2003/10/18
「21世紀を解読する」 権力に屈服している日本のメディア
「21世紀を解読する」第91号=2003年10月18日(土) ===================================================== 筆者・発行者=田中 良太 メールアドレス=gebata@nifty.com URL=http://www.gebata.com/ 【ホームページを変更します。10月中は旧URL http://www.asahi-net.or.jp/~tq8r-tnk/ からリンクできます。お気に入りにご登録下さい。 旧URLは、10月末をもって閉鎖します】 [敬称・呼称略] ********************************************** ◆<メディア報道>ひどすぎる権力への屈服 ********************************************** 「書かないニュース」が多すぎる! さいきんの新聞・テレビを見ての、率直な実感で ある。 典型的なのは、9月16日広東省珠海市のホテルで起きた日本人団体客による買春行為 である。 この「事件」を報じた朝日新聞の記事は、29日付朝刊第2社会面に掲載された。文字 数799字だから、全文を引用できる。以下のとおりである。 <見出し=香港紙「邦人団体が買春」/中国のホテル、当局が営業停止 【香港=三木一哉】マカオに隣接する中国広東省珠海市の高級ホテル、国際会議センタ ーホテルが28日までに、「日本人団体客による買春行為」にかかわった疑いで、当局か ら営業停止を命じられた。中国や香港の各紙が報じた。 中国外務省の孔泉(コンチュアン)・報道局長は28日、この問題について調査中とし ながらも「外国人が中国に来たら、中国の法律を守らなければならない」と不快感を表明 した。 最初に報じたのは、26日付の中国紙中国青年報。16日深夜にホテルに到着した中国 人の宿泊客が「約300人の日本人男性団体客が若い中国人女性を連れ、エレベーターで 女性の体に公然と触れるなどしていた。ホールには日本企業の創立記念日の行事案内の看 板があった」などと話した目撃談を報じた。この中国人が団体客の1人に中国人通訳を通 じて聞いたところ、「女遊びに来た」と答えた、としている。 翌日の中国、香港各紙は同じ中国人の話をもとに、「300人の日本人団体客が500 人の中国女性を集め、大会議場で接待させたあと、女性を部屋に連れ帰り、買春した」と 断定的に報じた。 張徳江(チャントーチアン)・広東省共産党委員会書記が警察機関に調査を指示し、あ っせんにかかわった関係者数人の身柄を確保したという。国際会議センターホテルはビー チに面し、珠海では最高級のホテル。珠海は経済特区で、外国人や中国の他の地域からの 訪問者が多いという。 中国のインターネット掲示板や論壇では、16日という時期が満州事変の始まった18 日の直前だったことから、「意図的に中国人を辱めた」といった非難が掲載されている。 ◇ 香港の現地紙で、社名が報じられた、西日本の企業の関係者によると、年1回の社員旅 行で、9月中旬に社員200人余りが同ホテルに泊まったという。宴会を開いたのは別の ホテル。社員とほぼ同数の女性コンパニオンがいたが、買春などの事実はなかったという。 > 中国メディアの報道は○○、中国外務省の言い分は△△という書き方である。朝日新聞 として「何が真実であるか」という取材を全くしていない。だから「社員とほぼ同数の女 性コンパニオンがいたが、買春などの事実はなかった」という企業の言い分を、ウソと分 かっているのに、そのまま掲載している。 「毎日」など他紙にも、こうした報道が行われている。 同じ事件が「週刊朝日」では <社員旅行288人「集団買春」騒動の全真相 日中外交問題にも発展=10月17日 号> という記事になる。5,408字だから、新聞の記事の7倍に相当する。 冒頭部分は <中国の新興歓楽地・広東省珠海市の一流ホテルを舞台に、日本人団体客による「集団 買春」騒動が持ち上がった。名指しされたのは、社員旅行で訪れた関西の住宅リフォーム 会社だ。日本政府は、中国外交当局から「国民への教育を強化してほしい」と要望される 始末。「集団買春」はあったのか> である。 その疑問に対する答えは明白である。 <この集団に通訳に雇われたと名乗る元旅行会社勤務という人物が、現地の事件関連サ イトで、実際に同ホテルに宿泊していた関西の住宅リフォーム会社A社の名前を挙げ、告 発したのだ。 それによると、16日夜7時ごろ、先の国際会議センターホテルから車で5分の通称「ユ エハイ・ホテル」の宴会場で表彰式があったという。 〈表彰式の名目は「日本国A社夏季表彰式 IN CHINA」で私は中国の旅行会社 に頼まれて通訳をした。男性社員は、ほとんど20代から30代の若さでした〉 〈私はガイドとして、これほど武士道を感じさせる表彰式に立ち会ったのは初めてだっ た。社員はひとりずつ演説をした。すごい大きい声で、短い言葉だけでも顔が真っ赤にな っていました。みんな今にも戦争でも始めるかのような表情でした〉 〈会場では、雰囲気を盛り上げるためのBGMが流された(報道では「軍歌」だが、実 際は長渕剛の「とんぼ」だったようだ=編集部注)。午後8時に宴会が始まると、雰囲気 は一変した。レストランに「暴露的妓女(体を売る女)」が入ってきた。数百人はいた。 興に乗って、チャイナドレスを着てはしゃぐ社員もいた〉 〈私は夜9時ごろ、旅行エージェントに「帰りたい」と抗議した。夜10時まで我慢し たが、その後、彼らが女性をホテルに連れ帰ってもいいと説明した。チップの金額や女性 がホテルから帰るときにどうすればいいかなどを教えているのを見た〉 中国では改革開放路線の進展とともに、こういった売春もはびこるようになった。 売春に手を染めるのは、ほとんどが農村から出稼ぎに来た女性たち。とりわけ工業がさ かんな沿海部には、風俗産業で働く女性が増えている。 中国で代表的な風俗店が「夜総会」だ。舞台でダンスショーやビンゴゲームなどの趣向 で歓待するほか、個室での接客もある。 男性がその気になれば、これらのホステスと性行為ができるのは、現地では「常識」で あるという。地元の風俗事情に詳しい中国在住のマスコミ関係者によると、 「夜総会では、女性へのチップは一般的に200元(約2600円)。さらに『泊まり』 になると、料金が必要になる。泊まりのチップは、マカオなど中国の歓楽街で中級以上の クラブでは、800元(約1万400円)。珠海の高級夜総会では1200元(約1万5 600円)はします。高級ホテルに入っているクラブには、それだけ質が高い女性が集ま る。そのために料金も高くなります」 宴会があったユエハイ・ホテルにも、宿泊した国際会議センターホテルにも「夜総会」 があった。 現地の捜査当局の調べなどでは、ここの「ママ」が日本人集団客のために、女性らをか き集めたと言われる。 それぞれの「夜総会」には100人のホステスが所属。貸し切りとなれば、200人以 上は、簡単に集まる。両ホテルとも「日本人御用達のホテル」として知られ、日本人専用 のフロアもあるという。> 満州事変が起きた9月18日を、中国は「国恥日」としているという指摘もある。「日 本(人)の蛮行」に国民全体がセンシティブになる時期に、あまりにおおっぴらな集団買 春が行われたのである。その事実を新聞社として取材せず、単なる中国側の言い分を紹介 するにとどめている。これでは、朝日の主張する「日中友好」とは何なのだ? というこ とになりかねない。 この件で問題なのは、新聞・テレビの報道が、日本政府の意思に左右されていることで ある。官房長官の福田康夫は9月30日午後の記者会見でこの問題についての対応を問わ れ、「こういう話は聞くのも嫌だ。これ以上話をしたくない」と不快感を示した。 政府はあらゆる問題に対応しなければならない。そのスポークスマンが「聞くのも嫌だ」 と感情をむき出しにすることは「禁じ手」であろう。しかしこの発言を問題視するような 報道はなく、むしろ新聞・テレビはこの発言に従順だった。 日本政府の最終的な処理は、問題の企業の取締役を呼び、 「組織的に買春行為を行ったことはないが、結果的に配慮が足りず日中関係に携わって いる方々にご迷惑を掛けたことを深く反省している」 と言わせることだった。 外務副大臣の逢沢一郎が10月9日午前の記者会見で、この「事情聴取結果」を発表し て、対応をうち切った。各紙ともこの事実を報道しているが、 「このやっかいな事件も、これでピリオドが打てる。ヤレヤレ」 という気分が行間からにじみ出ているような記事である。 いずれにして、政府の意思をそのまま反映している報道内容になっている。これは「自 主規制」どころではない。権力の意思そのままの報道内容なのである。 こういう企業の実名が、新聞・テレビで報じられることはない。それと対照的なのが、 北朝鮮向けにつまらない工業製品を輸出し、「軍事転用できる」という理由で、警察にあ げられた企業である。警察が実名を発表するからメディアにも実名が出る。こういうこと を考えるといまの日本の報道は、まさに権力支配の下にあると言い切っても過言ではない。 さまざまな言論規制法規があったため、「大本営発表」しか書けなかった戦前・戦中と、 規制法規は何もないのに、権力の言うがままの紙面作りに陥っている現状と、どちらが「屈 服」の根が深いのか。いまメディアの禄を食(は)んでいる人々は、よく考えてほしいも のだ。 新聞・テレビが報じないニュースは、こればかりではない。自民党副総裁になった山崎 拓の女性スキャンダルはその典型である。「週刊文春」で「告発」していた女性は、最初 は匿名だったが、実名に切り替わった。さらに記者会見までした。9月8日には週刊文春 との間で係争中の民事訴訟のうち1件について東京地裁判決があり、山崎は敗訴した。こ んな事実がありながら、山崎拓女性スキャンダルをまとまった記事に仕立て上げる新聞は ない。 これがなければ、小泉純一郎が「盟友」山崎を幹事長から外し、副総裁に祭り上げた人 事の理由は分からない。衆院解散をうけて今月5日、山崎は選挙区で「女性集会」を開き、 3,000人を集めた。この「必死の防衛策」を報じた新聞・テレビもあるのに、そんな ことをしなければならない理由となったスキャンダルの方は報じない。こんなことだから 政治家とメディアの「腐れ縁」はどこまで深いのかが疑われてしまう。あまりに情けない 報道姿勢である。 巨大メディアと癒着しているのは、政府与党だけではないらしい。今年6月下旬、日本 共産党自身が公表した筆坂秀世参院議員の「セクハラで辞職」問題があった。この問題に ついて http://www.gyouseinews.com/domestic_prospect/sep2003/001.html で <あきれた「粛清」劇……日共大物国会議員、筆坂秀世氏失脚の深層> という文章が掲載されている。 <行政調査新聞社 主幹=松本州弘 埼玉県川越市> という署名入りだ。この「新聞社」についても、松本という人物についても、私は何も データを持っていない。ひょっとすると右翼に属する存在かもしれない。 しかしこの「深層」が指摘している経過は、「さもありなん」と思われるもので、おお むね納得できる。私はこのメールマガジン「21世紀を解読する」の読者からご指摘をい ただいて知ったのだが、新聞社の組織力があれば、その存在を知ることは容易だろう。 この「深層」が公開されたものである以上、それが正しいのか否か、日本共産党にただ すことはできるはずだ。私の推測だが、おそらくどの新聞社もやっていないのではないか。 「共産党は、発表以外のことを書くとうるさい」 というのが、政治部記者の常識である。トラブルを避けるために、読者の率直な疑問に 応えるという、新聞の紙面作りの基本を忘れてしまう。そんなところが、筆坂議員辞職に ついての追跡報道に見るべきものがない理由だろう。 珠海集団買春事件も、山崎拓スキャンダルもしっかり書いているのは、「日刊ゲンダイ」 である。政治が総選挙モードに入ってから連載【政治姿勢・能力・人格・疑惑… 総選挙 候補者の適格・不適格度】を始めた。 手近にあるのは10月17日号で、岐阜▼愛知▼石川▼富山各県分である。 <「日本初の女性首相候補」――などと持てはやされている岐阜1区(岐阜市)の野田 聖子元郵政相(43)。しかし、実態が伴わない。「実力者に食い込むのがうまく、いまは 古賀誠にベッタリです。“ポスト小泉”に名前が挙がるのも、上の受けが良く、若くて女 性という理由だけ。政策や理念があるわけじゃない」(事情通) スキャンダルも多い。大臣室で後援者と宴会を開いたり、国会中にハワイで式を挙げる ために、ニセの休暇届を出して問題になった。> <海部俊樹元首相(愛知9区=津島市など、72)はこれ以上、議員を続ける意味があ るのか。最近話題になったのは、従兄弟が詐欺で逮捕されたことくらいだ。 テレビ出演で「若手改革派」を気取っている13区(刈谷市など)の大村秀章(43) も“看板に偽りあり”だ。小泉VS橋本が争った前回総裁選で、橋本派を造反して“改革 派”で売ったが、実際は宗男から700万円をもらっていたムネムネ会の主力メンバー。 議員特権でW杯の招待券を手に入れて批判されたこともある> <小泉の後見人を気取る石川2区(小松市、松任市など)の森喜朗(66)ほど、国民 に嫌われた首相も珍しい。「日本は天皇中心の神の国」「無党派層は寝ていればいい」とい った失言を繰り返し、えひめ丸が米軍の潜水艦に撃沈されたときもゴルフに興じていた。 党内から「支持率8%では自民党が持たない」と悲鳴が上がり退陣したが、議員を引退す る気はさらさらないから困りもの。リクルート事件や佐川事件、泉井事件と、関係が取り ざたされた疑惑も数知れずだ。 森の子分もロクでもない連中だ。1区(金沢市)の馳浩(42)の活躍の場はもっぱら 国会の外。詐欺罪で逮捕された坂井隆憲のミニスカ秘書と一緒にCDを吹き込んだり、同 じ国会議員の大仁田厚とプロレスで対決したり。勘違い政治家である。 3区(七尾市、輪島市など)の瓦力(66)は、2度の防衛庁長官と建設相で3度も入 閣しているが、記憶に残るのは自衛隊の潜水艦「なだしお」と釣り船の事故で防衛庁長官 を辞任したことくらい。スキャンダルはないが、実績もない> といった具合だ。 こんな程度の記事をつくるには、新聞社の資料プラス政治部記者一人で十分すぎるほど である。ところが大メディアはやろうとしない。これも政界との癒着である。 [政治部と政治部記者のために一言しておくと、癒着しているのは政治部(記者)だけ ではない。日本の新聞記者は、取材対象と癒着するのが仕事なのである。文化部=学芸部 などというところはもっとひどい。どんな分野の「評」(書評・映画評・演劇評・音楽評 など)でも、駄作とこき下ろしたもの、間違いや盗用部分を指摘したものなどない。作品 はすべてプラス評価するのが日本の「評」なのである。選挙のさいの「候補者紹介」にマ イナス情報がないのは、こうした「ほめるだけの評」の文化の一環であるはずだ。] 日刊ゲンダイは、メールで読める。「ビジネス」(「スポーツ」「アダルト」以外の記事す べてが含まれている)半年分で3,360円だ。日本で唯一の「まともな新聞」が、1カ 月600円足らずで読めるのだから格安である。私はニフティを通じての配信で数年前か ら読んでいるが、さいきん直接配信が始まったので切り替えた。直接配信によってさらに 割安になった。 その「日刊ゲンダイ」も含めて、いまの日本のメディアが陥っている病弊を指摘してい るのが、「ニューズウィーク日本版」10月22日号である。表紙の題字上のロゴが「拉 致ヒステリーの落とし穴」とある。同名の文章がトップ扱いとなっている。 この文章の基本的な発想は、 <日本が(拉致に対して)怒りをいだくのも無理はない。問題は、怒りによって外交政 策が有益なものになりうるのかどうかである> というところにある。 「拉致問題最優先」という原則をぶっつけられると誰も抵抗できない。同誌は、外務事務 次官の竹内幸夫が8月に発言撤回を余儀なくされた例を引いている。 竹内の発言は 「被害者家族の早期帰国を優先する」 と明言したうえで、そのために 「最もよい方法を探求し、(帰国を正常化交渉の前提とするかどうかについては)今か ら何かを決めてかかるといった考えはない」 と述べたものだった。 この発言に家族会事務局長の蓮池透らがかみついた。 「政府の公式見解と異なる」 という理由である。 日本の世論は 「北朝鮮が謝罪・譲歩しない限り、日本の外交官たちは何もするな」 ということになってしまっている。 これに対して異議を唱えることが誰もできないという状況を「ニューズウィーク」誌は、 「ヒステリー」という言葉で表現したのだろう。「北朝鮮は一枚岩だから日本も一枚岩で ないといけないという人たち」が、日本を支配してしまっているのである。 どの政治家もメディアも、この「一枚岩思想」というべきものに媚びている。政治家や 政党は票が欲しいためであり、メディアは高視聴率・多部数が欲しいためだろう。オピニ オンリーダーを自称するために必要な「勇気」を持たず、「商売」の論理だけで行動する 人たちが日本の世論をリードしている。 珠海買春では、新聞に比べて「健闘」していた週刊誌は、拉致ヒステリーとなると <「亡国官僚」田中均をクビにせよ!> <8人を見殺しにした政治家・官僚・言論人> など、ヒステリックな記事を書き立てた。 「それが売れるから」という以外の理由は見出しがたい。 政治とメディアの質のことを考えると、この国の未来は危ういと言わざるをえない。 ===================================================================== このメールマガジンは、『まぐまぐ』 http://www.mag2.com/ を利用して発行 しています。 解除は http://www.mag2.com/m/0000024557.htm から。 [ご意見、ご感想はこちらへ] gebata@nifty.com ===================================================================== ◆タニマチ制度にご理解を! 「21世紀を解読する」は、メールマガジンとして配送するためだけに書かれ ています。この新しいメディアの存続を維持するため、志を共有する読者諸兄姉 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