出たっきり邦人【欧州編】  RSSを登録する

スペイン、ギリシャ、イタリア、スイス、フランス、オランダ、ドイツ、ポーランド、イギリス、アイルランド、アイスランドからのリレーエッセイ。姉妹誌のアジア・北米オセアニア・中南米アフリカ3編と出戻り邦人もよろしく!

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2009/10/03

【出たっきり邦人 欧州編】890 オランダ

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              ◇◆甲編◇◆
             
        〓オランダ・アイントホーフェン郊外発〓

           ミナミも、ええよ。その27

バチェラーパーテイ・後編(眠れない秋の夜長にどうぞ)

「リサとアドの誕生日会でBBQをする」という話にだまされて、私と連れのア
ーヤンは、バチェラーパーティにおびき出されました。

到着早々、勢ぞろいした10名の友だちを見て、「これはなんか変」と思ったら、
リサから真実を聞かされて、「してやられた!」。「ほんっとーに予感すらなか
ったの?」と訊かれて、「全然…。」と答える我々を、みんなして、さも愉快そ
うに笑い飛ばしてくれました。

BBQのつもりで腹をすかせていたアーヤンは、居心地の悪さも手伝って、ちょ
っとご機嫌斜めです。「えぇ~、BBQじゃないのー?BBQじゃないのー?
BBQじゃないのーーー?」としつこく訴えながら、出されたクリームチーズケ
ーキを飲みこむと、サンドイッチの山に手を伸ばします。

ちゃんと腹ごしらえを済ませてきた他のみんなは、何も食べずに、我々の食べる
様子を見ているものだから、こっちもなんだか食べづらい。そこへリサが、綺麗
にラッピングされたプレゼントを持って戻ってきました。

「ご結婚おめでとう!これ、新婚初夜に使ってね♪」

差し出されたのは、シャンパンクーラーに入ったシャンパンと、モカとエクリュ
のバスタオルセット、マッサージオイルに蜂蜜、グランマニエのボトル。それら
が、酒落た黒木のトレーに載っています。

「この蜂蜜…は何に使うの?」
「クリエイティブにご利用下さい♪」

プレゼントに添えられたカードには、みんなの名前が寄せ書きされていて、裏返
すとトラの顔がアップで写っています。そこには「Be Wild!」の黄色い文字が
(汗)。

プレゼントを詳しく拝見する間もなく、「時間が押しているから」とリサに促さ
れ、みんなで何台かの車に分乗しました。これから何が起こるのか、結構不安だ
ったので、探りを入れてみましたが、もちろん何も教えてくれません。

ティルブルグから北上すること30分。見えてきた風景は、馴染みのあるセルト
ーヘン・ボスの町並みで、ちょっと緊張が和らぎます。(通称デン・ボス)。車
をとめて中心部へとぞろぞろ歩いて行くと、広場ではなにやら大掛かりなイベン
トをやっている。一瞬、「げっ、ケルミス(移動遊園地)?」と思ったけれど、
そんなにガチャガチャしてないし、大音量で音楽が鳴っているわけでもない。で
も、あちこちにカフェテラスがあって、みんな日曜の昼から楽しげにビールを飲
っている。

なんと、演劇フェスティバル「Boulevard(ブルバード)」が開催されていたんで
すね。http://www.festivalboulevard.nl/content.asp?id=184(英語)
オランダ南部に住んでもう3年になるっていうのに、毎年夏に10日間、デン・
ボスでこんなイベントが開催されていたなんて、まったく知りませんでした
(恥)。

広場に設営された巨大なテーマセットは、オペラ座の観客席をさらに派手にした
ような階層で、あちこちから、ちょっと怖い感じの人形が顔をのぞかせていま
す。(小さいけど、写真はこちら:http://www.festivalboulevard.nl/content.asp?id=442)

その周辺には、テントや掘っ立て小屋、コンテナやキャラバンハウスなど、実に
さまざまな形状のシアターが並んでいます。パンフレットで面白そうな出し物を
選んで、上演時間をチェックして、並んで待ったり、カフェでおしゃべりしなが
ら時間をつぶしたり。そうやって、昼下がりから夜更けまで、演劇やダンス、音
楽にどっぷり浸るという、クールなイベントであります。

ともあれ、バチェラー・パーティ会場がノーマルなイベント会場とわかって、車
に乗り込んだときの不安もすっかり消え去り、思わず足取りが軽くなります。

ちなみに、バチェラー・パーティを仕切るのは、結婚式当日に「セレモニー・マ
スター」を務める人(レセプションなど、披露パーティを運営する人)の役割な
ので、我々の場合は、リサの弟のヨハンです。

さあ、これからどうするんだろう、とヨハンを見たけれど、彼はとくに合図をす
る風もなく、12人は、なんとなく近場のカフェテラスに辿り着きました。まず
は「かけつけ一杯」ですね。それぞれ好きなものを頼んで、しばし歓談。2、3
杯飲んで、それでも今日のプランがはっきり聞こえてこないので、なんだかすで
に緩~い雰囲気になっています。大丈夫かね、このバチェラー・パーティ。

引率者のヨハンくんは、日ごろは議論好きで、誰かがふった話題やコメントにつ
いて自論を展開して、自信たっぷりな印象すらありましたが、どうやらリーダー
シップは、からっきしのようです(笑)。ちなみに、ヨハンくんみたいなタイプ
があと2人ほどグループにいましたが、彼らもこんなときに限って何もいわずに
大人しくしています。

ヨハンは、パンフレットから顔を上げると、「じゃあ…そろそろ行こうか」。ど
の出し物を見に行く、ともいわず、なんとなく時計と反対周りに広場を歩きはじ
めます。こうして、「イニシアチブ」「リーダーシップ」などというキーワード
が完全に欠落したまま、我々の演劇フェスはスタートしました。

道すがら、すぐに入場できる寸劇の掘っ立て小屋に入ったり、お目当ての映像ア
トラクションが定刻通りに上演されず、コンテナの前で延々と待たされたり、そ
の間に腹がへったと買い食いに走る人が出たり、グループから離脱して、延々と
タバコ休憩するチームが結成されたり、と実に散漫な感じのまま、夕暮れ時を迎
えます。

             ♪   ♪   ♪

それでも私は、自分でも驚くほどにリラックスしていました。自称「イラチな関
西人代表」ですから、通常ならば、こんな段取りゼロの展開にキーッとなってい
たはずですが、この日は半ば目隠し状態で連れて来られていたし、そもそも大勢
の友人が集まって、私たち二人のためにこういう企画を考えていてくれた、とい
う事実だけで十分に嬉しかったので、腹一つ立たず、鷹揚に構えていることがで
きました。

むしろ、自分がオーガナイザーだったらこうしただろうな、というのと、目の前
で展開される現実とのギャップがあまりにも激しくて、かえって可笑しく、日ご
ろは口の達者な男が場を全然仕切れていない様子もやけに新鮮で、個人的にはか
なり面白かったのです。(いけずですんまへん)

夕食後には、キャラバンを改造した小劇場に予約を入れて、ちょっと段取りが良
くなってきましたが、それまでかなり時間があるので、広場でコンサートを眺め
ながら、なんとなく暇をつぶしていました。ふと見ると、連れの親友であるアド
が、座りこんで首をうなだれているではありませんか。奥さんのリサが彼の肩を
もんであげています。彼女の困ったような表情から、雲行きがよろしくないこと
が伝わってきます。

そういえば、イベント会場に来てからほどなく、アドはグループの輪から外れて、
一人険しい面持ちで、しきりにタバコをふかしていました。折角順番が回ってき
た小劇場にも入らず、外で待っているだけ。これでは、何をしに来たのやら、さ
っぱり分かりません。

数週間前から断酒をはじめているアドにとって、カフェテラスだらけ、アルコー
ルを飲む人だらけのイベント会場は、ほとんど拷問だったようです。飲んじゃい
けない、という葛藤が緊張をもたらし、それが持病の偏頭痛を引き起こして、あ
とはもう、ひたすらタバコをすって気を紛らわせるしかなかった、ということだ
ったのですが、それを思うと、演劇フェスというのは、非常にまずい選択肢であ
りました。

しかももう一人、演劇フェスに不向きな参加者がいました。連れの絵描き仲間の
奥さんです。彼女は閉所恐怖症なので、扉を完全に閉められてしまうコンテナ劇
場とか、狭いキャラバン劇場とかは、全部ダメ。でも演劇フェスって、ほとんど
が、そういう小空間を利用した劇場なんですよね。だから彼女にとっても、かな
り企画倒れなチョイスでした。

             ♪   ♪   ♪

気の毒な二人を後に残して、我々は予約していたキャラバン劇場へ。
我々10人と他のお客さんが4人加わり、すし詰め状態になったところで、ショ
ーがはじまります。パーティドレスを着た田舎臭いお姉ちゃん3人組が、これま
たイナたい曲を、アコーディオンとコントラバスの伴奏で歌いちぎります。

リーダー格のお姉さまによる濃いトークでは、新郎新婦の我々がネタになり、み
んなの笑いを取ります。この日唯一、バチェラー・パーティらしかったひととき
でした。やがて、前方の床に座りこんでいたお客に、アンティークなクッキーの
缶が差し出されます。

「目をつぶって、缶に入っているピンポン玉を一つ選んでくださる?まず間違い
なく、あなたに関する大事な一言が書かれてまぁす♪」

そして、客の選んだピンポン玉に書かれている言葉にまつわる歌を一曲披露す
る。言わば、ちょっとひねりの効いたリクエスト歌謡ショーです。そうやって何
曲か歌われた後、とうとうこちらにもクッキーの缶が差し出されました。えい
っ、と選んだピンポン玉に書かれていた一言、それは…

「Help Ons!(Help Us!)」

うーん、大当たり。私は、式が数週間前に迫りながらも、相変わらず尻込みして
いたし、連れはといえば、ストレートにプロポーズをしたら断られると思ったの
か、婚約指輪代わりの絵を差し出して、「この絵、どう思う?」としか言わなか
ったし。二人が結婚に至ったのは、まさに今日のバチェラーパーティのごとく、
成り行き任せのなしくずしだったので、確かに我々には「ヘルプ」が必要でし
た。ピンポン玉を見て、思わず一人で大笑い(って笑ってる場合か)。周りがど
ん引きしたところで、一応連れの顔色を伺いながら、読み上げました。

このピンポン玉で歌われた曲は、関係がこじれてしまったカップルが波打ち際で
云々、という歌らしく、前奏がはじまると「さあ、皆さんも波打ってっ!!」と
お姉さんが叫びます。いい年した大人14人は、素直に左右に波打ちます。外で
待っているお客さんは、キャラバンが怪しい揺れ方をしているので、あらぬ想像
をしたかもしれません。

その後もメドレーで何曲か歌われて、最後は「みんなでポロネーゼ(※)を踊り
ましょう!!」と、キャラバンのドアを開け放ち、客を送り出します。客は出た
ところで列になってポロネーゼを一曲踊って、終演となりました。(※オランダ
人なら誰もが知っている、2拍子のリズムで踊るジェンカもどき。でもお決まり
のステップもないので、踊りというよりは、伴奏付き電車ごっこ)

連れはポロネーゼが大嫌いなので、「ぼくは絶対やらない」と、さっさと離脱。
踊る友だちを遠巻きになって眺めています。私は一緒に踊りたかったのですが、
一応新婦ですから新郎をほっといて踊るわけにも行かず、一緒に遠巻きになって
みてました。残念。


ちなみに、このキャラバン・シアターはネーミングもオツでした。その名も、
「Meesleeptheater」(引きずる劇場)。キャラバンが牽引車であるのと、鑑賞後
に余韻を引きずる、というダブル・ミーニングです。彼らのグループ名は「Mama 
Roux(ママ・ルー)」。彼女たちのパフォーマンスはすべてオランダ語ですが、
雰囲気は十分に味わっていただけると思いますので、映像+写真もご覧下さい。
http://www.mama-roux.nl/evenzien.html

この日、幾つか見た中で、他にも大いに楽しませてくれたのが、ライブ映像パフ
ォーマンスを披露する、フィンセント・デ・ローイ氏のコンテナ劇場でした。貨
物コンテナのドアがビシっと閉まり、真っ暗な空間に浮かび出すのは、小型カメ
ラやハンディカムで映し出されたシュールにして可愛らしい、カラーとモノクロ
を織り交ぜた映像です。エレキギターとハーモニカの生伴奏付きで、なかなかに
迫力のある映像を見せてくれます。

この日の彼の出し物は「AUW!TO(アウ!ト)」。オランダ語のAUTO
(車)とAU!(痛ッ!)を引っかけた、自動車事故をテーマにした作品で、指
二本に小さな靴をはめて人の足に見立て、アクションします。ほんの一部ですが、
ビデオ映像がありましたので、ご興味のある方はどうぞ。
http://www.vincentderooij.nl/performances-en.htm
(さまざまな工夫が凝らされた、自転車と融合した撮影台にも注目!)
「AUW!TO」以外の映像素材もあります。

             ♪   ♪   ♪

さて、バチェラー・パーティが、ポロネーゼの後どうなったかというと、偏頭痛
に苦しむアドが10時半ごろで「もう帰る」とリタイヤ宣言。一部からは不満の
声も上がりましたが、車の分乗の都合もあったので、パーティ終了となりました。
誰がどの車に乗るかを相談していると、木の下で待っていたアドの肩に鳥の糞が
落下するというオマケ付き…。なんとも、最後まで締まらないパーティでありま
した。

私も連れも、アドが気の毒だったので、帰ることに異存はなく、駐車場へとそぞ
ろ歩きをはじめます。会場を離れて、アルコール臭やカフェテラスから遠ざかる
と、アドの表情も少し和らいだように見えました。

暗い路地を、アドと連れが肩を並べて歩いています。ふと、連れが思い出したよ
うに言いました。

「BBQ、いつはじまるの?」

完


あめでお
ご意見・ご感想はこちらまで:beraboamedeo@hotmail.com


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◇◆次回10月6日(火)は、アイスランドから配信予定です◇◆
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電子出版 :出たっきり邦人【欧州編】<まぐまぐID:0000023690>
発行協力 :まぐまぐ http://www.mag2.com/
発行責任者:欧州編ライター一同 連絡先:oushuhen@hotmail.com
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