【出たっきり邦人 欧州編】771 イギリス
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◇◆乙編◇◆
〓イギリス・ケント発〓
『万華鏡』 第61回
<チャイナ・パワー>
北京オリンピックが迫ってきました。スポーツの祭典といえども、政治とは切
り離せないオリンピック。チベット問題をめぐって、ここイギリスでも実に様々
な意見がメディアを賑わしていました。
人権無視の中国はひどい国、スポーツと政治は関係ない、中国製品ボイコット、
でもボイコットして一番困るのは自分たち、イギリスだって過去にチャゴス諸
島やモーリシャスに同じようなことをした、人のことが言えた柄ではない、チ
ベットは1951年に欧米の助けを要請したのに、そのとき欧米は何もしなかった、
数多い多国籍企業の商売がかかっている、陸上競技選手はいいように使われて
いる、2012年にはイギリス人警察が中国で聖火を持って走る選手を護衛してい
るかも、などなど、イギリス人から見る中国やチベット問題は視点が違い、興
味深いものがあります。
北京の次はこのイギリスで2012年にロンドン・オリンピックが開催されるので
す。政治への関心が皆無だった昔は、冬季オリンピックも含め、若かった私は
よくテレビの前にかじりついて、色々なスポーツを観戦したものでした。
アメリカや日本によるボイコットがあったモスクワ五輪を境に、私のオリンピ
ックを見る目も変わりました。スポーツそのものより、政治的なトピックのほ
うが私の好奇心をくすぐるようになったのです。
北京五輪は8月8日午後8時8分に開始されます。中国では8はラッキーナン
バーですが、この8という数字は、ウロボロス、無限を表すシンボルでもあり、
数学でも使われます。ウロボロスとは、8の形に沿って自分の尾を呑み込む蛇
または竜のことです。蛇はあちこちの文明で崇められている動物だし、竜とい
えば中国と反射的な答えが戻ってきますが、世界の工場とも謳われる中国、無
限なる繁栄を描いているのでしょうか。
日本は大昔から中国の影響を受けてきましたね。漢字はもちろん、仏教や禅、
実に多くの日本文化は、元を辿れば中国から来ているのではないでしょうか。
ある友人が、中国語でお父さん・お母さんのこと、「パーパ、マーマ」と言うが、
なぜ西洋の言語に似ているのだろうと、素朴な質問をしていました。中国とは
「ミドル・キングドム」、真ん中の国という意味。中国人はダイナミックだし、
考え方は西洋人に似ているところがある。でも日本人と同じモンゴル系で、生
まれた赤ちゃんには蒙古斑がある。
イギリスには中国人コミュニティが多い。香港と上海との歴史的関係を持ち出
すまでもなく、イギリスと中国は大昔からの腐れ縁があります。中国語を学ぶ
イギリス人も多い。最近でこそ、日本語を学ぶイギリス人は増えていますが、
まだまだイギリスでは東洋といえば中国を指すのです。現在では中国からの留
学生が非常に増えており、どの国籍の留学生をも凌いでいるとのことです。
ロンドンとは違い、断然白人が大多数の地方では、日本人はまず中国人と思わ
れます。それを嫌がる日本人も多々いますが、イギリス人全部が他の文明や文
化の違いを意識したり、関心を持っているわけではないのです。東洋人=中国
人と見なすイギリス人には悪気はありません。最も、近年の中国パワー増強を
反映しているのか、中国に関心があるイギリス人によく出会います。
西洋とも日本とも関連が深い中国。でも西洋に近いのか、東洋に近いのか、よ
く分からなくなりました。そんな中、昨年9月から去る4月まで、ロンドンの
大英博物館で、秦始皇帝の兵馬俑のエキシビジョンがあり、閏日の2月29日に
このエキシビジョンを観てきました。北京五輪に合わせて、数体の兵馬俑が次
の五輪開催地ロンドンを訪れたのでした。
今年は閏年。オリンピック開催の年、アメリカ大統領選挙の年。閏年はグレゴ
リオ暦に基づいて、4年に1回、バランスを取るために2月は普段より1日が
増えますね。バランスを取る日、その日に兵馬俑と対面し、非常に感動するも
のがありました。自分の中でも何かがバランスを取ったような。
閏年のことを英語では「Leap Year」と言いますが、この「Leap」とは飛躍の意
味です。飛躍の年、無限のシンボルである8の数字を通して縁起を担ぐ。それ
はクァンタムリープ、すなわち大躍進を期待しているのかもしれません。そん
な奥深い意味も考えたりしました。
実際に西安にある兵馬俑を見た人たちにとって、大英博物館で陳列されていた
数体の兵馬俑なんて大したことはないようですが、私は紀元前に作られたとい
う兵馬俑そのものをこの目で見て、当時の中国文明には、アッシリアやシュメ
ールなどのオリエント文明との共通点や類似点があると感じたし、いい中国史
の勉強の機会ともなりました。
秦始皇帝は紀元前220年に各地の王国を統一し、中国最初の皇帝として君臨し
ました。英語の「China」は、秦「Qin(チン)」から来た名称です。兵器や生活
で使われていた色んな物品が展示紹介されており、私はオーディオガイドを聴
きながら、紀元前のものとは思えない各種物品をたんのうしていきました。展
示には英語のほかに中国語も場所によって説明が書かれており、ちょっとした
中国語復習にもなりました。
オーディオガイドでは、大英博物館の女性の中国専門家による説明が流れてい
ました。春秋戦国時代にあった中国大陸の国々を、最も西にいた秦国は圧倒的
優良な武器と戦闘戦略によって中国を統一したのでした。陳列されていた物品
はどれも興味深く、文明の高さに感嘆していました。そして色々想像させてく
れましたが、何よりも秦国人は騎馬民族であったという事実、中東の文明を彷
彿とさせました。
20体ほどしかありませんでしたが、それでもこれら桓桓たる兵馬俑が並列され
た展示に一番感動しました。7000体ある本場の兵馬俑はすごいだろうなと感じ
ます。オーディオガイドで、兵士たちの顔立ちには、とても東洋人とは思えな
い、どちらかというとトルコ人のようなものもたくさんあるとコメントしてい
ました。秦は西側から来た国、西域人に似た人がいても不思議ではないでしょ
う。
始皇帝が施した文字の統一、度量衡の統一、貨幣製造など、当時の生活様式も
色々学べました。鎧である桂甲や靴底の詳細もさることながら、私が一番驚い
たのは金属の装飾品類。トラなどがデザインですが、21世紀製?と思ってしま
うほど、現代商品に勝るとも劣らない逸品ばかりでした。
また、秦始皇帝はこの世から自分が消え去ることに、とてつもない恐怖感を抱
いていました。でも心の底では死は免れない事実であることを知っていたから
こそ、生前中から兵馬俑の制作を行わせたのでしょう。兵士と馬のほか、文官、
芸人、音楽家、動物たちなどもおり、次の世でも、皇帝として宇宙を支配し続
けるという計画でいたのです。二千年以上にわたって妨害されずに眠る始皇帝
も必滅の人間であったことに、親密ささえ感じました。
中学校の歴史授業の時に秦始皇帝について学んだ記憶が甦りました。秦始皇帝
は死ぬことを何よりも恐れ、不老不死の仙薬があると言われる東の島へ家来を
遣わせたが、その家来は仙薬を見つけることができず、秦国に帰ると間違いな
く処刑されるから、その島に留まることにしたが、その島は日本であったとい
う話を教師がしてくれたのを覚えています。今思えば、まだ兵馬俑が発掘され
る前でした。
大人になってから、それは「徐福伝説」のことだと知りました。秦の時代は紀
元前3世紀、日本では弥生時代初期でした。梅原猛氏の『古事記』にある解説
では、水田稲作と金属器と弥生式土器持って日本に来た民族は、秦の中国統一
によって中国から押し出された民族だったという可能性について語っています
(252ページ)。
当時文明的に先進国であった秦国から、かなりの人間が日本に渡ったかもしれ
ません。ふと、やはり文明的に先進国であったローマ人がこのブリテン島に渡
ってきた事実を思い起こしました。師が弟子に教えるように、古代文明人が先
進の技術を土着人に伝えていく情景を思い浮かべました。歴史にはロマンもあ
ります。結局いつの時代も、感情を持った生身の人間同士が様々なドラマを繰
り広げているのです。ネガティブ感情があれば、ポジティブ感情もある。
このエキシビジョンを通して感じたオリエント文明との共通点、中国語が文法
や発音において西洋の言語に近い理由もなんとなく納得できました。漢字も、
前身の甲骨文字は中東文明の楔や象形文字と同源と捉えることもできます。あ
る読者さんから白川静氏の本をいただきましたが、漢字のルーツも、戦や死や
祈祷や呪術と常に背中合わせで生きていた当時の思考が織り込まれているのが
よく分かるようになりました。
時は流れ、中国大陸も波乱万丈な歴史を辿り、共産国家として確立しました。
現代中国は建設ラッシュ。かなりの量の資源が中国で使われています。イギリ
スではセメント不足や鉛不足があったりしました。2010年には上海万博も控え
ている中国。まだまだ目が離せません。ナポレオン三世は中国を眠れる巨人と
准え、「目覚めると世界を揺るがす」という言葉を残しました。まさに私たちが
現在目撃している情景かもしれませんね。
私はまだ中国を訪れたことがないのですが、実際に訪れた人たちの話をいつも
興味深く聞いています。イギリスからだと中国は遠い。でもいつか訪れたいと
思っています。そして、そのときは秦始皇帝の兵馬俑を現場でたんのうしたい
ものです。これからの世界は、中国抜きでは語れない。インドとともに、世界
をリードしていく存在になる可能性が大きいと、気に入らなくても、多くのイ
ギリス人ジャーナリストは述べています。北京五輪はそんな正式な幕開けを表
すのかもしれません。
4年に一度の世界的祭典オリンピック。政治や商業的なことは横に置き、この
祭典のために昼夜トレーニングに励んでいる各種競技の選手たちが、それぞれ
の力を最大限に発揮して奮闘することで、多くの人を楽しませてくれることで
しょう。そして4年後、この祭典の舞台はここイギリスに移される。2012年は
たつ年。ウロボロスは他の形でイギリスに繁栄をもたらしてくれるでしょうか。
既に予算オーバーになっていますが、開催地の一庶民として、これからの動き
も追って観察していきます。
プリマ
『万華鏡』へのご意見・ご感想はkentprima@hotmail.comまでお寄せ下さい。
◇◆次回は7月18日(金)ポーランドから配信予定です◇◆
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◇◇◇詳細は下記のHPで◇◇◇
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各種問い合わせ先:detahou@hotmail.co.jp
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電子出版 :出たっきり邦人【欧州編】<まぐまぐID:0000023690>
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