2009/11/15
メールマガジン「カチ割り劇場」No566
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼ 元祖えぐり系 ☆☆ カチ割り劇場 ☆☆ No566 2009/11/15 ============================================================== ▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲ 精米所のピアニスト15 成田空港。 第一ターミナル国際線出発ロビー。 手荷物カウンター前で時間を気にする藤道君。 そこへ 「いよっ! お待たせ!」 と、人ごみを掻き分け駆け込んでくる男。その肩には米俵。 「酒田さん!」 川田精米所の弟子頭、一級精米士でもある酒田三吉でした。 「わざわざすいません! 遠いところを」 恐縮しきりに頭を下げる藤道君。 「なぁに、愛弟子の晴れの門出とあらばお安い御用よ!」 「いよいよショパンコンクール、今は亡き先代のリベンジマッチだな。しっか りな藤道!」 と、藤道君の背中を思いっきりはたいた後 「ほらよっ! 獲れたてホッカホカの讃岐コシヒカリだ」 60キロの米俵をズンッと威勢よくカウンターに叩きつける酒田さん。 「何ですか・・・これは?」 もちろん不審げな係員。 「今日のワルシャワ行きエールフランス便でお願いします」 平然と藤道君。 「だから何ですかこれは?」 いらいらと係員。 「もちろん・・米俵ですけど・・・」 「米を輸出するには農政局への届出が必要です」 「いや、そうじゃなくて、ボクの私物として・・・」 「向こうで食べるんですか? こんなに?」 「いや・・・精米の練習したり・・・」 「せ・・・せいまい?」 「ピアニストや審査員のみなさんに配ったり・・・」 「ピアニスト?」 もちろん一向に埒が明きません。そんな様子に 「やいやいやいっ!!」 青筋立てて割って入る酒田さん。 「日本は米の国だ! 米持ち出してナニが悪い!」 「それともてめぇ、ウチの米にケチつけようってのか!」 「いや・・・そうじゃなくて・・・」 そんな騒ぎをすぐそばで見守るリヒターチルドレン二人。 「さとる様・・・あんな米俵、どうなさるおつもりなのかしら」 と心配顔の王麗妃。一方 「さぁ・・・よほど米好きなのか・・・」 くっくっと笑いをこらえながらレオナルド・チャンドラ。 「単なる馬鹿じゃね?」 そこへすっと歩み寄る一人。 「いいのよ。藤道君」 すらりと長い脚。金髪おかっぱ頭。 「米俵は別の便で既に送ってあるから」 藤道君のボス、川田精米所二代目当主、精次郎であった。 「二代目!!」 目を丸くする酒田さん。 かまわず袱紗の風呂敷包みを藤道君に手渡しながら 「これはお母様からの餞別」 くすっと笑って精次郎。 「たぶんべったら漬けじゃないかしら。大好物なんでしょ?」 「・・・ありがとうございます」 ぺこりと頭を下げる藤道君。 「あ、それからリヒター先生は所用で後の便になるからって」 「・・・そうですか」 どことなく沈んだ感じの藤道君。 「まだ気にしてるの? タメ子さんのこと」 「・・・いや・・・」 「だいじょうぶ。土佐のハチキン(注)だから彼女」 注) 四人の男を手玉 に取る高知の猛女 またもくすっと笑って精次郎、あらぬ方にちらりと目をやりながら 「もともとあんなことぐらいで尻尾を巻くような玉じゃなくってよ」 その視線の先には空港のセキュリティチェック。 そそくさと中に姿を消すサングラスにピンク頭巾の不審な女。 一方、きょろきょろと落ち着かない様子の王麗妃。 「おかしいわね・・・」 「ん?」とレオナルド。 「私の影・・・どうしたのかしら・・・」 「・・・影?」 「付かず離れず・・・いつだって必ず私の視界の隅に・・・」 が、王麗妃のボディガード"影"は、同じフロアの女子トイレの隅にいた。 真っ赤に頬を腫らしヌンチャクで後ろ手に縛られたまま便器の横に失神状態で 転がされていた。 同時刻。 四国は讃岐の国。 川田精米所の事務室。 神棚に掲げられた初代当主、紋付羽織に厳しいちょび髭顔の遺影、川田精源。 それを見上げてじっとたたずむ一人のせむし老人、リヒター・ポイテルスパッ ヒャー。 「・・・惜しいのぅ」 歯抜けた口からもれる呟き。 「ワシより早う・・・逝ってしまうとは・・・」 「是非にも聴いてみたかった・・・是非にももう一度・・・」 そして皺深い頬を伝う涙。 「おぬしのショパンを」 ぽたぽたフロアを塗らしてゆく。 「あんた・・・」 後ろからためらいがちな声。 当主の留守を預かるねじり鉢巻の親方。 「なんで・・・今頃・・・」 くるりと向き直る老人。 「ピアノを見せてほしい」 「は?・・・」 すっと上げたステッキで遺影を指し示して老人。 「この男が弾いていたピアノじゃ。それを見せてほしい」 「見て・・・見てどうするんです?」 不審げに言葉を濁す親方。 「ただ・・・確かめたいだけじゃ・・・」 「・・・何を?」 「あの・・・」 老人は静かに言った。 「あの米俵事件の真実を」 哀しいまでに遠い眼差しだった。 ------------------------------------------------------------- ===== カチ割り劇場 ===== 毎週日曜発行 発行責任者:ピストン源次郎 genjiro@higawari.qee.jp ホームページ「日替わり小説」 http://higawari.qee.jp/ シリーズ作品をまとめて読む時は http://higawari.qee.jp/series.html マガジンID:0000017532 ------------------------------------------------------------- ●解除は http://higawari.qee.jp/mailmag.html または《まぐまぐ》 http://www.kaijo.com/ で上記マガジンIDと あなたのメールアドレスを入力して解除ボタンを押してください。 -------------------------------KACHIWARI THEATRE-------------
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