2003/05/17
Flash*Memory[007]われに五月を
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Memory
今野裕一
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[no.007/5/17/2003]
われに五月を
京大西部講堂でのペヨトル・ファイナルから一年。また五月が巡ってきた。
『夜想』復刊を決めてからさすがに身の周りがあわただしく、久しぶりの
作家訪問が続いている。阿佐谷の駅から地図を頼りに、今度雑誌に登場し
てもらう作家のトレバーのアトリエに向かうと、ふっと河北総合病院の前
に出てきた。忘れていたわけではないが、その日は五月四日、寺山修司の
命日だった。二十年前の今日、寺山修司は河北総合病院で死去しているのだ。
思わず手を合わせた。
二十年はあっという間のことだ。寺山修司が死去して、天井桟敷の若松武と
劇団を組んだりしたことを思い出せば、二十年の間に演劇状況も、ペヨトル
工房も、そして私自身もずいぶん変わり、それは間違いなく長い年月なの
だが、寺山修司がふっと地上から消えたその印象が余りに鮮明で、記憶の
始点がどうもそのあたりに引っ張られ、時間の感覚が狂っている。
ペヨトルの終結宣言をしてから、過去ばかり見ていると、最近、指摘され
てぎょっとしたが、この十年、確かに後ろを見る機会が多かったかもしれ
ない。『夜想』は、寺山修司、土方巽、中井英夫、松田修、由良君良、澁
澤龍彦などの先人たちに憧れて作ってきたところがあるので、鬼籍に入る
人が多くなると必然、雑誌も組みにくくなる。おのずと後ろを振り向くよ
うになる。
『夜想』を創刊した1978年、幻想的なものはひろく行き渡っていなかった
ので、やることは単純だった。マンディアルグも全訳はされていなかったし、
夢野久作もベルメールもローカルな存在だった。今や喫茶店に複製が飾られ
るクリムトも知名度はかなり低くかった。だからそれを特集していくだけ
でよかったのだ。しかし十年、十五年たって、幻想的なものはかなり定着し
て当り前のものになった。
しかしその中でまたマンディアルグはまた知られざる存在に戻りつつある。
ベルメールはポピュラーになった。幻想の地政分布は思っていたものと少
し異なるものになっている。寺山修司の受けとめられ方もぼくが実際に天
井桟敷と過ごし、演劇を通じてできあがったイメージとだいぶ違うものだ。
当然のことだろう。没後20年、寺山修司の演劇をDNAとして継ぐ演劇もない
し、また検証もされてこなかった。先が見えないし、現在も複層化して分
かりにくくなっている。
ほんの二十年のことがきちんとした歴史になっていかないこの不可思議。
ほんとうに泡沫のようだ。時系列を並べて記憶するテープがすたれて、過
去も現在も並列にマッピングされる記録メディアが主流になった。それも
しかたのないことだ。20年前も今も並列に記録されている。DJはそれを
ミックスして現在の彩りを作り出す。もとのまま、素材のままで提示され
なくなってきているのだ。
彩りは何度でも組み換えられるし、その度ごとの個的な感覚で作られる。
今、この時代に『夜想』を復刊するということは、その影響を受けずには
いられない。まったく新しい『夜想』を作るということになる。近々でも
『MRハイファッション』(文化出版局)が休止になる。凄く良い雑誌だった
のに。『幻想文学』(幻想文学界出版局)もついに休刊らしい。状況はき
つきつだ。雑誌の成立はなかなか難しいだろう。復刊は暴挙なのだろう。
『夜想』復刊といっても会社組織、編集部組織をもって復刊することは不
可能だ。あくまでも個人の作業としてやることになる。個のネットワーク
の集積でどうにかやっていくことに賭けるほかない。直売とインターネット
販売が流通のすべてだ。戦略はない。この時代戦略を組んで成功するなら
こんなに雑誌が消えていくことはないだろう。ペヨトル解散の時にたくさん
の人がペヨトルの本を救ってくれた。復刊する『夜想』も多くの人の助け
が欲しい。
ヘルプは、直の店舗を紹介してくれることでも、どこかの紙面で宣伝して
くれることでも、お店の片隅で売っていただけることでも構わない。個の
集積から再び雑誌を組み上げていきたい。それで可能なのかどうか分から
ないが、やってみようと思っている。復刊の『夜想』は在庫場所がないこ
ともあって限定三千部で「ゴシック」の特集をする。復刊記念に金子國義
さんのトレーディングカードをこれまた限定千部で発行する予定。
われに五月を、と言った寺山修司は、その五月四日に逝去した。父親もまた
五月に死んだ。五月は私にとって死の匂いに充ちている。しかし五月の死は
いつまでも記憶のなかで古くならない、生きている死なのだ。『夜想』は
ある意味で屍体を扱う雑誌であった。しかしそれは生きた屍体でありたい
と思い続けていた。われに五月を。『夜想』は五月に再び走り出した。
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