2009/05/01
【出たっきり邦人 欧州編】851 ギリシャ
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◇◆甲編◇◆
〓ギリシャ・スパルタ発〓
「田舎生活αβ(アルファ ヴィータ)」
第五十六回
お鳥騒動
聞くところによりますと、江戸時代には「お鳥見」と呼ばれる、鷹狩りの下
準備として、鷹の餌となる鳥の棲息状況を調べる役職があったそうな。その
裏側には、幕府の密偵という役割があったそうで、鳥を扱うといえども重要
な任務を担っていたようです。
規模こそ違いますが、我が家もいつの頃からか、鳥たちの生息に密着した生
活をするようになっています。
3月上旬のことです。その日は日曜日で、良いお天気でしたので連れ合いは
早朝から登山に出掛けておりました。
さて動物たちの世話でもしようかと下に降りますと、いつもでしたらすっ飛
んでくる愛犬レオンの姿が見えません。嫌な予感がしたのですが、そういえ
ば夜半に大音響の雷が鳴っていたことを思い出し、きっと何処かに隠れてい
るのだろう、と思いました。彼は雷を非常に恐れています。
暫く経って、案の定バツの悪そうな顔を覗かせたのですが、何だか辺りの様
子が変なことに気付きました。
シーン、という音でもするような静けさなのです。
鳥小屋に行きますと、1羽のお婆ちゃん雌鶏が横たわっていました。既に冷
たくなっています。
そのうちに、番でいるアヒルの雌のほうがいないことに気付きました。
キキと呼んでいたこの雌は、性格がよい上、毎日欠かさず卵を産んでくれて
いました。
帰ってきた連れ合いと、近辺を探し回りましたがやはり見つからず、お隣に
住むバルバ(年配の男性に対する敬称)に尋ねますと、早朝の5時ごろ、双
方の裏庭から鶏たちの騒ぎを聞きつけ、猟銃を持って飛び出したそうですが、
何らかの小動物が逃げ去った、とか。
状況からの推測により、どうやら隣の鶏を狙ってやって来た狐が、人に阻ま
れ我が家に侵入し、犬が雷に怯えて隠れているのを良いことにまず鶏を襲っ
たものの、あんまりにも重くて運べず、次にアヒルのキキを犠牲にして連れ
去った、ものとみられます。
キキを可愛がっていた我々は、暫く放心状態でしたが、わたしはアヒル小屋
に残された9個の卵を見て、健気なキキの姿を思い浮かべて涙がこぼれてき
ました。
卵を手にとって見ますと、まだ抱卵していた様子はなく冷たいままでしたが、
上手くすればキキの子孫が残せるのでは?と思いを巡らしました。
連れ合いの「孵卵器があればなあ」という言葉に、ふと娘の幼稚園時代の園
長ヤァナ先生が持っていることを思い出しました。
早速電話をしてみました。最後にお逢いしてからかれこれ4年が経ちますが、
まるで昨日のことのようにわたし達を覚えて下さっていて、突然の電話を詫
びてから、アヒルの悲劇を語りました。
そんな状態ならば、早ければ早いほど良いのですぐに取りにいらっしゃい、
といって下さり、連れ合いと取りに行きました。
実は、家庭用の孵卵器がどんな物なのか知らず、実物を見て初めて意外と小
さい物であることを知りました。
形は、昔、母が使っていた、洗った食器を置く水切りに似ています。
底に水を溜めておいて、その上に網目状の板を設置し、卵の大きさに応じて、
仕切り板を差し込みます。それから蓋をして電気をオンにします。
3月8日、午後3時半。アヒルの孵卵開始日、と記録していきます。
ヤァナ先生の話によると、日に3,4回ぬるま湯をスプレーしてやり、卵が
くるり、と回るように専用の取っ手を動かさねばなりません。上手くいけば
28,9日後卵は孵る、はずだそうです。
それから毎日、スプレーしてはくるり、底に水を足してはくるり、なんてこ
とを繰り返しておりました。うっかりしがちなわたしのことですので、念入
りにすべてを記録しておきます。
そんな間に、飼っているチャボが抱卵のしぐさを見せ、夜にそぉっと鶏の卵
とすり替えて個室に移してやりました。
そういえば、子猫も3匹生まれました。
動物好きな娘が目を輝かせながらわたしを手伝ってくれる様子は、遠い昔を
思い出します。小さかったわたしにもそんな頃があったのです。
27日目の朝、娘が学校に行く前に孵卵器を見に行ったところ、なんと卵の
中からピーピー声がする、といいます。
わたしは、独りになった我が家で、孵卵器を前にお産に似た緊張と向き合う
ことになりました。
3個の卵から声は確かにするものの、固い卵の殻からは一向に出てくる様子
がないのです。暫くして、やっと中から殻を突く一点が見え始めました。
後で取り返しのつかないことになっては、と思い、アヒルの飼育に詳しい友
人のエヴァに電話をしてみました。
「先の尖っていない木の棒で皹の入ったところを突いてみて!殻が固いの
で自力で出てくるのは無理かもしれないから手伝ってやって!無事出たら、
専用の保温器(以前に聞いていて用意していました)に入れて体を良く乾か
して!保温は30度に保つこと。じゃあ後で寄るわね!」
とアドバイスしてくれました。
こういう時にも役立つ日本の割り箸でそぉっと突いてやりますと、あっ、出
てきましたアヒルの嘴が!
娘がお風呂場で遊んでいたアヒルのおもちゃそっくりな嘴を覗かせて、懸命
に殻から出ようとしています。
小一時間そんな状態が続いたでしょうか?窒息するんじゃないかと思い、思
わず大胆に殻を破ってやりました。
体長8センチくらいの黒っぽい濡れた羽毛に包まれて、やたらと大きい黄色
い嘴をつけた赤ちゃんアヒルの誕生です。
1,2,3羽と続けて生まれ、時間の経つことも忘れアヒルの誕生に立ち会
いました。
スポットライトを取り付けた専用箱(郵パックの特大箱)に3羽を入れ終え
た時には、お昼を過ぎていました。
頭が重すぎて思うように動けない3羽を見守りつつ、孵卵器の中に残された
6個の卵から、わずかでも反応のある卵を割り箸で突いてみます。
外は黒い帳が下り、シトシト雨が降り出しました。
その後、4羽孵りましたがそのうちの3羽は死んでしまいました。
2個残った卵は、鼓動もなく受精出来なかった卵でした。
4羽は、エヴァに「そんなに上手く育つなんて信じられない!」と言わせる
ほどスクスク育っています。
ですが、どんな生き物にせよ子育てって大変ですね。
予め用意していたにわとりのヒナ用配合飼料と飲料用のぬるま湯を3時間
ごとに替え、汚れたシートも取替え、夜も昼もなく、まるで新生児を育てて
いる様でした。
生後3日目からは、ゆで卵を磨り潰し、イラクサ(触ったらチクチクする例
の植物)をみじん切りにして与えているうちに面倒くさくなり、2階の住居
で寝食を共にすることに。
いつのまにか、家族4人と、室内で飼っていますレオンと同じくコリー犬の
ジェシカも一緒に、アヒル箱を覗くのが習慣になってしまいました。
アヒルというのはどうも夜も目が見えるそうで、日毎に夜の鳴き声が騒がし
くなってきました。もう限界です。
そうしているうちにチャボからも4羽のヒナが無事孵り、アヒルの巣立ち
(?)を決めました。
今ではわたしの保護を離れ、水芭蕉が咲く鳥のケージでお日様を浴びてヒヨ
コとにわとりやお父さんアヒルの傍で過ごしています。
燕も我が家に作っていた古巣に帰ってきて、新たな生命を育んでいます。
生きものたちとの暮らし。時には騒動もありますが、生きていることの素晴
らしさを教えてくれます。
キドーニ
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『田舎生活αβ(アルファ ヴィータ)』 hazidakis@hotmail.com
◇◆次回は5月5日(火)イギリス・ケント州から配信予定です◇◆
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