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2008/03/21

[書評]のメルマガ vol.354

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■■ [書評]のメルマガ                2008.3.20.発行 
■■                              vol.354
■■  mailmagazine of book reviews    [徒手空拳に振るルビ 号] 
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■コンテンツ
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★「三ツ星☆☆☆・人情馬鹿の店」/大友 慶
→焼き鳥とうなぎの美味しい店を語ります。

★「本の周りで右顧左眄(うこさべん)」/蕃茄山人
→今回は、衝撃のエッセイ漫画を紹介します。

★「ベストセラーに背を向ける」/朝日山
→文化大革命が中国に残した傷跡とは……

★「ハタナカリエコの本日和」/畠中理恵子
→今回はお休みでーす。

★「どこでも読書」/オオウラウタコ
→今回はお休みでーす。

★「こんな本をセンデンしたい」/小林圭司
→今回はお休みでーす

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■「三ツ星☆☆☆・人情馬鹿の店」/大友 慶
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東京で地道に商いをする飲食店を毎回1店舗ずつ紹介――
「三ツ星☆☆☆・人情馬鹿の店」(2)
大友 慶

とり久(とりひさ)――鳥屋(西新宿五丁目)
 「鰻も食べられる鳥屋がある」とさる人に聞いて、それは鳥好き、鰻好き
の身にとってはありがたいと会社帰りに寄ってみたのが数年前。それから何
度か通っている。
 都営大江戸線の「西新宿五丁目」で降りれば、歩いて5分とかからない。
新宿東口から車を利用しても5分程度だろう。方南通り沿いに向いた店舗の
正面口は、営業中にしては少し飾り気がなさすぎるくらいで、「やきとり 
うなぎ とり久」と書かれた看板の文字が薄い電光に浮かぶだけである。決
して入りやすい店とは言えない。
 引き戸を開けて足を踏み入れてみると、いきなり数段の石段があり、やや
意表を突かれる。降り切るとようやくカウンター、座敷、テーブル席が目に
入り、飲食店らしい雰囲気になる。座敷は最大で10人程度は座れようか、
テーブルも大小5脚ほど、厨房と背中合わせのカウンターに8席と、なかな
かの広さである。棚の上にボトルがずらりと並ぶ様子から、この店を愛する
常連客がかなりいるらしいことが分かる。
 メニューを見る。鳥刺、串焼、唐揚といった鳥料理が充実している一方、
焼鳥に混じって「くりから焼き」の文字がある。これは鰻を細くさばいて、
アコーディオン状に串に刺して焼いたものらしい。脂がほどよく落ち、皮は
パリッとしていてなんとも香ばしい。
 また季節ごとの食材をつかったつまみにもこと欠かない。春先に行ったと
きには、店内に、筍の煮物、蒸しハマグリ、菜の花のヌタといった品書が貼
り出されていた。こと鳥刺を味わってみれば、その鮮度は目にも舌にも確か
だが、野菜や魚に関してもぬかりはない。夏場に出される枝豆ひとつにして
みてもそれが窺われる。
 こうした店を営んでいるのはいったいどんな人々なのだろうと自ずと興味
が湧く。ご主人も女将も還暦はとうに過ぎておられよう、老夫婦といってよ
い歳である。一見するところ、こう言ってよければ、両人とも身綺麗な印象
はない。ご主人の方は眼鏡が脂で光っている感じ、女将も白髪の髪はほつれ
たまま、歯も抜けたままという印象。きっと身なりにはほとほと頓着がない
のだろう。しかし飲食店をやっている以上、それなりの清潔さを求めてしま
うのが客というもので、その印象が無意識のうちに料理の良し悪しに映って
しまうことが多いのは、自らの経験に基づくものなのだが、この店に限って、
この老夫婦のそうした構わなさと、料理に対する心配りの細やかさは別もの
である、と断言したい。
 女将は一見そっけないようだが、話してみると実は気さくな人で、こちら
の反応にも案外しっかりとアンテナをたてている。メニューを見てとまどっ
ていれば、やんわりとお薦めの品を伝えてくるし、時間のかかる鰻重のタイ
ミングも割と正確に測っている。必要以上に構ってくることはしないが、客
のリクエストについては細大漏らさずという感じが熟練のなせる業である。
満席だと30名程は入れようキャパシティに対し、働き手は老夫婦とアルバイ
トが一人だけの忙しさから、主人は厨房に入ったきりほとんど出てこないが、
時たま一服しにカウンターへ顔を出せば、コップに酒を注いだり、煙草に火
をつけたりしてニコニコと店内を見渡している。
 何度か足を運んだうち、アルバイトはいつも決まって韓国人学生とおぼし
き同一の人物だった。日本に来てまだ日が浅いのか、たどたどしい日本語に、
こちらの注文もちゃんと聞き取れているのだろうかと不安になる場面もあっ
た。そうしたときにすかさず、女将が横から「ごめんなさいねぇ、この子、
日本の子じゃないから」と割り込んでくるのはいいが、「あんた、ダメだ
よ」と客の前で叱りつけたり、もたもたしているところへ「ほら、小皿を早
く出して!」ときつめの口調で促すのが、こちらとしてはなんとも気の毒で、
「いやいや、大丈夫ですよ」などとつい口を挟んでしまうのだが、ある晩、
11時を過ぎた頃だろうか、店の一番小さなテーブルで、皿いっぱいに盛られ
たおかずを、山盛のご飯とともに幸せそうにかっこむ彼の姿を見た時は、実
は彼のことを大切にしている女将の温かみが伝わり、ほっとしたものだった。
このところ足が遠のいているが、この店を紹介してくれた知人から、最近で
もやはりその彼が女将に小突かれながらも働いているらしいことを聞くと、
彼らの間にだけ許されている厳しさと甘えがあることを感じた。
 気の利いたつまみを充てに酒を飲んだ後は、当店自慢の鰻重といきたい。
おにぎりが3つも入ればいっぱいになりそうな横長の重箱に一段重ねの白飯
とうなぎが、ちょっとご飯を食べたかっただけという腹にはちょうど良い。
肝吸もついて千円程度で食べられるのだから、懐も喜ぶというものだ。
 店の後継者がいるようにはとても思えないのだが、この夫婦の気丈さから
して、もう数年はがんばってくれるように思う。今年の春もまだあの学生は
働いているだろうか。それとも卒業して、故郷に帰っただろうか。

(大友慶 出版関係社員)
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■本の周りで右顧左眄(うこさべん)   蕃茄山人
(41)印度で『血だるま剣法』を売って火だるまになった漢(おとこ)
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山松ゆうきち著『インドへ馬鹿がやって来た』(日本文芸社・本体1,500円)

山松ゆうきちという漫画家がいる。メジャーかマイナーかで区別したら間違
いなくマイナーの部類に入るだろう。でも競輪漫画や、番長やクソハバァを
主人公にした漫画で独自の世界を繰り広げており、根強いファンが多い。か
くいう僕もその1人である。

その山松ゆうきちが突然、思い立つのである。

「漫画後発国のインドに日本の漫画を持っていけば大儲けできる!!」

そんな山松ゆうきちの、渡印からビザが切れるまでの半年間の奮闘を、自ら
描いたエッセイ漫画がこの本である。もし僕だったら(絶対そんなことしな
いけど)、しかるべきエージェントを立てたりプロダクションと組んだりす
る。ところが山松はそれを一人でやった。翻訳者探しから始まって、オペ
レーター、印刷・製本所まですべて現地で探した。もちろん販路もなく(書
店営業は早々に玉砕した)、自ら自由市場でシートを広げて売った。

そしてその漫画作品も大友克洋や松本大洋を持っていこうというのではない。
平田弘史の『血だるま剣法』である。被差別部落に生まれた主人公が苦闘の
末、最後は四肢を切断されたうえに串刺しになって果てるという、まぁなん
というかエグいお話である。

もともとインドに興味があったというわけではない。ただ外国に日本の漫画
を翻訳、紹介すれば一儲けできるだろうと目論んだだけ。別にお隣のパキス
タンでもよかった。ただパキスタンは出版規制があって面倒、というだけ。
ヒンディ語ができるわけでもない、英語ができるわけでもない。滞在はオー
ルドデリーの下町に下宿。もちろん冒険盛りの健康な若者ではない。56歳。
数年前に癌でS字結腸を切除している。さらに糖尿持ちである。

えっ? そのビジネスが上手くいったかって? それは読んでのお楽しみ、と
言いたいところだけど、皆様のご想像の通りである。そればかりでない。漫
画で開けた穴をふさごうと新たなビジネスも手がけている。曰く、インドの
セロテープにはカット金具(ブリキのギザギザのやつ)がない。使いにくい。
そこで鉄工所にオーダーしてカット金具つきのセロテープを売り出すのだ
(3,000個!)。えっ? そのビジネスが上手くいったかって? それは読ん
でのお楽しみ、と言いたいところだけど…。この他にも、大量の安物の腕輪
を加工して手品道具にして売ったり、絵画教室を開いたり…。

とこのように実にエネルギッシュな活動ぶりなのだが、その語り口は決して
熱くない。クール。冷静だ。冷静なだけにこの本には鬼気迫るものがある。
静かな中に強烈なリアリティがある。デリーの街の空気や牛の糞の匂いまで
も伝わってくるよう。それにしても、熱にうかされたわけでもなくこのよう
な「愚挙」、もとい、「義挙」に出るとは。いったいどういう人なのか?

途中、挟まれるエッセイページも面白い。著者自身によるちょっとトボケた
エッセイも漫画と同じテイストで絶品だが、このプロジェクトに関わった
(関わらされた?)人々のエッセイがまた面白い。現地で翻訳を手伝った日
本人留学生の困惑気味のエッセイも面白いし、片言の日本語を操る下宿屋の
親父・ナレンダーさんによるカタコトの日本語エッセイも面白い。たとえば
以下のごとし。

「はじめてきたときのゆきちせんせい。このおじさんわたしがはたらいてる
ホテルにきた。わたしはいろなにほんじんにあたけど、このおじさんはじぇ
んじぇんちがうにほんじんだた。わたしのホテルにとまったから、まいにち
まいにちいろいろはなした。
 このおじさんわたしにきいたのはヒンヂごのまんがかきたいですけど、イ
ンドではどうなてるの。わたしはこのおじさんに、わたしヘルプするてゆ
た…」

意味不明と言えば意味不明だが、山松に対する愛情と尊敬に満ちていて微笑
ましい。ちょっと泣けてくる。でもこの本を読んでいると、ナレンダーさん
の気持ちがわかってくる。なにかこの初老の人は、まるで子どものような無
邪気さと、まるで子どものようなむき出しの邪気を兼ね備えた、つい関わり
あいになってしまう危険な魅力の人なのだ。

そして本書の終盤。「話のタネに」と突然、売春街に赴き一戦交えたりもす
る。ストーリーの流れとはまったく関係なく。なぜそんなことまで晒すんで
すか!?

僕は、「徒手空拳」と書いて「やままつゆうきち」とルビをふりたい。


蕃茄山人=都内出版関係某社勤務。本の周辺およびダイエット話で大評判の
サイト『蕃茄庵』を運営。http://diary5.cgiboy.com/1/tomatomaster/
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■「ベストセラーに背を向ける」/朝日山
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笑える、深刻な問題 
「通訳捜査官」坂東忠信 経済界  

知人が仕事で中国に行っていた時のことである。一応客扱いなので、中国側
はクルマで迎えにきてくれて、目的地に向かった。そして地平線が見える他
は、なにも見えない交差点にさしかかろうとしていた。  

クルマが急にスピードを上げた。何かと思えば、同じように交差点に入ろう
とする別のクルマと、どっちが速く通過するのか競争している。おい、この
ままじゃ交差点でぶつかるぞ!……なんて恐怖の体験をしたそうである。  

ま、この人は生きて帰ってこれたから、こういう話を聞けたわけだが、日本
人の価値観で中国人を考えると、痛い目に遭うという話はあちこちで聞く。
なもんでこの本のサブタイトル「中国人犯罪者との闘い2920日」にひかれて
読んだ。  

通訳捜査官というのは、警察の外国語に通じた刑事のことで、著者の場合は
中国語が専門。もちろん中国語で取り調べができる刑事は少ないので、中国
人の関わる犯罪が起こるとすぐに呼び出される。  

で、その中国人犯罪者へのガサ入れや取り調べなど実体験が書かれているの
だが、抱腹絶倒の面白さである。著者が捜査官になったきっかけからしてこ
んな感じ。  

中国人の自転車泥棒を捕まえた。すると「中国、社会主義の国ね。自転車み
んな、人民のもの。だれが乗る〜、誰でもよいよ。どこかに止める〜、また
違うの人民、乗る。これ、当たり前。日本、違うの?」  

警官になりたての坂東氏、こいつはそんな国から来たので悪気はないのだと
無罪放免にしようとしていたら、通りがかった別の中国人曰く  

「お巡りさん、こんなのに騙されてどうするの?彼、泥棒だよ。中国、社会
主義だよ。自転車泥棒、死刑のときあるよ!こいつ、中国の顔、汚すのヤツ。
逮捕して下さい」  

まんまと騙されたのが悔しくて、独学で中国語を勉強し「今度は騙し返して
やる」気になったことで、坂東氏は通訳捜査官への道が開かれたのだが、上
記のエピソードは序の口で、中国人犯罪者の言い訳には驚きを通り越して、
笑いが漏れてしまう。ついでにガサ入れ時の警察の混乱も笑える。  

なわけで、馳星周のベストセラー「不夜城」などで描かれる中国人犯罪につ
いてのイメージが相当に覆される。とはいえ、犯罪の実態そのものは笑える
ものばかりではないし、やってる方は、それこそ命がけのことも多い……で
も不謹慎ながら、笑う。  

また、そうした面白おかしい内容ばかりではなく、中国人の気質や、犯罪者
の出身地による違い、有名な蛇頭の実態などもわかりやすく書かれているた
め、犯罪の視点から見た中国社会論、文化論としても興味深いものがある。

特に興味が引かれたのは、文化大革命についてのくだりだ。坂東氏は言う。
「あの時代の密告制度のおかげで、人間関係はめちゃくちゃになり、お互い
がお互いの監視者となって、怯えて暮らすようになった」  

で、文化大革命で何千万人か分からない人が殺されたことを提示した後  

「そんな激しい青春時代の生き延びたのが、現在生きている中国の中年から
壮年世代だ。彼らは今、親となり、子供達に『ウソも方便』を背中に示して
教育しているのである」  

中国人達は「ウソも方便」で育ってきた。わかった。その通りなんだろう。
では、そうした人たちをどうやって「味方」にしていけばいいのか?そうし
た視点でも著者の意見が聞きたかったと思うのは、治安よりもビジネスに関
心のある人間のわがままのような気もするのだけど、そんなことも思う。  

もちろん期待しているような意見は、靖国問題で中国側の言うことを聞くと
か、中国の人権問題について批判するといったものではない。もっと戦略的
な、たとえば佐藤優が言いそうなことを、この著者も言えるのではないか?
そう思うのである。  

ただ、今、それを坂東氏に求めるのは酷だろう。現場との距離が近すぎて、
冷静に中国人を見ることが難しいように見える。  

坂東氏は、体を悪くして警察官を辞し、現在は司法通訳や防犯セミナーの講
師をやりつつ、絵本作家になろうとされているようだ。そんな方だから、今
は無理かも知れないが、十年もしたら現場のことを熟知していながら、もう
少し距離を置いて中国人をみられるようになられるような気がする。  

その意味で、十年後が楽しみな方である……いや、その前に異色の経歴を持
つ絵本作家のデビュー作がある!

(朝日山 烏書房付属小判鮫 好きなジャンル 何だろ? 最新刊『〈イラ
スト図解〉コメのすべて 生産、流通から最新技術まで』(日本実業出版社 
1500円税抜き)発売中。他に『最強!戦略書徹底ガイド』(ソフトバンク
1,600円税抜き)『農業に転職する』(プレジデント社 1,500円)『イラス
ト図解 農業のしくみ』(日本実業出版 1,500円)も好評発売中です)
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■あとがき
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>最近、人生二度目のモテ期に入った気がするんです
>はあはあ
>一度目は、幼稚園のときで、結婚してほしいという女の子二人に追いかけ
られて大変だったんですが、今回も凄いんです。
>なんか、ウソ臭いなー
>ほんとですって、子供の保育園の送り迎えに行くと、二歳の女の子が抱き
ついてきて、そのあとロボコンパンチをくらわせてくるし、別の女の子は頭
突きやアックスボンバーを親の前でも構わずしかけてくるし、もうモテモテ
なんです(笑)
>なんかそれ、本能的に邪悪なものを感じて、攻撃してるんじゃないんです
か(笑)
>いいや、違います、あれは愛情の裏返しなんです、うう、そう信じたいん
です、シクシク(笑)
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■ 発行部数 5350部
■ 発行:[書評]のメルマガ発行委員会 
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