出たっきり邦人【欧州編】  RSSを登録する

スペイン、ギリシャ、イタリア、スイス、フランス、オランダ、ドイツ、ポーランド、イギリス、アイルランド、アイスランドからのリレーエッセイ。姉妹誌のアジア・北米オセアニア・中南米アフリカ3編と出戻り邦人もよろしく!

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2009/05/19

【出たっきり邦人 欧州編】855 ドイツ連邦共和国

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             ◇◆乙編◇◆
             
         〓ドイツ・デュッセルドルフ発〓

         <ビールだけがドイツじゃない?>

    第16回 コウノトリの出現、退職、結婚式、転職、そして…


 気がつくと僕は5月3日(日)、デュッセルドルフマラソンのスタートラ
インにいた。これでマラソンは何回目だろう、かれこれ10回目の参加にな
るはず。でも今回ほど複雑な気持ちでスタートを迎えた事はなかった。


===
3月末でとある会社を退職。その後休む暇もなく僕は相方の母国、中央アジ
アのとある国へ飛んだ。僕と相方は既に去年のうちに書類上籍を入れていた
のだったが、式というものは一切行っておらず、いろいろな意味でけじめを
つける為に今回式を行う事にした。


実は、退職する直前の3月ギリ末に、相方が妊娠していることが判明。式に
加えておめでたとういう二重の喜びの中での帰国となった。


相方の母国について少し触れる。この国はとある資源が取れるため、大国を
うまく利用して外貨を稼いでいる(自国民の見方では「大国に利用されてい
る」とのことだが)。資源はあるのだが、水があまりない為一般家庭では水
の利用が制限されている。相方の家も例に漏れず、シャワーは朝・夕にし
か使えず、慣れるまで少し不便だった。
===


既に回復しつつある相方の声援を受けて、いよいよマラソンがスタート。そ
こそこ規模の大きい大会のようで(合計で10000人以上との発表あり)、周り
には大勢のランナーと応援する人達。そして僕の前には4時間の印をつけた
ペースメーカーが。


===
相方の母国についてもう少し。経済の発展に伴い、車の数が増えたようで、
さらに最近はRVのような大型の車が増えたと言う。道はそれなりに広いのだ
が、車の数の増加の方が多いようで、夜中を除いて市中心部は大渋滞。公共
交通機関もあるにはあるのだが、とにかく人は車に乗る。


そして乾燥気候の為に砂埃が常に舞っていて、外出するととにかく埃っぽく
なる上、家の中まで砂が入ってくる。日本ではあまり見られない光景である。
また、車の運転が荒いのだが、それに負けず歩行者も荒い。信号もあまりな
い為か、平気で道路を横切る。

また、実家やネットカフェでは未だにダイヤルアップ(コネクションが遅
い)。そんな中でも皆辛抱して使っている。ドイツのコネクションに文句を
言ってしまう自分を恥ずかしく思うと同時に、こちらの人達はいろいろな
意味で強く生きていると思った。
===


マラソンは10kmを過ぎた。日本人の街デュッセルだけあって、日本人のラン
ナーや応援する人にも日本人が本当に多い。知っている人がいてもいなくて
もやっぱり日本人の応援、さらに地元だと気合が入る。


===
母国について再度。車や歩行者の荒さとは一転して、人がとても優しい。ど
ういう所でそれが見えたか、バスの中である。女性や少しでもお年寄りと見
受けられる人が乗ってくると、100%男性は席を譲る。譲られた方も当然の
ようにそこに座る。いくら別の席が空いていたとしても、見かけたらすぐに
立って譲る。これがポイントのようだ。小さい事だが大切な事、そして日本
やドイツでは見かけない光景である。


水がない、さらに不便な事ばかり多いこの国で、人々は強い。強く生きてい
かないといけないのだろうか。
===


15kmを過ぎた。昨日までは天気が良かったのだが、今日は曇り空。デュッ
セルドルフの街中を走るだけあって、沿道の声援が途切れない。寒い中
本当に応援の人達には感謝である。


===
式は4月某日に行われた。一生に一度の、新郎として参加した結婚式。この
国の伝統に従い、でもたくさん踊りたくさん食べて朝まで続いた訳ではない
けど、表現のし様のない数時間だった。


心残りなのは、目の前の食べ物にほとんど手をつけられなかったこと。も
ちろん新郎なので食べる事は二の次である。十分理解している。ただ純粋
にもったいないと思っただけである。特に水の少ないこの国で、これだけ
の料理にも大量の水を使うはずである。それに、僕らが食べ切れなかった
食べ物を必要としている人がいるはずなのに…。


後で義父に聞いたところ「気持ちは分かるが、ああいう場所では食べきれ
ないほどの食べ物をテーブルに並べて飾るのが、来てくれたお客さんへの
感謝の気持ちを表す事になる。それに食べ物が少ないよりはいいのでは?」
との返答。納得はできないが、もう後の祭り。持ち帰りという習慣もこの
国には存在しない。


次回、いつか日本かドイツで式の第二弾をする時には、食べ残しの出ない式
にしてやる、と心に誓った。
===


20km。体力も気力もまだまだ。4時間のペースメーカーもすぐそばに居る。
中間地点でのタイムもまあまあ。このままペースメーカーの人達について
いかなければ、と思う。


===
式が終わってドイツに戻ってきた。家に着いて思ったこと。空気が全く異な
る事、母国は乾燥+砂埃だらけだったが、ドイツのは潤っていて緑の匂いが
する。空気がこれほどまでに美味しいと感じるなんて、いつ以来だろうか?


そして休む暇もなく数日後、僕の新しい職場(転職先)へ。慣れない環境な
がらも面倒を見てくれる新しい同僚に感謝しつつ、数日が過ぎたある日の朝
の事…。


仕事中、突然の電話。電話の主は産婦人科の先生。その日は相方の定期健診
だったことを思い出しつつ、先生の声がいつもより暗い。そして「前回の検
診から赤ちゃんの大きさが変わっていないどころか、小さくなっています。
そして心臓の動きも見られません。残念ですが、ほぼ流産でしょう。そして
すぐにでも手術(処置)が必要なので…」。


何をしていいか分からない僕がいた一方、僕以上に落ち込んでいるであろう
相方と話をしたい。そう思い携帯電話に電話した。やはり…、大泣きして、
自分を責めて、理由を探し出そうとする、さらに泣き喚く…。ただ慰めの言
葉をかけるしかなかった。
===


25km経過。走りながらいろいろなことを考えているうちに過ぎてしまった気
がする。


===
その日は早退させてもらった。来たばかりの新人なのに、上司は快くOKして
くれた。ありがたい。


家に着いた。泣き疲れた顔をした相方と、そばには母子手帳が。今回の検診
から使い始める予定で病院が準備してくれていた物だった。それを見てまた
涙が出る。


それからしばらくは外で他の人の赤ちゃんを見る度に二人で暗い気持ちに
なった。どうして自分達がこんな思いを、どうして流産してしまったのか
?妊娠初期の段階で飛行機に乗ったのがいけなかったのか、式の準備でス
トレスがたまってしまったのか、国に帰ったのが久々すぎて生活に慣れな
かったのか、何か体に悪い事をしてしまったのか、等、頭を過ぎる数々の
疑問。流産は僕らの思っているより頻繁に起こっていると聞く。でもやっ
ぱり「どうして?」という思いは消えない。
===


30km経過。段々疲れてきた。自分がこんなに弱いのだから赤ちゃんも弱か
ったんだぞ!と自分を責める自分が居る。じゃあ、42km普通に走れたらこ
んなこと(流産)にならないのか?等、疲れのせいか、考えても仕方のない
ことを考えてしまう。


===
流産が判明した次の日だったか、いつも野菜を買う店に行った。そこのおば
さんは僕らを非常に好いてくれていて、会う度に「子供はまだか?この(売
っている)野菜を食べて早く子供を!」と言ってくれる、明るくお節介な人
なのだ。


今回も案の定僕らを見るなり、「久しぶりー!」そして「子供は??」と。
適当に誤魔化す事もできたが、どうしてもこの辛い思いを共有、そして慰
めて欲しいくて一部始終を話した。やっぱりおばさんの表情は暗くなった
ものの、「弱い子が生まれてそれを育てていく事の大変さより、言い方は
悪いけど流産の方がまだマシだったのよ。お母さんを苦労させないよう、
自分で弱さを悟って自分からいなくなったお母さん思いのいい子だったの
よ」と。
===


35km通過。残念ながらペースメーカーとの距離は少しずつ開いていく。辛い、
きつい、疲れた、足が動かない…、いろいろな言葉が頭を過ぎる。生まれて
くるはずだった子供、女の子なのか男の子なのかも分からない、生まれて来
たかったこの子はもっと辛かったはず。そう思って何とかついて行こうとす
るが、足が思うように動かない。


===
処置(手術)の日。朝から雨だった。時間的にはあっと言う間だったが、相
方の精神的苦痛を考えると、時間の長さは関係ない。手術の間も一緒に居
たかったが、病院側からあっさり却下。そして待つこと1時間。やっと相
方が戻ってきた。うまい言葉をかけることができなかった。ただそばに居
る事しかできなかった。


実は今回のマラソン、参加をキャンセルすることも考えた。デュッセルド
ルフのマラソンは毎年ある。そうでなくとも他の町に行けばいつでもやっ
ている。こんな大変なことがあったのに、快く参加する気にあまりなれな
かった。でも相方が言ってくれた。「大好きなマラソンなのだから行って
らっしゃい」、と。。。
===


40km。もうペースメーカーは見えなくなってしまった。でも歩くことなく
ひたすらゴールを目指して走り続ける。そしてメイン会場のライン川沿
いにあるゴール地点まで1kmとなった所で足を速める。周りの声援も聞こ
えないくらい、ゴール目指して全速力で走り続けた。そして電光掲示板が
見えた。


ゴール。やった、4時間を切っている、快挙だ。


幸いな事にペースメーカーが4時間よりも速いペースで走ってくれたので、
多少遅れても4時間を切る事ができた。毎度の事ながら時間通りに走ってく
れたペースメーカーに感謝。そしてゴールで僕を待ってくれていた相方の
所へと急いだ、ゴール後にもらったメダルと共に…。


===
手術(処置)から数日後、担当の産婦人科へ行った。術後の経過も良好。


そして先生が「母子手帳はどうしましょうか?」。僕らは迷わず「お返し
します」。


今回の事は一生忘れられないだろう。でももう後ろを向いていくつもりはな
い。人生でもマラソンでも、ただひたすら走り続けるのみである。


Pride Berliner


ご意見・ご感想をお待ちしています。
pride-berliner2007 hotmail.co.jp
(2007とhotmailの間に@を入れてお送り下さい)

◇◆次回は5月22日(金)アイルランド ダブリンからの配信予定です◇◆
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               ◇◇◇詳細は下記のHPで◇◇◇ 
         http://www.geocities.jp/detahome/
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