【出たっきり邦人 北米・オセアニア編】626号・ニューヨーク
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〓アメリカ・ニューヨーク発〓
【Asian and the City】
・・・44・・・
エイズの思い出
長年ニューヨークに住んでいると、ニューヨーカー達のボランティア精神に
感動する。残業手当もない長時間勤務の後、終末には休む暇もなく家族
サービスやら家のリフォームやら大変である。しかし本物のニューヨーカー
達は、いくら忙しい人でもなんらかの形でボランティア活動をしているのだ。
というわけで先週の日曜日に行われた毎年恒例のイベント、エイズ・ウォークに
僕も参加した。1986年に始まったこの募金イベントは現在全米殆どの州で
行われており、集められた募金はエイズ患者の為のプログラムや研究機関などへ
配布される。友達どうしで作られたチームもいれば、大企業がスポンサーと
なったチームもある。この10キロのウォークに参加する人は友達や会社、
または同僚にスポンサーとなってもらい募金を募る。個人で$150を集めた
人には記念のTシャツがプレゼント、他にもいろんなレベルのプレゼントが
ある。千ドル以上集めると「スター・ウォーカー」となり、VIPラウンジなど
へのアクセスが可能になる。今年初めてうちの会でもチームを立ち上げる事に
なり、過去スポンサー役だった僕も初めてウォーカー役をやってみた。
__________
今年僕たちのチームに参加したのは全員で8人。肌寒い曇り空の日曜日の朝9時
に59丁目と5番街で合流した後、僕は参加者登録の列に友達と並ぶ。「俺、
今マジ死んでんだけど。」と疲れた顔の友達に、「昨日の夜遊んでたんで
しょ〜!」と十分睡眠を取った僕は冷やかす。長い列だが、以外と動くのは早い。
あれ?列に並んでいる人はどんどん目の前にあるアップル・ストアの中へ消えて
行く。実は今年からアップル社も企業スポンサーとなり、店内で参加者登録が
行われているらしい。ガラスの階段を降りると案の定ボランティア達が「次の方
どうぞ〜」と呼んでいる。普段マックブックを展示しているテーブルには
ボランティアが一人一台づつ待機、ウォーカーの名前をデータベースから見つけ
出しては登録をする。このプロセスはいたってスムーズに運ぶ、というのも最低
30人程のボランティア達が参加者をばんばん登録しているのだ。なんか
アップル・ストアで展示してある商品を使って仕事しているというのも面白い。
僕は親切なボランティアのおじさんからバッジをもらい、またガラスの階段を
上がってチームが待っている所へ戻る。
みんながそろった後、やっとセントラルパーク内の出発地点へ歩く。周りは
もう人の渦、バス数台でやって来た郊外からの参加者や、同じ色のTシャツを
着た企業チームの人々、子供から大人まで色んな人種の人々が集まっている。
みんなのテンションは割と高く、もうお祭りムードが始まる前から高まって
いる。スタート地点の近くに設置されたステージからは有名人からの
スピーチや、ミュージシャンによる演奏などが行われ、参加者達は歓声を
上げる。その間僕たち8人はじわじわとスタート地点に近寄る。曇り空は
少しずつ晴れ間を取り戻し、たまに雲の間から出てくるお日様に当たるのも
久しぶりに気持ちいい。僕は暖かい太陽の光の中でゆっくりと背伸びをし、
生きている物全てに平等に与えられる暖かい幸福を身に染み込ませる。
セントラルパークは都会の真ん中にあるのだが、一旦入ってしまうともう
車の騒音や排気ガスのにおいはしない。空気には初夏を暗示する濃い緑の
匂いが漂っている。それは僕が忘れかけていた自然を恋しく想わせ、初恋する
ティーンエイジャーの切なさを思い出させる。
「もうちょっと体焼いた方がいいよね〜。」と白い腕をお日様に照らしながら
僕は漏らす。「じゃあ夏のイベントで泳ぎに行けばいいじゃん!」という
友達に、僕はいつもの台詞を言う。「いや、僕は自分の体型に自信ないから
さぁ、人の前で裸になるという行為はできないんだ。」友達は「なに
言ってんの?!あんたがそんな事言うんだったらあたしはどうなのよ?!」
と少し憤慨気味に言い返す。ゲイのイメージは殆ど全て体格にあるので、
最近ちょっとメタボ気味の僕は自信もなく、もう恋人との出会いも諦めている。
体を動かすのも億劫なので、地道にジムに行って体を鍛えるとかいう事も
最近まったくやっていない。だから自己嫌悪に落ちるばかりだ。
_____________
スタートラインをやっと超え、何万人という参加者と共にてくてくと
セントラルパーク内を歩き出す。 チームの中にはエイズにより亡くなった
人の大きい写真を掲げながら歩く人々も少なくなく、僕は胸を打たれる。
思い出すと、僕が初めてエイズを知ったのはボストンの大学時代だった。
僕が初めてカミングアウトをした人は、大学のすぐ裏にある教会で音楽
ディレクターの仕事をしていたハンサムな白人のおじさんだった。ミサの
バンドの一員としてまだ19歳だった僕はドラムを叩いていた。その頃
40代くらいだった彼は、バンドの練習が終わった後、教会の前にある
大きな階段で皆に秘密にビールを配る。向かいにあったダンス教室の
生徒達は、休憩中の僕たちの為におそらく習ったばかりの振り付けを
披露する。皆で拍手しながら僕たちはビールの軽い酔いに恍惚している。
僕は噂を通してディレクターさんがゲイである事を知っていた。それと
共に彼がHIV感染者であるという事も。ある日彼と二人きりになる機会が
あった時、僕は思わず彼に自分がゲイである事を告白した。その時の事を
僕はよく覚えていない。只どうしようもなく切羽詰まった自分と、教会の
事務室にある大きい蝋燭の光と、彼が僕の告白に驚かずハグをして
くれた事以外。
その頃僕はとてつもなく寂しく、孤独だった。周りには自分がゲイである
という事を理解してもらえるような友達はいなかった。友達と一緒に練習し、
遊んでいる中僕は心の中では常に一人だった。本当の自分を理解して
くれたのはそのおじさんしかいなかった。
大学三年生になった時、僕はやっと寮から出てルームメイトと共に近所の
アパートに引っ越した。ルームメイトにも打ち明ける事が出来ない程の
寂しさに打ちのめされる日々が続いていた。あまりにも耐えきれなかった
ある晩、僕は近所に住んでいたそのディレクターのアパートに口実を作って
お邪魔した。本当の理由を言えず、理論的な論争を繰り広げていた僕に、
ベッドに座っていた彼は「こっちにこいよ。」とやさしく僕を誘った。
ぎこちなく横に座った僕を彼は抱きしめてくれた。「大丈夫。心配しなくて
いいよ。」と彼はただ僕を安心されてくれた。僕はただひたすら抱きしめ
られ、そこからくる愛に身を任せた。二十歳になったばかりの子供を、
彼は大人として責任を持って抱きしめてくれた。ただそれだけだ。
僕に取ってはとてつもなく長い時間に感じられたその数分間、エイズ患者
だった彼は僕を抱き、エネルギーを授けてくれた。
___________
大学時代、僕の周りにはエイズで亡くなった友達や知り合いがいた。
その中には僕が恋を抱いた人もいた。世界で初めて僕が作曲した音楽を
数千人が犇めくダンスクラブにかけてくれたDJもそうだ。彼らはもう
この世界には存在しない。じゃあなんで僕は感染する事もなく、
まだこの世界に存在しているんだろう?
___________
曇り空の下、僕らのチームは数時間をかけてセントラルパークを抜け、
マンハッタンの西側にあるリバーサイド・ドライブをてくてく歩く。たまに
冷たい雨がばらばら降る中、僕らはお互いに文句を言い、ウォークが終わった後
どのレストランに食べに行くのかを言い争い、午後二時頃やっと10キロの
行程を終える。ゴールした後、完走した人の為に配られているアイスクリームを
鳥肌たてながら食べ、だんだん激しく降る雨の中をそこから遠くない所にある
カリフォルニア・ピザ・キッチンというレストランへとぼとぼ歩く。
やっと暖まりながら皆で遅い昼食を満喫した後、参加者の一人が僕を車で
ブルックリンまで送ってくれる。雨上がりのニューヨークの空はどんよりと
沈んだままだ。近所に着くと友達に送ってくれたお礼を言い、僕はまた
一人となる。アパートにはペラが待っている。セントラルパークの泥が付いた
ナイキのスニーカーの匂いをくんくん嗅いでいるペラは、僕が猫缶を開ける
プシュっという音とともにニャーニャー催促を始める。僕の機嫌を取るかの様に、
ペラは靴を脱ぎ捨てた僕の足をぺろぺろ舐め始める。くすぐったい僕は
「ペラ、ちょっとやめてよ〜!」とペラから逃げようとする。猫缶の中身を
ほぐして皿に盛り、キッチンの床に置くなりペラは黙々と食べ始める。僕は彼と
一緒に生きている幸せを確認し、その儚さを感じる。そしてその瞬間、もう僕は
全てがわからなくなる。なんで僕はここまで一人で生きて来て、いったいなにを
証明しようとしているんだろう?僕は僕の人生を誰の為にもなく生きて来たんだ。
涙は僕の意志に反して溢れ、足下で黙々と猫缶を食べているペラの側に落ちる。
___________
5月下旬のブルックリンの夕方、キッチンの窓の外には青々とした木々が
果てしもなく晴れた空の下でそれぞれの考えに耽っている。柔らかい夕日の中、
僕はその現実に飲み込まれたまま、自分を見失う。生き方というものには
決まった方向はない。それは一人ひとりで違う。試行錯誤しか残されていない
僕には、次の第一歩を踏む自信がない。だからと言って僕は他人に助けを
求める素直さも残されていないと想う。
アメリカにおける永住権利を得る為には、現在健康診断を通して性病の検査も
行われる。もしHIVに感染していれば、その権利は与えられない。その上
アメリカの移民局は、HIV/AIDSに感染している旅行者を入国させない。
この差別を理由に世界エイズ協議会はアメリカをボイコットし、いまだに
アメリカで会議を行っていない。
___________
最後に僕達のチームは募金の目標だった千ドルを超えました。ニュースに
よると、今年のエイズ・ウォークの参加者は四万五千人、募金の合計は
7百万ドル(7億円以上)でした!イェ〜イ!=)
メール待ってます!
Hugs!
期間限定!
http://users.rcn.com/babyseal
Jake698@ニューヨーク
babyseal@rcn.com
◇◆次回は5月23日(金)Eyeさん@ノースカロライナから配信予定です◆◇
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【欧州編】【アジア編】【中南米・アフリカ編】【出戻り邦人】もよろしくね
◇◇◇詳細は下記のHPで◇◇◇
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各種問い合わせ先:detahou@hotmail.co.jp
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電子出版 : 出たっきり邦人【北米・オセアニア編】
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