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2008/04/21

【YAMAsan no Live_bibouroku/Exp:Report@Arc】vol.1899

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【YAMAsan no Live_bibouroku/Exp:Report@Arc】vol.1899
配信/4月21日
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ヤマさんの映画日誌 from 高知




『それでもボクはやってない』 
監督 周防正行

  昨年観逃し残念に思っていた作品をTV放映版の録画にて鑑賞した。僕にしては、極め
て珍しいことだが、逆に言えば、スクリーン初見へのこだわりのない作品だったとも言え
る。『半落ち』のように、情に流したりしない作り手の志が窺えて観応えがあったように
思う。単に「あれで無罪にしないところが、予定調和的ではないからいい」というのでは
断じてない作品になっているところが、なかなか見事だった。

 結審時の裁判官(小日向文世)の述べた事実認定が全く不当とは言えないことがよく分か
るとともに、尚且つ、その事実認定で有罪としてしまう不当判断の現実というものを鋭く
突いていたところが、とても優れていると思った。そういう意味で、あの裁判官の交代劇
を、この類のドラマにありがちな主人公たる被告徹平(加瀬亮)にとっての不運ないし悲劇
という小道具に終わらせず、主題の核心部分を浮かび上がらせる装置として巧く使ってい
たような気がする。この作品を観たことで、そもそもの三審制への疑問とか、個人的には
導入に賛同できない思いの強かった裁判員制度についての自分の見解を改める必要性とか
を感じたりもし、いろいろと触発されて面白かった。この作品の主題も司法制度改革にお
ける裁判員制度の導入問題の核心も“刑事裁判の有罪率99.9%”にあるということだ。

 かねてより僕は、日本人のメンタリティには裁判員制度が馴染まないと思っているから、
法務省のみならず当の司法の側までもが何故に制度導入に積極的なのか不可解だったのだ
が、裁判員制度以上に日本人のメンタリティに馴染まないのが、警察が捜査・逮捕・立件
し、検察が起訴して裁判所が判断を下すという刑事事案に係る現行制度なのだろう。組織
の権威権力というものに非常に敏感で、上位者に弱いという日本人のメンタリティの負の
部分があからさまになっているのが“刑事裁判の有罪率99.9%”という異様な事態に示され
ているというわけだ。日本人は、個人として職責を全うすることよりも、帰属する組織の
論理や上位者の思惑を職分において忖度することに傾きがちなので、例えば、実際の戦犯
裁判記録に基づいたとの『明日への遺言』に描かれていたフェザーストン主任弁護人やバ
ーネット主任検察官のような行動を取ることが想像しにくく、この作品に登場した大森裁
判官(正名僕蔵)や荒川弁護士(役所広司)がフィクショナルな人物像としてしか望めないよ
うに思えてくる。

 加えて、社会が多様化複雑化し、犯罪が凶暴化一般化するのをメディアが助長してもい
るために、増加している犯罪捜査が極めて困難になるなか、検挙率の低下に対する圧力を
掛けられている警察が粗雑な捜査に流れる状況に対して、起訴するからには絶対に敗訴は
しないことを前提に臨む検察が警察に掛けている不文律の圧力は、もはや圧力とも認識さ
れないほどに習慣化しているような気がする。『半落ち』にもそのような姿が描かれてい
たように思うのだが、そのうえで、法廷に臨めば、警察と検察は一丸となって組織の権威
権力を働かせてくるのだから、組織力のない弁護士風情において果たせることは幾ばくも
なく、多くの弁護士において勝ち目なしとの無力感が先に立つのは、徹平に最初に接見し
た弁護士(田中哲司)ならずとも、実にありがちのことのように思われる。裁判所もまた、
そのような“組織の権威権力による無言の重圧”に晒されているということだ。

 そこへ統計的事実としての“刑事裁判の有罪率99.9%”が存在していれば、三審制のもと
に下級審が無難な判決を下して判断を上級審に先送りして、火中の栗を拾おうとはしなく
なることも大いにありそうなことだ。すなわち“迷ったときは取りあえず有罪、疑わしき
は有罪”という対処の仕方になるということだ。そのように、検事・弁護士・裁判官の三
位一体で作用していなければ、徹平の独白にもあったように、真実は被告のみぞ知るとい
うなかで、“刑事裁判の有罪率99.9%”などという事態が起こり得るはずがない。警察は別
にして、司法は行政ではないから官僚ではないのだけれども、いわゆる“ビューロクラシ
ーの無謬性”といったものに通じる部分が、“組織の権威権力というものに非常に敏感で、
上位者に弱いという日本人のメンタリティ”のもとに、実に強固に働いているということ
だ。
 そのことに当事者たちはかねてより気づいているから、司法制度に対して、信頼よりも
批判と不信の声が募るなかで、一大流行となった改革コールが政治・行政のみならず司法
にも向かってきた際に半ば辟易としながらも、裁判所の自己確立に向けた変革という困難
な道を歩むことなど到底できやしないとの自己認識のもと、渡りに船とばかりに裁判員に
向けて責任を拡散させる制度への転換を求めたということなのだろう。なんとも情けない
話だが、そのように考えてくると、現行制度よりは、組織のしがらみからは遠い存在とし
て臨み得る裁判員制度のほうが、まだしも組織の論理に縛られない判断を法廷に持ち込む
可能性が生まれるのかもしれない。

 しかし、問題の核心がここのところにあるとするならば、裁判員制度の導入よりも先に
試みる価値のある制度があるように僕は思う。すなわち、警察・検察が民事不介入として
いるように、この問題は刑事裁判でだけ起こることなのだから、刑事裁判の重罪事案にの
み裁判員制度を導入するという方法ではなく、警察・検察という組織が関わる刑事裁判の
みを対象とする弁護庁を検察庁とも同格の組織として司法制度のなかに設けるとともに、
刑事裁判における三審制については下級審上級審といった序列を設けない刑事法廷を現行
の裁判所の組織体系とは別個に設け、そのなかで、二つの審判で有罪となった時点で有罪
が確定する仕組みにして初審に対する異議を決する三審制に変更してみることだ。
 現在の司法制度が、犯罪事実の軽重を審議して刑罰を定めようとはしていないことは、
認めさえすれば、略式起訴どころか不起訴さえある事犯としながら、かような結審を迎え
る顛末を描くことで痛烈に批判されていたが、加えて、法廷が、真実を探り問おうとする
のではなく、どちらの言い分を容れるかを決する場にすぎないのであれば、闘争にも模さ
れる法廷という場において、まさにウエイトの違うボクサーをリングにあげて殴り合わせ
る試合に等しい状態で裁判を行うのでは、もっともらしい法律用語を並べ立てたり、証拠
検証を重ねてみても、茶番にしかならないということだ。日本の刑事裁判の問題点の核心
を衝いた作品だったように思う。

 刑事裁判という刑罰の付与ではなく、執行に係る部分での問題点の核心を衝いていた『
刑務所の中』もなかなか興味深かった覚えがあるが、映画の作りとして似たような線を狙
いながらも、『刑務所の中』が「映画としては、コミカルな笑いの線では少々ギャグが弱
く、脱力系の笑いの線からはギャグ臭が強すぎるという中途半端さが、作品のキレを悪く
しているような気がして、もっと面白くなっていいはずなのにという不満」が残ったこと
に比べ、同じように難しい題材を、遙かに巧く映画にしていたように感じる。たいしたも
のだ。


'08. 3.31. TV放映版録画鑑賞 




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