2009/10/20
【出たっきり邦人 欧州編】894 イギリス
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ジャンルとしてはSF的なスパイものであるが、斬新で前衛的な演出や哲学的な メッセージが随所にちりばめられており、現在でもカルト的な人気を保っている。 <転載終了> この番組の中の「村」に、「ポートメイリオン」が使われたわけです。イタリア のヴィラをイメージとした建物群は、ともするとディズニーランドを思わせる カラフルでおとぎの国の世界のようなデザインが施されていますが、建築家 ウィリアムズ=エリス卿が生涯を通して、自然と人工物の調和を試むという自 分のアイディアを建築物という形で表現したのが、この「ポートメイリオン」 なのです。http://www.portmeirion-village.com/ 6歳のときから建築家になる夢を描いていた貴族のウィリアムズ=エリス卿は、 初めからリゾート地を念頭に置いていました。収入源は必須という理由だけで なく、美しい自然の中で、多くの人がこの北ウェールズの一角で憩いのひとと きを過ごしてほしいという願いも込められていました。 1920年代に始まった彼の計画。土地探しから着工、そして拡大と、彼の情熱は イマジネーションとともに様々な難関を乗り切り、50年以上かけて自分の創作 物を完成させていきました。ギリシャ・ローマ神話の神々をテーマにしたモチ ーフや彫像が多く、西洋文明の起点はこの建築家にとって大切だと感じられま した。また、友人たちからの贈り物もたくさんあり、東洋的なものもうまく取 り入れられていました。庭も色とりどりの花がいっぱい。私たちが行った時期 はあじさいが満開でした。ピンクと青と白、とても美しかったです。 ポートメイリオンは入り江に面しており、引き潮と満ち潮で景観がすっかり変 わります。引き潮のときに、砂浜を主人と歩きました。風がやや強かったです が、柔らかい砂に自分たちの足跡を残していく。砂に「LOVE」と書き残しまし た。愛国心を持つなら地球に対して持て、とジミー・ヘンドリックスが言った そうですが、私の地球への愛をそこに示し、満ち潮の水がそれを全世界に運ん で行ってくれたと思って。 その海辺で出会ったインド人のおじさんが、主人と二人の写真を撮ってくれる というので、お願いしました。二枚撮ってくれた後、「君はわたしの娘にそっ くりだ」と言い、戸惑いました。どう見ても私はインド人には見えないのです が、きっと振る舞いのことだろうと考えました。でもなぜか嬉しかった。何で もない小さなエピソードが旅の色を鮮やかにしてくれます。 ポピュラーなテレビ番組で使われたホテルですから、高級サービスが売り物で す。夕食を取ったレストランでは生のハープ演奏がありました。美しいコン サートハープを奏でていたのは男性でしたが、きれいな音色は優雅な雰囲気を 醸し出してくれました。サービスもかなり格式ばっていて、少し落ち着かない くらいでしたが、こういう体験もたまにはいいでしょう。 ここを訪れることにした私の目的は、「ザ・プリズナー」の創作者兼主役を演 じたパトリック・マクグーハン氏の哲学について思索することでした。氏はち ょうど今年の1月に80歳でこの世を去りましたが、彼はこのポートメイリオン を撮影に使った後、一度も再訪しませんでした。自分の作品に適したロケ地と して選んだのに、特別な感情はなかったのだろうか。ファンたちはこぞってポ ートメイリオンを訪れるのに。 私の主人は年少時にこの番組を見て感銘したそんなファンのひとり。結婚数年 後、彼は「ザ・プリズナー」のビデオを買ってきて私に薦めました。英語力も 弱かった当時、シリーズ数個を観たのですが、意味が分からない。なぜイギリ ス人はこんな番組が好きなのか、理解に苦しみました。 20年以上経った昨年、主人は今度DVDで買ってきて、再度私に薦めるのでした。 また?と思いながら観たところ、はまってしまったのです。同じものを観て、 感じ方が以前と異なる場合は、それだけ自分が変化したことを表します。この 20年、伊達で生きてきたのではないことを知り、とても嬉しくなりました。 マクグーハン氏はアメリカに移住したアイルランド人の両親の下で生まれ、生 後間もなくアイルランドに戻り、幼少時にイギリスに落ち着いた一介の無名な 舞台俳優でしたが、テレビが世に出て茶の間のエンターテイナーになっていく 時代の中で、彼はテレビに出演するようになりました。才能があったので一躍 有名になりましたが、戦後の成長期を生きる中で、未来社会に対する不安が募 り、テレビという便利な媒体を利用して自分の思っていることを一般人に伝え ようとして創ったのが、「ザ・プリズナー」なのです。 囚人-監獄に住み、常に言動が監視されている。60年代の作品にしてはSF的 ですが、その中の監視カメラや高度技術、それに馬鹿げた理論は現在では現実に なっています。前衛的な番組とはまさにそうであり、マクグーハン氏の先見性 に私は感銘したのでした。 しかし、20数年前の私がそうであったように、放映当時、一般イギリス人はマ クグーハン氏の意図とするところが理解できませんでした。でもスリルがある、 マクグーハン氏がかっこいい、または不可解だから面白いということで、ファ ン層は厚くなっていきました。最終回に「ナンバー・ワン」とは誰かが暴かれ るのですが、マクグーハン氏が用意したシナリオをほとんどの人は理解できな かったのです。当時はビデオとかもなかったので、巻き戻して見ることもでき ず、人々の欲求不満は募り、やがてそれはマクグーハン氏への攻撃と変わり、 彼はイギリスを離れざるを得なくなったのでした。 一旦スイスへ行き、そこからアメリカに移住。後に「刑事コロンボ」のピータ ー・フォーク氏と親交を深め、いくつかのエピソードに出演しました。彼がイ ギリスを去っても、番組の人気は下がらず、ビデオの出現によって、新たなフ ァン層が現れ、人気はさらに増していきました。 マクグーハン氏はジェームズ・ボンド役のオファーをショーン・コネリーより 先に受けたとのことですが、拒否。「ロード・オブ・ザ・リング」のガンダル フ、「ハリー・ポッター」の校長ダンブルドアの役の話もありましたが、それ らも拒否。彼は有名なスターになることに全く興味がなかったのです。 彼の作品には暴力は元より、ロマンスもなるたけ避けられています。彼の視点 はメッセージ伝達であり、手段としてテレビ番組を利用し、役者という自分の 能力を生かしたのです。結果は自分自身が「囚人」になり、イギリスを離れる ことになったわけですが、これだけは恐らく彼自身も予期していなかったでし ょう。 「ザ・プリズナー」の内容は難解ですが、それがマクグーハン氏の意図なので す。視聴者自身が色々考えるようにと。17回のエピソードそれぞれに哲学的な メッセージが込められていますが、基本的には、私たちは権力に屈せず、自分 の脳で考え、思考回路を止めないことが重要であると訴えていると私は感じま した。 マクグーハン氏が指す「監獄」とは、うわべは美しくて楽しい場所という意味 合いがあり、ウィリアムズ=エリス卿の夢の実現体であるポートメイリオンは、 彼のメッセージを送り込むには理想的なセットだったのでした。しかし、美し くて楽しくても、そこでは常に監視され、権力者ナンバー・ツーの指令に従わ なければならない。そんな「監獄」から脱する努力をせよとも伝えているのです。 生きていること自体、監獄の中にいると捉えることができます。そこからの脱 出とは、悟りを開くこと、または自己実現のことであるとも解釈できます。し かし、それにはナンバー・ツーの上役であるナンバー・ワンとは誰かを知らな ければならない。最終回でナンバー・ワンの顔がほんの瞬間だけ現れます。そ れはマクグーハン氏自身、つまり「ナンバー・シックス」自身なのです。 権力者ナンバー・ツーに指令を与えるナンバー・ワンとは自分自身。この意味 は非常に難しいかもしれませんが、ナンバー・ワンは悪者に違いないと思って しまうことが誤解の始まり。すべての答えは自分自身にある。自分を見つめな おすことから、人は進歩するのかもしれません。 監獄から永久に脱出し、本当の自由を満喫するには、まず監獄にいることを認 識し、そして自分と向き合って、自分で考え、自分についてよく知る努力をし ていくんだよ、とイギリスを脱し、この世からも脱したマクグーハン氏はロケ 地として使ったポートメイリオンにそんなメッセージを残したように感じられ ました。 プリマ 『万華鏡』へのご意見・ご感想はkentprima@hotmail.comまでお寄せ下さい。 ◇◆次回は10月23日(金)ポーランドから配信予定です◇◆ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 【北米・オセアニア編】【中南米・アフリカ編】【アジア編】 【出戻り邦人】もよろしくね ◇◇◇詳細は下記のHPで◇◇◇ http://www.geocities.jp/detahome/ 各種問い合わせ先:detahou@hotmail.co.jp ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 電子出版 :出たっきり邦人【欧州編】<まぐまぐID:0000023690> 発行協力 :まぐまぐ http://www.mag2.com/ 発行責任者:欧州編ライター一同 連絡先:oushuhen@hotmail.com H P 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