出たっきり邦人【欧州編】  RSSを登録する

スペイン、ギリシャ、イタリア、スイス、フランス、オランダ、ドイツ、ポーランド、イギリス、アイルランド、アイスランドからのリレーエッセイ。姉妹誌のアジア・北米オセアニア・中南米アフリカ3編と出戻り邦人もよろしく!

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2009/09/04

【出たっきり邦人 欧州編】882 ギリシャ

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              ◇◆甲編◇◆

         
            〓ギリシャ・スパルタ発〓
            
          「田舎生活αβ(アルファ ヴィータ)」 


              第五十九回

             イドラ!イドラ!



何処かへ旅に出たとき、また訪ねてみたい場所があります。
若いころもっぱら一人旅をしてきたわたしですが、そんな場所に出合っては、
再訪を楽しんだものでした。

今夏ひとり生活を強いられていました主人をねぎらおうと、旅行の計画を立
てました。大方のギリシャ人のように1か月余りもの休暇を取ることは出来
ません(何しろ我が家にはたくさんの動物がおりますので)が、4,5日な
ら可能でしょう。

計画当初、自家用車でフェリーに乗り、南イタリア・プーリア州のアルベル
ベッロへ行こうと決めて、ガイドブックとにらめっこしていました。私の住
むペロポネソス半島の北西にありますパトラから、イタリアのバーリまで
フェリーが運航しておりますし、アルベルベッロとバーリは車で1時間以内
の距離です。
しかし、ねぎらってあげたい当人が乗り気ではありませんでした。

そんな訳で、行き先が意外な処になりました。
ギリシャのイドラ島です。ΥΔΡΑ(イドラ)島は、5月の下旬にツアーの
方々をお連れして3泊した島。わたしにとっては3度目の訪問ですが、子供
たちはもちろん主人も滞在したことがない島でした。

イドラ島の魅力は、何といっても美しい町並みでしょう。そして静か。車は
おろかバイクさえ交通が出来ない稀な島です。
聞くところによりますと、ギリシャ人が最も誇りにしている島であるとか。
19世紀初め、ギリシャ独立戦争ときに、個人所有の船を武装して海戦で
活躍したイドラ島民の勇気ある行動を称えてだそうですが、「芸術家の島」
とも呼ばれています。

車の交通がないため、島内には、労働や人を運ぶロバや馬が行き交い、敷き
詰められた石畳に響くひづめの音が音楽のように聴こえてきます。
それから筆舌に尽くしがたいほど愛されている猫たち。島民の数ほどいる
猫たちですが、新鮮な魚をたっぷり食べさせて貰っています。猫を厄介払
いする島民をひとりとして見かけませんでした。
滞在中、わたしが思ったほどには島の魅力に引き付けられなかった子供たち
ですが、猫に対する愛着は特別だったようです。

イドラ島への休暇を決めたとき、宿泊場所はあそこにしようと思っていまし
た。前回3泊した元船主の館をホテルにした古くて大きな館です。
主人が電話で問い合わせますと、家族4人2部屋で1泊180ユーロだと云
うそうです。観光地といえども少し高すぎます。
翌日、支配人のニコス氏と直接わたしが交渉しましたら、あっさり4人部屋
1泊70ユーロにしてくれました。(こういうところは如何にもギリシャ的
ではありますが)居心地の良い中庭での朝食付きです。
2泊分予約を入れて、少々不安な気持ちで辿り着きました。果たして主人が
この古い館を気に入ってくれるどうか心配だったのです。でもそれは、杞憂
に終わりました。わたしの方がびっくりするくらい感動してくれたからです。

家族を喜ばせたのは、何とそこに住みつく猫でした。前回の滞在で、既に仲
良くなっていた白茶の「カネリー」は、初対面の滞在客にも人見知りせず、
かといって顔見知りの私を贔屓することもなく、時には無関心を装い、時に
は膝に乗ったり食べものを強請ったり、と朝な夕なわたしたちの傍にいまし
た。

到着日、徒歩で半時間ほどの漁村で海水浴をした後、前回親しくなったポー
ランド人たちが給仕しているタベルナで夕食を食べました。その後、息子と
夜の散歩に出ましたが、広場で遊ぶ「カネリー」と出会い、息子が足を止め
ました。微妙な年齢にさしかかる我が息子は、物理的には無理でも精神的に
家族とは離れて友人たちと密着していたくてあがいております。この散歩も
今となっては貴重な想い出です。

翌朝、6時に起き8時の朝食まで山歩きをしようと決めました。早起きの娘
も連れて主人と3人で、イドラ島の中心地に一際高くそびえる標高500
メートルのプロフィティス・イリアス修道院へ向かいました。地図には1時
間の距離とあり、水も持たずに楽な気持で出かけてしまいました。日の出ま
で十分時間があり、40分位は楽々と登って行きました。しかし、松林に
入って階段状の石畳を行けども行けども修道院は見えてきません。汗だくだ
くになって引き返してしまいました。後30分ほど登りつめれば辿りついた
のでしょうが・・・

宿に辿り着いたのは、8時を回っていましたが、わたしたちが朝食一番乗り
でした。中庭にあるお気に入りの席に座り、「カネリー」に朝の挨拶をして
紅茶をすすります。朝食を用意してくれる女性が「昨日浜辺で貴女をみかけ
た。来ていたのね!」と挨拶してくれてちょっぴり嬉しくなりました。
この日は朝からメルテーミ(ギリシャ特有の北東風)が強く吹いておりまし
たが、この館の中庭には微風が心地よくそよいでおります。
ふと横を見ますと、とても穏やかな風貌の男性が朝食に降りてきました。
暫くすると、奥さんらしき人が横に座り、わたしたちの持っている同じ地図
(娘が云うには)を広げて注釈を読んでおりました。耳を傾けてみますと、
スペイン語でした。立ち去るとき、さりげなく「ブエノス・ディアス」と
云ってみました。彼らは、にっこりと笑い「ブエノス・ディアス」と挨拶を
かえしてくれました。

この日は朝の山登りがかなり応え、市場で地元の人相手に商売をしているお
店で、新鮮な魚の炭焼きを食べました。このお店は前回の旅で主人に食べさ
せてあげたいリストその1のお店でした。相変わらず傍には猫がたくさんい
ます。早めの昼食を終え昼寝をしました。
夕方、海水浴に行き、「カミーニ」と呼ばれる漁村で、海に消えゆく夕日を見
ながら食事をしました。時が静かに過ぎていきます。

こういう時の過ごし方を好しとしない息子から愚痴をいわれ、やるせない気持
ちを引きずっていた翌朝、ここを発つ日でもあったのですが、また一番乗りで
朝食に降りてゆきました。中庭には既に「カネリー」が待っていました。
寝坊介の息子がやっと降りてくる頃には、5,6組の滞在客が朝食を食べてい
ました。他所のテーブルでご飯を強請っていた「カネリー」が、息子を見つけ
て飛んで来ました。ふてくされた息子の表情が和らいだほんのひと時でした。

あのスペイン人夫婦が、昨日とおなじ私たちの横のテーブルに着きました。
昨日は見かけなかった少女も一緒です。ふとした拍子に「どちらからお出で
ですか?」と聞いてみました。
スペインのアストゥリアスだそうです。わたしは一瞬戸惑いましたが、北スペ
インのヒホンだ、と聞いて、拙いスペイン語が口から洩れてしまいました。
北スペインは行ったことがあります。緑が深くてきれいなところですよね、と。

どうやらわたしたちと同じく今日イドラ島を発つこと。レンタカーをペロポネ
ソス半島側のエルミオーニに置いて来ていること。これからエピダヴロス、
ナフプリオンを巡ること。わたしたちがスパルタに住んでいることから、ミス
トラの遺跡について尋ねられ、ことの成行きから住所交換までしました。
ご主人は、大学で教鞭をとっておられるらしく、娘さんはわが娘とふたつ違い
の12歳だそう。
わたしが嬉しそうに喋っているのを見て、息子が目を丸くして見つめていまし
た。

さて、出発です。
わたしたちは、対岸のメトヒに車を置いておりましたので、ボートタクシーに
乗って渡ります。たった15分ほどの距離ですが、そこは俗世界の入り口のよ
うでした。
車のない社会とは、なんと気持ちを豊かにしてくれるのでしょう!

わたしの気持とは裏腹に、帰路に向かい、やたらとはしゃぐ子どもたち。
正しくわたしたちが住む俗世界の喧噪が始まる中、わたしは、ふとおおらかな
でもちょっとアイロニーを含んだ冗談を飛ばしました。その冗談がやたらと
ウケてしまい、
「ママってサイコー」とこどもたちに云われました。

それって、イドラで云ってほしかったなー


キドーニ


本当にイドラは素敵な島です。ご興味のある方は、オフィシャルサイトにどうぞ

http://www.hydra.gr/

宿泊した館は、

http://www.hydroussa.gr/hydra.htm





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『田舎生活αβ(アルファ ヴィータ)』 hazidakis@hotmail.com
 

◇◆次回は9月8日(火)イギリス・ケント州から配信予定です◇◆
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電子出版 :出たっきり邦人【欧州編】<まぐまぐID:0000023690>
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