出たっきり邦人【欧州編】  RSSを登録する

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2009/10/16

【出たっきり邦人 欧州編】893 ギリシャ

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              ◇◆甲編◇◆

         
            〓ギリシャ・スパルタ発〓
            
                「田舎生活αβ(アルファ ヴィータ)」 


                            第六十回

                         祖父を想う その一 
                           『百日紅』


太宰治のとある短編小説に、こんな箇所があります。

「さるすべりは、これは、1年置きに咲くものかしら」

玄関の前の百日紅は、ことしは花が咲きませんでした。

「そうなんでしょうね」

それは、夫と交わした最後の夫婦らしい親しい会話でございました。と、
続きますので、それが悲劇の前触れだということに自ずと気づく内容です。

幸い我々夫婦には、悲劇や死への予感もないのですが、
百日紅というと、祖父の家で遊んだ幼少のころを想い出します。

小さい頃、祖父の家が私の遊び場でした。日本風の庭には、大きな岩があり、
そこへ攀じ登っては飛び降りる、ということを飽きるまでしていたものでし
た。その岩の横にもうひとつ小さめの岩があり、その後方に百日紅がありま
した。祖父だったか母からだったかは忘れてしまいましたが、『さるすべり』
の由来を知りました。
「木の所がスベスベしていて、猿も登れない」から「猿滑」

その頃「猿」という言葉が嫌いでした。何しろ幼稚園のお遊戯会で「猿役」
になり、自分で作った猿のお面が何とも醜くなってしまって泣いてしまった
からです。
ですから、小さい頃のわたしは、その花まで嫌いだったのです。確かに、
スベスベの樹皮は、色が斑で醜いようにも思われました。

年月を経て、異国に住まう身になった今、望郷を呼び起こすものが、少なか
らず草木にあること、に気付きました。
ここスパルタで、嫌いだった「百日紅」が、これほどまでに美しさを心に沁
み込ませたことは、ちょっとした驚きです。

太宰治の小説とおり、どうも百日紅は毎年咲くわけではないように思います。
なぜなら、このちっぽけなスパルタの街の其処此処で、これほどまでに見事
に開花したのを終ぞ見たことがなかったからです。

ギリシャでは百日紅のことを学名の「ラジェルストレミア」と呼んでいます。
18世紀のスウェーデン生物学者で、植物学者リンネの友人「Lagerstoum」の
名にちなむそうです。

今年は、スパルタ中が百日紅の花で埋もれた感じでした。日本から帰って来た
8月上旬には、たわわなピンク色の濃淡の花が、地中海的な特有の日差しを
受けて街に彩りを添えていました。どちらかというと、楚々とした佇まいで。

「百日紅」とは中国読みのようですが、なるほど名のとおり、10月中旬現在
まだ花が咲いていて、百日間花を咲かすことが名前の由来になっていることに
納得がいきました。一度咲いた枝先から再度芽が出てきて花をつけるのだそう
です。

一見、ギリシャに百日紅は異色の取り合わせに思うのですが、こと、スパルタ
の今夏に於いては例外でした。懐かしくも美しい祖父の庭を思い起こさせます。

我が家にある洋梨と杏の木の葉が赤く染まりました。いよいよ秋の深まりを
感じます。

幸せなるかな、異国に住みながら巡り巡る季節を肌身で感じられることに・・・



キドーニ



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『田舎生活αβ(アルファ ヴィータ)』 hazidakis@hotmail.com
 

◇◆次回は10月20日(火)イギリス・ケント州から配信予定です◇◆
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