2009/11/06
[本]のメルマガ vol.374
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■■------------------------------------------------------------------ ■■ [本]のメルマガ 2009.11.05.発行 ■■ vol.374 ■■ mailmagazine of books [無名有実 号] ■■------------------------------------------------------------------ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★PR★ 原 書 房 最新刊 ★ http://harashobo.co.jp/ 『キッシンジャー 回復された世界平和』 ヘンリー・A・キッシンジャー著 伊藤幸雄訳 四六判 648頁 定価3990円 ISBN:9784562045334 勢力均衡に基軸を置いた「真の国際秩序」は、いかなる世界を描くのか。冷戦 時代のアメリカを軍縮へと大転換させた国際政治学者が、平和と秩序をリアル に見通した名著を新装復刊。解説=石津朋之(防衛省防衛研究所) ─────────────────────────────────── ■CONTENTS------------------------------------------------------------ ★トピックス → トピックス募集中です。 ★「[本]マガ★著者インタビュー」 /『リーダーを支える「論語」入門』青柳浩明さん ★「神戸発、本棚通信」 / 大島なえ → 久しぶりに京都へ行った ★声のはじまり / 忘れっぽい天使 → 「速水御舟 日本画への挑戦」展(山種美術館) ★読者起点が出版業界を変えていく / aguni → 今回もお休みです。 ---------------------------------------------------------------------- ■トピックス ---------------------------------------------------------------------- ■『東京南部サークル雑誌集成』刊行記念シンポジウム └────────────────────────────────── 『東京南部サークル雑誌集成』刊行記念シンポジウム 「東京南部の青春――いま甦る1950年代サークル運動の世界」 2009年11月23日(祝) 13:30~17:00 (終了後、会場で簡単な懇談会をします) 大田区嶺町文化センター大集会室(03-3722-3111) (東急池上線雪が谷大塚駅下車徒歩7分) http://www.city.ota.tokyo.jp/shisetsu/bunkacenter/minemachibunkacenter/ 事前申込は不要です。直接会場へどうぞ。 基調講演 成田龍一氏(日本女子大学教授) 詩朗読 森美音子氏(劇団「野戦の月」) 発言 浜賀知彦氏(文学史家、東京南部サークル誌を研究) 白石嘉治氏(大学非常勤講師、文学研究) 丸山照雄氏(僧侶、元下丸子文化集団) 浅田石二氏(詩人、元下丸子文化集団) 望月新三郎氏(作家、元下丸子文化集団) 山室達夫氏(元南部文学集団) 1950年代、東京南部(大田・品川・港区)は全国でも注目された文化サークル 運動のメッカだった。日々のくらしに追われながらも、若者たちは詩を書き、 皆とうたをうたい、芝居を自主制作していた。 今回、当時大田区を中心に活動した「下丸子文化集団(のち、南部文化集団、 南部文学集団と改称)」が1951年から59年までに発行したサークル誌が復刻さ れた。すべてガリ版刷りのこの雑誌を手がかりに、文化への憧れと渇望を自ら の手で満たしていた50年代の青春をふり返ってみたい。 主催●東京南部サークル研究会 共催●蒲田アカデミア 協賛●不二出版 後援●大田区教育委員会 ■いま、なぜ森崎和江か――対談、講演、朗読の夕べ └────────────────────────────────── “日韓の架け橋”を生きる二人の出会い 〈『森崎和江コレクション 精神史の旅』完結記念〉 いま、なぜ森崎和江か――対談、講演、朗読の夕べ [対談]姜尚中×森崎和江 [講演]森崎和江 [朗読]金明姫(金剛山歌劇団) [日時]2009年11月16日(月) 開場6:00p.m./開演6:30p.m. [会場] 日本プレスセンター10階 ABCホール(千代田区内幸町2-2-1) [料金] 2,000円(全席自由) [お申し込み・お問い合わせ先] 藤原書店 tel.03-5272-0301 [主催] 藤原書店 http://fujiwara-shoten.co.jp/main/news/archives/2009/10/post_43.php ■〔書評〕のメルマガ 書き手さん募集 └────────────────────────────────── 当メルマガの姉妹紙、〔書評〕のメルマガでは来年からのリニューアルを予 定しています。 そこで、書評コラムの書き手さんを若干名、募集します。 あくまで無報酬のボランティアですが、毎月一本、本を読んで書いていただ くだけ。内容も自由ですが、是非、こだわりのあなたのお気に入りの一冊を薦 めてください。 我こそは!という方は、下記のメールアドレスまでご応募ください。 ご応募お待ちしています。 info@shohyoumaga.net http://www.shohyoumaga.net/ ■トピックス募集 └────────────────────────────────── 当メルマガではトピックスを随時募集しています。出版関係のイベントや展 示会・講演会、書店のフェア情報などを皆様より募集しております。原稿が多 すぎる場合には編集しますのでご了解ください。 ---------------------------------------------------------------------- ■[本]マガ★著者インタ:『リーダーを支える「論語」入門』青柳浩明さん ---------------------------------------------------------------------- 復活!インタビュー企画。今回は9月に『リーダーを支える「論語」入門』 を刊行された青柳浩明さんのインタビューです。 ---------------------------------------------------------------------- 書名:リーダーを支える「論語」入門 著者:青柳浩明 著 税込価格:\1,470(本体:\1,400) 出版:中経出版 ISBN:978-4-8061-3466-4 発行年月:2009.9 ---------------------------------------------------------------------- -この本が誕生したきっかけを教えて下さい。 青柳「私は、素心・不器会の「朝の読書会」という『論語』の勉強会で常任講 師として毎月講義をさせていただいております。その会に参加されていた中経 出版のエネルギッシュな女性編集者から執筆依頼をいただきました。(編集者 曰く、「著者をハントした」とのことでした。) 参考)素心・不器会「朝の読書会」 http://www.soshin-fukikai.net/dokushokai.html 私自身、未熟者であり、また、安岡正篤翁の教えである「無名有実」を貫こう と心がけておりましたので、以前も、別の出版社からの執筆依頼をお断りして いました。あとがきでもふれていますが、今回もお断りしようと思っておりま したが、勉強会の主催者の思いや編集者の情熱に共感し、執筆を決意いたしま した。」 -編集の担当の方に一言! 青柳「私を見出していただき、心から感謝しております。一方で、「よくぞ、 無名の私に、それも『論語』の解説書を書かせることを決意されたもの だ」と、その勇気、決断力に感嘆しております。」 -この本の特徴を教えて下さい。 青柳「特徴は、「徹底してビジネス視点から」『論語』を読み解いた「実践的 な解説書」であるということが特徴でしょう。『論語』の解説書は毎年何冊も 出版されておりますが、実は、このようにビジネス視点に特化し、実践応用例 も交えた解説書は日本に存在していませんでした。 その理由は、2つあると思います。 まず一つ目には、ビジネス最前線に身を置きながら、一方で、しっかりと漢籍 を学べる環境にも「運良く」いることができた、ビジネスパーソンは日本にそ んなに存在しないことです。この2つの環境に身を置いていませんと、2つの 世界を融合し、実践し、ましてや執筆するレベルにまで到達することは相当に 困難です。 間違っても誤解されたくないので、申し上げますが、私の能力はたかが知れて います。ただ、ありがたくも「運良く」そういう環境に置かれていたのです。 また、出版社が漢籍の分野の著作を依頼する相手は、権威ある著名な研究者や 学者の方々がほとんどです。思いつきや適当に解説されては困る分野ですから、 当然です。これらの方々に比べれば、20年以上学び思い、実践してきたとは いえ、知識の面では私などはまだ駆け出しの身ですし、現在も私は師匠や先生 方から学んでおります。ただ、ひたすら研究されてきた方なので、「ミーティ ングで反論されそうになったら」「上司にダメだしされそうなときは」等、ビ ジネス現場での『論語』の個別具体的な解釈、それに基づく実践のご経験は少 ないのです。 以上の2つの点から、私の著作物は、この世に存在することがなかった画期的 なものと言えるかと思います。 しかし、だからこそ、執筆の依頼時、真剣に躊躇したのは言うまでもありませ ん。「駆け出しの身が何を大それたことをしているんだ!」という思いは、他 の誰でもなく、私自身が最も感じていたことですから。ただし、さきほど「運 良く」と言いましたが、その環境に置かれていたこと、そし出版社の方から依 頼されたこと等、これらの私を取り巻く流れが、もしも、私に与えられた「使 命」だとしたら、と熟考した結果、『論語』を広める一助となれば、と勇気を 出して執筆を決意したのです。」 -書籍を形にするまでにいちばん苦労したことは? 青柳「『論語』という書物は凡そ500章句あり、珠玉の教えばかりなのです が、紙面の都合上、その中から50章句だけを抽出しなければならないことが 最も苦心しました。私はSEでもありますので、10年がかりで編成した『論 語DB』をベースに、重み付けをしながら、3回に亘りフィルタリング作業を しました。この作業が執筆時間と同じくらいかかりました。」 -書籍を出版していちばんうれしかったことを教えてください。 青柳「お読みいただいた多くの方々から「『論語』を読もうと思いました」 「今まで(古臭いものであると)誤解していました」との感想をいただくこと ができたことです。本書の狙いである、『論語』を食わず嫌いで避けないこと、 実践的なことが書いてあること、をご理解いただくこと、の2つが達成できた ことです。」 -これから本を出したいんだけど、という方にアドバイスを! 青柳「「自分を売り込む」というプロモーション戦略についてのアドバイスは、 私はスカウト(ハント?)されて執筆の機会を得ましたので、申し訳ありませ んが容赦願います。「著作内容」についてのアドバイスですが、もし啓蒙的な 本を著すのであれば「自分のメッセージが人にプラス・マイナス、何らかの影 響を与えてしまう」という自覚が必要だと考えます。特に、私の場合は、聖典 『論語』に関する著作でしたので相当に覚悟しました。」 -最後に書籍の宣伝をどうぞ! 青柳「『論語』は時代を超えた普遍的な合理的実践書です。ですから、人と人 が絡み合う社会の荒波にもまれている、みなさん、ビジネスパーソンの方に是 非お読みいただきたい必読書です。宣伝になっていませんが、私の著書は『論 語』そのものに触れるきっかけとしていただくことを目的としたものですから、 私の著書などは読まなくても結構ですから、是非、『論語』そのものを読んで みてください。ただ、もし、漢文に抵抗を持たれている方、以前読んでみたも ののビジネス現場での具体的な活用が思い浮かばない、リアリティを感じられ ないという方は、本書をお読みいただければ、必ずヒントが得られます。」 -どうもありがとうございました! ---------------------------------------------------------------------- 「[本]マガ★著者インタビュー」では、 メールにて、インタビューを受けていただける著者の方、募集中です。 【著者インタビュー希望】と表題の上、 下記のアドレスまでお願い致します。 5日号編集同人「aguni」まで hon@aguni.com ---------------------------------------------------------------------- ■「神戸発、本棚通信 / 大島なえ」 ---------------------------------------------------------------------- 第五三回:古本泣き笑い店はじめ 十一月になると、しめし合わせたように木枯らしが吹き寒くなった。冬の声 は突然、聞こえてくる。 さて、その十一月初日の日曜日に久しぶりに京都へ行った。暑くなり始めて からパタリと行かなくなっていたが、今日はどうしても行かねば。と思う日だ った。古本仲間で「sumus」のメンバである我等が山本善行さんの古書店 「善行堂」の本オープンの日なのだ。店自体はプレオープンとして、七月に開 業していたが、なんでも書籍商の鑑札を取るのが遅くなり、この日に晴れて鑑 札も店に飾られ正式なオープン日となったのだとか。まずは、めでたい。 しかし天気には余り恵まれず、午後二時半のオープンイベントの始まる時に は、かなり雨が降ってしまった。それでも店内に入り切らないほど人が来て安 心したな。この日は丁度、百万遍の古本まつりが知恩寺でしており百万遍へ先 に行って古本まつりを見てから京都大学の横を歩いて、善行堂へ行ったが歩い て十五分ほどの銀閣寺のバス停のすぐ近くの場所にある。河原町の中心地から は少し離れるが、近くには今なにかと話題のガケ書房もあり、哲学の道もすぐ そばだ。この周辺にどんどん書店が増えて新しい京都の古書スポットになりそ うな感じがした。新刊書店もあちこちにある。 善行堂は間口が一間ほどで奥に長い店で入った時は、意外にすっきりした印 象だった。古本が所狭しと積みあがっている古書店ばかり行ってるせいかもだ が、きれいに本棚に並んだ古書はかなり厳選された本ばかりなのが、わかる。 いわゆる通好みの渋い本が多く、う~む。とうならされる。見ていて飽きない 本棚だし、反対の本棚の上には親友、岡崎武志さんのイラストが小さな額に入 り展示販売されたり、ちょっと見たことのない雑誌が今日の古本入札用に並ん で置かれている。このスペースでこれからも作家の個展ができそうだ。オープ ンイベントは、順調に行われトークから古本の入札、販売からパーティになり 盛況で終わった。 「sumus」は京都から発行された本好きの人が集まって出来た書物雑誌 で、今までも多方面で取り上げられているし本好きの人で、知らない人は今や 余りいないのではと思う。その前身の「ARE」もあり、山本善行、岡崎武志、 林哲夫の中心メンバと他のそれぞれ本に思い入れの強い、タダ者じゃない人が 文を書いている。山本さんは、そこに「古本泣き笑い日記」を連載していて、 後に単行本になり発売した。私は「sumus」をずっと読んでいる読者なの で、勿論その連載も読んでいたが、とにかく古本の買い方が尋常じゃない。そ の頃は、大阪で塾をされて教えていたので夕方の学校が終わって子どもが来る 時間から仕事。それまで毎日、古本屋をハシゴしてから仕事に行くのを日記に 書いている。こうなれば病気、と思うがその古本病からついに古書店を開業し てしまったのは、すごい。それもネット書店でなく、リアル書店で始めたのが 山本善行の本物の古本者の意地を見た思いがする。 この不景気の最中で、廃業する古書店はあとを絶たないのに今、古書店を始 めるのはかなり冒険だろうし、古書店だけの売上で全てを賄うのは相当な覚悟 もいる。慎重な人なら、したくても二の足を踏むところだ。山本さんとは、古 書店や古本市でいつもお会いしている(いつ行っても居るのだ)ので少しは人 柄も知っている積もりだけれど、いつも百円均一の台を何度も回り百円の本を 一杯買って両手に提げている姿が思い浮かぶ。高い本を冒険して買うより、安 い百円均一の本を愛して見つけ出す方が好きだ。と言う人のような感じがする。 そんな山本さんが、一生一度の賭けに出て五十代過ぎて古書店善行堂を始めた。 幾ら古本好きと言えど、商売はまた別で現実的なことも多いだろう。これから も多分、いろんな苦労はあると思われる。山本さんは、安く買って高く売る儲 ける人ではないし、高く買ってしまい安く売ることがあるんじゃないかと思う ような人だからだ。 いつか京都には善行堂がある。と言われるような古書店になって欲しい。一 度行くと、また行きたくなる。古書店ではないが三月書房のような本屋になる ことを願っている。 善行堂 京都市左京区浄土西田町82番地2 電話078-771-0061 火曜日定休 12時から午後8時営業 大島なえ(おおしま・なえ):1958年生。神戸在住のふらふら兼業主婦も している。あっつう間に今年も後、二ヶ月を切っているよ。今年は例年になく しんどい夏だったし。人のありがたさと冷たさを同時に感じためまぐるしい時 期だったなぁ。 フリ-ぺ-パ-「ほんの手帖」発行人。書店巡り愛好者。 http://d.hatena.ne.jp/nae58625/ ---------------------------------------------------------------------- ■声のはじまり/忘れっぽい天使 ---------------------------------------------------------------------- 第42回 伝統と革新―「速水御舟 日本画への挑戦」展(山種美術館) 明治から昭和初期あたりの日本画の野心作は本当に面白い。ヨーロッパ絵画 との格闘の跡が生々しくうかがえる。西洋の巨匠の作品をひたすら摂取するこ とから始める洋画家と違い、自覚的な日本画家は、豊饒すぎる日本美術の伝統 を受け継ぐことに四苦八苦しつつ、欧化されつつある文化の中で他のジャンル に遅れを取らないために、西洋美術の真髄を学び、これを日本画の伝統の中に 移し換えなければならない。相容れない要素を持つ二つの文化の間で右往左往 する中で、作家としてのアイデンティティが磨かれ、個性が先鋭化されていく のだろう。 山種美術館で開かれた速水御舟の展覧会は、その意味で興味深く、かつ興奮 させられるものだった。 速水御舟は1894年(明治27年)に生まれ、1935年(昭和10年) に40歳の若さで世を去っている。先進的な考えの持ち主だった先輩の今村紫 紅からは「日本画なんてこんなに固まったんではしかたがありゃあしない。と にかく破壊するんだな」「僕は壊すから君たち建設してくれたまえ」と言われ たという。1930年に横山大観らと渡欧し、西洋絵画の古典やエジプト美術 を数多く鑑賞している。1931年にドイツ政府より赤十字二等名誉勲章を受 けるなど、生前から海外からの評価も高かったようだ。 彼は驚くべき勉強家で、若い頃から狩野派、琳派、浮世絵、中国画と、あら ゆる流派の技法を体得していたという。最初期の「錦木」は、白い着物に身を 包んだ若い男性の姿を描いたものだが、徹底して無駄を省いたシンプルな構図 のもと、おっとりした風情の中にきりりとした緊張感が走るすばらしい作品だ。 「瘤取之巻」は瘤取り爺さんの物語の場面を描いたものだが、なだらかで柔ら かい線と鋭角的で細密なタッチの描写の共存が面白い。このスタイルのままで いっても十分魅力的な作品を量産できただろう。 しかし、御舟は徐々に、これに西洋画の勉強の成果を加え始める。1923 年(大正12年)の「灰塵」は、関東大震災によって荒廃した街の様子を描い た作品だが、印象派風の微妙な色合いと大胆なデフォルメ・省略が効いていて、 日本画家の手になるものとは思えない程の、極めてモダンな印象を与える。翌 年の「春昼」は、一転して民家の春の昼下がりの情景を描いた作品で、まどろ んでいるかのような静謐な民家と軒先で遊ぶ躍動的な鳥たちの姿が対比されて いる。この絵における、カメラが捉えたかのような冷徹なリアリズムは、様式 美を追求する日本画の伝統から一歩抜け出したものだろう。本展覧会には出品 されていなかったが、日本画にあるまじきリアルな描写を前面に打ち出した 「京の舞妓」は、当時物議を醸し、これを見た横山大観は御舟を再興日本美術 院から除名しようとまで考えたという。日本画に洋画のリアリズムを導入した ためというより、全体の様式性と部分の細密さのアンバランスが生み出すグロ テスクな浮遊感に、大観は恐れを抱いたのではないだろうか。 本展の目玉である「炎舞」(1925年 大正14年)は、御舟が最も西洋 画に接近した作品と言えるかもしれない。炎の明るさに惹かれ、炎の中に飛び 込んでいく蛾の姿を描いたこの作品には、描かれた情景を越えた「画家の内面」 が中心に据えられている。御舟は毎晩焚火をして火の周りに群がる虫を写生し た程、精魂を傾けて制作にあたったというが、ここにはリアルな写生を越えた 象徴性があり、画家の「魂の炎」の表出に重きを置いていることは明らかだ。 炎の微妙な色、蛾一匹一匹の真に迫った描写に、息を飲まざるを得ない。それ でも、全体としてはぎりぎりのところで、伝統的な地獄絵の骨格をしっかり備 えているところが、日本画家としての御舟の力量なのだろう。 しかし御舟はいたずらに欧化の方向に進むことなく、あくまで独自な歩みを 続けていく。1928年(昭和3年)の「翠苔緑芝」は、右に黒猫、左に白兎 を配した屏風絵で、おおらかなユーモアとかわいらしさを感じさせる。一目で 琳派風とわかる装飾性が、新たな装いを施されて、まるで外国の絵本のような 鮮やかさだ。琳派から距離を取りつつ琳派を再構成したようなこの絵を見てい ると、御舟は日本画のポストモダン的表現を目指しているように思えてくる。 翌年の「名樹散椿」も同様の琳派風の傑作で、椿の木を左に大きく傾斜させる 大胆な構図で描いている。椿の花が散るというはかなげな光景が、あっという ようなダイナミックな動きを感じさせるものに昇華されているのだ。 御舟は1930年に渡欧し、多くの古典を鑑賞し、多大な刺激を受けた。人 物のデッサン力の不足を感じて、裸婦の習作を多く残してもいる。「婦女群像」 (1934年 昭和9年)は未完成に終わった大作で、美しい着物を着こなし た女性たちの優雅な集いを描いている。一人一人の女性の視線の向かう先を律 儀にずらすことによって、女性たちが自由に呼吸し、自由に喋る、場の活気が 伝わってくる。自信を持って人生を歩む彼女たちの力強さが、見る者の胸を打 つのである。 晩年の作品について言えば、ぱっと見にはむしろ伝統的な画風に戻ったよう な花鳥画の数々も面白い。枝についた梅の花を描いた「暗香」(1933年 昭和8年)における微妙としか言うことのできない複雑な色合い、池を泳ぐ鯉 を描いた「春池温」(1933年 昭和8年)における動きの中に秘められた 静けさ、しだれ柳に鳥が止まっている光景を描いた「あけぼの・春の宵」(1 934年 昭和9年)における一切の無駄を廃した哀感、など。時とともに移 ろう捉え難い対象と花鳥画としてのくっきりした様式性が、紙の上で激しくせ めぎあっているように感じられる。 速水御舟は生涯何度も作風を変え、自己批判を繰り返し、新たな試みに挑戦 し続けた人だった。「梯子の頂点に登る勇気は貴い、更にそこから降りて来て、 再び登り繰り返す勇気を持つ者は更に貴い」との言葉を残し、また晩年には 「これからは売れない絵を描くから覚悟をしておいてくれ」と夫人に語ってい た。恐らく速水御舟は、日本画家としてのアイデンティティを強固に持ってい るからこそ、大胆な革新を次々に行えたのだろう。文化の欧化が進む中、当時 の聡明な日本画家たちにとって日本美術の長い伝統は重圧だったに違いない。 しかし、日本と中国の美術を徹底的に学んだ者なら、西洋の美術を相対化する 視点を持つことができ、取り入れるべきものを吟味して取り入れることができ る。 積極的に西洋美術を学び、時に苦労もしたようだが、彼の絵を見る限り、西 洋へのコンプレックスは微塵もないように思える。日本美術は「様式」を重視 し西洋美術は「写実」を重視するが、「写実」もまた「様式」の一つに過ぎな い。日本美術は「風情」を重視し西洋美術は画家の「主観」を重視するが、 「主観」もまた「風情」の一種に過ぎない。御舟はそんな風に考えたのではな かっただろうか。 そうやって、捉え難い、転変する現実を捉えるために、様々な技法を研究し て試行錯誤を重ねるうちに、日本美術の伝統からも西洋美術の伝統からもはず れた、特異な感覚が剥き出しになる瞬間が訪れる―速水御舟の真骨頂はそこに あるのだと思う。 *「速水御舟 日本画への挑戦」展(山種美術館) 会期:2009年10月1日-11月29日 *参考図書 『別冊太陽 速水御舟 日本画を「破壊」する』(平凡社 税込2310円) ---------------------------------------------------------------------- ■「読者起点が出版業界を変えていく / aguni」 ---------------------------------------------------------------------- すみません。今回もお休みです。 ---------------------------------------------------------------------- ■あとがき ---------------------------------------------------------------------- 先週、親知らずを抜きまして、3日ほど腫れてしまい、ロクに食事ができ なくて難儀しました。 いえ、配信が遅れたこととは関係ありません。すみません。(aguni) ---------------------------------------------------------------------- ■広告募集のお知らせ:当メルマガは現在5800名の読者の皆さんに配信して おり、広告は随時募集中です。詳細はメールにて編集同人までお尋ね下さい。 ---------------------------------------------------------------------- ■ 電子メールマガジン「[本]のメルマガ」(毎月5・15・25日発行) ■ 発行:[本]のメルマガ発行委員会 ■ 掲載された内容を小会の許可無く転載することはご遠慮ください。 ■ COPYRIGHTはそれぞれの記事の記者が有します。 ■ 今号のご意見・ご質問は5日号編集同人「aguni」まで hon@aguni.com ■ トピックスの情報提供もよろしくお願いします。 なお、当メルマガは配信日によって、情報の提供先が変わります。 ・5日号:aguni原口 hon@aguni.com ・15日号:畠中理恵子 hatanaka3floor@jcom.home.ne.jp ・25日号:朝日山 asahi_yama@nifty.com ただし、掲載の可否については編集同人が判断します。 ■ 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