出たっきり邦人【欧州編】  RSSを登録する

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2009/05/29

【出たっきり邦人 欧州編】858 オランダ

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              ◇◆甲編◇◆
             
        〓オランダ・アイントホーフェン郊外発〓

           ミナミも、ええよ。その24


             結婚ってなんだっけ?


性懲りもなく、もう一度結婚しようか、と悩んでいます。
経験された方にはご理解いただけると思いますが、もう一度結婚するというの
は、初めて結婚するときの10倍くらいのエネルギーが必要です。

ためらう理由は人それぞれでしょうが、私の場合は、つまるところ、もう一度
離婚するリスクを負いたくないのだと思います。別に、離婚でさんざんな目に
あったというわけではありません。当時の夫とは今も友好関係が続いているし、
持ち家も子供もなく、手続き的には結婚したときより遥かに簡単でした。

アムステルダムで国際離婚を専門に扱っている(笑)弁護士事務所にメールで
手続きを依頼して、例文を参考に自分たちで作成した「共有財産は二人で相談
の上、配分しました。互いに異存はありません」という主旨の、A4一枚ほどの
「合意書」を提出します。「アムステルダムまでわざわざお越しいただくのも
ご面倒でしょうから」と、事務所の人に勧められたとおり、近所の公証人に二
人の身分証明文書を発行してもらい、これも併せて提出します。あとはすべて
弁護士事務所にお任せ。しばらくすると、裁判所が届け出を受理したという連
絡が入り、それからひと月もしないうちに「結婚届が出されていた市役所に離
婚が登録されたので、○年○月○日付で正式に離婚が成立した」と通知があっ
て、一件落着。

それでも「もう二度と離婚したくない」と思うのは、離婚をしたという事実に
つきまとう挫折感や敗北感……いや、そんな上滑りな言葉では表現しきれない、
「自分は結婚に失敗したのだ」という動かしがたい認識。自分の、自分による、
自分に対する認識。世間体なんてものは、あったとしても、ものの数ヶ月で風
に吹かれて飛んでいくけれど、自分が自分を断罪する気持ちは、いつだってそ
こにあります。あのとき「死刑執行人」の置いていった帽子が、いつまでも部
屋の隅のコート掛けにかかっているような感じ。

なので、今の彼とつきあいはじめた時も、結婚についてはまったく考えていま
せんでした。自分の住処も仕事もあって、一人暮らしでやっていける状況だっ
たから、考える必要もなかった。とりあえずは、互いの仕事の関係で、週末や
休日に会うだけでした。しかし、オランダを縦断するような長距離移動にもい
いかげんくたびれ、月々のガソリン代も値上がりするばかりだったので、2年
が経ったある日、いよいよ一緒に暮らすことになりました。

一昔前の日本の価値観で考えると、これは結婚に踏みきる絶好のタイミングで
す。でも今は21世紀で、ここはオランダ。1960年代以前に結婚した世代
や敬虔なキリスト教徒は別として、結婚して初めて一緒に暮らすカップルとい
うのは少数派です。書店のカードコーナーを見ても、「Samenwonen」と書かれ
た二人暮しを祝うカードが、結婚祝いのカードの隣で当然の顔をして並んでい
ます。

一緒に住んでみないとわからないこともたくさんあるから、確かに合理的なや
り方とは思うのですが、結婚していなくても一緒に暮らすのが当たり前になれ
ば、結婚の「プレミア感」は確実に目減りしてしまう。

二人で家をさがして家財道具をそろえるのも、「新生活」をはじめるのも、新
婚さんだけの楽しみではなくなってしまいました。二人暮しが世の常になって
久しいから、結婚していないのを理由に同居カップルが差別されたり、肩身の
狭い思いをすることもありません。年に一度の確定申告でも、冒頭で問われる
のは「同居している(=家計を共にしている)人がいますか」であって、結婚
しているかどうかじゃない。

結婚ならではの「特別」って何だろう??と考えて、まず思いつくのが苗字の
変更。女性だけでなく男性も、次の4パターンから選ぶことができます:
1.変更なし。
2.相手の苗字に変更。
3.連名式タイプ1(相手の苗字)―(自分の苗字)
4.連名式タイプ2(自分の苗字)―(相手の苗字)

でもこれ、大した話じゃないんです。市役所など自治体から来る郵便の宛名に
使われるといった、ローカルな管理レベルでの「通り名」に過ぎず、出生証明
書(日本で言う戸籍)のような、IDそのものには全く関係がありません。中
途半端で紛らわしいだけのこんな制度に何かメリットはあるのでしょうか?自
分の苗字がイヤでしょうがないから、ローカルレベルだけでも新しい苗字を使
いたい!とか、国際結婚を機にエキゾチックな苗字が名乗れるようになる!と
か、局地的だけど、なんちゃって入り婿になれる!とか…(オランダで入り婿
になるという状況があるのか知らないけど)。

結婚ならではのもうひとつの「特別」は、財産分与でしょう。事前に何の取り
決めもせず、標準手続きにそって結婚すると、日本のように、夫婦の財産はす
べて共有財産になり、いざ離婚となれば、預金や家から家財道具まで、完全に
50/50で分け合うことになります。でもこれは、収入のない妻が離婚で無
一文になる悲劇を防ぐという救済制度であって、夫婦それぞれが同じレベルの
収入を得たり、それぞれが事業をはじめたりするケースが珍しくない今どきで
は、特にメリットがないどころか、デメリットになる場合すらあります(負債
を抱えたときなど)。なので、事前に各財産の所有権を夫婦間ではっきり取り
決めて(「夫婦財産契約」)結婚するのもごく当たり前の話になりました。

ざっと見ただけでも特別感の薄れた結婚ですが、法的にも、前々からその傾向
があったようです。これまたオランダらしい話ですが、結婚という従来の制度
に収まりきらない人たちのニーズを満たすために、結婚に準ずる別の制度が着々
と用意されてきました。

まずはじめに登場したのが、同居契約制度。異性同性を問わず、結婚できない
/したくない人たちが、一緒に住む相手と生活保障や財産分与、子供の養育に
ついて取り決めを交わすためのもので、公証人を介して法的拘束力のある文書
を作成する方式と、当事者間で私文書を作成する方式とがあります。1980
年より、前者の方式で定めされた同居人は、年金や相続税問題を含め、結婚し
た夫婦とほぼ同等の扱いが受けられるようになりました。

この制度の一番の特色は、契約当事者が2人以上でも良いことです(!)。実
績はまだまだ限られていますが、記念すべき(?)第一号が2005年に誕生
しています。1人の男性と2人の女性の間で成立したケースですが、脂の乗っ
た中年お三方が、喜びいっぱいで結婚式スタイルのパーティを開いている様子
がTVのニュースでも流れました。一人の花婿とウェディングドレスを着た二
人の花嫁…。これは実質、違法なはずの一夫多妻を合法化しちゃったことにな
ります。もちろん異議を唱える声も上がりましたが、担当大臣は動じる風もな
く、制度は今も存続しています。もちろんこの制度は、一夫多妻を推奨する目
的で作られたものではありません(^-^;

また1998年には、新たに登録パートナーシップ制度が導入されました。同
居契約制度と同じで、結婚できない/したくない異性・同性カップルのための
もので、法的には結婚とほぼ同等の位置付けになります。何が違うかというと、
二人の関係の中で存在する子供の問題です。男女カップルの場合、子供が生ま
れても「認知」しないと男性は法的な父親にはなれません。また、同性カップ
ルで第三者の助けを借りて子供をもうけた場合については、親権だの養育権だ
の、養子縁組だの、とさらにややこしくなります(でもそういう選択肢が存在
して、法がちゃんと整備されていること自体、素晴らしいことだと思います)。
そしてもう一つ、このパートナーシップが結婚と違うのは、わかれるときに裁
判所のお世話にならなくて良いという点です。

こうして法的にも結婚以外の選択肢が用意されているわけですが、それでは男
女のカップルにとって結婚の意味は薄れてしまったのか、というと、決してそ
んなことはありません。様々な価値観を受け入れて発展してきたリベラルなオ
ランダですが、個人のレベルで見ると、わりと、古きよき時代の価値観を温存
している人が多いのです。そして、結婚という概念そのものが持つ価値も、意
外に目減りしていません。

男女のカップルにとって、二人の関係をこの上なく決定的なものにするのは結
婚であり、結婚して子供をもうけて、幸せな家庭を築くのが典型的な幸せの形。
仕事でも趣味でもなく、家庭や家族が何よりも優先されるのが、当然のあり方
なのです。ついでに、単身赴任による別居結婚など、離婚したいと思っている
わけでもない限り、選択肢にすら上がって来ません。遠方への転勤になれば、
一家全員で一緒に引っ越すか、その仕事は辞めて通勤可能圏内で再就職するか、
2つに1つ。現代の日本では考えられない、昔ながらのライフスタイルを維持
しています。

それでは、一緒に暮らして久しい彼氏彼女は、何を機に結婚を考えるのでしょ
う?心身ともに自立した男女が一緒に暮らすことを決めたのであれば、その時
点で二人の関係は安定しているはずだから、二人が結婚に一歩近いところにい
ることは間違いありません。でも、家を買い、朝晩一緒に過ごして、普通の結
婚生活と変わりない暮らしをしている彼氏彼女にとって、「今の生活」と「結
婚した後の生活」の境目は極めてあいまいです。

そういう状況で結婚するというのは、「けじめ」や「区切り」をつけるという
象徴的な意味を持っていたり、前々からの願望の達成であったりするわけです
が、もっとも妥当で一般的なのが、子供ができたから結婚する、という必然性
に基づくパターンです。「お父さんとお母さんは結婚しているものだ」という
従来の価値観が前提にあって、自然とそういう流れになるのでしょうが、実際
のところ、結婚しないままに子供が生まれると、何かと面倒で煩わしいのです。

子供ができて、そのまま法的に親子関係が認められるのは、結婚している夫婦
だけの「特権」ですから、彼氏彼女に子供ができると、とにかく法的書類が必
要になります。もちろん公証人が介入しますから、書類を作成するたびに相応
の費用も発生します。また、生まれた時に作成された親子関係を示した書類だ
けでは、これからの子供の人生で持ち上がる大小さまざまな法的事項をすべて
カバーすることはできないので、何かあればその都度書類を作成して届出をす
る必要があります。

つまり、結婚した夫婦であれば、気にしなくていいようなことに、時間と労力
とお金を費やすことになるのです。そもそも親権や養育権など、親として基本
的な権利を手に入れるためにすら、お金を払って書類を調えなくてはいけない
のも、ばかばかしい感じがします。子供がいるのであれば、結婚できない特別
な事情や信条でもない限りは、結婚するのが得策でしょう。

余談になりますが、私が知っている限りでは、3組のカップルが結婚せずに出
産・育児を経験しています。残念ながら、結婚しない本当の事情を伺えるほど
親しい人たちではないので、彼らにまつわるエピソードだけ、ちょっとご紹介
しましょう。

1組目はワイルドヒッピーライフを地で行くオランダ人カップルで、基本的に
「結婚」なる社会制度を受け入れていない人たちです。彼女は口数の少ない、
モナリザの微笑を持つ美人。彼は良家の生まれにして家族と縁を切り、落ちぶ
れてパリの橋の下で浮浪者をしていたこともあるという奇異な経歴の持ち主。
幼少時代にはカリブ海に浮かぶ某島に住んでいたこともあり、やたらとダンス
が上手い。ついでに趣味はハッキング。出産お祝いに行ったら、ベビーベッド
の置かれたリビングルームが鶏小屋の置かれた裏庭に開け放たれていて、鶏糞
のいっぱい付いた木靴が床に転がっていました(爆)。赤ちゃんは病気にもな
らず元気に育っているので、きっとこの子は鳥インフルエンザにも豚インフル
エンザにも、O−157にも無縁の人生を送ることでしょう。

2組目は、普通に会社勤めをする共働きのオランダ人カップル。海外営業の彼
氏は出張に次ぐ出張で、家にいるより飛行機や車で移動している時間の方が長
いくらいですが、どんなときもユーモアを忘れない明るい性格で、職場でも男
女を問わず人気があります。ある日、彼がついに父親になったと聞きつけて、
「奥さん、無事出産でよかったね!」と声をかけると、
「奥さんじゃなくて、彼女」と笑顔できっぱりと訂正が入りました。
「え、結婚してないの?」
「うん」相変わらず自信たっぷりの笑顔です。
「ふーん」と腑に落ちない様子の私を見て、
「結婚は、したくなったときにすればいいんだよ」と満足気にいいました。
まぁ確かに、面倒な手続きさえ厭わなければ、オランダではそれでも別にかま
わないですよね。結婚は、子供を産むのと違って、余命一ヶ月だろうと還暦だ
ろうと、思い立ったらすぐできるから。

3組目も、平凡なオランダ人カップルです。彼女とはほとんど面識がないです
が、彼氏はぬりかべのような巨人で、面と向かって配慮に欠ける言葉を口にし
ては、人の爪先を踏んづける(=人の気分を害する)のが得意な人です。つま
り、典型的な気の利かないオランダ人男性です(笑)。このカップルには女の
子が二人いますが、4年ほど前に別れてしまいました。

ある週末、ぬりかべ氏にマーケットで出くわすと、小学校低学年くらいに成長
した女の子二人と、新しい彼女を連れていました。また別の週末には、同じマ
ーケットでぬりかべ氏の元彼女に出会いました。新しい彼氏とその連れ子らし
い男の子が一人、そして彼女の娘でもある、前に見た女の子二人が一緒でした。

どちらのご一行も重苦しい雰囲気を引きずっていましたが、特に目を引いたの
が、異様に静かな子供たち。大人しくしていた、のではもちろんなくて、子供
が本来持っているはずのエネルギーというか、「陽」の部分をどこかにすべて
置き忘れてきたような、しんとした暗さをまとっている。その眼差しはどんよ
りとして子供らしさには程遠いものです。あの二人の女の子を見ていると、
「子供は親を選んで生まれてくる」という言葉も色あせてきます。

# # # # #

さて、結婚の話もないままに二人暮しをはじめた私たちでしたが、一年ほどす
ると、彼が結婚の話をたびたびするようになりました。でも私の心情としては
「結婚することじゃなくて、二人でずっと一緒にいることが大切」なので
す。二人でちゃんと手をつないだまま、老後を迎えることができるか。差し迫っ
た必要もないのに、上手くいっている今の生活に、あえて「変化」をもたらす
ことに、私はチャンスよりもリスクを感じます。

生活保障、年金給付、遺産相続といったメリットが、オランダのように結婚だ
けのものではない状況で、それでもとにかく結婚したいと思うためには、自分
の中で、結婚というコンセプトが幸せや希望を象徴していなくちゃいけないん
ですよね。

結婚したことのない彼は、結婚することに幸せや希望を感じています。彼がそ
れほどにこだわるなら、結婚をしないとかえって関係がまずくなるかもしれな
い、という不安もあります。ずっと一緒にいたいのなら、別に結婚したってい
いじゃない、という考え方もできるでしょう。

結婚式で「Ja」といわない限り結婚は成立しないんだから、直前まで時間を
かけてじっくり悩めばいい、と自分に言い聞かせ、様々な思惑を頭の中でぐる
ぐるさせながら、結婚の準備を進めています。

あめでお

beraboamedeo@hotmail.com
 


◇◆次回6月2日(火)は、アイスランドから配信予定です◇◆
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【北米・オセアニア編】【中南米・アフリカ編】【アジア編】
          【出戻り邦人】もよろしくね

         ◇◇◇詳細は下記のHPで◇◇◇
         http://www.geocities.jp/detahome/
       各種問い合わせ先:detahou@hotmail.co.jp

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電子出版 :出たっきり邦人【欧州編】<まぐまぐID:0000023690>
発行協力 :まぐまぐ http://www.mag2.com/
発行責任者:欧州編ライター一同 連絡先:oushuhen@hotmail.com
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