2009/05/31
[ほぼ日刊日々是映画] vol.2548 ★ 魚影の群れ
================================================2009/5/31== -vol.2548-- ほぼ日刊 日々是映画 発行:cinema-today http://www.cinema-today.net/ =======c===i===n===e===m===a===-===t===o===d===a===y======= 2548号です。 HPをリニューアルして1ヶ月ほどたちましたが、アクセスラン キングというのを新たに作りました。 そこで今トップなのが『魚影の群れ』です。 緒方拳さんがなくなられたということでアクセスが増えているの ではないかと思いますが、“マグロ漁師”というのもなかなか惹 きつけるところがあるのかもしれません。 今日はその『魚影の群れ』をどうぞ。 手抜きではなく追悼です! ドラマ「風のガーデン」のDVDも発売されました↓ http://tinyurl.com/nqgruq お得なマグロお試しセットならコチラ↓ http://tinyurl.com/mt4py3 ワンクリック投票実施中! ほぼ日刊日々是映画 ブログ版 http://www.eigablog.com/ 携帯の方もコチラにどうぞ。 http://www.eigablog.com/ -------- 目次 -------- ■ 今日の映画 魚影の群れ □ ワンクリック投票 □ ヒビコレリンク □ DVD今日の買い! ------------------------ ■ 今日の映画 − 魚影の群れ <1行コメント> マグロと闘う男達を相米慎二のカメラが生々しく捉える --cinema1650------------ 魚影の群れ 1983年,日本,135分 ----------------------- <キャスト&クルー> 監督 相米慎二 原作 吉村昭 脚本 田中陽造 撮影 長沼六男 音楽 三枝成章 キャスト 緒形拳 夏目雅子 佐藤浩市 十朱幸代 矢崎滋 三遊亭円楽 <評価> ☆☆☆(満点=5) <プレビュー> 青森県の大間でマグロ漁師をする小浜房次郎の娘のトキ子は近く の町で喫茶店をしている依田俊一と恋に落ち、俊一はトキ子と結婚 するためマグロ漁師になることを決意する。トキ子は房次郎にその ことを告げるが、頑固な房次郎はそれを拒否し、勝手に俊一の喫茶 店に出かけて行って俊一にそのことを伝える。しかし、俊一はあき らめず大間にアパートを借り、毎朝房次郎の船・第三登喜丸の前で 待つのだった… 吉村昭の同名小説の映画化。荒々しい海の男の生活の生々しさが 伝わってくるような肉感的なフィルム。 <レビュー> 相米慎二といえば長回しの1シーン1カットという印象がついて 回る。確かにこの作品も長い1カットのシーンがかなり出てくる。 しかし、原作モノの文芸作品であるせいもあってか85年の『雪の断 章 情熱』はもちろんのこと、同年に撮られた『ションベン・ライ ダー』と比べても、作家性が突出しているという感じはしない。長 回しのシーンがそれ自体として主張するよりは、骨太の物語に緊張 感をもたらす効果的な技法としてうまく映画の中に埋め込まれてい るという印象だ。 たとえば、房次郎が俊一の喫茶店を訪ねるシーン、このシーンは 室内という空間で展開されるので、1カットで撮られることに違和 感はないわけだが、それでも数分のシーンが1カットで展開される ことによってそこには緊張感が備わるような気がする。それは俊一 の緊張と引き伸ばされた時間感覚を観客にも味あわせようとしてい るかのようなのである。 そして、マグロを捕えようとするシーンの緊張感も1カットであ ることによって演出されている。この映画ではマグロを捕まえよう とするシーンが3回繰り返されるわけだが、そのどれもが長い1カッ トを含んでいる(と記憶している)。まず1度目のシーンでは、マ グロを引き寄せ、船につなぐまでが1カットで撮られている。そこ に至るまでは船の状況や陸の状況を短くつないでいるのだが、マグ ロを引き寄せる段になるとカメラは房次郎とマグロを横から捉える 形で長いカットになる。このカットから生み出されるのは漁師の緊 張と興奮である。1カットで捉えながらも、マグロに鈎針を打ち下 ろす瞬間をはっきりと捉える。緒形拳がこれをすべて1カットでや り遂げたという役者としてのすごさにも感動するが、まずこのマグ ロ漁師の生き様というか、真剣さに心打たれるのだ。 これに対して2度目のシーンでは、マグロとの戦いは一貫してロ ングショットで捉えられる。そして房次郎はマグロを取り逃がして しまうのだ。このカットにも1度目のシーンと同様に緊張感が漂う が、1度目と2度目とではその緊張感に何か違いがあるような気が する。それもたらすのはカメラの距離であるわけだが、それはすな わち視座の違いである。 この視座の違いはこの映画にとって非常に重要な問題であるのだ。 なぜなら、1度目の房次郎とマグロを横から捉える視座では、カメ ラの位置にいるわれわれ観客はつまり船に同上しているという視線 で房次郎の格闘を眺めることになるが、2度目のロングショットで 捉える視座では、われわれ観客は別の船に乗っているか、あるいは 海の中にいるかということになるからである。そしてこのカットに は水に潜るという瞬間がある(厳密に言えばここで微妙にカットが 切り替わっているので1カットではないのだが、映画の意図として は1カットとして作りたかったということだろう)。この瞬間が意 味するのはわれわれがマグロであるということではないだろうか。 われわれはマグロの視線で房次郎とマグロの格闘を見せられている ということになるのではないだろうか。 そして、なぜそのように思うかといえば、そのシーンの直前に房 次郎は別れた妻に「マグロと人間の区別がつかない」と愚弄されて いるからだ。マグロの視点から房次郎を眺めることで、その言葉が 事実であることをわれわれは確認してしまう。そして房次郎もそれ が事実であることを突きつけられるのだ。だから房次郎は自信を失 い、漁に出られなくなってしまう。ここで房次郎はマグロ一筋でやっ てきた自分の人生に欠けていたものに気づいてしまうのだ。 この映画は、緒形拳に本当にマグロを釣らせて撮ったものだろう。 そうでなければごまかしの効かない1カットでマグロを捉えるとこ ろを見せることはできないはずだから。そのようにしてまでリアル なマグロ釣りを撮るからには、そのマグロ釣りという行為に何らか のポジティヴな価値や意味や美を見出しているのだろうと推測する ことができるわけだが、この映画にはそのような価値判断は出てこ ない。 この映画がなぜマグロ釣りの映画なのかといえば、マグロ釣りと いう行為が生死をかけた行為であるからだ。相米慎二の作品は常に 生死をかけた行為が問題になる。一瞬にして生から死へと転がり落 ちる可能性のあるところで生きる人々、そのような人々を彼は捉え ようとする。そしてそのような人々は自分に欠けた何かを狂おしく 求めるがゆえに生死をかけて生きて行かざるを得ないのである。 そして房次郎に欠けているのは「人間」である。彼は人間を求め るが、それをマグロで埋めようとしている。そして自分ではそれに 気づいていない。しかもその空白を埋めようという欲望は決して実 現してはならない。欲望はその対象を手に入れてしまったら消失し てしまうものである。房次郎が欲望を持ち続けるには、その空白を 埋めるわけにはいかないのだ。だから、実際のところ彼はそのよう な「人間」を手に入れるわけには行かないのだ。 映画の最初ではトキ子がその空白を不完全な形で埋めている。そ してトキ子はその重荷を他に移すべく俊一が漁師になることを求め る。しかし房次郎はそのトキ子の欲望を拒否し、俊一を拒否する。 トキ子は房次郎の欲望を正しく理解していなかったのだ。俊一が怪 我をしたのは事故のように見えるが、実は房次郎の無意識的な行為 の結果とも考えられるかもしれない。 しかし前妻の言葉と、マグロを逃がしてしまったことによって彼 は気づく。そして彼は、自分の欲望を誰かに仮託することで空白を 埋めるということを考えるようになる。彼がこの映画の最後で俊一 を救ってマグロをあきらめようとしたときに考えていたのは、俊一 に自分の欲望を仮託することではなかったのか。それはつまり、自 分に代わって生死をかけてマグロを追い求める者を見出したという ことだ。それによって房次郎は自分の欲望を維持したまま空白を埋 めることができたのだ。 しかし、それゆえに、俊一が自分の命をも危険にさらしてもマグ ロをあきらめないということは予想できる当然のことである。房次 郎はその俊一の求めを拒否することはできない。そして、俊一が死 ぬことで房次郎は再び空白を抱え、マグロ漁を続けることになるわ けだが、今度はその可能性を孫に求めることになるのだ。 物語の上で、俊一が死ぬことを選択したというのは非常に過酷な ことかもしれない。俊一が死ななければ、俊一はマグロ漁師となり、 孫が生まれ、今度はトキ子が家を出る。そのような繰り返しが起き ると予想することができるのだが、俊一の死によって房次郎は孫に 自分の欲望を難くせざるを得なくなった。俊一の「子供が男の子だっ たら漁師に」という言葉にはそのような意味が含まれている。それ は誰にとっても過酷な結末だ。 □ ワンクリック投票 今日のメルマガは? 面白かった! http://clap.mag2.com/giobeclous?good2548 つまらなかった http://clap.mag2.com/giobeclous?bad2548 普通 http://clap.mag2.com/giobeclous?ave2548 □ ヒビコレリンク 『ションベン・ライダー』 http://cinema-today.net/0512/20p.html □ DVD今日の買い! <今日の作品:魚影の群れ> 『魚影の群れ』 http://tinyurl.com/mxtexj <今日のお勧め> 緒方拳さん追悼 『復讐するは我にあり』 http://tinyurl.com/mmgxbd 『楢山節考』 http://tinyurl.com/krsuvc 『野獣刑事』 http://tinyurl.com/l64vmx 『風のガーデン DVD-BOX』 http://tinyurl.com/nqgruq *購読解除や、アドレス変更の際はお手数ですが、まぐまぐまたは 下記アドレスで手続きをしてください。こちらでは対処しきれな い場合もございますので。 まぐまぐ http://www.mag2.co.jp マガジンID:0000032940 メルマガページ http://cinema-today.net/magazine.html ======================================== 日々是映画第2547号 2009年5月29日発行 発行:cinema-today マガジンID:0000032940 Mail to: webmaster@cinema-today.net ======================================== 購読解除はこちらから http://cinema-today.net/magazine.html ======================================== ▲_▲_▲_▲_▲_▲_▲_▲_▲_▲_▲_▲_▲_▲_▲_▲



