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本業は総合商社の営業マン。もと北京駐在。このメールマガジンから、エッセー集 『中国人に会う前に読もう』 と政策提言書 『日本の本領(そこぢから)』 が誕生しました。歴史雑学いっぱいの辛口時評から語学のコツまで、毎号、大脳皮質を刺激します。

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2009/03/16

<国際派時事コラム>中国の「直訴阻止賃」は、3万円

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◆■■■国際派時事コラム「商社マンに技あり!」■■■◆
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      中国の「直訴阻止賃」は、3万円


■■■■第261号■■平成21年3月16日発行■■■◆




 忠臣蔵「四十七士の討ち入り」について、福澤諭吉が何と
言っていたかご存知だろうか。

 明治7年2月に出版された『学問のすゝめ六編』に言及が
ある。

 諭吉も世の中も、すくなくとも徳川時代末期のことは血と
汗で記憶していた頃の本だ。


■ 命がけで訴え出る ■


「徳川政府の裁判で、浅野内匠頭(あさの たくみのかみ)へ
は切腹を申しつけながら、吉良上野介(きら こうずけの
すけ)は罰しなかった。

この点、実に不正な裁判だった」

と福澤諭吉は言う。

 討ち入りがいけないなら、四十七士に何ができたのか。

≪浅野家の家来共この裁判を不正なりと思はゞ、何が故に
これを政府へ訴へざるや。≫

 お上(かみ)に訴え出ればよかったではないか、と!

 きれいごと、か?
 徳川の世と近代国家を、いっしょくたにしているのだろう
か。


≪四十七士の面々申合せて各(おのおの)其筋(そのすじ)

に由(よ)り法に従(したがひ)て政府に訴出(うったへ

い)でなば、固(もと)より暴政府のことゆゑ最初は其(そ

の)訴訟を取上げず、或(あるい)はその人を捕(とらへ)

てこれを殺すこともある可(べ)しと雖(いへ)ども……≫


 やはり
「お上に訴え出るのは、命がけだろうが……」
と言っている。


■ 徳川時代を識る人々の納得感 ■


≪……仮令(たと)ひ一人は殺さるゝもこれを恐れず、又

代(かは)りて訴出(うったへい)で、随(したがっ)て

殺され随て訴へ、四十七人の家来理(ことわり)を訴て命を

失ひ尽すに至らば、如何(いか)なる悪政府にても遂には

必ず其(その)理に伏(ふく)し、上野介へも刑を加へて

裁判を正(ただし)うすることある可(べ)し。≫


 訴えて出ては殺され、また別の志士が訴え出て殺されして
も、47人の武士が次々に命をかけて道理を貫けば、ときの政
府も聞き入れざるを得ないはずだ、と言っている。

 18世紀初頭の元禄時代、あの四十七士が、150年後の福澤
諭吉説に従ったとして、はたしてどうなったかは分からない。

 しかし、これだけは言えるだろう。

 福澤諭吉説は、明治初頭の『学問のすゝめ』の読者に対し
て十分に説得力があったはずだ。

 ひとびとが肌で覚えている徳川時代末の数十年。

 少なくともその時代、辛抱づよく道理を説く人々が続けば、
それが聞き入れられるはずの世の中だったということだ。


■ 経歴に傷がつくのは、まずい ■


 さて、現代中国の話である。

 全国各地の共産党の小役人どもが不当な土地収用をして私
欲を満たし、あるいは小役人がかかわる工場で酷使する労働
者に約束の給料を払わない……

 じつは北京の中央政府の官僚たちも、正直いって、困って
いるのだ。
 このまま放置していたら、革命が起きてしまうではないか。

 中央政府さまのご威光が、地方の隅々まで及ばない。
 なにせ、国が大きすぎるからね!

 そこで、中央政府へ直訴する制度をつくったら、過去5年
間に1千万件が寄せられたと、中国の官製メディアが伝えて
いる。
 と言っても、どれだけの人が実際に救われたのかは、数字
がない。

 官僚社会である。
 訴えが中央政府で受理されて経歴が傷つくのは、地方の小
役人としては、すこぶるマズいのである。

 なんとか直訴を阻止する方法はないものか。


■ 札つきホテル、ここにあり ■


 需要あるところに、商売あり。

 はかない希望を抱いて地方から上京する直訴者を拉致・監
禁して、直訴を食い止め、地方政府の北京の出先機関に引き
渡してカネをもらう、という商売が成立している。

 『ニューヨーク・タイムズ』紙の3月9日の報道に曰く、

「今月、地元警察の腐敗ぶりを告発しようと黒龍江省から上
京した48歳の Wang Shixiang さんは、拉致されて北京の 
Juyuan Hotel に2日間監禁された挙句、夜行列車に乗せら
れて自宅まで送り返されてしまった」

Seeking Justice, Chinese Land in Secret Jails
「司法救済を求め、闇の監禁所に行き着く中国人」
http://www.nytimes.com/2009/03/09/world/asia/09jails.html

 Juyuan Hotel って、漢字でどう書くんだ?

 マイナーな宿泊所だ。
 ネット検索で30分格闘して、
北京市豊台区馬家堡にある「菊園賓館」であることがわかっ
た。

 驚いたことに「札つき」のホテルなのだ。

 昨年4月10日の「大紀元」の報道に曰く、
河南省から来た数十名の直訴者たちが菊園賓館に監禁されて
いた、と。
http://www.epochtimes.com/b5/8/4/10/n2076417.htm


■ ホテルが拉致監禁業を廃さぬ理由 ■


 常識が通じる社会なら、百歩譲って拉致事件が続くとして
も、菊園ホテルの監禁所は廃業になるはずだ。

 ところが、常識が通じない中国では、拉致監禁の場所とし
て1年前にネットで告発されたホテルが、いまだに監禁業に
精を出す。

 そうとう広範囲にカネがバラ撒かれているのだろうなぁ…
…と、これはバカでも推測できる。

 警察側も、事前にホテルへ通告をしたうえで、捜査の真似
くらいはしているか。

 何としても拉致・監禁の事実をもみ潰さなければならない
人たちが、ごまんといるのだろうな。

*

 3月9日のニューヨーク・タイムズ報道の後半に紹介され
ている事例は、四川省から上京した51歳の農婦 Sun Lixiu 
さん。

 拉致されることなく国務院の事務局(日本でいう内閣府)
の告発受理窓口にたどり着いたのだが……


■ 相場は3万円 ■


 Sun さんの直訴事由は、こうである。

 市役所の職員の横領を告発した夫が、昨年7月以来、地元
の警察に拘留されたままになっている。
 なんとか、釈放してほしい。

 ……国務院の窓口の係官は、Sun さんに身分証明書提示を
求めた。

 そして …… 係官は Sun さんを拉致監禁担当に引き渡し
てしまったのである。

 「もう、誰も信じられない」
と、外紙の取材に答える Sun さんであった。

*

 さて、拉致を阻止するための費用は、いかほどか。

 ニューヨーク・タイムズが紹介している湖南省の例では、
直訴阻止に湖南省の警察が関わっていて、阻止1件の予算額
が 300 ドル(=3万円)だそうである。

 一方、拉致監禁を実行するために北京の警察を買収する相
場は、つりあがって 140 ドルなのだ、と。

 関係者の多さを考えれば、国務院の窓口の係員がもらう賄
賂など、1件あたり数千円だろう。

 千円札が数枚で、人間のもっとも深い思いが無残にも実現
を阻まれ、不正が世に満ちる。

 思えば思うほど、やるせないのである。


■ 四十七士の思いは 141万円? ■


 さて、四十七士が福澤諭吉説に従ったとして、これを吉良
上野介(きら こうずけのすけ)が阻止するのに、現代中国
流にいえば3万円×47=141万円あれば良いことになる。

 『学問のすゝめ』は、明治初頭のベストセラーであった。

 熟読すればするほど、この一著作が近代日本を支える国民
を創ったにちがいないという思いを深くするのであるが、

現代中国のこの頽廃ぶりを前に『学問のすゝめ』は限りなく
無力に思える。

 「もう、誰も信じられない」
と農婦が声をふりしぼる社会を変えるには、多少の混乱があ
っても民主選挙制度を導入するしかない。

 このメールマガジンをモニターしている中国大使館の皆さ
ん、ぜひ北京政府に声を大にして伝えてほしい。


===


▲ 後記 ▼


  さいきんのコラム子のブログ記事から ――

(全文を読むにはリンクを開いてください)


町や村ごとに電圧や周波数が違った、明治・大正のイギリス
http://plaza.rakuten.co.jp/yizumi/diary/200903070000/

 近代産業の最先端国のはずのイギリスでは、第1次世界大
戦のころまで、町や村によって電気の周波数も電圧もまちま
ちだった、という驚くべき 「状況」 を知った。



丸の内がチョー不便な場所だったワケ 
http://plaza.rakuten.co.jp/yizumi/diary/200903080000/

 東京・丸の内の明治時代の交通事情を調べてみました。


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<泉 幸男 著>


   『中国人に会う前に読もう  第一線商社マンの目』 

『日本の本領(そこぢから)  国際派商社マンの辛口メモ』

               通 信 販 売 も 受 付 中
         http://homepage2.nifty.com/sai/mart/


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