空気を読まない 横浜事件=有罪は誇るべき勲章だ
「KY(空気が読めない)」というイヤな言葉が流行っている。
なぜ空気を読まなければならないのか? 理由はない。
みんなが同調してつくる「空気」などほとんど間違っている。
意識的に空気を読まず、空気に異議申し立てをする必要がある。
【空気を読まない】3月22日
横浜事件免訴 戦犯支配下の「有罪」を原告は誇れ
JanJanで読むには
http://www.news.janjan.jp/column/0803/0803172926/1.php
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http://www.news.janjan.jp/column/taikikengai/taikikengai.php
戦前最大の言論弾圧事件「横浜事件」の再審は「免訴」が確定した。元被告の遺族・弁護側は不当判決と反発し、新聞各紙も「な
ぜ無罪判決を出さない」と同調する。しかし、A級戦犯が独裁的に支配した戦前の社会での「有罪」を、この裁判の原告たちは誇る
べきだ。免訴には法の明文規定があり、心情論に傾く新聞論調はむしろ危険だ。
◆「免訴」が確定
第2次大戦下の日本で、最大の言論弾圧事件とされる「横浜事件」の再審は、「免訴」となることが確定した。最高裁第2小法廷
が14日、治安維持法違反で有罪が確定した元被告5人(全員死亡)の上告を棄却する判決を言い渡したからである。無罪判決を言
い渡すよう強く求めていた元被告の遺族と弁護側は「法技術的な論理に終始した不当な判決だ」と反発している、と報じられている
。
朝日新聞15日付朝刊は、1面に
「横浜事件 再審打ち切り確定へ/最高裁」という記事を掲載するとともに、社説でも
「横浜事件再審―過去の過ちに背を向けた」と裁判所の姿勢を批判している。
◆A級戦犯支配下の弾圧
そもそも「横浜事件」の元被告たちがどうして無罪判決を求めたのか? その理由が私には理解できない。第2次大戦下の日本(
「大日本帝国」)は悪逆な総力戦国家だった。元被告たちはその悪逆な国家と戦っていたと自負する人たちだと思われる。それなら
有罪判決は讃えられるべき「戦果」であろう。自ら誇りにすべきもので、取り消しを意味する無罪判決を請求するのはおかしい、と
私は考える。
逮捕されたメンバーが拷問を加えられ、やむなく自白したことによってでっち上げられたのが「横浜事件だ」とも主張しているよ
うだ。その脈絡では、無実の冤罪だということになる。しかし元被告たちは「従順な皇民」であり、「国家の求めに応じて、総力戦
遂行に励んでいた」わけではあるまい。
拷問で自白したということが屈辱であることは分かる。しかし拷問のひどさは、逆にいえば抵抗の強さを物語るものでもある。ど
うして再審での無罪が必要なのか、理由が分からない。
◆学界の定説
手許にある「角川・新版日本史辞典」(1996年12月)で「横浜事件」の項を見ると、
<第2次大戦末期の言論弾圧事件。1942(昭和17)の細川嘉六の逮捕に始まり、'43−'44年中央公論社・改造社・日本
評論社、'45岩波書店などの編集部員および研究者が逮捕された。容疑は日本共産党再建準備の謀議とされ、はげしい拷問が加え
られて4人が死亡。(中略)これらは神奈川県特別高等警察のでっちあげで裁判は敗戦まで行われなかった。(後略)>と記述され
ている。
これをみても、横浜事件が特高警察が拷問を加えたでっちあげだということは、定説となっていることがわかる。学界の定説とし
て確立しているのに、どうして裁判所に認めてもらう必要があるのだろうか? この再審請求そのものが、学界の定説よりも、「国
家の見解」の方が重いという誤った価値判断に基づいて行われているように思える。
◆国の認定は必要か?
歴史認識の一つひとつに、裁判所の認定など要らない。学界の定説がいちばん重みがあるのだ。自由な研究・考察を行っている研
究者たちの誰もが認めるのが通説である。その重みを評価することこそ、「知識人」として必須の姿勢だろう。
例えば横浜事件について「でっちあげだ」と書いた教科書が検定不合格になったと仮定する。その場合、教科書の編集者たちは不
当な検定だという行政訴訟を起こすことになるはずだ。その裁判で学界の定説に反するという主張は極めて重いものとなる。文部科
学省がやりそうな「学界の定説ではあるが、国家機関は認知していない」という反論など許してはならない。横浜事件について裁判
所の無罪判決を求める姿勢は、「学界の通説」よりも、「国家機関の判断」の方に重みを置くように思える。
◆確立していない「民間」「個人」
もっと卑近な問題を考えてみよう。日常生活のさまざまな問題について、自分の考えが正しいかどうかを、「行政」の窓口に問い
合わせる人が出て来ないとも限らないご時世だ。例えば自分の子どもを朝何時に起こせばいいのか、夜は何時に寝かせればいいのか
、学校に問い合わせる親といった存在だ。あらゆることを学校に要求する「モンスターペアレント」と逆のように見えるが、じつは
「行政依存体質」による表裏一体の存在とみるべきものだ。
そんな親に対する答は、「私生活の領域なのだから、自分で考えなさい」以外にあり得ない。いちいち行政にお伺いを立てるのは
、まさに依存そのもの。モンスターペアレントの要求は依存の裏返しだ。国に対する民間、行政に対する個人が確立していないのは
ナサケナイ限りだ。
「朝日」の社説は、<通常の裁判なら、法律がなくなったような場合には裁判を打ち切れば済むだろう。しかし、いったん有罪判
決が確定した場合には、再審で裁判所が無罪を言い渡さない限り、元被告が名誉を回復したことにはならない。 >と書いている。
国家権力によって有罪とされることはすべて「不名誉」という認識である。A級戦犯の独裁だった当時の国家に抵抗し、有罪判決
を受けたことこそ名誉だという認識はない。これでは「国家権力はいつも正義」という大間違いの歴史観につながっていく。
◆限りなく無罪に近い免訴
「朝日」社説はさらに、<戦前、治安維持法で有罪を言い渡した多くの裁判官たちは、戦後もそのまま職にとどまったようだ。>
<司法界では戦前の行為を深く反省することはほとんど見られなかった。><過去の過ちを直視しようとしない最高裁の姿勢には不
安を感じる。 > などとも書いている。
これが正しいのかどうか? 新聞記事データベースで調べてみた。
横浜事件の再審請求は、1986年以降、4次にわたって行われている。1次、2次請求は棄却されたのだが、2003年4月、
横浜地裁が第3次請求に対して再審開始決定を出した。
地裁決定の理由は、治安維持法が失効した後に有罪判決が下されたというもの。5人の元被告に対して横浜地裁が有罪判決を出し
たのは1945年8月末〜9月中旬の間だったという事実を認定。治安維持法については同年8月14日のポツダム宣言受諾によっ
て失効したという弁護側の主張を認め、「10月15日、廃止の勅令が出るまで有効だった」とする検察側主張を退けた。
検察側の即時抗告を受けた東京高裁の判断は05年3月10日に示されたが、全く別の理由で再審を支持するものだった。東京高
裁は、ポツダム宣言受諾によって治安維持法が失効したとする横浜地裁決定を「疑問がある」と退けた。そのうえで、被告らの自白
が拷問によるものだという事実を認定、「自白の信用性に顕著な疑いがあり、確定判決の事実認定が揺らぐ」という理由で再審を支
持した。
検察側は最高裁への特別抗告を断念、再審開始が実現した。再審確定が、事実上の「無罪」言い渡しに近いケースである。
◆心情への迎合は危険
再審で横浜地裁は、06年2月判決を下し、元被告らが求めていた「無罪」ではなく、「免訴」を言い渡した。治安維持法の失効
にともない元被告5人はいずれも大赦を受けている。刑事訴訟法337条は、大赦があったときは、「判決で免訴の言渡をしなけれ
ばならない」と明文で規定している。無罪ではなく免訴とならざるを得ないという論理だ。
判決理由の中では、とくに東京高裁の再審開始決定に触れ、「免訴理由がなければ、抗告審決定に沿った判決が言い渡されること
になる」「(同決定において)5人が神奈川県警特別高等課(特高)により拷問を受けた事実が明らかにされた」などと述べた。さ
らに免訴判決の意味について、「元被告は無罪判決と同様に将来的にも訴訟から解放される」と述べた。
つまり「限りなく無罪に近い免訴判決」なのである。それを東京高裁も最高裁も支持した。朝日の社説は、「免訴」という形式だ
けをみて、最高裁の姿勢が「過去の過ちを直視しようとしない」と断じており、最高裁によって支持された横浜地裁判決の内容を無
視していると言わざるをえない。
横浜事件再審の経過を見てみると、裁判所の姿勢は、「元被告らの主張無視」ではない。逆に法の枠内で、元被告らの主張に最大
限の配慮をしていると評価できるのではないか?
もちろん元被告たちが「無罪」を求める心情は分かる。しかし新聞の社説が、一部の人たちの心情を原点に書かれたもので良いと
は思えない。あくまでも論理の筋道が立っていなければならないというのが私見である。
読者の心情に迎合する方が、新聞は「売れる」かもしれない。しかし心情に沿った主張で「世論をリードする」のは危険ではない
か。


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