2006/04/03
[Anglo-bites(イギリスつまみ食い)vol.55]
■◇■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2006. 4. 3 ━■
Anglo−bites (イギリスつまみ食い)
Vol.55
■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■◇■
□目次
● 名前の話(2)
● ペドロより愛をこめて(あとがき)
======================================================================
● 名前の話(2)
前号が届かなかったのではないかとご心配になられた方、ご安心を。
最初に名前の話を取り上げたのはホームページ上で、このメルマガが始ま
る以前の1998年のことになります。「名前の話(1)」にご興味のある方
は下記のURLをご覧ください。
http://www.tongarashi.com/~michie/anglo/back16.html#bk16b
さて、今回は、このときとはデータも話題も新たに、イギリス人の名前
について再度取り上げてみたいと思います。
前回では1997年の赤ちゃんの名前人気トップ10を掲げましたが、まず、
今回は最新のデータをお届けすることから始めましょう。以下は英国政府
統計局(National Statistics Office)がまとめた、2005年に出生届が出
された新生児の名前のランキングに基づきます。
女の子の名前では、9年前に第2位だったJessicaが第1位となってい
ます。続いて、Emily、Sophie、Olivia、Cloe、Ellie、Grace、Lucy、
Charlotte、Katieという順番になっています。イーという発音で終わる名
前が6つも入っているのが目をひきますね。愛称にイーで終わるものが多
いのと同じ理由で、柔らかい響きとそこから来る親しみ安い語感が好まれ
る傾向にあるのでしょう。
男の子の名前では、11年連続でJackが第1位の座に輝きました。が、実
数としてはだんだんに下降気味であるということで、前年より14パーセン
ト減でした。さて、来年はついに首位の座を明け渡すでしょうか。これに、
Joshua、Thomas、James、Oliver、Daniel、Samuel、William、Harry、
Josephと続きます。
おもしろいのは、女の子の名前を選ぶときには、男の子の場合よりも親
はもっと冒険的になるらしく、女の子の名前のほうが流行の移り変わりが
激しく、バラエティーも豊富だということです。
前回も触れましたが、イギリスでは、基本的に名前は選ぶものであり、
創作するものではないようです。多くの名前は旧約聖書やキリスト教の聖
人の名前からとられ、名前に関しては日本ほど造語能力は高くなく、バラ
エティーの点で見劣りしていました。が、最近はトップ100に典型的なアイ
ルランドやスコットランドの名前が多数入ってきており、イギリス人の名
前を多彩なものにしています。Ewan、Callum(スコットランド)やLiam、
Kieran(アイルランド)などがその例ですが、少し前までは、カラムとい
う名前を聞いたら必ずその主はこてこてのスコットランド人と決まってい
たものです。ところが、最近では必ずしもそうとは限りません。たぶん、
こうした名前の有名人に影響されて、響きがいいからとか、イメージがい
いからといったような理由で、自分の出自に関係なく、こうした民族色の
豊かな名前を選ぶ親が増えているのでしょう。
多民族化と言えば、トップ100の中に、Mohammed(23位)、Muhammad
(56位)、Mohammad(70位)とイスラム系の名前が3つも入っています。
この場合は、上記のようにイギリス人が他民族の名前を借用した例という
よりは、むしろ統計に含まれるイギリス住民の中に移民系の人たちの割合
が増えてきたことを示しているのではないかと思われます。
以上は昨年誕生した新生児の名前でしたが、現在生存中のイギリス人全
員の中で一番多い名前はJohnだそうです。これは上記のランキングでは70
位に位置し、人気は衰える傾向にあります。が、その愛称であるJackのほ
うは堂々第1位。もともとは愛称であった名前が、その正式の名前を人気
度で抜くということがよく見られるのも最近の傾向です。ほかにも、Harry
(HenryあるいはHaroldの愛称)やCharlie(Charlesの愛称)が同様の例
に当たります。特に、Harryはチャールズ皇太子の第2子の名前でもあり、
堂々たる王子の正式な名前となっています。しかし、日本ではまだこの傾
向を認識していないのか、日本のマスコミではヘンリー王子と呼ばれるこ
とが多いようです(ヘンリーという名前が伝統的に国王の名前として使わ
れてきたことも、その思い込みの原因の1つかもしれません)。Harryは
現在では立派な正式の名前なのです。
イギリス人の名前について特筆すべきこととしては、イギリス特有の階
級社会との関連が上げられるでしょう。名前を聞いただけで、どの階級に
属するかがわかることもしばしばあります。男の子の名前では、Jason、
Wayne、Darren、女の子の名前では、Sharon、Tracy、Michelleといえば、
まず間違いなく労働者階級の出だそうです。"Birds Of A Feather"という
BBCのコメディー番組がありましたが、この主人公の庶民的な(悪く言う
と品の無い)姉妹の名前が、TracyとSharonでした。わたしの知人にも
Tracyという人がいましたが、彼女のお姉さんの名前がやはりSharonで、
この番組を思い出したものです。
中産階級の名前として典型的なのが、男性ではCharles、Edward、Nigel、
女性ではFelicityとHarrietだそうです。Nigelと言うと、中産階級の優柔
不断でなよなよした男を想像させるとうちの夫も言っていましたので、
Nigelという名前は中産階級の名前としてかなり定着しているのでしょう。
余談ですが、名前とイメージと言えば、日産のシルビアを一時期所有して
いた、夫の友人が、シルビアという名前は、パブのカウンターで酒を出す
金髪女性を連想させると言っていたのを思い出します。名前のイメージと
いうのは、それぞれの人がかつて出会ったことのある、その名前の人たち
に対する印象によって形成されることが多いので、シルビアのイメージも
人によって異なるのでしょう。この人が出会ったシルビアという名前の女
性は、たまたまみんなパブで働いていたのかもしれません。
階級と名前については、ロジャー・ダーリントンという方のホームペー
ジを参考にさせていただきましたが、これによると、JasperやRufusという
男性や、Camilla、Davina、Jemima、Petuniaという名の女性は上流階級の
出である可能性が大きいということです(ピーターラビットシリーズのア
ヒルは、実はお上品なアヒルだったのですね)。
同じサイトの中で、ダーリントン氏が今では60歳代以上にしか見られな
い流行遅れの名前として男性の名前5つを上げていますが、そのうちの3
つ(Arthur、Percy、Horace)がハリー・ポッターシリーズの登場人物の
名前でもあるというのはファンとして興味深かく思いました。魔法界は万
事に時代がかっていますが、名前も古いようです。Hermioneも現在では中
年かそれより高齢の女性にしか見られない名前だというのを別の資料で読
んだことがあります。また、Cedricもたいへん古臭い名前だと、日本でタ
クシーとして使われていた日産の車を見てうちの夫が申しておりました。
さて、ここまで、男の子の名前・女の子の名前と分けて書いてきました
が、日本の裕美さんや千春さん、千里さんのように男女に共通する名前と
いうのもあります。Hilary、Lindsay、Leslie(あるいはLesley)、Kerry、
Kelly、Ashely、Vivian、Jocelyn、Kimなどがその例です。フランシスも
その一つですが、通常綴りで区別します。Francisとiを使うのが男性で、
Frances とeになるのが女性です。だいたいこういった男女区別の付かな
い名前で、学校でいじめられるなどの害を被っているのは、概して男性の
ほうが多いようです。その結果なのか、あるいはその原因なのか、これら
の名前はかつては男女ほぼ同等に使われていたのにもかかわらず、最近は
女性のほうが優勢で、だんだんに女の子の名前になりつつあるようです。
一方、女性が男性のように見えるほうはかっこいいと思われているよう
です。Nicki(最後をyではなくて、iにするほうがおしゃれ、女性形は
NicholaあるいはNicole、男性形はNicholas)、Sam(女性形はSamantha、
男性形はSamuel)、Charlie(女性形はCharlotte、男性形はCharles)、
Frankie(上記のFrancesとFrancis)など、今までは男性のものと思われ
ていた愛称を女性が名乗るのが近年流行しています。
さて、最後になりましたが、昨年9月にイギリスのニュースや新聞で取
り上げられた名前に関する話題を。ある教育関係のサイトでのチャットが
その発端となっています。教師は出席簿に載った生徒の名前を見ただけで、
どの子供が問題児か一目でわかるというものです。
このサイトによると、Bobbi-Joなどのハイフン付きの名前(2つの名前
をつなげたもので、女の子の名前として流行中)や、Kloe・K'tee(ケイ
ティーと発音します)・Kristopher・Jayne・Gyaike(ジェイクと発音す
るのでしょう)・Chevaughn(アイルランドの女の子の名前であるシボー
ンのことか?)など、普通のよくある名前の綴りを変えたものや、綴りに
関わり無くJordonといった名前は、即座に教師のブッラクリスト入りにな
るということです。また、Kyle、Liam、Charlie、Wayne、Kayleigh、
Charmaineといった名前も、見ただけで問題児であることがわかるとのこ
と。
一方、よい子の名前一覧表というのもあるのですが、問題児リストと重
なっている名前も少なくないことから、これらのリストは単に教師一人一
人の経験に基づいているだけなのではないかという懐疑的な見方もありま
す。
こうした教師間のチャットを知って、怒ったのは親たちです。教師が教
える前から生徒に対して偏見を持つというのはけしからんという非難がお
こりました。が、わたしとしては、先生たちの意見には十分な根拠がある
と思います。普通の名前にわざと綴りを変えて一ひねりするような人は反
体制的な傾向があり、教師という権威に抵抗することは十分考えられ、伝
統的な価値観を持っていないことは明らかです。こうした親に育てられた
子供というのは、えてして教師に尊敬を払わず、けじめを守れないことが
あるでしょう。また、上記のような名前は、イギリス階級社会の最下層に
位置する「アンダークラス」(下層階級)と呼ばれる人々に好まれる傾向
があるようです。こうした人々は子供の教育にはあまり関心がなく、自分
自身学校が嫌いだった経験から、子供の無断欠席(truancy)を放置して
おくことがよくあります。教師でなくても、わたしもこういう名前を見た
ら、警戒してしまうであろうことは否めません。
● ペドロより愛をこめて(あとがき)
イギリス人には、自分のルーツに関心のある人が多いと見えて、系譜学
あるいは系図学(genealogy)という学問が巷でたいへん人気です。関心
の表れを示すもう1つの例が、少し前に放映されていたイギリスのテレビ
番組"Who do you think you are?"(「自分を何様だと思っているのよ?」
という決まり文句ですが、ここでは自分のルーツを問う疑問となっていま
す)の好評でしょう。わたしも最近のシリーズは、毎週興味深く見ていま
した。
有名人のルーツを探るのが番組のテーマですが、このシリーズで一番感
動したのが、テレビ司会者のジェレミー・パックスマンの回。普段は、の
らりくらりと質問をかわす政治家に鋭い質問を浴びせかける硬派のパック
スマンですが、この番組で先祖の困窮にひそかに涙をぬぐうシーンには、
見ているほうも胸が詰まりました。
彼は中産階級の出身ですが、少し世代をさかのぼると、パックスマンだ
けでなく、このシリーズで紹介された有名人のほとんどの先祖は、幸運で
労働者階級、運悪く仕事にあぶれたりすると救貧院暮らしという下層階級
でした。パックスマンも最初は、施しの金をもらいに足しげく通う先祖を
情けないと軽蔑していたようですが、結核で次々と死んでいった別の親戚
たちの人生をたどるにつれ、他人の慈悲にすがってでも、困難な時代をな
んとか生き抜いてきた祖先にだんだんと同情がわいてきたようです。この
番組を見ると、大多数のビクトリア時代の人たちは非常に貧しかったこと、
そして、その中で生き延びていくのがどんなにたいへんなことだったのか
が感じられます。こうした過去を経てこそ、「ゆりかごから墓場まで」と
言われる現在のイギリスの福祉社会が存在するのでしょう。今後折を見て、
イギリスの手厚い福祉制度についてご紹介していきたいと思っています。
では、また次号でお会いしましょう。
★ 姉妹誌「不思議のペドロランド」もよろしく ★
☆ ☆
★ スペインのマルチカルチャー社会・ペドロランドでの出来事 ★
☆ を気ままに綴っていきます。登録はこちらから↓ ☆
★ http://www.tongarashi.com/~michie/ ★
======================================================================
"Anglo-bites" (イギリスつまみ食い)
● 発行者:みちえ
● マガジンID:0000022307
● このメールマガジンに対するご意見・ご感想はこちらへ:
michie@tongarashi.com
● バックナンバーはこちらから:
http://www.mag2.com/m/0000022307.htm または
http://www.tongarashi.com/~michie/anglo/anglobn.html
● 登録解除はこちらから:
http://www.mag2.com/m/0000022307.htm または
http://www.tongarashi.com/~michie/
● もっともっとイギリスに関する話題を…という方は
発行者のホームページ「フラミンゴビーチ」へ:
(ハリー・ポッター・コーナーもこちらから)
http://www.tongarashi.com/~michie/
======================================================================
----------------------------------------------------------------------
このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を
利用して発行しています。( http://www.mag2.com/ )
----------------------------------------------------------------------


