出たっきり邦人【欧州編】 RSSを登録する

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2008/04/18

【出たっきり邦人 欧州編】746 ギリシャ

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                          ◇◆甲編◇◆


                     〓ギリシャ・スパルタ発〓

                         「田舎生活αβ」

                          第四十七回

                         素晴らしき週末



このところ、然したる変化もない農婦生活を送って来たのだが、先の週末は、
わたしにとって生涯忘れ難いであろう活動が続いた。
いわば、“我がまち・スパルタの環境改善をかんがえる”一環としての、環
境保護運動に取り組んだ2日間であった。

ことの始まりは、2週間ほど前にかかってきた友人の一本の電話であった。

「キドーニ、今からちょっとお邪魔してもよいかしら?助けて貰いたいこと
があるの」

バーバラから電話がかかってきたのは、早めの夕食を終え、一息ついた頃だ
った。外は春雨が降り続いていた。連れ合いが珍しく留守にしていたので、
女同士お茶を飲みながら、事の次第を聞く。

バーバラとは、子ども同士が所属する自転車競技クラブを通じて知り合った。
自転車先進国オランダ出身のバーバラとは、ヨーロッパ共同体が助成する
‘市中の自転車道政策’をスパルタ市議会に提案し、互いに署名運動に奔走
した経緯がある。

彼女がとあるポスターをわたしに見せる。そこには、アテネはもちろん、ギ
リシャ国内約20都市の名が連なり、非営利の自転車道推進協議会が主催す
る‘全国同時開催・市中サイクリング’が5月6日に行われる、と記されて
あった。

そこには、スパルタは記載されていなかったのだが、バーバラがインターネ
ットで知り、主催者に持ちかけ、その開催の手伝いをわたしに求めたのであ
る。

一介の農婦であるわたしだが、毎年行われる‘スパルタスロン競技’に携わ
っているため、市長をはじめ運営委員に知り合いも多い。

翌日、〈スポーツ連盟〉会長のS氏に面会を求め、早速用件を話したのだが、
異国人女性二人が申し立てたところで、「そうですか。どうぞおやりなさい」
では済むはずがない事に気づかずにいた。わたしの考えが甘かったのだろう。

わたしたちの提案事は‘ΧΥΜΑ(ヒィマ)’(商業用語ではバラ売り・ごち
ゃごちゃとか、理路整然としていないの意)と形容され、アテネの主催者が、
非営利団体であることにも難色を示し散々批判されたが、渋々オーガナイザ
ーとして知られるY氏とオンブズマンT氏との面会を取次いでくれた。

翌日の木曜日、Y氏を交えて〈スパルティアティコス〉自転車競技クラブ主
任の我らがK君も筆頭者として名乗り出てくれて形を成したのだが、議論
の結果、6日ではメディア向けに提示する文案の作成や運営面で時間的余裕
がないことから、翌週の13日に開催することが決まる。度々ミーティング
を行い、各自の仕事分担を決める。わたしと連れ合いはポスター作成係りと
なり、無料で提供してくれるという印刷会社に図案を持って行った。その時
は金曜日。翌週の火曜日までには、教育機関には配り終えたいので、超特急
並みである。何事においてもスローなギリシャ人感覚でことが進むであろう
か、心中穏やかではなかった。

予定通り刷りあがった500部の、連れ合いが文案を、わたしがアートデザ
インしたポスターはとても洒落た出来映えになった。(なまじっか芸大で学
んだわたしが役にたった滅多にない一例)
オーガナイザーY氏が作成した完璧なメディア向け公式文書を添えて、地方
新聞社4社、地方テレビ局とラジオ局に送った後、県下の小、中、高、大学
にポスターと公式文書を携えて訪れた。市中のお店にポスターの掲示を求め
歩き、電柱にポスターを貼って歩く。200部を貼り終える頃には足が棒の
ようになっていた。そんな足を引きずって、当日のサイクリングコースを決
定し、所要時間や困難な交差点地などをチェックしに自転車で巡る。
警察署の交通課長(正確な階級は怖くて聞けなかった)との面談には苦痛を
伴った。自転車道政策に対して批判的であったのだ。

熱中する余り、家事の苦手なバーバラが、3日間ほったらかしにしていた汚
れもののお皿を巡ってご主人と大喧嘩し、わたしはわたしで、夕食四品を用
意して出かけたにもかかわらず、連れ合いが缶詰を開けたことに‘カチン’
ときて喧嘩をふっかけ、翌日バーバラと人目も構わず大泣きした、という今
では笑えるエピソードもあった。

5月13日、当日。折からの黄砂(ギリシャではサハラ砂漠から南西風に乗
って飛んでくる赤砂)で空は煙ったようにぼわーっとしていたのだが、正午
開催という時間帯。普段なら暑くて大変だったろうが、幸いとみる。

近所の家族や子どもたちを誘って、中央広場に向かった。
いるいる。たくさんの自転車乗りたちが。300人は優にいる。スパルタ市
内人口18000人中300人だから、決して少ない数ではない。
保守的なスパルタの人のことだから、30人も集まれば上出来、と思ってい
たものだから、先導する警察車の後に従い、サイクリング者たちがメイン通
りを何百メートルに亘って連なり、最後尾にはクラブ所有の小型トレーラー
(途中で自転車に不具があった場合などに備え)を伴う光景を自ら進みなが
ら見つめていると、涙があふれた。横で連れ合いがビックリして、「あんま
り泣くと心臓に悪いよ!」と訳の分からないことを云っていた。彼なりに労
わってくれたのだろう。

馴染みの道中、あちらこちらのバルコニーから歓声が聞こえる。汗ばんだ身
体をエブロタ川でしばし休ませてから中央広場に向かって進む。
1時間半のサイクリングを終え、子どもたちの大歓声が響く中、イベントは
終わる。次回に向けて新たな始まりを感じる。

この素晴らしき週末を過ごした歓喜に胸を躍らせて・・・・

大袈裟に聴こえるかもしれない。だが、前日の出来事も忘れられまい。
というのは、《第四十二回・森は生きている》で書いたのだが、去年の夏、
ギリシャ全土を襲った山火事で、ここペロポネソス半島は一番の被害を受け
た地域であった。スパルタ周辺も例外ではなかったのだが、連れ合いが所属
する〈スパルタ市山岳クラブ〉の会報で、5月12日、パルノナス山脈の
〈ジジナーベリア〉間で、森林保護再生被害復旧の一環として、植樹会
(しょくじゅえ)が行われる旨が書いてあった。
早朝7時前に家を発つ。8時にジジナ村の広場に集合とあったからだ。自宅
からは35kmほど離れた標高1100mの森林地帯にある。
半ばほどに達すると、気が滅入ってきた。何処も彼処も焼き尽くされた木の
残骸が立ちすくんでいたからだ。
ジジナ村は、他所より被害が少なかったと見えて、やわらかい緑色に包まれ
てわたしたちを迎えてくれた。
しかし、集まった人々はほとんどがアテネからであり、40人前後がつるは
しや鍬、シャベルを持って指示された植樹地へ移動した。
地元の農学者から説明を受け、手渡された〈黒松〉の種一袋と、アカシア、
クヌギ、樫などの苗を持って道なき地帯に植えつけていく。
一歩間違えたら転がり落ちそうな、急勾配で岩だらけの植樹地だが、彩り
様々な野花が微笑みかけてくれた。同伴していた娘と同じ日本名の犬とも仲
良くなったりしながら、2時間強汗をかきながら鍬を振るった。

わたしは今こそ、森林再生を強く望む。これからも度々森を訪れて新らたな
芽を見守ろうと・・・

忘れがたき体験をした、2日間であった。


追記:〈植樹会〉のニュースが地方テレビのウエッブサイトに載りました。
   写真でその様子がご覧戴けます。
   http://www.apela.gr/17-68.html

      5月13日のサイクリングの記事が、地方新聞2社に載りました。
   どれも、〈大成功〉という字が躍っていました。引続き〈市中自転車
      道政策案〉を進めていきたいと思います。
  

ご意見、ご感想おまちしています。hazidakis@hotmail.com

キドーニ


◇◆次回は4月22日(火)イギリス・ケント州から配信予定です◇◆
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