「今そこにある未来」(未来工学研究所メールマガジン)2008.7.23号
未来工学研究所メールマガジン Hints for the New Century
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今そこにある未来 Clear and Present Future
■ 2008年7月23日(88号) ■
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――――――――――― も・く・じ ――――――――――――――――
◇ 「断食」と「油断」のダブルパンチ
◇ “汗をかく”人材の養成に向けて(インド訪問記)
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◇
◆ 「断食」と「油断」のダブルパンチ
◇
21世紀社会システム研究センター長 和田 雄志(わだ ゆうじ)
◆揺らぐ日本人の食卓
7月15日、日本の漁船20万隻が一斉休漁した。燃油高騰が原因である。わずか
1日の休漁であったこともあり、鮮魚入荷量の減少や魚価への影響は比較的少なか
った。かつては水産王国を誇った日本だが、ここ20年の間に、わが国の漁業生産
量は半分以下に落ち込み、漁業従事者も44万人から21万人へと半減している。
海外からの水産物輸入が増加する中、魚の自給率は6割にまで落ち込んでしまった。
漁業者の高齢化も深刻である。そこに、国際的な燃油価格の高騰が直撃した。遠洋
マグロ漁船1隻は年間1100キロリットルのA重油を消費するが、経費に占める
燃料代の比率は4割を越える(朝日新聞2008年7月2日)。今や、石油なしで、
日本の漁業は考えられない。
一方、日本の農業も、機械化やハウス栽培、肥料、家畜飼料などの様々の局面にお
いて、石油依存と海外依存がますます加速されつつある。日本の食糧自給率はカロ
リーベースで39%だが、飼料用穀物の自給率はわずか10%。これまでアメリカ
産の安い輸入飼料(トウモロコシなど)に依存してきた家畜・養鶏業者の一部は廃
業を余儀なくされている。
原油価格の高騰、食料のバイオ燃料転換、世界的な食糧争奪競争の影響が、
日本人の食卓と農林水産業に確実に暗い影を投げかけている。
◆再び、油断!の時代
1970年代の石油ショックにおいては、堺屋太一氏の「油断!」という小説がベ
ストセラーとなった。トイレットペーパー買付騒動など、まだ記憶に残っている。
その後も石油は枯渇することなく増産されてきたが、近年、国際投機マネーの動き
をうけて原油価格は急上昇し、このたびのガソリン大幅値上げに直結している。7
月の洞爺湖サミットでは、地球温暖化に加えて、食と石油の問題が議論されたが、
残念ながら、さして大きな成果は出なかった。
石油の需要が供給を上回る「ピークオイル」の到来はそう遠くないと思わる。70
年代の2度の石油ショックと様相が異なるのは、投機マネーや国際政治の軋轢から
生まれたエネルギー危機に、国際的食糧危機が加わった状態、すなわち「油・断」
と「断・食」という2つの危機の複合化である。
◆何が出来るのか?
このようなグローバルな危機的状況の中にあって、消費者・生活者に何ができるの
だろうか?
日本の食卓から、四季折々の「旬」の食べ物感覚が薄れてから久しい。ハウス栽培
や冷凍保存技術・輸送システムのおかげで、1年中、好きなものが食べられる。そ
の背景には、石油依存の日本の食がある。好きな時に、世界中のおいしいものを食
べたいという現在の日本人の食のスタイルは、いやおうなく見直しを迫られている。
例えば、日本の学校給食。戦後の食糧難の時代に、アメリカの援助でパン食や脱脂
粉乳が導入された。当時の日本はアメリカの余剰農産物の最大輸入国であった。し
かし、穀物価格が高騰し、自国の食糧供給が最優先される時代に、学校給食もアメ
リカ依存のパン食から、米や地域の野菜・魚を中心とした給食の和食シフトをめざ
すべきであろう。
食べ残しの食料廃棄もかなりの量になる(一説では日本は食料の3割を廃棄)。コン
ビニ弁当、宴会やパーティ料理、家庭の食べ残し、など「もったいない」をはるか
に通り越した量が廃棄されている。消費期限や賞味期限の偽装は問題だが、毎日、
惜しげもなく捨てられる食料の量をいかにすれば減らせるか、食品販売・流通業界
と消費者が知恵をだしあう時である。
◆新技術の可能性
1970年代、世界規模で公害問題が深刻化した時代、日本は世界に先駆け、公害
防止技術の開発に取り組み、現在は環境創造産業とし世界各国に技術輸出するまで
に至っている。今回のエネルギー危機と食料危機のダブルパンチの時代にあって、
日本の技術力を発揮する時代にきている。
食料と競合しないバイオ燃料の開発(稲わら、竹などの活用)、省エネ型漁船の開発、
さらには、高齢化する一次産業従事者の仕事をサポートするパワーアシスト技術や
ロボット技術、乾燥や病害虫に強い日本発の品種開発(遺伝子組換え技術を含む)
など、新たな技術開発の分野は多岐にわたる。その際、安全性確保や広範な国民理
解が大前提となる。未来世代を見据えたリアルな食料・エネルギー戦略がいまこそ
求められている。
◇
◆ “汗をかく”人材の養成に向けて(インド訪問記)
◇
研究員 大竹 裕之(おおたけ ひろゆき)
昨年、社会経済の発展の著しいインドの高等教育システムを調べにデリーと
ムンバイを訪れた。今回はそのインド訪問記をお伝えしたいと思う。
◆国際的な注目を浴びるインドとは
インドに到着して驚いたのが、車・車・車であり、小型車中心ながら、モータリ
ゼーションが急速に普及している。実際、デリーやムンバイ等の大都市では、各
所で渋滞に遭遇した。街中を歩くと、最も多く目にするのが、乗用車トップシェ
アを誇るマルチ・スズキ、タタ(印大手財閥傘下)の車である。今年1月、タタは
10万ルピー(約30万円)の小型車を発表し、3月には英国・ローバーの買収に
動くなど、インドの国民所得層に応じた製品を投入できるよう、トップのマル
チ・スズキにプレシャーをかけている。
そして、もう一つ驚いたのは、一般道路に屯する牛である。ヒンズー教では、牛
は神聖なる動物とされ、インドのマクドナルドには、日本で言うハンバーガー(ビ
ーフ)はなく、代わってマハラジャバーガーと呼ばれるチキンバーガーがある。
日常生活において、ヒンズー教の関わりが深い。
◆インド人は“汗をかかない”のが好き?
今回の訪問では、色々な方々からインドの実情や課題を伺ったが、一つ印象的な
話として、インド人のメンタリティーについての話を紹介しよう。
インドでは社会の隅々にカースト制度が深く浸透している。例えば、デリー市内
のレストランのお手洗いには、人の手を拭くことを職業としている人がいる。現
在も職業や結婚等、生まれた階級による縛りがあり、この種の社会制度上の影響
が国民の約40%を占める貧困層を生み出しているともいえる。近年、インドにお
いて情報通信サービスが発展させたのもカーストに属さない職種であり、階層の
垣根を越えることができたとされる。
そのようなカーストにおいて、“徳”が高い仕事とは何か?それは“汗をかかな
い”、マネジメントに関するものであり、逆に、ものづくり等の“汗をかく”仕事
に対しては、“徳”はあまり高くないようである。実際に、インド工科大学(IIT)
のカリキュラムや施設を見ても、工学技術の習得等にあまり比重はおかれていな
い印象を受けた。
また近年、IIT卒業者がその後の進路として、海外大学のみならず、国内のマネ
ジメントスクール(インド経営大学院:IIM)に進学する学生が増えているという。
彼らはインフォシス会長のムルティー氏やボーダフォンCEOのサリーン氏のような
優れたマネジャーになることを目指している。
この話を聞いた後、デリーからアグラに向かう農村部を車で走った際に、
“Institute of ○○○○ and management”と称した研究機関を多く目にした。
この国におけるマネジメントに対する位置づけが垣間見えた。
◆これから…
近年、インドでは、“徳”が高い仕事として“汗をかく”ものづくり人材を育て
ようとの機運が高まっている。その一つが新設IITにおける、ものづくり人材の
養成計画である。また、日系自動車メーカーは、工業系専門学校に焦点を当て人
材育成を行いはじめた。
ただ、ものづくり人材がクローズアップされる中で、単に人材養成プログラムだ
けなく、ものづくりに関わる文化的な側面をいかに伝えられるかが重要となろう。
今後、国ごとに得手不得手を活かした連携も考えられるのではないかと…朝昼晩
とカレーを食しながら考えさせられた。
◇◆
■◇ 編集後記
□■
7月12日(土)の午後、都内でダウンバーストとみられる暴風雨が発生し、クレ
ーンや木がなぎ倒されました。皆様もご記憶かと思います。
私は、自宅でこのダウンバーストに遭遇しました。暴風雨の襲来とともに視界が急
激に悪化し、建物の9階というのに、雲の中にいるような状況に陥りました。時間
にして10分程度、木の枝や子供用のビニールプールなどが宙を飛び交い、昨今の
気象変化の激しさを実感じました。
また、気温36度、37度という連日の猛暑の便りにも、地球温暖化の進展が感じら
れます。このような中、大規模な自然災害が起らないよう、願うばかりです。
読者の皆様も、くれぐれもご自愛下さい。
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▼ 『今そこにある未来』 2008年7月23日号(第88号)
▼ 発行:(財)未来工学研究所/IFTECH
ホームページ:http://www.iftech.or.jp
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