、5,280平方キロメートルの 空き地が必要だ。 なぁんだ、73キロメートル×73キロメートルじゃないか、 と言い放つ人がいたら、担当大臣をやってみてもらいたい。 ■ 与野党の政策合意が前提だ ■ 課題は2020年までに17,600基の風車を立てること。 日本の数万ヶ所で年間12ヶ月を通した風況調査観測を実施 して、風車を立てる適地を選び、必要な空き地を確保する交 渉を全国で行わなければならない。 限られた時間でそれを行うのが、どんなに大変か。 10年間に17,600基ということは、1日に7基の割合だ。 (1年に 250日働くものとして計算。) 1日に7基ずつ日本のどこかで観覧車を建てているという 光景を想像していただきたい。 2019年になって突然17,600基の風車を発注しようとしても、 製造能力が追いつかない。 今後、与野党が入れ替わっても政策が変わらないという安 心感を製造メーカーに与えて製造能力を拡大させ、2013年ご ろから大量分割発注だ。 それが達成できたとしても、鳩山政権の公約値のやっと 6分の1を満たすにすぎない。 ■ 10年間で2,400万戸の民家の屋根に太陽光パネルを ■ 太陽光発電の場合はどうだろう。 同じく 930億キロワット時の発電量を確保するには、どの くらいの太陽電池が必要か。 前号で述べたとおり、太陽光発電の設備利用率は15~16% ていどだ。 夜には発電できないし、曇りや雨では発電量は落ちるから。 計算すると、 930億キロワット時 ÷ (24時間 × 365日)÷ 15% = 7,100万キロワットとなる。 日本では、「土地代ゼロの設置場所」として、民家の屋根 が使われてきた。 日本の民家の大きさを考えれば1戸あたり20平方メートル ほどしか設置できない。 発電能力は3キロワットほどだ。 7,100万キロワット ÷ 3キロワット= 2,400 万戸 という計算になる。 10年間でこれを達成するには、1年間に240万戸、1日に 9,600戸の民家に太陽電池を設置せねばならない。 戸別の事情に合わせて架台(がだい)をつくり設置するわ けだから、太陽電池メーカー全国の鉄工所や工務店への特需 となる。 (企業トップが小沢一郎氏と親しい京セラのようなメーカー への特需となるのも、言うまでもないが。) 民家の屋根に ちまちま設置するとなると、架台代・工事代 も膨らむ。 太陽電池代+架台代+工事代が 「普通の家で200万円ぐらいする」 と10月10日付の日経の土曜別刷り5面に書いてあった。 2,400万戸 × 200万円 = 48兆円と必要経費が計算でき る。 実際には大量生産効果で費用はぐっと下がるだろうが。 ■ 日本の休耕地は3,900平方キロ ■ 実際問題としては、民家の屋根は太陽電池の設置場所とし ては薦めにくい。 個別工事のコストがバカにならないし、保守・点検も面倒 だ。 だから、広い平原地が確保できる欧米諸国では、民家の屋 根への設置はほとんどない。 日本に空き地はないのだろうか。 日本の休耕地は39万ヘクタール = 3,900平方キロメートル だ。 http://www.mypress.jp/v2_writers/beep/story/?story_id=1737757 固定資産税の補填や、農地所有者への補償金など、新たな 政策を考える必要があるが、わたしは休耕地転用のほうが現 実的だと思う。 「休耕地」は農業が営まれた場所だから、農業用水が確保 できる。 太陽電池は、砂埃がつくと発電効率が落ちるので、一定の 頻度で洗ってやる必要がある。 (砂漠・土漠を太陽光発電に利用するのがそう簡単でないの は、洗浄水確保のコストが高い点にある。) 休耕地転用であれば、洗浄水も確保できるから合格だ。 ■ 広大な太陽光発電所「メガ・ソーラー」■ 実験的にではあるが、日本各地で「メガ・ソーラー」と呼 ばれる広大な太陽光発電所の建設も始まっている。 川崎市役所と東京電力が共同で川崎市の東京湾埋立地に建 設する2万キロワットのメガ・ソーラーがある。 http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu08_j/images/081020a.pdf (↑ 完成予想図つき。どういうものだか、よく分かる。) それによれば、約 0.34 平方キロメートルの土地をつかい、 約 0.3 平方キロメートルの太陽光パネルを設置する。 フル稼働時の発電能力が2万キロワットで、年間の発電量 として 2,110万キロワット時を想定している。 計算すると、設備利用率を12%と おいている。 (私立中学の入試問題には好適ですね!) これと同じ発電所を全国に作って、930億キロワット時の 年間発電量を確保するには、 930 億kW時 ÷ 2110万kW時 × 0.34平方km = 1,498 平方km と計算できる。 日本の休耕地の4割に相当する面積だ。 川崎市のこのメガ・ソーラーを4,400ヶ所つくる計算。 10年間でこれを達成するには、1週間に8~9ヶ所つくる 勢いで取り組まなければならない。 適地を探して交渉するだけでも、気の遠くなるような労力 のはずだ。 ■ 原発建設が、いかに現実的解決か ■ さきほど、2,400万戸の民家の屋根に太陽光パネルを設置 するのに単純計算では48兆円必要だと述べた。 風力にせよ、太陽光にせよ、鳩山政権の公約の6分の1を 達成するために、10年間でそういう桁のカネがかかるという ことだ。 カネの問題はさておき、 問題は、1ヶ所あたりの発電能力が小さいから、数をこな さなければならないこと。 2,400万戸の屋根だの、観覧車 17,600基だの、メガソー ラー4,400ヶ所だの、人間が10年間にこなせる数を1桁上回っ ている。 * 年間930億キロワット時を原子力で発電しようとしたら、 930億キロワット時 ÷ (24時間 × 365日)÷ 70% = 1,500万キロワットの設備があれば十分だ。 最新鋭の原子力発電所10基分である。 5ヶ所の用地を確保して2基ずつ作れば達成できる。 地元への補償金込みで10兆円も注ぎ込めば、完成する。 ■ 洋上風力発電所の壮大な構想 ■ 長さ 1.9キロメートル、幅 70メートルの自力航行可能な 巨大なイカダを洋上に浮かべ、これに 5000キロワット用の 巨大風車を11基設置して、洋上風力発電を行うという壮大な アイデアもある。 http://www.nies.go.jp/event/kaigi/20071010/a3.pdf (↑ ここにも、完成予想図がついている。) 季節ごとに、台風を避けつつ最適の風を求めて、日本の排 他的経済水域を動き回る風力発電所だ。 作った電気は直接には送電できないから、海水を電気分解 して水素を作る。 水素は、燃料電池の燃料として使える。 巨大イカダは定期的に日本の港に寄って、受け入れ施設に 水素を渡す。 まだ模擬設計の段階だし、電気分解して作った大量の水素 を洋上航行中にどう蓄えておくかなど、課題も多いから、 2020年の公約期限には間に合いそうにない。 しかし、2400万戸の民家の屋根に太陽光パネルを設置する のに比べれば、ずっと現実味を感じるプランだ。 20年先を見据えて、国家の大計として取り組むべき夢だと 思う。 === ▲ 後記 ▼ さいきんのコラム子のブログ記事から ―― (全文を読むにはリンクを開いてください) 10月1~8日の中国全土の小売売上高を10月8日の夜に発表 するために休日返上で働いた中国商務省の官僚 (笑) http://plaza.rakuten.co.jp/yizumi/diary/200910090000/ お笑い中国とお笑い日経がペアを組むと、こういうヒット 作(?)が生まれる。 一抹の知性があれば、あきらかにでっち上げの数字に皮肉 のひとつも書き添えるべきだ。 こういう人民日報的記事を1面トップ記事に仕立てられて も いぶかりもせず読むオバカな日本人が、何割かいること だろう。 それにしても、10月1~8日の中国全土の小売売上高を 10月8日の夜に発表するとは、田舎芝居の極み。 中国政府は、まだまだ幼い。 == <泉 幸男 著> 『中国人に会う前に読もう 第一線商社マンの目』 『日本の本領(そこぢから) 国際派商社マンの辛口メモ』 通 信 販 売 も 受 付 中 http://homepage2.nifty.com/sai/mart/ == ■主宰 泉 幸男(いずみ・ゆきお Izumi Yukio) http://www.f5.dion.ne.jp/~t-izumi/ (旗艦ウェブサイト。これまでの号もここで見られます) http://plaza.rakuten.co.jp/yizumi/ (週に3回ほど更新しているブログ) ■発行者への通信は mailto:t-izumi@f5.dion.ne.jp いただいたメールは、引用することがあります。 引用内容が政治性を強く帯びたものについては、掲載につ いて ご本人の事前了解をいただくつもりですが、 この辺の 采配は発行者にお任せいただくしかありません。 発信者氏名は原則として公開しません。公開する際は、ご 本人の事前了解をいただきます。 掲載するメールは、発信者の居住地名(市ないし県名)を できるだけ書かせていただきたく、それについてお問合せを することがあります。 ■このメールマガジンの転送・転載はご自由にどうぞ。 ■このメールマガジンの内容は、主宰の勤務先の見解とは無 関係です。このメールマガジンは、主宰の勤務先による監修 その他のサポートを一切受けておりません。主宰の勤務先に おいて守秘対象とされる事項は一切含まれておりません。 ■メールマガジン(配信誌)のお申込み・解除は、以下のペ 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